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第5話・交渉

1966年1月18日・アクィラⅡ



『最高国防会議?』

『ああ、兄貴が参加するハメになったとぼやいてた』

初とエミリアが喋りながら整備をしている。整備の対象は、エミリアが乗って来たSA2もどきだ。かなり形は出来上がっている

『しっかし、こんなオンボロでよかったのか?』

『なにが・・・?そこのスパナとって』

ほい、とエミリアに渡しながら初はプロペラを撫でた

『110馬力が二つの、こんな前時代的な奴じゃなくて、中古だが、単純に考えて出力四倍のCR42にでも乗っていけば良いじゃないか』

『なんだ、心配してくれているのか?』

エミリアが安全だとわかって以来、彼女の乗って来た機体の修復の間、アクィラでリハビリを兼ねて、CR42を初めとする機体に乗っていたのだ

『ありがたいが、私が駄目なんだ。旋回機銃が前にないと不安でたまらん。バール』

『しかし、射撃の安定性は固定機銃に勝てないだろ?』

カチャカチャと手は動かしながら会話する

『射界が狭いんだ。あれだと攻撃をかわせない。速さは慣れられるしな』

エミリアの話によると、森の侵食は、近くのコアユニット、兄貴は第二脳のようなものか、といっていたそれを攻撃すると、しばらく侵食は無いらしい

『前方の旋回機銃で障害をはねのけつつ、複葉機の身軽さで進路を維持し、爆弾を命中させる。それはこいつにしか出来ない芸当さ』

エミリアが、整備していた機体の下から出て来る

『私にはこいつしかないんだ、こいつが最高なんだ。すまないな初。障害をやり過ごし、あるいは破壊してから攻撃を加えるなんて余裕は、私達には無いんだ・・・それに、これはファムの機体だしな。寿命までは使ってやりたい』

エミリアが機体を撫でる。初ははふんと息を漏らした

『お前の兄は、結構な事ですと頷いていたが?』

『兄貴め・・・』

自分の事は自分でやれと言うのも良いが、相手は女の子だぞ!?こう弱い時に支えてやるとか出来んのかあの人は・・・!

『ただ、機体の更新に何機かフィアット社を始めとして機体を出せなくもないと言って来てくれたが、代わりに出せる物が無いから、と断った。あまり悪く言ってくれるな』

・・・一瞬エミリアの身体を、とか考えた奴手ぇ挙げろ!・・・俺と一緒にシベリア行って木を数えようぜ

『資源の循環も人の循環も、ギリギリで成り立ってる。削るわけにはいかないんだ』

『・・・そういえば、けっこう頭いいんだな、エミリアは』

気を取り直して、初は聞いてみた

『ん、どうしたいきなり』

エミリアは少し顔を赤くした

『いや、軍人。しかもパイロットで循環とかなんだとか、いわねぇし、普通は』

飛行技術や、敵の事はまだしも

『あぁ、違う違う。整備長の・・・まぁ全般的に技術屋は狐族がやってて、ファムの姉にあたるんだが、情熱屋でよく話してくれるんだ・・・言葉があれなのが問題だが』

『なぁんだ、受け売りか。感心して損した』

肩をすくめて笑ってみせる、ちょ!バール投げんな!

『まぁともかく、お前達も、その最高国防会議で決定が為されれば、自分達の為に動ける。私も戻って、国を守る。それでいいじゃないか・・・世話になったな』

『世話って程世話してねぇよ』

金は兄貴のだし

『だが、話はそうは問屋がおさなくなったようだ。二人とも』

『か、艦長!?』

いつの間にか側まで来ていたウ゛ィエステに、慌てて敬礼する初。ウ゛ィエステは下ろして良いと言って続けた

『しばらくは、イタリア本土に害は及ばない、そう判断された』

『艦長、アレは油断していい代物では・・・!』

エミリアが気色ばむ。それをウ゛ィエステは手で押さえた

『我々の転移は、余程運が良かったと見える』

ウ゛ィエステは取り出した地図を指で示した

『我が国はフランス国境のモナコ、そしてギリシャ国境のコロナを始めとする海岸線を除いて、山脈によって囲まれ、一種の孤島になっていることが、改めて確認された』

固い岩盤を植物は避ける。それに、標高2000メートルの山肌を駆け登りつつ、これまでの世界とは違う植物を取り込まなきゃならない労力を考慮に入れたら、とりあえずのところ侵食は進まないと見ていい

『よって、我が王立イタリア海軍第二艦隊は、貴女の送還と共に、貴国の支援を行うことを決定致しました』

『な、本当ですか?』

頷くウ゛ィエステ

『アンサルド海軍幕僚副長や、エミリア君の情報を志摩少尉に聞いて、我らがドゥーチェが決定した』

『さっすが兄貴!決める時は決めてくれるぜ!』

初が親指を立ててエミリアに笑いかける

『さらに第一艦隊からローマと引き換えに、V・ムッソリーニにが来る。ついでに志摩少尉も、な。エミリア君、そこで頼みがある』

ウ゛ィエステがエミリアを見る

『はい』

『その志摩少尉だが、君の機に乗せて、君の居た基地なりに、我々の先遣として使節団の受け入れを認めさせてほしい』

ムッソリーニとインペロ、あわせて6機程のヘリ(おそらく不整地であるため)が必要とされよう

『やってくれるね』

エミリアはヴィエステの言葉に頷いた



1966年1月22日・旧キプロス島沖・現CPUヘルシア



『ここが!私の!基地だ!』

エンジンの前にいる直純に、エミリアが叫んだ。眼下には、外側に壁と堀らしき溝を巡らせた街のすみに青い滑走路が見える

『着陸してくれ!』

『わかった!』

直純が眺めるに、掩待壕から配備機数は10機前後か



ブロロロロ!



着陸コースに入る。待機所や、掩待壕からわらわらと人が出てくる

『うおっつ!』

がたんごとん、と、バウンドしながら着陸する機体に、直純は頭をぶつける

『ようこそ、ヘルシアへ』

直純にエミリアはそう告げた

『エミリア~!ファーム!あんたら生きとったんかぁ~!』

直純が先に降りて、集まりつつある人々に、直純が自身の身分をあかそうとしたその矢先、赤みを帯びた金色のもふもふがダイブして・・・おわあっ!

『ファム!こんなに痩せてもーて!んーっんーっ!』

『ち、違いますって!や、やめろっ』

泣きながらであるためか、俺を見ていない。てか、キス責めはやめてくれ!アーッ!

『・・・』

『・・・味が違う。尻尾も無いやん。つか、男?』

ごしごしと涙を拭いて、その狐は良く押し倒している相手を見る

『フィリネ・・・』

エミリアはフィリネの尻尾をひっ張る

『誰やねん、こいつ。エミリア、あんた・・・』

エミリアが、ファムの尻尾の先を手渡す

『・・・そか、ファムはダメやったんか』

『すまない』

エミリアが頭を下げる

『ええんよ、うちはあんたが生きててくれるだけでも十分や!』

その尻尾を受け取って、抱きしめてから、彼女は笑った

『んで、こいつ何者なん?』

押し倒した直純を指差す

『ぬぅ・・・』

『とりあえず、うちの唇奪った報いや』



ゴンッ



スパナで殴られる。理不尽だ!

『あ、あのなぁ、フィリネ。その人は私を助けてくれた組織の人でな』

『エンジンを新調できるなんて皇国かいな?』

じとーと、フィリネはこちらを見る

『お、王立イタリア海軍の名代として参上しました・・・その、どいてくれますか』

『うちは重くないやろう?はねのけてみぃや・・・あぁ、なんでこないなぱっとしない男と』

随分と気にしてるようだ

『いや、ははは・・・』

なんていえばいいのやら

『で、イタリアってどこや、今この世界にそないな国はないはず・・・あんたは何者なんや』

スパナを彼女は握り直した

『おい、フィリネ!』

『エミリアは騙せても、うちは、うちらは騙せへんで!』

整備班を含めて道具を持った人々に取り囲まれる



その時だった



ゴォオオオオッ!!!



何機もの旋風が、飛行場の上をフライバイする。そしてその後に衝撃波

『あれが、我々だ。この基地に何機か使節を乗せた機体を着陸させたい』

『すごい・・・音速の壁を、銃弾以外が越えるやなんて・・・』

流石は技術屋、なにを成しているのか理解が出来ている

『空母一隻で、あれを72機運用している。ここの七倍くらいかな?』

『それ、服従しなきゃ攻撃するという恫喝なん?』

フィリネが睨む

『なんとでも』

『それなら交渉無しで私達を滅ぼした方が早いよ、フィリネ』

エミリアがなだめにはいるが、彼女はその手を払いのけた

『エミリアはだまっときぃ!』

『・・・ここの人口を抱え込む面倒は、御免だがね』

じーっとフィリネはそう言った直純の目を覗き込む

『・・・代わりにうちらは実験台か?簡単には、納得できへんで!』

『・・・』



会議では、こちらの軍事力の制圧後でいいじゃないか、そんな意見もあった。だが・・・意見を求められた俺は

『人口を養うのは手間です。殺すのも面倒。ですが、生かしておけば使用した兵器の影響が、近隣にどのようにおよぶのか知る事が出来ます』

まさにフィリネの言葉はそのものズバリだった。動揺を表に出さずに直純は答えた

『否定はしません。ですが、目指しているのは人に対して無害な兵器の選定です・・・植物にたいするデータを供出していただければ、使わずにすむ兵器もあるはずです』

『・・・』

今度はフィリネが黙り込んだ

『それは使われる兵器の効果を、うちらにも教えてくれるん言う事か?』

しまった、と直純は顔を背けた

『約束は・・・できない』

『フィリネ、いい加減にしたらどうだ。彼にも職分がある』

フィリネはようやく腰をあげた

『まぁええやろ、あんたは少なくとも正直や、正直者は嫌いやない』

『それは、どうも』

・・・前途多難そうだ。上手くやっていけるのか、俺は。いや、我が国は、か

『エミリア護民官、通信機器を降ろしたい。手伝ってくれ』

『ああ、わかった』

交渉決裂による武力制圧はなるべく避けたいものだが、さてはて・・・




次回、享楽と絶望のカプリッチョ第六話【~触れ合い~】




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