社長室の攻防
社長椅子に座った若い男は3名の人質を顔を見回し、
「この者どもは、確かにG&Pブラザーズの社員だが、そちらに何かご迷惑をおかけしたのかな?」
「わたしの縄張りで麻薬の密売なんかされては迷惑なの。さっきも言ったでしょ」
「わが社は帝国及びミスティアの法に則って設立され、合法的な商行為を営んでいる。麻薬の密売など、とんでもない話だ。何かの間違いではないか?」
「ええ、そうね。何かの間違いでしょう。もしも故意犯なら、帝国とウェルシーの法にしたがって、こいつら、即、死刑よ。その場合、あなたも使用者責任と共謀共同正犯の罪責を免れないわ」
その時、若い男と一緒にいた極めて醜い男が、ぼそぼそと、何事か若い男に耳打ちした。若い男はその話を聴きながら、2、3度うなずき、
「威勢のいいお姫様だな。しかし……」
若い男は、ふと話を止め、パンパンと両手の手のひらを打ち合わせた。すると、社長室の隠し扉から数人のギルド員が武器を構えて室内に踊りこみ、廊下にも武装したギルド員がガヤガヤと集まってきた。
「ここは、あなたのような高貴の身分の方が来る場所ではない。わが社の社員を解放し、早々に引き揚げることをお勧めしたい」
わたしの正体が分かったらしい。顔を合わせるのは初めてだけど、やりとりの中でヒントがあったし、何よりも裏の世界の情報ネットワークがしっかりしているという証左でもあるのだろう。
「わたしに刃向かう気? 不敬罪の現行犯なら話が早いわ。あなたたち、全員死刑のうえ財産没収よ。わたしがなんの備えもなしに、こんなところに来るとでも思って?」
予想をしていなかったわけではないが、あまり本意ではない展開になってしまった。プチドラはわたしの肩に飛び乗り、メアリーは(狭い場所で多少違和感もあるが)槍を構えた。
しばらくの間、にらみ合いが続いた。建物の中が騒がしくなれば待機していた猟犬隊が突入することになっているので、心配はしていない。しかし、本音としては、あまり派手な騒ぎを起こしたくはない。
やがて、醜い男がもう一度、若い男にそっと耳打ちすると、若い男は右手を挙げて合図を送った。すると、社長室で身構えていたギルド員たちは隠し扉の奥に消え、廊下に詰めていたギルド員たちもどこかへと散っていった。
社長室が再び静かな空気に包まれると、社長椅子の若い男は、
「分かった。合理的な取引であれば、その協議に応じよう」
「それでは、預かっているG&Pブラザーズのギルド員一人につき、その体重と同じ重さの金を要求します。これは身代金じゃなくて、損害賠償だからね」




