体重と同じ重さの……
「体重と同じ重さの金!?」
驚きの声を上げたのは、社長椅子の若い男ではなく、激しく醜い男だった。実際、誰が見ても法外な請求だろうし、わたしもそのまま受け入れられるとは思っていない。とりあえず、言ってみただけだ。
しかし、社長椅子の若い男は眉毛一つ動かさず、極めて冷静な口調で、
「なるほど、要求としては承知した。ただ、体重と同じ重さの金の価値に相当する損害が発生しているならば、証明してもらいたいものだな」
と、若い男はからからと笑った。そして、
「金ではなく銀ならば、話は分からんでもない。こちらとしては、体重と同じ重さの銀であれば、損害賠償として支払うことも止むを得ないと考える。しかし、それが限度だ」
と、強い調子で言った。賠償額を10分の1に(この世界における現在の交換レートによる)値切りにきたわけだが、現実的にはその程度が相場かもしれない。
わたしたちは、結局、「ミスティアG&Pブラザーズは、ギルド員1名につき、その体重と同じ重さの銀又はそれに相当する額の財物を支払う」ことで合意した。そして、とりあえず、わたしたちが連れてきた人質3名を解放し、その合計体重の重さの銀の価値に相当する金の地金を受け取った。残りは後日ということで。
こうして、まんまと人質3人分の身代金をせしめることに成功したわたしたちは、建物の外で待機していた猟犬隊員と合流した。うまくいきすぎて少し怖い気もするが、あとは、一応、追撃の用心をしながら、宿舎に戻って寝るだけ。
その途中で、どうしても気になって仕方がないことがあって(ファンタジーの世界だから、あえて言おう)、
「誰か知らないかしら? 社長の椅子に座ってた男のほかに、もう一人、この世のものとは思えないほど、ものすごくキモイ男がいたけど、あれは、一体、ナニモノ?」
「あれはハーフ・オーク、すなわちヒューマンとオークの混血です。ヒューマン中心の社会では忌み嫌われていて、能力があっても表の世界では評価されません。ですから裏稼業に走るのは止むを得ないでしょう」
メアリーが言った。(重ねて言おう、ファンタジーでなければ問題表現だけど)なるほど、ハーフ・オークなら、あの吐き気をもよおしそうな顔も納得がいく。
プチドラはわたしの肩によじ登り、耳元でヒソヒソと、
「あのハーフ・オーク、魔法使いとしてはとても優秀だと思うよ。強い魔力の波動を感じたから」
なるほど、優秀な魔法使いなら、プチドラとメアリーの魔力も感じ取ることができたかもしれない。あのハーフ・オークは2対1では危険と見て、勝負を避けたのではないか。これは推測だけど。
翌日、わたしたちは、来たときと同じく大名行列のように隊列を組み、ウェルシーへの帰途についた。別れ際、ミスティア子爵は、再び5人ほどの孫を推薦した。何に対する推薦なのかはよく分からないけど、「とにかくよろしく」ということだった。一体、なんなんだか……




