ペリドットの願い~前半~
あんまり、怖くありませんが読んでいただけたら光栄です。
貴方は信じますか?宝石で願いが叶うなんて。
――――薄暗い森の奥にはあるきれいな建物があった。その建物に今日も”また”願いを叶えてもらおうと一人の少女が入っていった。
「あ、あの!私の願いを叶えてほしいんですけどっ!」
「いらっしゃいませ!ようこそ、願いの叶う宝石屋『ダイヤモンド・ジュエリー』へ。さて、貴女の願いは何?この”アリス・ダイヤモンド”が叶えて差し上げましょう」
八月――――
「彩月~~!!本ばっかり読んでないで外で遊ぼうよー!」
私は、水谷彩月。私は昔から体が弱くて、外で運動なんてとんでもないっ!!すぐ倒れちゃうよ…。
「遠慮しとくっ」
そんな私でも恋はする。運動神経が抜群の風宮空君。私は彼が大好き。彼とは、幼馴染で小さいころはたくさん遊んだ。
恋愛感情が芽生えたのは、小学六年生に入ったころから、だったかな?この気持ちに気付いてから、心は彼でたくさん。彼に会えると、とてもドキドキして…嬉しいの。
…でもこの前、偶然空君の好きなこのタイプを聞いちゃって、
「運動ができる子が好き」
って言っていた。私なんか、全然ダメ。むしろ、優衣の方が合ってる。優衣っていうのはさっき話しかけてきた女の子。愛咲優衣は運動神経抜群で、まさに空君のタイプ。
私も一回だけでもいいから、優衣みたいになりたいなぁ…。
と、思いながら窓の向こうに目を向けた。
~お昼時間~
「彩月っ、一緒に食べよー!」
「…うん、いいよ」
「もー!!そんな暗くなんないで!ほら、笑顔えがお!」
そう言って、私に向かって笑顔でピースをした。そんな姿に少し口を緩める。
「ん、ありがと」
えへへっと笑っている優衣の後ろから空君声がした。
私は思わず肩を揺らしてしまう。…慣れているはずなのに。
「愛咲さん!…と彩月?こんなところにいたんだ。」
「う、うん!空君もここで食べるの?」
話しかけてくれたことに気分が上がり、無意識に声も上がってしまう。でも、空君の目は優衣に向けられていた。
「あ、いや。ちょっと愛咲さんに用があって…」
「あたし?」
「そっ、か…」
やっぱり目的は優衣か…。まぁ、分かっていたことだけど。
「もうすぐ、大会があるじゃん?それの出場権が愛咲さんに来たんだって!」
「本当に!?やったー!!彩月、やっと夢が叶うよー!!」
「うん、よかったね」
「ありがと~!」
「…あの、愛咲さんっ!」
「ん?」
その瞬間、空君が少し赤くなりながら優衣の名前を呼んだ。
あ、ヤバい。この雰囲気は…。出ていかなきゃ…。嫌、だけど…。
「ごめんっ!邪魔しちゃ悪いよね…。優衣、先行ってるね」
「えっ!?ちょっ、まっ…――――」
私は立ち上がり空君の横を通り過ぎた。その時、耳に入ってきたのは空君の声で、耳打ちされた言葉は―――
『彩月、ありがとう 感謝する』
この時私の恋心は完全に崩れ去っていった。ズキンッ、ズキンッと胸が痛む。
もう…、嫌だよ…!見たくないよぉ…。
無意識に出ていた涙をぬぐいながら走り出す。少し走っただけなのに、もう息が上がっていた。
優衣、ごめんね。ほんとにごめんね。私、きっと焼きもち焼いてるんだ。空君と楽しそうに話していた優衣に。ヒドイよ、幼馴染の私でさえあまり話しかけてくれないくせに…。
と教室に入ろうとしたら、後ろから私を呼ぶ声が聞こえた。
「彩月ーーー!!」
「えっ…?」
声がした方に振り向くと、走ってきたのか息が切れている優衣の姿があった。
「もー!どうして先行っちゃうの~?」
「ご、ごめん」
優衣から避けるために逃げ出してきたのに、追いかけてくるなんて…。目がまともに見れないよ。
私は、思い切って”あの事”を聞いてみた。
「そ、空君との話は…?」
「あー、告白された。」
その言葉に肩が揺れた。心臓の鼓動が早くなる。
「でもフった」
「ど、どうして…?」
「どうしてって言われても…。風宮君はいい人だよ。優しくて、かっこよくて…。でも、気持ちを伝えられた時思ってんだ。風宮君の思いは、現実を通り越して理想で描かれた思いなんじゃないかって思えてきて…。それって、本当の恋じゃないと思うよ、って言ってきた。」
「へ、へぇ~…って言ってきたの!?」
「うん!その方があたしがスッキリするから!!」
「そっか…、優衣 頑張ってね…!」
「あ、笑ったっ!!」
えっ…。この私が、笑った?どうして…、どうして自然に出てきたの?優衣が空君をフったから?よくわからないけど、ホッとしたからだと思う。
こんなこと思う私は、卑怯だと思う。でも、空君を手に入れるためには…――――
「そーだ!この話、誰にも言わないでね?」
「うん。いいよ」
「ありがと」と笑った優衣に私は微笑む。
私が笑っているなんて、明日雪でも降るんじゃないの?(今、夏です)
って思うくらい奇跡なことだった。
「あっ!一ついいこと教えてあげる!この学校の北ノ沢公園ってあるでしょ?そこにある森の奥には願いの叶う宝石屋があるんだって!あたしは行ったことないけど…、彩月行ってみたら?」
「…うん、ありがとう」
”願いが叶う”か…。行ってみようかな、信じられないけど。行ってみる価値はあるかも。
~四日後~
優衣に紹介されてから、四日…。そろそろ、行かないとかな、優衣に「どーだったっ!?」とか感想聞かれそうだし…。今日の放課後、空いてるから行ってみよーかな。
少し上の空だった私は、天井に向けていた眼を窓の外に動かし、頬杖をつく。
「願い、ねぇ~…」
ぽそっと呟いた言葉は、騒がしい教室に消えていった。
キーンコーンカーンコーン・・・
今帰りのホームルームが終わるチャイムが鳴り、それと同時にあいさつが終わった生徒たちがぞろぞろと教室から出てくる。そんな中で、私は流れに乗るように教室を出て下駄箱に着く。
優衣には先に帰るとさっき伝えた。優衣は不思議そうに首を傾げていたが、すんなりOKしてくれた。
「よし」
私は肩の力を抜き背筋を伸ばす。そして、そのまま昇降口を出る。
うん、なんか力入った。
「…え~と、確か北ノ沢公園の森の奥、だっけ?」
優衣の話を思い出し、目的の森に向かう。
ぼーっとしながら歩いていたからなのか、すぐに公園にたどり着いた。目の前にある森はまるで、私を招いているみたいな気味の悪いオーラを出していた。私は少しだけ深呼吸をする。
森に入るとすぐ近くにとてもきれいな建物が見えた。
きれい…。新築、かな…?古そうには見えないし…。とにかく、中に入れば何とかなる!と思う。
私は震える体を抑えるように建物の中に入った。そこには、宝石のように透き通りそうな、きれいな肌の少女が立っていた。
「あ、あの!私の願いを叶えてほしいんですけどっ!」
「いらっしゃいませ!ようこそ、願いの叶う宝石屋『ダイヤモンド・ジュエリー』へ。さて、貴女の願いは何?このアリス・ダイヤモンドが叶えて差し上げましょう。」
「…私を運動神経抜群にしてくださいっ!そして、空君と両思いになりたいの!!」
「その願い、詳しく聞かせていただけるかしら?」
「どうぞ」と言いながら私を椅子へ誘導する。私はおずおずと椅子に座る。すると、どこから持ってきたのかわからない紅茶が目の前に出された。
…いい香り…。
私は出された紅茶を少し飲み、気持ちを落ち着けた。そして、言葉を一つ一つ零していった。
……………
「その願いなら、八月に誕生した誕生石『ペリドット』を持ってて!その石の力が貴女の願いをかなえてくれますよっ!」
「う、わぁ…。キレー!あっ、あの!お金は…」
そういうと、店主さんは二コツと笑った。
「私の店では”お金”は頂きませんよ」
「タダ、なんですか…。ね、願いが叶ったら絶対!!お礼しに来ますから!!」
私は、もらったきれいな黄緑色をした『ペリドット』を握りしめながら店を出て行った。
「お礼なんて、なんて嬉しいの。でも、その時まで生きていたら、ね」
~次の日~
偶然なのか、今日の授業の中に体育があった。
この石、使ってみようかな。
「おい、水谷!お前は休めっ!」
「そうだよ!ただでさえ体弱いのに…」
「大丈夫!心配しないで、もしかしたら今日から出れるかも!」
「そ、それならいいけど、」
体育の時間、私は店主さんに言われた通り石をポケットの中に入れて授業を受けた。
すると、今までが嘘みたいにどんなことでもすぐに出来た。しかも、大本命の空君に褒められた。
「今日の授業、とても楽しかったなぁ~!空君とも話せたしっ!この石、凄い!」
と石を持ちながら喜んでいると、いきなり体が光りだした。
「えっ!?なにこれっ!?なんで、光って…?!それに…、息も、苦しくなってきて…!だ、誰か…!たす…け、て…」
苦しくなりその場に倒れる。その時、私の体から黒い魂が出てきた。そして、私の手にあった『ペリドット』に吸い込まれた。瞬間、私は死んだ。
「はえあ、貴女の願いは叶ったでしょう?彼が貴女に話しかけた時から思いは結ばれたのよ。たった一瞬でも叶ったんだから、お代をもらわないとね。私の店はタダではないわ。お金じゃない、違うものをもらうの。願いを叶えるために代償として『魂』をいただくの。ごめんなさいね?ふふっ。いただくはね、貴女の”汚れた魂”。魔法の力で両思いになろうなんて…、哀れな人。人間は何故、『欲望』に溺れるのかしら。だから、貴方達人間を闇に迎え入れるの。」
アリスは水谷彩月の魂を吸い込んだ『ペリドット』を持って消えた。
その後、水谷彩月の死体が発見された。その姿はまるで、魂が抜けたみたいに転がっていた。
「恋なんて、芽生えてもすぐに砕け散るわ。闇の奥に…。」
貴方も行ってみたら?願いの叶う宝石屋『ダイヤモンド・ジュエリー』へ。
何も知らない、その体で――――…。
*おわり*
どうでしたか?
ホラー、なのか分からないんですけど…。
どっちかと言うと、人間の欲望に満ちた話、みたいでしたね。
ご覧いただきありがとうございました。