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第39話・邂逅

1966年8月1日、ヴァチカン




『久しいな』

齢80をこえた老体となったムッソリーニにとって、ヴァチカン入りは懐かしい物となっていた。実際には、転移があった一月に来ているので、8ヶ月程度ではあるのだが、色々あったと言うべきだろう

『ご苦労』

現れたスイスガーズの先導のもと、聖堂の奥へと進む。現教皇、パウロ6世に謁見するためである

『聖霊と、子と、皆のもとに』

『アーメン』

在位より2年、改革者として名高い彼が、この転移という一大事のイタリアに於いて存在したことは、幸運意外のなにものでもなかった。もし仮に、私が首相として在位していた頃の教皇、ピウス12世であった場合、どうなっていたことか

『教皇猊下』

ミサが終わるのを見計らって声をかける

『親愛なるアルミカレ、どうなされました』

微笑みながらパウロ6世は手を合掌させる

『ちと、老体の仮説にお付き合い願いたいのです』

パウロ6世は微笑みを深める

『教会の立場に関する事なのですね』

彼はすぐに話そうとする内容を理解してくれた

『教会としては、今回の転移をどう判断したら良いのか、また、今後の事についてです』

首肯するパウロ6世

『では、席を落ち着けた方がよろしいかな?』

場合によっては、あまり他の枢機卿や神父・シスターに知らされたくない回答を要求するかもしれない。その提案に否やはなかった

『・・・なるほど』

パウロ6世に連れてこられたのは、聖堂地下の史料収蔵庫・・・良く探すことが出来るのであれば、聖遺物さえ見つけだせるだろう場所

防音防湿は完備であり、密談にはもってこいだ

『申し訳ないが、一人だけ神父を付けられたい』

『なんの、こちらはお願いする身です』

最低限の護衛という事だろう。眼鏡に頬に傷のある神父・・・はて、どこかであったような。いや、気のせいか

『それで、仮説とはいったいどのような?』

パウロ6世は椅子に座りつつ切り出す

『1941年末に起きた、日本の異世界転移と我が国の転移についてです』

ドゥーチェは仮説を話しはじめた

『そもそも、世界を飛び越える。なんて事はありえない考えです。当然ながら、しかし、それが二度にわたって、日本が帰ってきた分を含めれば、三回の経験を我々の世界はしています』

まずは、今陥っている状況について、軽く説明する

『ならばそれは、何を意味するのか・・・教皇猊下は、もしも、の世界はご存知ですかな?』

『ドイツで流行っていると聞いたことはありますな』

もし、あの時こうしていたらどれだけ良かったか、などのそれだ

『私もローマ進軍をはじめ、運命の分岐点を何度か味わっている身です』

あらゆる可能性があった

『様々な分岐の先・・・私は下手をしたら新聞社の社長だったかもしれない。ま、あらゆる世界が考えられます。これを、川の流れと考えます』

この認識も、まぁ良くあるものだ。だが、違うのはここからだ

『これまでの転移から考えて、我々の世界は非常に流れが早いと思われるのです』

何故、この世界だけ他の川である異世界に行けるのか、そして日本が戻ってこれたのか

『・・・川は、その流れが強いと蛇行するとも聞きますな。なるほど』

パウロ6世の理解も早い。世界の蛇行が強い、その分だけ他の世界との接触する可能性は高いということだ

『日本の資源や、あちらの世界のレーヴァテイルや獣人達がこちらの世界に連れてこられたのも、これなら理解できましょう』

川の流れが強く、あちらの流れの一部を削り取って来たわけだ

『逆を言うならば、我々が手を出して手に入れても、それは持って帰る事が出来ると考えられます』

それが意味する事は大きい。非常に大きい

『しかし、だね。それが教会に何の意味があるというのかね』

原理が多少わかった。戻るまでの期限も多少アバウトながら、わかるようになる

『これは教皇猊下も異な事を。産めよ増やせよ地に満てよ、ではありませんか』

『っ!』

こう、言いたいのだ。



連れて帰れるのであれば、切り取り放題である、と




そもそも、カトリック教会は遠隔地での布教に力を入れていた。これは新教徒のせいでもあるが、増やし、広がるのはカトリックの得意中の得意だった

そして、そのノウハウも並々ならぬものを持っている

『逆を言えば、アウドゥーラ皇国に宣教師を送っても責任を持っていただけるという事ですな?』

頷くドゥーチェ

『彼の国の彼女らには救いが必要です。この度のような事態にならぬ為にも』

合点がいったとパウロ6世は頷く。スパイ的な要素も含まれているのであろうが、魂の休息は我々の仕事である。宣教師の派遣は願ってもない

『わかりました。派遣させていただこう』

『ありがたく思います』

いくばくかの雑談の後、ドゥーチェは退席する

『アンダーソン神父』

『御前に』

護衛についていた神父を呼ぶ

『我らの神の素晴らしさを、この世界に知らしめるのです』

いいだろう、この挑戦、受けてやろうじゃないか

『『エイメン!』』



ナポリ、フィリネの宿舎




『フィリネに何かあったら、ためらい無く貴女を殺します。いいですね?』

前の約束どおり、フィリネと一日話したいと言ってきたリヴァルに、そういって直純は凄む

『わかったわかった。なんなら全裸で行っても良い。剥くか?見られて恥ずかしい身体はしておらんからな』

『・・・』

なんというか、本気でそれを言っているからやりにくい

『私はここで待ちます』

扉の前で、直純は短刀片手に座り込む

『では、いかせてもらう』

リヴァルはそういって扉の向こうへと消えていった

『・・・くそっ!』

浅はかだった。こんなことになろうとは!何かあったら飛び込んでいってやる!




フィリネの部屋




『よぅきーはったなぁ』

『・・・いや、もてなし感謝するぞ』

リヴァルも多少覚悟をしてきたのであるが、入って来ての第一声は罵声でなく歓迎の言葉だった

『これ、は?』

テーブルに付くと、お茶を出された

『砂糖もミルクもついてるな』

『なんやの?何か変か?』

笑うフィリネ

『我々はともかく、CPUではどうなんだ?まず、無かろう?』

彼女達の街は、物資的に困窮していた。それでの循環型都市であり、こんな嗜好品には縁遠かったはずだ

『まぁ、無かったやな。こんなクオリティの高いもん、あらへんかった』

フィリネは角砂糖を一つ摘みあげて、お茶へ投入した

『真っ白に精製した砂糖なんて、直純はんらが来るまで久しゅう見とらんかった、お菓子なんてもんもな』

『・・・なるほど、それで狂ったわけだ。お前たちの国は』

合点がいった、とリヴァルも砂糖を摘み、お茶の中へ

『・・・あんたらが、導いたとちゃうんか?』

フィリネが声色を強ばったものに変える。

『多少はそうかもしれん。イタリアという国があらわれる前に立てた計画にそってだがな。CPU全体でこんなことになるとは、露とも考えてなかった。段階を考えてもこれは加速しすぎだ』

『それをうちに信じろと?』

どこまでリヴァルの言うことが真実なのか

『証拠はない。だがな、私にとってCPUとは、戦いの果てに打ち破り、我が領袖の下に置くべき存在だった。未来の皇国国民まで滅ぼすなぞ、愚の骨頂である!としか言えん』

・・・嘘を吐いてるとは思えへんが

『それで、謝らへんの?』

『何に対してだ?』

その切り返しに、フィリネの方が戸惑う。なんやのん、この人は!

『あぁもぅええわ、そのことに関しては。うちかて、もう限界やとは思うとったけん』

その言葉に、リヴァルの方が哀しげな顔をした

『・・・そういった、モノが見えるというのは辛かろう』

姉上もそうらしい。私か?私には見えんがな。剣にそんな思考なぞ不要だ

『それで、直純はんとは結婚するやろ?』

『うむ、引き入れるつもりが、こちらが取り入らねばなくなったからな』

あの核兵器というものの威力。戦争そのものを否定する代物を封じるために

『アレも思ったより悪い男じゃない。が、まぁ、人の男であることは自覚しとるよ』

ここでお茶を飲み一息吐く

『だが、正妻なら振り向かせてみたくもなる。私とて女だからな』

『それをうちの前で言う?』

呆れてモノが言えない。て、その前に

『振り向かせるにもやり方があるやろ。そないやりよったら、むしろ逆効果やん』

ナオが嫌うやり方や

『だから、良いのだ』

リヴァルはニカッと笑ってみせる。これはまいったわ

『ええけど、うちから刺されても知らへんで?』

『名誉の戦死ということか?構わぬ構わぬ。そうなればあの男の事だ。多少は我が国の目を見てもくれよう』

・・・あかん。アプローチがまったく違いすぎる

『ああ、もぅ・・・好きにしたらええ』

『そうか、助かる』

嬉しそうにリヴァルは目を細める

『ぬぅ~・・・』

リヴァルがほんまもんの天然さんという事だけは良くわかった。よぉくわかった

『よし!最大の懸念は今払拭したが、もう一つ聞きたい』

ずぃっと身を乗り出す

『今、貴女はイタリア軍内で整備士をしていると聞く』

『そやね』

何聞かれるんやろ

『技術的に見て、どうだ?こちらの人間が入ってみて、どう思った』

『へ?』

割合真面目な質問で焦る。えっと、そうやな

『少なくとも、体系的に科学の道は同じやな。飛躍はしとるけど』

だから、おぼろげでも理解はできる。整備も、なんとか基礎はやれるようになってきた

『私でも、出来るか?』

『・・・時間さえかけれるんやったら、まぁ。ひゃあ!』

バァン!と両肩を掴まれる

『そうか!そうか!貴女は英雄だ。この世界でも、学べば奪える。身体に覚え込ませれば、理解できる。それだけわかれば、やりようはある!』

差がありすぎるのは百も承知、だが、ナメクジが這うようでも前進出来るなら、第二市民だろうが、奴隷だろうが、いずれは会得できる。敗北にも意味を持たせる事が出来る!

『うちは、もうただの一人の女やで?技術的なフィードバックをうちの国にするんは、もう出来ひん。でもあんたさんは違うやろ?』

リヴァルはんの考えてるんは国家間の事で、わりかし大規模な事やろし、うちの事例で肯定的に考えられとっても、ちょっと困る

『事例が無いと有るでは随分と違うさ。ふむ・・・』

『どうしたん?』

急に考え込んだリヴァルに、不安を覚える。突拍子も無いことを言い出しそうで

『以前はよく見ていなかったが、なかなか良いスタイルをしている。おお、これはこれは』

確認するように手を伸ばして触りはじめる



ぺたぺた、むにょん




な、ななっ!なぁっ!

『なにすんのやー!!!!』

『ふははは、良いではないか良いではないか』





邂逅は新たな流れを産み出す。それは破滅に向かってか、それとも繁栄に向かってか




次回、享楽と絶望のカプリッチョ第40話【~淘汰の道筋~】




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