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第35話・新しき政府

ローマ




『何故!何故今この時期に!』

秘書は叫んだ。頬が片方だけ少し赤い、涙をにじませてもいた

『わかっている。だから、信を取る』

『ドゥーチェの信任厚いあなたです!お言葉さえいただければ挙国一致は出来るはずです!』

アメーは秘書の言葉を無視し、代議・元老院両院の解散文書にサインを書き入れた。後は国王陛下のサインを受ければ解散は成立する。現在のドゥーチェは陛下のアドバイサーという事になっているから、陛下の命令という事で議会をオーバーライドすることも確かに出来はする。だが

『あの人なら、しないよ』

その確信があった。私の判断を指示してくれるだろう

『私はね、コーデ・ハンニバルを発動したのだよ。その意義は大変に大きい』

シビリアンコントロールによる最大の権利履行をやったのだ

『これから先は本土での戦闘を含めて、あらゆる手段をもって政府はイタリアの防衛に勤めなければならない』

そこにシビリアンが存在することは害悪でしかない。先の財務・外務省の一件がそうだ。一時的にでも軍・警察の指揮系統を上位化する必要がある

『しかし!その統制には市民により一層の圧政を強いる必要があります!これでは!』

選挙に勝てる筈がない!

政治状況としてまず、北部は中央政権寄りではない。地方分権を得たくてうずうずしている。このような所に統制を求めるなんて自殺行為に近い

そして南部だが、食糧生産に適した土地ではけしてない。北部にはお荷物扱いされているが逆を言えば、弱みを握られているとも言っていい。食糧供給を餌に支持を北部側に持っていく事はたやすい

『むざむざ北部に権利だけを与え、イタリアが分裂してしまうだけです!』

『いかにも。君は全くもって正しい見方をしている。そして付け加えるならば、私の党も私を見放している。私では選挙に勝てないとね』

アメーは微笑んで秘書を見た

『私は政界を去ります』

『そんな!』

無責任にほうり出すつもりですか、このイタリアを。あなたのような立派な人が!

『だから、君には是非とも情報を纏めてもらいたい。出来るだけ具体的に、呆れるほど悲観的に。日本の旭新聞のようにね。省内、政府内のスキャンダルは私に責を求めるくらいがちょうど良いでしょう。あぶり出してくれますね?』

な、なっ・・・

『私で、よろしいのですか?』

それしか言葉がでなかった。情報を無断で握り潰した私で

『理由は先にいいましたよ。あなたは正しい見方をしている、とね』

飛躍しすぎない程度で、伝わりやすい情報を彼女なら選別することが出来るだろう

『私は政界を去ります。ですが、出来るかぎりの事はしていくつもりです』

どこの政党政権が実権は握ろうと、絶対に対処を始めなければならない話題を世間に徹底的に広めておけば、なにがあろうとその政権はその対処に追われ、成果を求められる

『最終的なセイフティネットは、私達をオーバーライド出来るドゥーチェや国王陛下の手に委ねるのですね』

秘書の言葉にアメーが頷く

『ふふ、君でよかったよ。私に引導を渡してくれたのがね』

どうだろう、私がもし彼女から写真の情報を得ていたら、コーデ・ハンニバルを発動しただろうか?政権を辞して国の為に今すぐ動こうとしただろうか

『蝋燭の火は消える前に、強く光を放つというだろう?』

『はい・・・』

秘書はうなだれる。本当に首相は辞められるのだ

『私はその光を放つ火は、次の蝋燭、いや、松明に火を点ける為にあるのだと思っている・・・火を絶やさないでくれ、君なら出来るよ』

『・・・はいっ!』





秘書は笑顔で答えた。抑え切れなくなった涙を、両目から流しながら




1966年6月14日、イタリア議会に於いてアメー首相辞任。両院解散



同日・タラント、アウドゥーラ皇国海軍戦艦ヴィナ




『・・・』

リヴァルは自室の浴槽に身を沈め、護衛兼侍従の四人に手足を洗われていた

『あの閃光』

そしてその効果。不愉快だった。なんだあれは、何の意味がある

『あれは戦いではなく、殺人だ』

戦争でいくらか人が死ぬのは当然だ、寧ろ推奨すらする。そして人は高みに登っていく。もし、戦って負ければ相手にかしづけば良い、奴隷なりにされたとてかまうものか。その恥辱、恨みがその者達を高めてゆくだろう

だが、殺人にはなんの意味も無い、全員殺してそれで終わりである

『失礼します』

侍従達が手足の泡を流し、身体のマッサージを始める

『私は戦争がしたいのだ!種の絶滅や根絶が目的ではないわ!』

姉上には一度言ったことがある。もし、あの植物どもと話が出来れば、外交戦争、貿易戦争、ありとあらゆる戦争ができるのに、と

『勝てなくても良い、負ければ自らの糧にすればよいのだ』

それを、真っ向から否定された。未来そのものであるこのイタリアから



敵対なさば、根絶する



あの兵器からは、そのような意志を感じた。兵器が戦争を否定するなぞ、あってはならないのだ

『あってはならんのだ、そんな事は』

リヴァルはマッサージをする侍従の一人の腕をとって引き寄せる。むろん彼女達も全裸である

『皇女さま?』

『私が男であれば、放っておかぬのであるがな。征服欲無くして、人は進まぬ。その手段を自ら律し、放棄しかねない兵器、そして戦争なぞ・・・』

リヴァルは侍従を解放すると、立ち上がった

『私は否定する!あの兵器の使用について、戦争条約の締結をイタリアに追加交渉として伝える!支度をせい!』

『は、はっ!』

一人が裸のまま伝令に走り、二人はリヴァルの身体を拭いて、一人が服を用意する

『よろしいのですか?姉姫様に連絡せずに』

『あんなものを放置して帰ったらそれこそお仕置きものだ』

あれをされるのは正直勘弁してほしい

『わかりました。何かしら兵器関係の条約に関する資料がありましたらお持ちします』

『うん、頼む』




しかしリヴァルの提言は、アメーの両院解散によってしばらく足踏みを余儀なくされるのである



ヘルシア飛行場




『兄貴!無事だったのか!』

『ああ、なんとかな』

フィリネを連れて飛行場に直純が現れたのは、この時点になってからだった

飛行場は火災を消火した時点で人員をムッソリーニから割いて制圧部隊を送り込み、何とかしたのである。障害物をクーデター側が壊して設置する等の工作までやっていなかったのが幸いした

『そっちも全員無事か』

人数を数えて安心する。整備班はちょっとわからないが、見た顔がちらほらしているから、割と殺されずに済んだのかもしれない

『?なにかフィリネが眠たそうだが、どうしたんだ?』

エミリアが心配そうに言う

『うー・・・大丈夫。あぁ、ホンマよかったわぁ』

眠たげな目をこすりながら、フィリネは安堵の声を漏らす。あ、あくびした

『整備長?』

『少尉?』

疑いの目を直純に向けるヘルシア側のメンツ

『フィリネに睡眠薬を少しな。あと、疲れてる。これは俺のせいだが』

沈黙がおりた、今、何て言った?

『少尉、フィリネに一体何をしたんだ?』

エミリアに再度聞かれて直純はため息をついた

『クーデターの首謀者連中にフィリネは薬を打たれた。君達が子作りに移る時の薬だ』

『『えええっ!?』』

驚愕するヘルシア組

『何とか敵からは助けた。それで、その、なんだ。ほとぼりが過ぎるまで危険だと思ったから隠れてた。二人きりでやることは・・・隠してもしょうがないと思うから言うが、やった』

安堵するヘルシア組、しかし続けてニヤニヤする。あーあ、やっちゃったという顔で

『兄貴って鬼畜だったんだな、ま、知ってたがなー』

『なんで睡眠薬を?』

とりあえず初は殴っとくとして、エミリアの問いに答える

『人の三大欲の一つを押さえ込むんだ、後の食欲と睡眠欲、どちらかが必要だったんだ。手元に睡眠薬がいくらかあったからというのもあるが』

でないとフィリネを連れて出てこれない。副作用を考えると手が震えたが、彼女が大丈夫、と飲んでくれたのである

『彼女には透析治療が必要だ』

血をどうにかしてやれば、フィリネは回復することが出来るだろう。おそらく・・・うろの医学知識であったが、身体に酸素を運ぶ赤血球のサイクルが120日間、流石にそこまでは身体が持たんし

『今のままでもいいんじゃn』

初をぶん殴・・・る前にエミリアさんとレシィさんがツープラトンを決めている

『愛が痛いな、初』

直純は苦笑した、いやはや

『そういいながら頭を踏み付けなくてもいいんじゃね、兄貴』

『ところで、今の状況なんだが』

『スルー!?』

下の初はほっといて、本題へ

『うー・・・すまへんけど、やっぱ長話はちぃときついわ』

フィリネが少しよろけた

『おっと、済まない。少し休める所に移ろう。いいかな?』

フィリネに肩を貸す

『待機室がいいんじゃないか?』

エミリアが言った。あそこなら横になれるぐらいのソファーがある

『そうね、それがいいわ』

エミリアが頷く

『兄貴、もう一方の肩をもとうか?』

立ち上がって言った初に、直純ははっきり言った

『大丈夫だ、それにこいつは俺の女だ、俺が面倒を見る』

・・・い、今言い切りましたよこの人

『なにいうてんのや、ばかぁ!』

フィリネは力無く尻尾でぱしぱしと直純の背中を叩く。しかし直純は嬉しそうだ

『あ、兄貴?』

初は目を見開いた

『なんだ?あんまりじろじろ見るなよ、なにかついてるわけでもなし』

そうか、兄貴はやっと吹っ切れたわけだ

『ついてるさ、目とか鼻とか』

そういい、初も笑った。昔の兄貴に戻ってくれるなら、万々歳だ。初音も喜ぶだろう。兄貴の目につかないようエミリアが耳打ちして来た

『なにか少尉が、初めて会った時と比べて、なんというか。ひょうきんに思えるんだが』

『割とひょうきんなんだよ、元々うちの兄貴は』

馬鹿もするし、冗談も良く言う。今までがおかしかったんだ、今までが

『フィリネさんがそうしてくれたんだろう。上手く整備してくれたもんさ。いや・・・』

ちょっとおげふぃんな言い回しがいいな

『ドック入りの整備だな、海軍らしく』

『まったく初は・・・ま、いいか』

フィリネの雰囲気を見ればわかる。お互い良い方向に向かっているなら問題ないだろう。こうなったら余人に出来るのは冷やかしだけだ

『寝てても良いからな』

『うみゅ~・・・』

待機室のソファーにフィリネを座らせてから、直純は聞き直した

『今、どうなってるんだ?我々は』

ムッソリーニの舷側が酷いことになっているのは見たが

『空軍の連中はほとんどが機体を失ったんで本土に引き揚げた。アクィラも無理して空軍機を着艦させたんで本土に向かってる』

初がかいつまんで説明する

『まずいな、無防備もいいところだ』

そしてヘルシアは今、国家としての体を為していない。こんな時に化け物どもが現れたら

『本土からはなにかないのか?増援とか』

『本土の方は俺達にゃわかんね、管制の連中も電波が乱れてるだとか何とかで要領をえねぇし』

初は肩をすくめる

『おかしい、最悪第一艦隊の連中だけでも回せるはずなんだが』

本土で何かが?

『その前によ、兄貴、フィリネさんに透析受けさせんのはいいが、連絡はしたのか?』

『ん?ああ、基地に入る前に衛兵にな。ムッソリーニに連絡を入れておいてもらった』

そこら辺はぬかりない。回せる人員が少なかったのか、ムッソリーニの乗員だったし

『運んでもらえるのは遅くなるかもしれんが、な』

順位というものぐらいわかる



コンコン!



待機室のドアがノックされる

『どうぞ!』

そういう初の背後で、何人かホルスターに手を伸ばす人間がいるのが、いかにも戦闘後であった

『失礼します!ムッソリーニ航空小隊です!』

まだメットも外していない、脇にバインダーを挟んだパイロットが入ってくる

『AEWの連中が何してんだ?』

本来はムッソリーニの直上で対空監視や弾着観測を行う部隊だ

『人手が足りないんで呼び戻された揚げ句、荷物運びですよ、志摩直純少尉、フィリネ・ムジィーカ女史をお連れしろと命令されています』

『はやいな、私と彼女だ』

直純が答えると、パイロットはバインダーにペンでなにやら書き込む

『駐機してあります機に乗ってください。それから志摩初少尉!』

『ん?俺もか?』

パイロットはバインダーをもう一回見た、よく確認してなかったらしい

『・・・空軍より反逆罪の告発状が貴隊と少尉宛に出ております。軍事法廷が開かれますので、少尉を連行しろとの命令です。隊の他の方も随時連行します』

『バカなっ!?』

一番最初にいきり立ったのは直純だった

『初が反逆だと?何をどう考えればこんなバカに反逆なんて出来ると考えられるんだ!』

『び、微妙に物凄く馬鹿にされてないか?』

そういいながら初はエミリアやレシィ、そして隊の連中と目を合わせて頷き、笑った。心配するな、と

『いいさ、行くぜ』

『初!?』




一体何をやらかしたんだ!




外務省




『いっそヘルシアは、無かった事にしたほうが良いのではないですか?』

CPUは消滅し、資源の早急な開発が頓挫した以上、あの都市に意味は無い

『王族がほぼ死滅してしまったのは好都合、か?空軍がリークしてきた例の反逆容疑もある』

選挙がどうであれ、イタリアとしてあの都市は切り捨てるべきだ

『しかし、例の結婚話はどうなる』

キャンペーンとしてぶち上げてしまったあれ。あれは取り消せ無い

『まだまだ引き延ばせば良い、恋には恋敵がいてこそだ』

『あの姫君ですか・・・』

ちょうど皇国の姫が入国中だ

『条約に追加を要求してきていましたな、そのあたりを都合する事を加味したならば』

『いけるだろうな』

双方ともある程度は分別もつくようだしな

『我々外務省は、チアノ外相の逮捕以来日陰者だった。この異世界への転移は、がんじがらめの元世界と較べて目に見える成果を出しやすい。今こそ外務省の地位を引き上げるのだ』

役人達は互いに頷いた。機会は、今しかない




新しき政府の誕生はこの世界にとって、一体どのような影響を与えるのか。熱く短い政治の季節は、何の予兆たりえるのか



次回、享楽と絶望のカプリッチョ第36話【~机上演習~】

感想・ご意見等お待ちしております



直純『鬼畜?・・・それがなにか?』


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