密売人を人質に
さて、そろそろ物語に戻ることにしよう。密売人の取締強化を始めて10日ほどたったある日、ドーンが報告のため執務室にやって来た。
「カトリーナ様、ミスティアG&Pブラザーズ所属の麻薬密売人を、総数で15名、逮捕しました」
「10日で15人? すごいじゃない」
「ええ、殺さないよう慎重に拷問して情報を聞き出し、芋蔓式に捕えていきました。結構、大変でしたよ。ところで、こいつらをどうするおつもりで?」
「そうね、どうしようか……」
わたしは腕を組み、しばらく考えた。すると、ふと、(安直だけど)アイデアが浮かび、
「それじゃ、人質にして身代金を要求しましょう」
「身代金ですか。相手が素直に要求に応じるかどうか……」
「『G&Pブラザーズのギルドマスターはなかなかのやり手』なんでしょ。そんな一廉の人物が仲間を簡単に見捨てるとは思えないわ。人質を2、3人連れて、G&Pブラザーズの本部に乗り込みましょう。ギルドマスターのツラ構えも見たいし」
「いや、しかし…… それは危険かと思われますが」
「プチドラとメアリーも連れていけば大丈夫よ。交渉だからどんな方向に進むか分からないけど、いざとなれば、何もかも焼き払えばいいわ」
ドーンは気が進まないようだ。しかし、交渉決裂の場合でも、プチドラとメアリーの戦闘力があれば、たいていのことはなんとかなる。それに、戦闘部隊を脱法的にミスティアの町まで連れて行く方法がないわけではない。
わたしは執務室にポット大臣を呼んだ。
「大臣、突然だけど、ミスティア子爵を表敬訪問するから、準備してくれる?」
「は!? それは一体、どういう脈絡で??」
「わたしが伯爵に任じられてから、挨拶回りをしてなかったでしょ。それに、ミスティアとの誼を温め直すためでもあるし、とにかく準備を急いでほしいの。これは命令だからね。逆らったら死刑よ」
「いきなり死刑ですか!? なんだかよく分かりませんが、まあ、このくらいなら…… え~と、はい、承知いたしました。仰せのとおりに」
ポット大臣は、合点がいかないような顔で執務室を出た。
通常、他人の治める町に勝手に戦闘員を侵入させることはできない(そんなことをしたら戦争になるだろう)。ただし、表敬訪問の随行員としてであれば話は別だ。猟犬隊でも騎士団でも大手を振って町に入ることができる。
でも、そういうことだとしたら……
「ねえ、プチドラ、これは例えばの話だけど、猟犬隊が随行員に化けて、あっという間にミスティアを占領しちゃったりして……」
すると、プチドラはギョッとして口を大きく開けた。わたしは苦笑して適当にごまかしつつ、
「今のは冗談よ。本気で受け取らないで」
もし本当に実行すれば…… 多分、大変なことになるのだろう(実行してみたい誘惑に駆られないではないが)。




