第41話・擬態
1966年8月7日、RM・スパルヴィエロ艦橋
『飛行長、今から崔雲は出せるか?』
クリップボードを片手に、艦長は飛行長へ問う。なにやら良からぬ事が起きたらしい
『何事です。崔雲は一機、次を用意しています。おい、偵察隊の機を甲板に上げろ!・・・カタパルトのスチーム次第ですが、問題がなければ10分で』
クリップボードを受け取り、ヘッドセットの向こうの整備長に命令をだしながら、飛行長は答える
『5分で頼む。例の交易船が消息を断った。海上偵察が必要だ』
『7分以下にはなりません。大事ですな・・・アウドゥーラ、ですか?』
飛行長がヘッドセットを外して振り返る
『不明だ。だがな、リナ・コラッドは一万トンを超える貨物船だった。君、ドイツ海軍のシェーアの本を読んだことは』
飛行長は首を横に振る
『一万トン以上の船を沈めるのに要した時間と砲弾に辟易して、接舷して爆薬を仕掛けてからの沈船処分を行っている。シェーアの砲は11inだ』
『そりゃあ・・・』
一万トンを超える貨物船を、あっという間に通信不能状態に陥れる事の出来る存在?バカな!
『私は空軍に高度偵察を行うよう要請を行う。もちろん、ボルケーゼ大将にも要請を依頼する』
『お願いします』
チンチンチンチン!
日本海軍由来の、鈴を鳴らしながら舷側エレベーターを崔雲が甲板を上がってくる。
《ナヴィガトリ2、海上捜索でなんらかの目標を発見次第、最大探知距離で位置を報せたのちは、帰ってこい。空軍に任す》
化け物の場合、レーザーをぶっぱなしてくる可能性がある。崔雲はレシプロ機だし、対レーザー対応をしていない。すぐ燃え上がっておだぶつだ
《そりゃ、ヤバそうなソーティですね》
《なるべく早く回す。水平線に注意しろ》
高度を上げ下げしつつ、探知を続けるやり方だ。相手が船舶ならそれで見失うという事は少ない
《了解です、ナヴィガトリ2、発艦します》
会話の間に艦首のカタパルトに運ばれた崔雲のエンジンが轟音をあげる。背中に乗せてあるレドームが重いこともあり、最大出力だ
《発艦よろし》
飛行長は別の会話ボタンを押して、許可を甲板長へ与える
バシュゥン!!!
カタパルトは崔雲を空中へと放り投げ、その機体は力強く上昇していく
『発艦完了です、艦長』
飛行長は親指を上げて報告した
『結構。私はCICに入る。逐一報告してくれ』
『了解です』
艦長は甲板指揮所から去っていく。さて、大変な事になったぞ・・・!
volte+2T、ナヴィガトリ2
『そろそろ通信が途絶えた海域が探知範囲に入ります』
操縦士が機長に告げる。AEWの崔雲は操縦する人間が機長ではなく、管制の長が機長となっている。ここから飛行長となり、空母の艦長や航空隊の司令となる出世コースの配置でもある
『よし、海上探索モードに火を入れる。クラッター処理に気を付けろ』
『うまく、リナ・バレッタを発見出来ればよいですが』
何らかの事情で漂流しているのかもしれない
『だといいがな。海上漂流物にも注意を払え、何か見つけたら報告しろ。油膜なんかは特にだ』
『了解』
飛行長からはすぐにケツまくって逃げて良いと言われている。なんらかの痕跡さえ見つけられれば、空軍の高度偵察機に引き継ぐのもたやすい。本来この機は警戒管制機であって偵察機ではない。無茶はしたくなかった
『・・・』
しばらくの間、クラッターを処理するコンソールをいじる音だけが響いた。といっても、レシプロ機である以上は、爆音と振動は避けられないが、許容範囲である
『っ!?ベルトを!急制動!』
しばらくして操縦士が叫ぶ。ベルトの固定フックは、うおおおおお!?
ブオォン
機首方向が一気に持ち上がる。失速させる気だ。レドームがあるため、機首を上げると崔雲の場合一気に制動がかかる。そのあとは失速だ
『っ!』
ベルトが間に合わず、機長は天井に叩きつけられながら正面を見て絶句する。光の筋が目の前で光っている
『降下します』
今度は機首を下げて速度を稼ぎリカバリーに撤する
『いつつ、よくやった』
そういって打ち付けられた背中をさすりつつ操縦士の肩を叩く
『光った方位は我々から1-1-0です』
おそらく目を少しやられたのだろう。瞬きを何度もしながら操縦士は微笑む
『電測、なにか反射がなかったか?』
『いえ、特には』
こりゃあ、レコードを後で見ながら敵さんの射程を割り出すしかねぇな。しかし・・・
『先の大戦でブリテンのソードフィッシュやモスキートがラダールに捉えられにくかった話は聞くな』
レーザーぶっぱなしてくる相手という事はこっちの植物の化け物だろうし
『電波の反射が鈍いのはそのためか』
うん、ラダールに引っ掛からないのはそんな所だろう
『空軍に引き継ぐ!俺達の仕事は終わりだ』
コンソールにつき、母艦へと報告を入れる。帰還はすぐ許可された
『さて、どうするかね』
海上でレーザーをぶっぱなす相手をどう料理するべきか。思案のしどころだった
volte+5T、メストレ空軍基地
純白の機体が次々と降りてくる。機体は偵察型の閃光だ。白い塗装は敵レーザーによる熱の吸収を少しでも妨げるためだ
『ご苦労様です!』
駐機スペースへ移動させ、機体から降りてくるパイロットに整備士が駆け寄る
『写真機を頼む、バッチリ映ってるとは思うが』
ヘルメットを脱いで寄越す
『あまり今回は焼かれませんでしたね?』
『ん、ああ』
整備士は機体が焦げていないかチェックする
『射程が短い気がしたな。それよりもだ』
パイロットは見たものを思い出して、ため息を吐いた
『ありゃなんの冗談だよ』
volte+6T、ローマ・海軍省ビル
『空軍からの写真はまだか!』
『今、現像がこちらに来ます!』
海上に化け物が現われたとならば、真っ先に対応せざるを得ない海軍の上層部は、出来うる限りの情報を欲していた
『スパルヴィエロから再度崔雲を出してみては』
『あの機体は高い、むやみに失うようなことがあっては』
継続的な追跡が出来ないのは悩みの種だった。今、敵が何をしているのかわからない
『潜水艦隊司令部から、1日内に回せる艦は6隻が限界だそうです』
『よし!それで阻止線を構築する!後続は遊撃させろ』
水上艦艇はともかく、潜水艦は各地に散っており、戦力の集中に苦慮していた。せっかく敵が水上にあり、敵レーザーの届かぬ海中から攻撃が出来る潜水艦があっても、なかなか上手くはいかない
『現像来ました、回します!』
閃光が偵察した敵の写真が配られるなり、場が凍り付いた
『・・・なんだ、これは?』
『まるで、いや、これは間違いなく・・・』
誰もが思い付き、それを頭でそんなバカなと否定する
『戦艦、だろう。信じがたいがな』
そんな中、アルが肩を竦めて皆が否定せざるをえないその写真の見方を肯定する
『幕僚副長、いくらなんでもまさか、戦艦とは・・・確かに、改装前のR級・・・に見えなくもないですが』
『そもそも、これまでの相手とて、大きさこそ違えど、生物的な相手でした。それが・・・』
それぞれの反論をアルは手で制す
『少なくとも、これが敵だ。戦艦型のな・・・理由も一つは思いつく。皇国だよ』
皇国の名に、憤怒の表情で席を立ち上がる将官が何人かいる
『連中が差し向けたと?』
『CPUに引き続ききゃつらまで!』
アルは頭を抱える。そうじゃない
『落ち着け諸君。皇国が化け物を撃破出来るとすれば、技術レベルから戦艦か列車砲ぐらいしかない』
つまり、逆に考えれば敵側にとっての一番の脅威とはそれとなる
『となれば対抗上、それに似せた存在になるのは理解出来る。擬態、というヤツだな。こいつは魚や昆虫だってしている。決して高等生物に限った現象でもない』
重苦しい沈黙が場に広がる。どれだけ敵は対応してくるのか・・・
『空軍の報告では、これまでの相手よりレーザーの威力、射程共に劣っているともあります。これは、最初に接触した崔雲への攻撃からも推測出来ます』
唯一の好材料を、従官の一人が明るく言う
『・・・レーザーなら、水平線越えの攻撃が出来れば封殺出来るか?』
『しかし、それが可能な艦は・・・』
そう、戦艦群は損害と放射線洗浄中であり、重巡はなんとか三万メートルを越える射程にこそなっているが、水平線にはギリギリである
『最悪の場合は洗浄中の艦も出す。しかし、現態勢でもなんとかしたいな』
これが複数出てきた日に艦が足りなくなったらどうにもなりません。じゃ困る
『駆逐艦らの対艦ミサイルは?』
『おいおい、探知範囲に問題がある。敵の射程内に入るぞ』
射程が十分にあったとしても、敵をロックするための情報を揃えるには接近が必要だった。しかも小型艦となればなおさらである
『となれば、空母及び基地航空隊による攻撃となりますか』
これには全員が唸った
『攻撃力をどの程度期待出来るか・・・いや、そも命中させられますかな?』
レーザーに捉えられぬよう、低空を分散して飛行し、トスボミングがこれまでのやり方だったが、海上の移動目標にそれは・・・
『烈風装備の航空隊であれば、誘導爆弾が使えます。幸いスパルヴィエロに一中隊、9機がありますが・・・』
これもまた問題がある。誘導に関してファイア&フォゲットは出来ないし、目標を捉える時間がいる。つまり、ある程度の高度と運動性の低い行動が求められる・・・レーザーを持つ相手にだ
『ならば飽和、しかありますまい。烈風は他に、錬成中の例の隊もありましたな』
これはナポリの初達の中隊である
『・・・よかろう、それしかないのであればな』
アルも少し躊躇うが許可を出す。かなりの危険に晒すことになるが、こういう場合に贔屓は出来ない。が、少し抵抗してみる
『そもそも、相手にしないというのは、いかんよな』
『それこそ危険では?増殖されては事ですし、いつこちらに向かってくるとも限りませんし、今回の通商路は』
財務省の肝入りなのだ
『わーってるよ!言ってみただけだって』
放置の危険性も、国の方針も十分に理解している。やるしか無いのだ
『よし!艦隊位置、哨戒艦の位置から、最適な集合地点を割り出せ。飽和の手段を増やすのは可能なはずだ』
『大至急、割り出します!』
スタッフが動き始める。残るはアルをはじめ将官ばかり
『・・・全体的な損失を見れば、艦を前に出す必要がありますかな?』
『何が言いたい』
パワーバランスでアルのライバル、あるいは次の幕僚副長と目されている大将が聞いてくる
『個人的な思い入れが過ぎるのでは?という事です。』
『それについては否定はせんよ。だが、航空隊だけを突入させることで受ける軍内の亀裂はどうか?また、この方法ならば成功確率も上がろう。その手段をこうじなかった批判は、私は受けたくないね』
その大将は苦笑しながら肩を竦め
『貴方にはかないませんな』
と言いつつ派閥の将官と共に引き揚げていった
『畜生め』
こんな時の長なんぞ、したくもなかったわい
『・・・ったく、空軍との折衝に行く!データが集まりしだい俺の部屋に寄越せ!』
ともかく、採れる手を採ろう。結果は後で考えれば良い。だが願わくば
『無事でいろよ、初』
でないと俺はあいつらに申し訳が立たなくなっちまうんだ
volte+7T、ブリンディシ海軍航空基地
『出撃準備、急げ!』
航空攻撃が決定されてから、出撃までにすることは意外に多い
『烈風は全機、飛行可能な状態にするようにしろとのご達しだ!武装関係の奴以外は優先的に手伝ってやれ!』
『『『うっす!』』』
幸いな事に、エンジンの取り外し点検は行っていなかったが、錬成中の飛行隊という事で、飛行を繰り返していたせいか、整備には手間がかかるようだった
『ノズルのこびりつきがまずい、溶剤持って来い!』
『こいつの油圧は酷くなるばっかりだ、取り換えるか・・・おおい!予備部品あったかぁ!?』
作業の轟音に負けぬよう、怒声が飛びかっている。そんな中をパタパタ尻尾をまとめたフィリネも走り回っている
『俺達まで全機飛行可能状態にしろってことは、たいした問題が発生したって事か』
その間、パイロット達はそれぞれの待機室で待つしかない。なにより、敵の詳細がまだ届いてなかった
『で、どうするんだ?』
『そうさなぁ』
聞いてきたエミリアに、悩む素振りを見せる
『初、みんな爆弾を搭載して、行って帰ってくるぐらいは出来る』
『そうさなぁ』
初は同じフレーズを同じように繰り返した
『初!』
ムッとしたエミリアが怒鳴るのに、待機室の皆が振り向く
『怒鳴るなっての!ったく、お前等!今回の出撃は我が隊にとって初めての戦闘出撃となる。その覚悟は出来てんのか!?』
今度は初が怒鳴る。
『いまさら怖じけづくやつぁ、居ないよ!』
『私達にも何かさせてください!』
そんな言葉と共に、全員が首肯する。畜生め、どうやって爆弾投棄させるかこっちは考えてたっつーのに
『良いだろう!今回の出撃で全員処女卒業だ!締めてかかれ!』
『隊長、我々女は締めるのが役割です』
そりゃそうだ、とコ・パイの野郎どもが笑う
『そういうのは帰って来てからたっぷり頼む。いいな!』
『『『『了解!』』』』
ったく、この死にたがりどもめ。人の気も知らないで良く言いやがるよ、ホントに
姿を偽り、気持ちを偽り、全ては進んでいく、次回、享楽と絶望のカプリッチョ第42話~飽和攻撃~
感想・ご意見お待ちしております。
戦闘まで持っていけなんだ・・・
この時期はスマートボムが無いんで、結構攻撃手段が悲惨です。史実でも問題が出てきたのは第一次の湾岸でしたので、にんともかんとも