それは突然の出来事
わたしたちは、ほぼ満足できる形で目的を達成し、ウェルシーまでの道のりを意気揚々と進んだ。猟犬隊員たちは、「腕の見せ場がなくて残念だった」などと口々に言い合っているが、本心からそう言っているのだろうか。わたし的には、何よりも、戦わずして勝つのが最高の勝ち方だと思う。
わたしを乗せた馬車の中では、プチドラがミスティアを出たときからずっと、金の地金に体を擦りつけて金の感触を味わっていた。
「プチドラ、さっきから金の地金とじゃれあってるけど、よく飽きないわね」
「ドラゴンは、もともと、宝石や貴金属が大好きなの。目の前に黄金があると、つい、こうして…… えへへ」
「そう……」
プチドラには悪いけど、苦しい台所事情の今、金の地金をそのままプチドラのオモチャにさせるわけにはいかない。でも、残りの人質の分の身代金を受け取ったら、特別ボーナスの支給でも検討しよう。
わたしたちはうららかな日差しを浴び、街道をゆっくりと進んだ。特に変わったこともなく、馬車に揺られていると、なんだか眠気が…… わたしがうとうとしかけたとき、
ヒューーー…… ズドドドドーン!!!
突然、事件が起こった。炸裂音が響き渡り、辺り一面に何本もの火柱が上がった。猟犬隊員は悲鳴を上げ、馬は乗り手を振り落としてムチャクチャに駆け回った。馬車も大きく揺れ、おそらくは街道脇の大きな石にでもぶつかったのだろう、激しい衝撃とともに横転した。
「アイタタタ……」
どうやら腰を打ちつけたようだ。わたしはやっとのことで車外に這い出て、
「どうしたの! 一体、何があったの!?」
メアリーは、すぐにわたしのもとに駆け寄り、
「ああ、カトリーナ様、大丈夫ですか!」
と、わたしの体を支えた。そして、
「魔法による奇襲を受けました。不覚にも、攻撃を受けるまで気がつきませんでしたが、おそらくは、G&Pブラザーズで社長と一緒にいたハーフ・オークが犯人ではないかと……」
メアリーは東の空を指差した。遠くてよく見えないが、小さくて黒っぽい飛行物体が東の方向に飛び去っていく。
わたしは思わず地団駄を踏み、
「G&Pブラザーズめ、一体、どういうつもり!? 喧嘩を売ってるなら、喜んで買ってやるわ!!」
「まあまあ、これは、本気で喧嘩を売るということではなく、いわゆる嫌がらせというやつです。『一応、要求は呑んだが、おまえたちの言いなりにはならないぞ』という意思表示と思われます。イヤなヤローどもですな」
と、ドーン。わたしをなだめたつもりだろうか。元々同業者だけに、G&Pブラザーズのやり口も分かるのだろう。でも、わたしとしては、やられっ放しでは面白くない。
「最低3倍にして返してやるわ」




