二人のカタチ
「後悔している」
古ぼけた屋敷の客間で、古ぼけたソファーに座った男が言う。
メアリアは扇で口元を隠し、口角を上げた。
「私を王妃にするつもりだったのでしょう? 残念でしたわね」
男が深く息を吐く。
「ブサイクな女が隣に居れば、メアリアの美しさが際立つと思ったのだが、まさかあれほどまでのめりこまれるとは思いもしなかった。おまけにメアリアは暴走するし」
「私は初めから殿下一筋でしたのよ。勝手な行動をしたのはそちらでしょう? まあ、おかげでいろいろと助かりはしましたが」
メアリアはクスクスと笑い、扇を閉じた。
「――懐妊していたなら、処分するように命じられていましたのでしょう?」
「…………」
「それで二番目に愛してる、なんてよく言いますわ、あの男」
男が目を伏せる。
「メアリアなら、立派な王妃になれた」
「そうかもしれませんわね。お互い何の感情もなく、それぞれの仕事のみをこなす、立派な仮面夫婦になれたでしょう。そしてそれが――あなたの望みだったのでしょう?」
馬鹿ね、と笑うメアリアに、男も笑った。
「メアリアに馬鹿だと言われたらおしまいだな」
「そうね。これからどうしますの?」
「何も、変わらない。変えるつもりもない」
男が立ち上がり、メアリアも立ち上がる。
「感謝していますわ」
「メアリア……」
男は何か言いかけて、結局何も言わずに口を閉じた。
「どうか、また来てくださいね。――ネイラスお兄様」
腹違いの兄にニッコリと笑い、メアリアは手を振る。ネイラスは無言のまま軽く手を挙げて帰って行った。と、その時――。
「メアリア」
声を掛けられたメアリアが振り向く。
「殿下、おはようございます」
「早起きだね」
「殿下が遅いのですわ」
「メアリア――」
ランドルフは両手を伸ばし、メアリアをふわりと抱きしめた。
「もっとゆっくり休みなさい、大事な身体なのだから」
メアリアは笑顔で、ランドルフを見上げる。
「はい、殿下」
「愛しているよ、メアリア」
「私もですわ」
啄むような口づけをして、二人は微笑み合った。