エピローグ
草の上に敷かれた布の上には愛しい妻と、もうすぐ六歳になる長女のリーニと、それからまだ幼い娘が三人座って遊んでいる。
父親――ヴェリオルは、護衛とネイラスを下がらせ、唯一の妻であるイリスの横に座った。
「あまり引っ付かないでください」
「そう照れるな」
「違います」
不満げなイリスに笑い、ヴェリオルは子供たちの頭を順番に撫でた。イリスと同じ色の髪、自分とそっくりな顔立ち、父母のいいところだけをもって生まれた奇跡のような子たちを、ヴェリオルは溺愛していた。
「ここは良いところだな」
イリスが頷き、周囲を見渡す。
「ええ、懐かしい」
イリスが子供の頃よく来ていたという草原に、ヴェリオル達は来ていた。城の中では味わえない解放感に、子供達も――特にリーニが大興奮していた。
「連れてきてくださって、ありがとうございます」
微笑むイリスに手を伸ばし、抱きしめる。
「イリス……」
そして頬に何度も口付けると、途端にイリスは顔を顰めた。
「やめてください、気色悪い」
イリスが思わず言うと、子供達が真似をする。
「お父様気色悪い」
「きしょくわるい」
「きしょくわるいー」
「きちょくわうい」
ヴェリオルはとろける様な笑顔で子供達を見回し、寝転んでイリスの膝に頭を乗せた。
「甘えないでください」
「そう言うな」
ヴェリオルが目を閉じる。
「ああ、安らぐな……」
「私は安らぎません」
重いです、と呟くようなイリスの文句が聞こえた。
「――イリス」
溜息を吐いて、イリスが首を傾げる。
「なんですか?」
「幸せか?」
「…………」
イリスは無言のまま、ひざ掛けをヴェリオルの身体に掛け、目の前にある頭にそっと触れた。
可愛い娘達の笑い声と、己を優しく撫でる手――。
ヴェリオルは幸せな笑顔を浮かべ、ゆっくりと眠りに落ちた。