G&Pブラザーズ本部
わたしたちは月明かりに照らされながら、ミスティアG&Pブラザーズの本部に程近い広場に集結した。メンバーは、メイド服に着替えたわたし、プチドラ、ドーン、メアリーのほか、猟犬隊が50名程度(なお、人質が3名)。事前の調査により、ギルドマスターが本部にいることは確認済みだ。
「それじゃ、打ち合わせ通りにね」
わたしが合図を送ると、猟犬隊は持ち場に散っていった。今回、本部に乗り込むのは、わたし、プチドラ、ドーン、メアリー及び猟犬隊若干名。残りは屋外で待機し、不測の事態が発生した場合(交渉が決裂し、戦闘が始まった時など)には、突入することになっている。
本部は町の商業地区の真ん中にあり、堂々と「シーフギルド・ミスティアG&Pブラザーズ」という看板を掲げていた。取扱業務として、身辺警護、債権取立、迷宮探索補助、特殊請負などが列挙されている。
「こうして見ると、非合法組織の感じがしないわね」
「ハッキリ『非合法組織です』とは宣言できませんよ。一応、合法的な企業として設立されています。非合法活動の部分が秘密結社的に、表向きは存在しないことになっているんです」
さすがドーン、もともと非合法活動を生業にしていただけのことはある。
入り口のドアに鍵がかかっていた。ドーンがハンドアックスでドアを叩き壊すと、その音を聞きつけたギルド員が数人、「何事か」と、入り口に集まってきた。喧嘩ならドーンや猟犬隊の腕の見せ所、いきなり殴りかかり、集まってきたギルド員をボコボコにしてしまった。
「非常に重要な話がある。おまえたちの親分に会わせてもらおう」
と、ドーンがハンドアックスを片手にすごむと、ギルド員は「命ばかりはお助け」とばかりに震え上がり、あっさりとわたしたちを親分のいる部屋に案内した。部屋脇には「社長室」という木札が釘で打ち付けられている。
ドアを開けると、30歳に満たないであろう非常に若い男が、社長の椅子に座ったまま、鋭い眼光をわたしたちに向けた。また、その男と机を挟んだ向かい側には、この上なく醜い男が立っていた。人間の首から上を、豚とゴリラを合成して押し潰したような顔とすげ替えたような。思わず生理的な嫌悪感さえ……
それはさておき、わたしは2、3歩、前に進み出て、
「わたしはウェルシーの猟犬隊のオーナーよ。あなたがミスティアG&Pブラザーズのリーダーかしら?」
「そうだが、何か?」
若い男は淡々とした調子で言った。驚いたり狼狽したりといった様子はない。
「前置きは要らないわね。要点だけかいつまんで言うわ。ウェルシーで麻薬の密売をしていた御宅のギルド員を預かってるの」
わたしが目で合図を送ると、ドーンは人質の3名を若い男の前に突き出した。
「このほかにも12人いるわ。返してあげるから、身代金を支払いなさい」
とりあえずは単刀直入、ダイレクトに用件だけ。さて、どんな答えが返ってくるだろう。




