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第40話・淘汰の道筋

1966年8月6日、タラント・グランマーレ




『暑いな』

この異世界でも無事に夏が訪れていた。目の前の海軍ドックには、ヘルシアで損傷したムッソリーニが横たわっている

『べ、ベルガミーニ幕僚副長閣下!?』

慌てて現われた工厰長に、よいよい、と手を振る

『お忍びだよ、あまり大袈裟にしてくれるな』

この目で確認したくなったのだ。イタリア海軍最強の存在の壊れ具合を

『手ひどくやられたもんだ』

右舷側は酷いもので、副砲はめくれあがり、高角砲は転げ落ちている。ほぼ水平射であったため、弾庫がほぼ無傷であったのが幸いではあったが

『見た目ほど深刻ではありません。勿論、被弾した兵装やターレットの取り外しは必要ですが』

工厰長はそう嘯く。うん、それだけ言えるのであればそうなのであろう。ならば

『工厰長、ここだけの話だが、対化け物用改装・・・ピアノ・ネヴィスチオを私は裁可するつもりだ』

ピアノ・ネヴィスチオ、ブレダ社がムッソリーニの損傷を聞いて推して来た計画だ。



破壊された右舷側の甲板に30ミリ+20厚の複合装甲を据え置き、そこに20基の多目的ロケット発射基を搭載するというもので、弾頭は10センチの物と8センチの物の混載となるであろう。瞬間最大840発の火力というのは、たいしたものだし。反対舷は通常のままであるから、まだ敵が残存するのであれば回頭すればよろしい。まぁ、射程が10キロというのが不安といえば不安だが、ネヴィスチオのように敵を打つというコンセプトも悪くない




『閣下、それは・・・』

『なるべく早く仕上げてくれ。ブレダ社や下請けに事前契約をしても構わん』

あーあ、これじゃブレダ社との癒着と責められても否定出来んな

『一刻も早く彼女を海に送り出してやりたい』

出来うる限り、敵に対応した戦力を投入出来るようにする。それが俺の仕事だ

『しかし、OTO側からそれは・・・』

工厰長が心配そうに告げる。スキャンダルになってしまっては・・・

『安心しろ、OTO側には不良債券を引き受ける事で話をつけている』

不良債券、暴発スタンピードともいうべき速射力を持つが、命中精度の面で規定を満たせなかったOTO社の新式6in砲をプリニーの爆沈によってペアが欠けてしまったエトナに、対化け物用装備として換装する予定になっている

『だから、大丈夫だ』

根回しは済んでいる。突貫改装に問題はない

『わかりました。しかし、今現在、際立っての敵はいないのではありませんか?』

工厰長の言葉を無視し、ムッソリーニへと視線を向ける




数日前・ローマ海軍省




『今回の甲虫については、今までの植物とは違う?』

部下の従官からの報告に、アルは盛大にクエスチョンマークを頭に浮かべた

『虫タイプならほれ、第二艦隊が相手したリベルーラ(トンボ)タイプの奴が居たじゃないか』

そいつは対空射撃と潜水艦による雷撃でカタをつけた

『完全に別個のものである、というのが研究チームからの報告です』

冷や汗をかきながら従官は続ける

『先のリベルーラですが、これは旧来の敵と同系種という事は間違いありません』

本体部分にコアがあって、これを撃破すればとりあえずは倒せる

『しかし、今回レオネッサ戦車師団が相手をした甲虫は、それに該当しないタイプになります』

『どういう事だ、はっきり言え』

従官はその事実を一息ついてから切り出した

『先の甲虫は、現在の環境に適応した、まったく新しい生物だ、という事です』

『バカなっ!』

それが指し示す意味にたどり着いて、否定する

『たかだか十数年で既存の生物が戦車と戦えるような化け物になるか!』

そんな変化は最低でも数百年、いや、数千年は無いと無理な筈だ!そんな事あってたまるか!

『先のリベルーラタイプは、コアに捕食体を使って養分を収集するという、コアにかなり依存したものでした。しかし、レオネッサ師団が遭遇したタイプはそういったものではありません』

なんらかの作為がされたことは否定できないが、まったく系統が違うというのだ

『つまり、それはこういうことか』

アルはその事実を口に出そうとして一瞬戸惑う。それだけの衝撃をともなう事実であったから




『この世界は、あの植物の化け物どもに適合しつつある』




『ベルガミーニ幕僚副長?』

意識が過去から戻ってくる

『・・・際立っての相手が居ないといったな、工厰長。それは思い違いだ』

『は?』

アルは制帽を被りなおす。ある種の覚悟を身に纏って

『我らの敵は、Sar il mondoだ。今も我々に向けられている』

備えねばならない。抵抗せねばならない。我らが淘汰される側になるわけにはいかないのだ

『工厰長、忙しくなるぞ』

『は、はっ・・・!』

何のことだかさっぱり理解できなかった工厰長が、敬礼を返す。しかし、これから忙しくなる事は間違いなかった。

とにかく、このムッソリーニを海に出さなければ、商業船だろうが新型艦だろうが、受注に対応することが出来ないのだから




同日・イタリア商船、リナ・コラッド




『待てば海路の日和りあり、ですな』

航海士が鼻歌混じりに舵を握る

『私はそこまで楽観は出来んよ、先日まで砲火を交えた相手だし、化け物がいるかもしれん』

船長はそういって肩を竦める

『化け物ってったって、都市を襲うような奴でしょ?そりゃ何があるかなんてわかりませんし、護衛もありゃしませんが、乗組員が100名も居ない船を狙うようなこたぁせんでしょう』

やれますよ、と、航海士

『だといいんだがな』

船長はため息を吐く。財務省と外務省も、この船の結果を注目している。アウドゥーラ皇国との交易第一船なのだから

『交易品目は鉄屑(旧式兵器)と工作機械だったな』

それと、アウドゥーラ皇国は食糧や鉱物、そして情報を売る

『しかし、こっちの世界は女の子ばっかりという話じゃないですか!』

この航海士、ウキウキである。

『らしいな』

『航海の金払いも良かったですし、皆羨ましがってましたよ』

これまで航海禁止命令の出ていたイタリア海運界にとって、アウドゥーラ皇国との交易開始は福音とも言うべき報せだった。それも財務省と外務省が積極的に支援してくれるとなれば、金払いどころか、株価もうなぎ登りである経営陣も欣喜雀躍して大盤振る舞いときた

『あまり期待しすぎると、裏切られたように感じてしまいそうで怖いがな』

愛が重いというやつだ。どれだけやれるかは未知数という奴だろうに

『船長、定時の連絡を行います、許可を』

電信員がブリッジに入って来て告げる

『許可する』

一応定時連絡は二時間置きになっていた

『んっ?』

航海士が妙な声を上げる

『どうした?』

『いえ、水平線に影g』





新しき世界に、旧世界は淘汰されるしかないのか・・・




次回、享楽と絶望のカプリッチョ第41話【〜擬態〜】

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