第43話・烈風荒ぶらば
volte+17T、サルディニア沖
《こちら、アルジェント3、貴隊を管制下に置く》
基地を飛び立ち、多少編隊形成に戸惑ったあと飛びはじめてしばらくして無線が入った
《いつぞや以来だな、アルジェント3。よろしくたのむ》
アルジェント3はアクィラの空中早期警戒機中隊のTACネームだ。懐かしむように初は答えた
《多少は出来るようにしてきたのか?》
前回は初機を除いて空中給油に全機失敗しており、技量なんてなかった
《そりゃあもう、イロイロと、エロエロと》
《二度と帰って来んなバーカ》
と、やいのやいの言って通信している。お互いうれしそうだった
《スパルヴィエロの連中との合流時間は?》
《ヴォルテゼロ、母艦からはまだ上がってはいない》
ヘルメットを傾け、少し考える素振りを見せる
《アルジェント3、ヴォルテ+10minuteは可能か?》
《・・・トラブルか?》
アルジェント3が口調を変え、心配そうにする
『ちょっと初!何w』
レシィが流石に声を荒げる。いま編隊には何も起きていない、正常そのものだからだ
《旗を見せてやりたい。飛行長ならわかる》
《ちょっと待て》
アルジェント3は、アクィラに居る飛行長に連絡を取る。なんのことだろう、一体
《え?いいんですか?ソーマ1、許可が降りた》
《感謝する》
ありがとうございます、飛行長
《全機、高度をあげ、針路を南へ》
《なんだ、何処へ行くんだ?》
ブリーフィングにも言及されなかった行動に列機も騒つきはじめる
《・・・これが見せたかったんだ》
機の左側に目を向ける。夜明けに上がってくる太陽の光が、空に放射線状に延びる
《きれい・・・》
《すごいな、これは》
いわゆる旭日旗である。夜明けを飛ぶことでしか見ることの出来ない光景だ
《俺も夜間ソーティはあまり出来ないような腕前だ、どれだけお前らに教えてやれたかは疑問が残る。もう一度これが見れるよう、生き残れ。》
『空が綺麗だってこと、忘れていたわ』
後席のレシィが嘆息する
『俺も時々忘れそうにはなるんだけどな。これが見たくて、俺は飛んでるんだ』
人間・霜島初は空が好きでたまらなかったのだ。それも、旅客機のような定期のコースだけでは飽き足らぬほど
だから、反対を押し切って航空隊の門戸を叩いたのだ
『貴方という人間がよくわかったわ』
『そりゃどうも』
レシィとそんなやりとりをして計時を見る。うん
《アルジェント3、コースに戻る。ありがとう》
ここからは戦争の時間だ
volte+18T、空母アクィラCIC
『ビーコン受信、散布した音響デコイはほぼ問題なく飛べています』
報告に艦長のヴィエステは頷く。時間差をつけて甲板から飛ばしたデコイが、風にのって無事に海域まで届いたという事だ
『航空隊は?』
『変更した時間どおり、配置につきます』
うん。実のところ、風の強さも一定ではないため、バラけが足りずにいたから、渡りに船でちょうど良かった
『・・・そろそろ、か』
一定の間隔で一列縦隊が外周に円を描くように各機が機動しているのが、アクリルの掲示板に書き込まれているのがわかる
号令一下、第一陣の第801航空隊16機が各角度から突入する事になるわけだ。そのまま一航過して離脱するのだが、衝突しないようにいくらかの高度差はつけてある
『艦長、カウントはじめます。3、2、1・・・今!』
『突入開始!音源を起動せよ!』
ヴィエステの号令に、担当士官がスイッチを何個もひねる
《突入!突入!突入!》
投入出来た気球は合わせて60あまり、今頃化け物どもは混乱する事しきりだろう
『戸惑うまま、ちゃっちゃとおっ死ね!おっと、失言だな』
空母対戦艦のシチュエーションに、空母屋の血がたぎるのを抑えきれなかった
同刻
彼/彼女は混乱していた。当然だ、彼/彼女らが一番これまで、特に最近の記憶として恐怖していた空気の振動を、多数近距離で感知したのだ。何故!?何故!?
−目標対応、浸透圧調整−
しかし、多数の根から情報を得ていた彼/彼女は、敵の接近・攻撃が間違いなく近い物として、対処を始めようとする
メキッメキキキキッ
少なくとも今まで船型だったその姿から、四方八方に白い根が拡がっていく。陸上のMMで、ビームを使う際に熱量によって自爆みたいな事が起きるのは、認識として彼/彼女らは理解していた
だったらどうしたら良いのか?簡単である。発射元を冷やせば良いのだ
浸透圧によって、海水を引き込み冷却するというやり方は、この海という環境に適したやり方だった。とはいえ、冷却を行うことで威力はMMの数分の一にまで減少していたが
−消去!消去!−
ブボァッ!
明けかけた夜の闇を切り裂いて、光芒が4筋伸びた
シュゴォォォォ
熱量によって大量の水蒸気がもうもうと立ち上がる。では、水蒸気によって覆い隠されたそれは、果たして攻撃手段を失ったのか?水蒸気はレーザーを大幅に減衰させてしまう。ならば・・・!いや、そんなことは百も承知、彼/彼女らにとって、常に敵とは複数であった。威力を頼みとしないならば、発射速度とその威力の維持は欠かせない
−放出終了、放出終了、翼展開より根展開へ移行−
先ほど水を吸い上げていた根が、形状を変えて羽のように伸びて蒸気を吐き出している。熱によっておよそ17倍に膨れ上がるエネルギーを移動に活用したのだ
一種のポンプジェット推進である
−消去!消去!消去!消去!−
彼/彼女らは己の力に酔ったりなぞしていなかった。まだまだ撃破すべき敵はたくさんいるのだ。
−近接目標ヨリ破壊、破壊−
伝わる振動が大きいものから目標を選択する。それがずっと、同じ音を吐き出している事は気付いてすらいなかった。あまりにも急に音源が現れたので、焦ったのだ
ブボァッ!
再び光芒が伸びる。そして彼/彼女らは気付いた。これまでの戦いでは、攻撃すれば更に大きな音が生じて消えた。だが、それが全く無い
−理解不能、理解不能、理解不能−
だから、それでも光芒を放ちつつ混乱する彼/彼女らに向けて、空気を切り裂きつつ小さな物体が近づいていく事に、彼/彼女らが気付く事はなかった
《う、ウワァアアアアッ!!!》
空母から様子を伺うしかないヴィエステらのような指揮層と違い、航空隊、特に初達には余裕は無かった。初陣であるから仕方ないのもあるが、近くを光芒が通り抜けていけば叫びたくもなる
《5番機!マイクは受信のみだ、さっさと黙れ!彼女の方は黙ってんだろうが!イ○ポ野郎!》
こういう時に恐怖を伝幡させないために、隊長機以外は無線を受信のみにするのであるが、後席が忘れたらしい
《目標の移動を確認。航路を修正せよ》
光芒の照射角度からそれを見越したのか、あちらの中隊長機から通信が入る。内容は・・・ちと俺達には厳しいか
《各機!針路を左に5度変えるぞ!ついてこれないものh・・・》
退け!と叫びかけて口を閉じる。舌噛んだ。ここで退かせたら、味方の危険度が増してしまう。それは侮辱だ、この作戦に参加するといった彼女達に対する。そして、もしそんなことを命じてしまったならば、俺はあいつらを心の底では信じていないという事になる
《ついてこれないものは!爆弾を投棄!こちらが投下したと同時にケツまくれ!》
せめて出来るのは、これくらいしかない
《ソーマリーダー》
不意に無線機が鳴った。中隊長機からだ
《はい?》
《多少は出来るようになったようだな。安心した》
・・・中隊長、こんな時に人を泣かせんでください
《僚機に恵まれてますので。まだ、ご指導願います》
《当然だ、我が帝國海軍の手練手管、みっちりしごいてやる。日本に帰ったらな》
日本、か・・・なんか半年だが随分遠い単語になっちまってるな
バシュウッ!!!
今度は俺の機体の傍らを、光芒が切り裂く。なるほど、こいつは恐ろしいや
『レシィ!海面状況が良くない、出来るか!?』
気に食わない事に、海面にもやがかかりだしている。あっちが散々ぱら撃ちまくりやがったせいだ
『針路を変えるほどの移動目標だなんて聞いてないわよ!?命中精度は期待しないでちょうだい!』
良くない、良くないね
『・・・危険だが』
少し速度を落として、中隊長達に先行してもらった方がいいかもしれない。命中精度も技量に勝る中隊長達が上だ。命中弾で吹き上がる炎を目標にするなら、こちらのコ・パイ連中でも精度を上げられるだろう
《中t『ああっ!?』》
中隊長に伝えようとしたとき、レシィの悲痛な叫びが響く
《こちら2番機、3番機がベイルアウトした!詳細不明!》
エミリアが報告してくる。そんなバカな!畜生!
エミリアが冷静に報告する。あとはパラシュートが開傘したかだが、そこまでは確認のしようがない
『くっ・・・』
ここに来て欠員か!
《初!正面!》
《なんだありゃあ・・・!》
靄の向こう、確かに戦艦のように見える姿に、場違いな羽根。まがまがしい
『レシィ!』
『もうやってるわ!機速を落として!』
投弾態勢をとり、目視誘導の為速度を落とす。この瞬間が、一番危険なんだ
『Lanciare!(投下!)Lanciare!(投下!)』
レシィらのランチエーレの叫びのあと、爆弾の重量を失った機体が一気に軽くなって浮き上がる。ここですぐケツまくって逃げ出したいところだが、誘導がある。我慢我慢・・・
『命t』
レシィが必死に誘導した爆弾が、敵の姿に吸い込まれて消えた瞬間、命中の報告を途切れさせて光があふれる
ブボァッ!!!
『ウオオォォォオオ!!!』
膨れ上がる大気に、機体の制御をとられる。冗談じゃねぇ!
《全員そのままケツまくれぇええ!》
無線に叫びつつ、無理矢理力付くで暴れる操縦桿をいなす
『被害は!?命中は!?』
レシィにも叫ぶ
『被害は無し、いくらかは命中もしてる。見て!』
黒煙がうっすらと目標から上がっていた
カピターニ・ロマーニCIC
『航空隊、目標上空を通過します』
『わかった』
先の大戦中の計画艦であった本級は、小型巡洋艦・・・いや、拡大化していった秋月級とほぼ同じく、汎用艦としてその任についていた。
イタリア独自の強行偵察艦の由来は、大型対空ミサイル(対艦兼用)運用し、そのために大型の電探などを搭載した事に由来する。
元の計画で3750トンという大型の船体をもつに至った本級は、そういったプラットホームとして実に優れていた
『敵が思った以上に動きますね』
『なに、連中よりは遅いさ』
本来この艦らのミサイルは対空ミサイルであり、それが割と大型であったことから対艦攻撃も割り当てられた。それだけである
『それもそうですね・・・撃てます』
話していた士官が振り返る
『撃て、一弾も残すな』
『了解、発射!発射!』
すでに起動状態にしていた発射機から、噴進剤を燃焼させてミサイルが飛び出してき、シュゴォオオッという轟音が此処まで届いてくる
『各艦とも撃ち方始めました』
『よぅし』
今度は我々第一艦隊6艦による、総72発のおもてなしだ。遠慮せず食っていけや
『前菜で潰れんなよ?』
そう、我々は前菜に過ぎないのだ
彼/彼女は理解した。はめられた、はめられたのだ。今も振動しつづけているそれは、なにかわからないが偽物だ。悔しい、根で繋がっていない為、情報を共有出来ない。悔しい!悔しい!悔しい!
−危険、危険、帰還、上陸セヨ−
彼/彼女らの協議でも、一も二もなくそれが決定される。彼/彼女のうち、後部の発射基のコアは消えてなくなってしまっているが
−音源探知!音源探知!−
そこに再びのアラート、しかし此処までくれば彼/彼女もわかる。
−現在ノ音源ヲ目標ヨリ削除−
すべてをリセットして、それに集中する。次の目標は逃さない
−削除!削除!削除!−
ブボァッ!
再発射、音源が3つ消える。残り、残り・・・!
ゴオォォォォォ!!!
無視できない音源、さっきから響いていた音が極大に響いてくる。違う、これは違う
−脅威度選択−
−審議拒否、審議拒否、現脅威削除優先、優先−
−っ!!!?−
彼/彼女は戦慄した。また、音源が増えた。増えたどころではない。とてもだが処理できない、処理できそうに
−審議依頼−
だから、彼/彼女らは
−威力増大形成開始、威r
初機
『っ!・・・テメェ!よくも俺の部下を落としやがって!』
ケツまくれと命じた初だが、目標が迎撃の対象を変えた事で、奴らの意志を理解した。やつら、もう俺達からの攻撃がないと判断した。だったら、その判断を覆してやる!
『ちょ、初!なにしてるの!?』
翼を翻すと、レシィが驚いた声をあげて問う
『あいつの攻撃器官は、そこまで可動性に富んでねぇ!掃射ぐらいしてやらにゃ気が済まん!』
むしろ、こっちに向けて撃って来るなら好都合だ。近距離で振り回すには、その主砲はでか過ぎんだろ?
《隊長!》
遠ざかるエミリア達の機体から、心配そうな声が投げ掛けられる
《来るな!離脱しろ!多数の方が危険だ》
《・・・隊長、一時的に隊を預かります。ご武運を》
多数の方が危険だという言葉で、破れかぶれではないと安心したのか、エミリアが連絡してくる
《頼む》
《みんな、帰還するぞ》
引き返そうかと揺れていた機影が、きっちり納まって帰っていく
『良し』
『良くない』
レシィは不満そうだが、まぁそこは付き合ってくれや
『全弾ぶちこむ、一航過するだけだ』
仮に一次大戦時の戦艦と同等の防御力として、それだけぶっぱなせば痛いじゃ済まんだろう
バシュウッ!!!
話してる間に、再びの光芒。こちらには向かってきていないのと、三本だけ
『後部の一つはやったか』
ならば、後ろから行こう
《こちらサウロ1、そこの無茶してやがる野郎はどいつだ》
あ、三次攻撃のスパルヴィエロ搭載機である旋風による攻撃隊だ
《こちらソーマ1、ちょっと愉快な事がしたくなっただけだ》
そう言いながら侵入コースを整える
『初!』
レシィが言うまでもなく気付いた。目の前の化け物、その後部に一つ残ったレーザーの発射基が大きく変化していく・・・野郎!精密射撃じゃおっつかないから凪ぎ払うつもりだな!
《サウロ1!ブレイク!ブレイク!》
味方機に向けて警告を叫びつつ、射撃ボタンを押し込む。考えやがる!間に合え!
ブォォォーッ!!!
高速ガトリング特有の射撃音と共に25mm機銃弾が放たれる。本来ならそれほど効きやしない代物だが、状況が違った
莫大なエネルギーをもってしての巨大レーザーの発射には、同様に冷却にも大量の海水を必要とする。故に、そのパイプを断ち切られてしまうとどうなるか・・・
『えっ?』
目の前が真っ白になったのは覚えている。身体が咄嗟に反応して機体を大きく右に傾けた
『はぁっ・・・!はぁっ・・・!』
あがる息をなんとか整えようとする。目もチカチカして良く見えていない。意識も瞬間的に失った気がする
『くっ・・・レシィ!』
『・・・』
返事が無い。吐息・・・耳は無事か
《ソーマ1ホワイトアウト!ホワイトアウト!誰か見えていたら指示を頼む!》
上下の感覚が無い。自然に任せて大丈夫なほどの高度は取っていなかった。
《ネガティボ、爆撃コースに大量の水蒸気!こちらからは視認出来ない》
くそっ!それじゃあどうすれば・・・あ、そうか!
力を抜いて手を操縦桿から離す。とんでもない行動だが、今はこれしかない。上下さえわかれば・・・!
《っ!》
手が頭の方に上がった。ヤバイ、逆さまだ。逆さまの時上昇するには・・・
『うおおおっ!』
操縦桿をおもいっきり倒す
《Lanciare!(投下!)Lanciare!(投下!)》
その間にも、二次攻撃隊の通信が入り続ける
《目標炎上中!繰り返す!目標炎上中!》
《迎撃が止んだ!ミサイル攻撃を続行してくれ!》
景気のいい通信ばかりのようだ、少なくとも何かの役には立てたか
《ソーマ1、確認した。高度も十分だ。立て直せ》
《了解》
少しずつ見えてきた視界をたよりに、機体を立て直す
《巡洋艦を前に出す!》
《いいぞ!敵の白化が始まった!》
敵の断末魔である白化が起きたのであれば、もう敵はおしまいだ
《任務完了》
あとは・・・どの地点だったか
《ソーマ1、帰投せよ、被撃墜機の捜索はあとで行う。たとえこの海域をサルベージしてでもだ》
脅威が失われた事でか、機体を翻したのと同時に管制のアルジェント3からの通信が入る
《・・・》
《待ってろ、お前らは基本的にアクィラ航空隊の仲間なんだ。誰一人だって残さないさ》
それがたとえ死体であっても
《・・・頼む。RTB》
機体を翻す。さて、レシィが気が付いたら怒られてやらなならないし、エミリア達も祝ってやらないとな
《木だ!木が倒れるぞ!》
最後のコアが破壊されたのだろう。まるでキノコ雲のように急速に退化して生えた世界樹が白化し倒れていく。終わったのだ
こうして、基地に初が帰投して一時間後。未帰還だった三番機のペアの無事が確認され、初らヘルシア義勇航空隊の初実戦は終了したのである。
全体では7機の被撃墜機という対価を払って、航空攻撃という烈しい風は吹いたのだ
次回、享楽と絶望のカプリッチョ第44話【〜アクションレポート〜】
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