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みらいの日記  作者: カモメ水兵
5/6

5.未来への約束

† 25 †


 それから恵美子との交際は順調かつ地味に進んだ。お互い貧乏学生なのでやはりバイトの間にデートするのは変わらない。ただし、バイトが終わって帰ってくると彼女が僕の部屋にやってくるようになった。僕が3年生になった時、お互いの部屋の合鍵を作り交換。僕が帰ってくると部屋にいて夕食を作ってくれたりする。半ば同居のような生活をしながら1年過ぎていった。

 恵美子の料理は確かに下手だった。とにかくよく焦がす。性格的にのんびりしているせいかもしれない。味付けのための調味料測定は1グラムの誤差もないが、それを測っている間に時間が過ぎていたりと何ともテンポが悪い。生焼けは危ないからと言ってしっかり焼くと今度は長すぎて焦がしてしまう。目分量というのが苦手なようだ。まあ、少しずつうまくはなっていると思う。

 

 大学3回目のクリスマスイブ前日。去年のようにホワイトクリスマスになることはなく、太陽の光が少し暖かい午後。僕は去年と同じくサンタの衣装の手入れをしていた。今年も支援学校のボランティアに参加する。雪の魔女は去年に引き続き恵美子が担当。今回は恵美子が森さんに言って参加することになった。どうしても去年の失敗を挽回したいそうだ。

「浩平君、ちょっといいかな?」

 玄関の扉を少し開けて恵美子が顔を出している。手招きして呼ぶと部屋に入ってきた。

「明日の準備終わった?」

「もちろん。恵美子は?」

「大丈夫だよ。それより、1つ提案があるんだ」

「どうしたの?」

「明日、ボランティアから帰ってきたら夜でしょ?支援学校でもらうケーキとは別に私達だけでケーキ食べたいなって思って。これから買いに行かない?」

「なるほど。それじゃあ行こうか」

 僕は壁に掛けてあるジャンパーを羽織った。恵美子も僕の部屋に預けているコートを羽織って準備する。半ば同棲状態なので僕の部屋にも恵美子の荷物や衣類が置かれていた。彼女の部屋はさすがと言うべきか、本棚と山積みの本が部屋に置かれていて最小限の生活スペースがあるといった感じ。なのでいつも僕の部屋で過ごすことになっていた。

 恵美子と腕を組んで商店街に向かった。1年前からすると本当に積極的になったと思う。この1年間、彼女が行きたい場所に行ってやりたいことをやった感じ。まあ、僕がそうなって欲しいと言ってしまったのが原因だけど。もしあの時「今のままでいい」と答えたらどんな交際をしていたのだろう。今の恵美子からはまったく想像できない。

「どうかしたの?じっと見てるけど」

「去年と変わったなって思って」

「それはそうだよ。浩平君が積極的な女の子が好きだって言ったんだもん」

「そうだね。まさかここまで変わるとは思っていなかったけど」

「えへへ、浩平君のためだもん…責任取ってよね」

「大丈夫、ちゃんと責任は取るよ」

「うん…待ってるから」

 商店街で人気のお菓子屋でケーキを買った。僕と恵美子のカップルは商店街認定らしく、ケーキの他にクッキーとシュークリームまでおまけしてくれる。商店街のイベントや町内会でのボランティアに二人で参加したのが原因。商店街では毎月何らかの大きなイベントが行われており、その度に多くの人が商店街を出入りしている。多くの人が集まり、人の輪ができて、みんなが1つになっていく様はとてもいい。

 商店街のイベントで必ず町長がやって来て挨拶をする。白く長い髭の町長の合言葉は「人の輪を作りましょう」。商店街の近辺に大型スーパーの建設を禁止させる条例を作ったのはこの町長。他にも子どもの教育のために地域全体で見守る体勢を盛り込んだ教育促条例や学生が住みやすい環境を作るために学生支援条例など、町の人のために多くの条例を作っている。おかげ「子どもを育てたい町」第一位を獲得、少子高齢化社会をものともしない若い世代の大量流入が起こっているとか。地方の町が衰えていく原因は人との関わりが関係しているのかもしれない。この町に住んでいるとそう思えてくる。


† 26 †


 クリスマスイブの電車内はカップルの数がやけに多い。僕と恵美子もそのうちの一組。特別支援学校のボランティアは盛況に終わった。恵美子が去年と違い生徒とたくさん話をしたり、遊んだおかげかもしれない。おかげで疲れ切ってしまい今は僕の肩を枕に寝ている。この寝顔だけは去年と変わらない。到着するまで寝かせておくことにした。

 駅に到着後に恵美子を起こして電車を降りて改札を抜けた。駅に設置されている時計は既に9時を過ぎている。

「ずいぶん遅くなっちゃったね」

「まあ、それだけ活躍できたってことだよ」

 恵美子は照れ笑い。二人分の荷物を僕が持ち、空いている手を恵美子と繋いで歩き出した。向かう場所は商店街のクリスマスツリー。中央広場に大きなツリーが飾られており、前々からクリスマスイブに見に行こうと約束していた。

 商店街はクリスマスの装いで、もう9時を過ぎていると言うのに飲食店は特別開店してカップルや家族連れが賑わっている。商店街の天井からは電飾の飾りが吊るされていて、暗く寒い夜空を暖かく照らしていた。50年後のクリスマスとあまり変わらない風景、だと思う。

 みらいの話によると、50年後の未来は「縁結び法」により18歳から25歳の未婚の男女はクリスマスイブとクリスマスの就業が禁止。そしてその2日間、該当する男女は必ず誰かと一緒に過ごさなければならない義務が課せられる。具体的には「指定店」と呼ばれる店で、決められた時間を消費しなければならない。指定店は主に飲み屋やバーなど人が集まる場所が多く、指定店側もクリスマスの間は該当する男女だけの貸切にするところやパーティーを開催するなど様々なサービスを提供する。店側は誰が何時間いたかを記録しており、その記録を国に提出することになっている。病欠や喪中などの特別な理由がない限り、義務を果たせないと懲罰与えられるらしい。

 これまた政府内で反対意見が多かったが、やはり与党が強行決議をして成立。蓋を開けてみると確かにカップル成立数が上昇、指定店も売り上げが増加する特需となった。クリスマスに浮かれているの今も昔も変わらないようだ


† 27 †


 クリスマスツリーの周りには多くのカップルが集まっていた。ツリーの周りにはベンチがいくつも並べられており準備がいい。僕達もそのうちの一つに座った。ツリーの電飾が青から赤、緑へとゆっくりと変化していく。二人でそれを眺めていた。恵美子が僕に寄り添ってくっついてる。僕はこっそりとポケットから小さなリングを取り出した。

「恵美子、左手を出して」

「左手?」

 恵美子は手袋をつけた左手を僕に向けた。手袋を外しそっと左手の薬指にリングはめる。

「あれ、これって今朝から浩平君がつけてるのと一緒だよね?」

「ペアリング。クリスマスプレゼントだよ。あんまり高いものじゃないけどね」

 恵美子は指輪をじっと見て右手でゆっくりとリングを撫でた。

「嬉しすぎて言葉が見つからないや。ありがとう、浩平君」

 笑顔で僕みつめる恵美子。その目から小さな雫がこぼれている。

「浩平君、これからもよろしくお願いします」

 僕は恵美子にそっと口付けをして答えた。


† 28 †


 アパートに戻り恵美子とケーキを一緒に食べ、その後恵美子が風呂に入った。僕は布団を敷いてからコタツに入りみかんを食べながらぼんやりと考え事をしていた。壁に下がっているコルクボードには二人で撮った写真がピン止めされている。

 丁度今日で付き合って1年になる。恵美子と付き合うことになって生活が色々変わった。編み物をする暇もないくらい、毎日恵美子と出かけたり遊んだりした。夜は晩御飯を作って一緒に食べ、夜は一緒の布団に寝る。同居してると言っても過言ではない生活。二人の関係は深くなったと自分では思っている。いずれは結婚…することになるだろう。少なくとも僕は恵美子と結婚したいと思っている。さすがに大学卒業するまでは無理だけど。

「浩平君、お待たせ」

 恵美子が風呂から出てきた。なぜか外に出る格好をしている。

「今日はここに泊まらないの?」

「ちょっと自分の部屋に用があるから」

「そっか。階段気をつけてね」

「うん…。お風呂でゆっくり入っててね」

「え?あ、うん」

 そう言って恵美子は部屋を出て行った。妙に焦っていたような気がする。まあ、いいか。僕は恵美子に言われたとおりゆっくりと風呂に入った。

 風呂から出て居間に戻るとなぜかパジャマ姿の恵美子が布団の上に正座していた。

「浩平君…1つだけ質問してもいい?」

「1つと言わずいくつでもどうぞ」

 恵美子の隣に座って恵美子の質問を待った。どうも話し難い内容らしくなかなか質問が来ない。僕は辛抱強く答えを待った。そして、なんとか聞き取れるような小さな声でその質問が出された。

「いつ、エッチするの?」

「へぇ?」

 思いがけない質問に思わず変な声が出てしまった。恵美子がじっと僕を見つめる。

「付き合って1年になるけど一度もなかったから」

「確かにそうだけど…急にどうしたの?」

「友達や美咲姉さんが1年もその、してないのはおかしいって言うの」

 僕はちょっと考えた。確かにこんなにすぐ近くにいるんだし、寝るときは服越しで密着している。そういう雰囲気にならなかったのは少し変なのかもしれない。でも、本当に編なのかな?男女の恋愛交際において身体の付き合いは絶対に必要なのだろうか。

「いや、そんなことはないと思うけど」

「本当に?」

「僕達の付き合い方をほかのカップルの付き合い方を同じにする必要なんてないよ」

「それはそうだけど…それじゃあ、浩平君は、その、したいと思ったことはないの?」

 うつむきながら小声で聞かれた。恥ずかしいらしい。

「もちろんあるけど…」

 恵美子の顔が赤くなるのが分かった。性格が積極的になっても、性に関する分野には慣れていないらしい。昔の恵美子そっくりの反応がかわいかった。

「僕は恵美子を抱きしめて、キスできれば満足だよ」

 恵美子が顔を上げて僕を見た。少し目が潤んでいる。

「実はちょっと不安だったんだ。私って胸も小さいしスタイルがいいわけでもない。色気なんて無縁だから興味がないんじゃないかって思って」

 えへへと笑って涙がこぼれた。そのしぐさに心打たれて僕は強く恵美子を抱きしめた。


† 29 †


 この部屋に来て4度目の春が訪れた。大学もあと1年。最終学年は卒業論文と就活になる。4月の初めに教授が論文テーマを発表した。テーマは「将来起こりえる新技術とその考察」だった。つまり、未来はどんな新技術が存在しているか考え、それに関して考察しろという内容。このテーマを聞いた時、僕がすぐに思いついたのは交換日記の日記帳「クロノノート」についてだった。「起こりえる」ではなく実在しているのだからこれ以上ない題材だ。ただし、考察はかなり難解だ。僕は「クロノノート」を「異なる時間にいる者同士の通信技術」と題して論文を書き始めた。

 まず、時間の流れを移動する「タイムスリップ」について調べた。超強力なエネルギーを起こしてブラックホールのように空間を歪め、その穴から違う時間軸へ移動するという方法が現段階で考えられているタイムスリップだ。ただし、この強力なエネルギーは現段階で作り出すことは不可能だった。しかもこの穴を調節できないとブラックホールが世界を飲み込んでしまい史上最悪の事故になってしまう。50年後の未来にはこの2つの問題をクリアしてクロノノートを送ったのだろうか?

 色々考えも仕方がないのでみらいにヒントを貰うことにした。未来に関することなのであまり教えてくれないけど、僕がいる時代から約10年後にエネルギー革命が起きて世界のエネルギー不足問題は解決されたそうだ。僕の推測である超強力なエネルギーはクリアしたのかもしれない。次元を超える方法は相変わらず謎だけど、もうちょっと煮詰めて考えてみることにした。

 みらいとの日記も4年目に入った。最近クロノノートが受信に失敗することがある。みらいの話によると、受信装置の故障が考えられるとか。まだ使えるが、そのうち使えなくらるらしい。つまり、完全に壊れた時が交換日記の終わりと言うことになる。毎日書いて読んで、3年間続けてきたみらいとの交換日記が終わるのは寂しいと正直に思う。それに、「みらい」という存在が僕にとって大事な存在なのかもしれない。


† 30 †


 卒業論文の締め切りは9月だったが、6月の終わりに書き上げてしまった。『「異なる時間にいる者同士の通信技術」は現段階ではいくつか技術的面で課題があるが実現可能』という論文。教授の評価は最高の「A」で、この論文に興味を持った町の研究所が就職のオファーを出してきた。僕は面接を受け就職内定をとることができた。


 11月の商店街のお祭。僕と恵美子はいつも通りボランティアとして出店の店番をしていた。僕と恵美子の二人はお祭の迷子の保護や来場者の案内係。祭のスタッフ全員に配られた「白ヤギ秋祭り」と筆記体でプリントされた赤いシャツを着て働く。ちなみに白ヤギは町長の愛称。夜9時頃まで続き、後片付けと打ち上げが終わった頃には深夜になっていた。僕と恵美子は酒を飲まされ、ほろ酔いのままアパートに帰っていた。

 まさかこんなに時間が掛かるとは思っていなかったので予定が狂ってしまった。シスターに悪いことしたな…鞄の中に入っている小箱も出番はまた今度になるかも。そう思っていると、恵美子が突然夜景が見たいと言い出した。酔った恵美子はわがままだ。でもこれ以上ないチャンスに僕は恵美子と一緒に夜景が見える場所、教会があるの高台を目指した。


† 31 †


 この町の教会は丘の上に建っており教会が展望台になっている。町を一望するなら持って来いで、恵美子とはデートで何度かハイキングした思い出の場所だ。二人で教会への階段を登っていく。少し酔いが醒めた恵美子が階段の先に明かりに気がついた。もう深夜なのにまさか…。階段を登りきると、ロウソクの明かりに溢れた教会が入り口を開けて待っていた。

「幻想的…まるで絵本や小説に出てきそうな一場面ね」

「…ちょっと、中に入ってみよう」

「でも、もうこんな時間だよ。シスターに怒られちゃうよ」

「大丈夫だよ、たぶん。ほら、行こう」

 恵美子の手を引いて教会の中に入った。灯が灯ったロウソクの灯台が並ぶ通路を通って一番前の長椅子に座った。場の空気が今までのどこよりも静かで、世界に僕と恵美子の二人だけになった気分になる。恵美子がその静寂をそっと破った。

「初めて逢って2年になるね」

「そうだね。あっという間だったね」

「うん」

 それから二人で思い出話を始めた。3年間は長いようで短い時間。恵美子が性格を変えたいと言い出し、それから行動的な恵美子に生まれ変わった。どこに行くも一緒で、部屋に帰るといつも帰りを待っていてくれて、お互いの気持ちを寄せ合った。本当にあっという間だったと思う。やがて話が尽きて長い沈黙が続いた。

「浩平君、私のこと愛してる?」

「まだ酔ってる?」

「ちょっとね。それで返事は?」

「もちろん、愛してるよ」

 照れ笑いをして僕に寄りかかる恵美子。僕は鞄から準備していた小箱を取り出した。木製の茶色い小箱。

「恵美子、受け取ってくれる?」

「プレゼント?なんだろう」

 恵美子が小箱を開けると中のオルゴールが鳴りだした。昔流行ったラブソング。地味な女の子が頑張って変身し王子様と結婚する、そんな歌詞のラブソング。その小箱の中心には小さなプラチナのリングがロウソクの光に照らされてユラユラと輝いている。

「指輪…これって…」

「まだ早いかもしれないと思ったけど、気持ちをちゃんと伝えたいから」

「うん…」

 恵美子と目を合わせた。その瞳は少し潤んでいるように見る。僕は短く深呼吸をして言った。

「恵美子、大学を卒業したら僕と結婚しよう」

「…うん、よろしくお願いします」

 僕は箱に納められている指輪を恵美子の左薬指につけた。そして誓いのキス。そこに突然多くの拍手が教会内を駆け巡った。

「おめでとうございます、浩平さん、恵美子さん」

「おめでとう、お二人さん」

「やったわね、おめでとう」

 教会の神父さんとシスターが控え室の奥から出てきた。教会の入り口からは大学の友人や商店街の顔見知り、アパートの大家の森さん夫妻や花屋の美咲さんもいた。

「浩平君、どういうことなの?」

「僕も分からない」

 この町のジンクス。丘の上にあるこの教会でプロポーズした夫婦は幸せになれる。そんな噂を森さんに教えてもらい、シスターに頼んで今日準備してもらった。たぶん森さんから商店街にプロポーズの予定が漏れたようでみんながやってくるのだろう。

「浩平さん、恵美子さん、こちらへどうぞ」

 シスターに誘導され神父さんが立つ机の前に立った。後ろの長椅子には押し掛けた知り合いが座っている。

「新郎、浩平。あなたは恵美子を妻とし一生愛することを誓いますか?」

「はい、僕は絶対に恵美子を幸せにしてみせます」

 僕は恵美子の方を向いた。その顔はほのかに紅く染まっている。

「新婦、恵美子。あなたは浩平を夫とし一生愛することを誓いますか?」

「はい、誓います。私の一生は浩平君のものです」

 恵美子が僕を見た。恵美子は小さく力強く頷いている。周りから歓声があがり、深夜とは思えない賑やかな空気が教会を包んでいた。

「では、誓いのキスを」

 僕は恵美子を強く抱きしめてキスをした。僕達は幸せだ。こんなにも多くの人に、親戚でもないただ知り合いなのに祝ってもらえるなんて。二人のキスは長く続いた。


† 32 †


 教会での神前結婚式を追えて部屋に帰ってきた。今、恵美子は風呂に入っている。明日、恵美子の両親に会いに行くことになったので先にみらいとの交換日記を書いてしまうことにした。昨日、みらいにはプロポーズすることを伝えている。その返事が今日来ているはずだ。最新の日記が書かれているページを開く。

『この日記が届く頃にはもうプロポーズが成功しているはずです

 実は浩平さんが今日恵美子さんにプロポーズすることは

 事前の調べで分かっていました

 婚約おめでとうございます

 浩平さんなら恵美子さんを幸せにすることができると思います

 全力で彼女のことを愛してあげて下さいね

 50年後の未来では結婚=出産という流れができています

 「縁結び法」の真の目的である出生率の上昇のため

 結婚したら子どもをつくり育てるというのが暗黙のルールとなりました

 ただ、強制ではないので生まない自由はもちろんあります

 しかし世間からは「変わり者」と後ろ指差されることになります

 私もこれは変だと思いますけどね


 ちなみに、出産に関する費用は国が負担してくれます

 教育に関しても国からの手厚い援助により

 「子どもをつくった方が得」という環境にあります

 また、不妊治療も進み人工妊娠の安全性も高まっています

 女性の中には結婚をせずに妊娠だけしたいと声もあり

 日本でも精子バンクのシステムが作られました


 この中で問題になったのが産み分けです

 遺伝子に対する技術が進歩したことにより

 性別はもちろん、身体の外見や能力まで希望通りの精子と卵子を人工授精させる

 「デザインベビー』技術が社会問題となっています

 神をも恐れぬ愚行、と社会で騒がれましたが

 日本が宗教に対してやや関心が薄いせいもあってか

 デザインベビーが徐々に普及しつつあります

 もちろん、昔と変わらず男女の契りによって生まれる子どももたくさんいます

 どちらがいいのか、という答えは人それぞれだと思いますが

 私はどちらも同じだと思います

 私の子ども達は夫との契りによって生まれました

 子ども達が通う学校の同級生の約2割がデザインベビーですが

 私の子ども達は全員学年トップをとっています

 通常から考えれば、頭のいいデザインベビーがトップを取れるはずです

 本当に大切なのは生まれてきてから何を成すかだと思います

 少し話が反れてしまいましたね

 浩平さんと恵美子さんのお子さんはきっと優しくて賢い子どもだと思います

 それは浩平さんと恵美子さんが一緒に頑張って育てるからです

 頑張って下さいね、それではまた                  』


「浩平君、あがったよ」

 恵美子が風呂場から出てきた。お気に入りのレースが付いた白いネグリジェ姿の恵美子。僕は恵美子を抱き寄せた。恵美子が少し驚いた顔をして僕を見上げた。

「恵美子、子ども欲しいかい?」

「えっ、急にどうしたの?!」

「僕は欲しいんだけど…恵美子の答えもちゃんと聞いておきたくて」

「うん…もちろん欲しいよ」

 恵美子が僕の胸に顔を埋めた。

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