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第34話・鏖殺(おうさつ)の是非

リットリオ




タラント沖を修復中だったため、三番砲塔の無いまま彼女は走る。随伴艦艇は駆逐艦2隻、そのいずれもが波を高く跳ね上げている。イタリア本土からいくらかでも離れる為だ

『ベルガミーニ幕僚副長、コーダ・ハンニバル、受信しました』

『そうかい、くそったれめ』

アルは受け取った伝票をくしゃくしゃに丸めて放り投げた。コーダ・ハンニバル、イタリアに於ける最終防衛措置のコードだ。イタリア史上最大の敵の名と、その彼があやかった雷の神にかけたそれは、全面的核使用の許可を意味する

『あの首相に、そんな決断力は無いと思ったんだがな』

どこかでヘタレる、そうであってほしいと願っていた。だが、期待は裏切られたらしい

『それともこれが軟弱の対価とでもいうべきか』

相手は技術レベルとして 50年前程度でしかない相手である。そんな相手に本土近くで核のパイ投げしなければいけない現実、これがヘタリアか

『・・・弾庫から核弾頭を揚弾せよ』

命を下すアル。弾庫には核砲弾だけ違うパッケージで保管がなされている。他の砲弾と違い、腐れ弾なぞあっては困るからだ。そのパッケージを外す必要がある

『海上戦闘に於ける初の核砲戦、歴史に名を残せそうですな』

少しおどけたように艦長が肩を竦めた

『太平洋と大西洋という広い海域を保持してる日英がやるならわかりますが、砲弾を確保してあるとはいえ、地中海を庭とする我々が』

『まったくだ。国家英雄なんぞ親父だけで十分なんだがな』

だが、退がる気はさらさらない。そもそも幕僚副長である自分が戦艦の艦橋に出て来る必要はないのだ。だが、核という国家の大剣(あるいは大権としてもよい)を振るうという時に、その実行機関の最高権者が後方にいるなぞ耐えられなかった

『・・・』

なるほど、このような重圧を高々23のペーペー少尉に預けていたわけか、我々は。うん、多少のお痛は許してやらにゃな。国策的な結婚斡旋も含めて、国家の大事を押し付け過ぎだ

『艦長、聞いていいかな?』

アルは口角をあげる

『はい?なんでしょう』

こんな時に幕僚副長は何を笑っているのだろう

『このくそったれな兵器と契れと言われたら、どのくらいの見返りが欲しい?女か、名誉か、地位か、金か、あるいは全てか』

目を見ると幕僚副長は笑っていない。真面目に考える

『与えられた安らぎや地位は、自己弁護の手段を与えていただくに過ぎませんからな。結局は自身の決断に目を向けざるをえなくなるでしょう』

『逃れる術は無い、と?』

アルの言葉に艦長は頷く

『それが同族を殺すという事でしょう。軍人としての業ですな』

息を継いだ

『ただ、それに慣れてしまうか、あるいはそれで救われた何かを実感する事が出来れば・・・』

その事実を受け入れることが出来るのかも知れない

『なるほど。いささか難しい注文に思えるが、助言に感謝するよ』



ジリリリリリリン



艦内電話が鳴る。アルが直接受話器をとった

『こちら艦橋、幕僚副長だ』

『こちら砲術長、目標捕捉。核弾頭の揚弾完了。装填許可、願います!』

いよいよ、だな

『コーダ・ハンニバルに従い、幕僚副長の権を以って装填を許可する』

いささか手がこんでいるが、以前の体制(日本大使館からの許可に於いて使用可)から、イタリア自身が決を下すようになったのだから仕方ない

『ハンニバル。かの敵は強大であったが故に、ローマにとって師となり、後の繁栄をもたらした。この行為が再びそうなるとの祈りを込めての命名だった・・・私もそうであると願いたい。撃ち方はじめ』

主砲塔が旋回し、仰角をあげる。まったく、なんでこうなってしまったのか

『・・・今日は、カモメも飛ばないな』



呟きと共に閃光と轟音は走った



アウドゥーラ皇国戦艦・ヴィナ




『ふふふふ、ふふふっ!』

リヴァルは愉快そうに笑い声を漏らしている。イタリア海軍第一艦隊に追随しているのは、リヴァルの艦隊でヴィナのみだった

『艦隊速力が本艦の最高速力並!素晴らし過ぎるぞイタリア!』

維持できる時間もこちらより随分と長そうだ。こちらは機関長が何度も泣きをいれにきたのを、無理に無理を推して最大速力を続けていたのだから

『あれが戦うのだ!一心不乱に!祖国を賭けて!戦場音楽を奏でながら!ふふっ、ふふふふふっ!』

間近で、味方として観戦出来るチャンスなのだ、楽しみで仕方ない。未来の戦闘!未来の戦闘!心が躍る!

『戦だ!戦こそが人を高めてゆくのだ!戦こそがこの世界を救う!』

戦えば戦うほどアウドゥーラは強くなっていった。かつて世界は植物に敗れ去った。しかり、厳しい自然淘汰を常に行っているそれに、我ら人が敵う事があろうか

まず我らは戦わねばならない。強き敵に対して、我らは戦うに相応しき相手にならなければならないのだから。その手段に貴賎も敵味方もあるものか!



ピカッ!



『なんだ?』

空が急に光った。まるで雷光のような・・・しかし今日は晴れだぞ?いったいなにが・・・




CPU艦隊の艦隊行動と呼べるものは、最初の一発で完全に消し飛んだ

『それで、ヘルシアのかの者達は攻撃をためらうのじゃな?麿達を受け入れてくれるのじゃな?』

『御意でございまする』

保身に走った王侯貴族も

『一回ではこれだけしか、運べなかった。残りの臣民をなんとかしたいものだが・・・』

己の責務を果たさんとする騎士も

『はい、みなさん。お歌の時間ですよ~』

『『はーい!』』

甲板で、何も知らぬままに人間の盾とされている女子供も



ピカッ!



数千度の熱波にあっては、全ては同質の存在。黒焦げの焼死体に違いはなかった。いや、肉が残っているならまだマシかもしれない。影だけ残して消滅してしまう者、融解した船体に張り付いて同化してしまう者すら居たのだから

しかし、生きている事自体を恨む人間はその何倍も居た。死に切れなかった人間である。人間とは識別出来そうにない姿であったが



・・・熱と衝撃に眼球は飛び出して垂れ下がり、髪の毛を燃やしながら全身焼けただれてうごめく姿にされた人間の精神を、どう表現しろというのか

『神様・・・』

この海戦の後、ワッチをしていた9割の兵員が配置転換を希望したことが、その惨状をあらわしている

話を海戦に戻そう。彼等は艦隊行動をとれなくなった。理由は明白だ、一次大戦時レベルの艦橋では(被害範囲に居た艦は当然として)兵員の殆どが剥き出しといっていいほどの場所にいて、艦長以下、本来助けてくれるはずの相手を見ていたのだ

『目がっ!目がぁあああああっ!!!』

視覚を奪われる。それだけで済めばいいが、失明者すら多数居た。艦橋要員の殆どがそれで、艦隊行動なぞ出来るはずがない

のたうちまわる兵員と、彼等が運んで来た国民。幸い艦内に居て視覚を奪われていなかった者も、救助に追われざるをえなくなる。だれもかれもが救いの手を延ばし、彼等の足を掴んで放さない



故に彼等は、ほぼ舵をそのままとって直進した。現代戦でのそれは、死と同意でしかない



その後、虐殺としかいいようのない戦闘は第一艦隊が参入したことで加速度を増した

『何故だ、これほどの被害を得て、何故退かぬ!?』

彼等は進むしか出来なかったのだ。戻っても置き去りにした人々に吊されるだけであって、それ以前に油も船も限界だったのだから



死への前進は果てしなく続くかに思われた。ある水兵はそれをこう表した

『彼等はイカロスさ、自らの蝋が熔けている事に気付かなかった』、と



一方、虐殺は別の海域でも起きていた。異世界側ではなく、イタリア側で



ヘルシア沖合



《おい!俺達に空母に降りろってのか!》

《無茶だ!着艦フックも無いのに!》

追加で呼び寄せたタンカー到着まで待てない殆どの空軍機から、悲鳴のような無線が交錯する

《無茶は承知の上だ。減速用のネットも用意する!》

《ネガティブ!空母への着艦自体が至難の技だ》

空軍機の着陸距離は、空母の全長をゆうに越える。フック無しでネットで受け止められる着艦速度に落とせるかも怪しい

『艦長!』

飛行長が悲痛な顔で振り返る

『何もしないで国家の財産である機体を失うわけにはいかん!』

ウ゛ィエステとて、こんな危険な行為をやりたいわけではない。母艦の安全を考えれば、全機不時着させた方がいいにきまっている

《もう駄目だ!エンジン停止!エンジン停止!機体を制御出来ない!イジェークト!イジェークト!》

そんな議論を続けている間にも、空中の機の燃料は減り続ける。ついに墜落機が出た

《なんとかしてくれ!こっちの燃料も店じまいだ!》

《俺は泳げないんだ!ヘルシアで不時着する!》

機首を変えてヘルシアへ向かいだす者、さっさと機体を捨てる者。パイロット達は決断を迫られた

そんな中、一機の烈風が海域に到着する。初の機体だ

《なんだ、この損害は。この俺の想像を超えるとはどうなってんだ》

《《隊長!》》

周辺警戒にあたっていたエミリア機らが許可を経て集まってくる

《おう!全機いるな、いい娘ちゃん達だ。で、お前ら燃料は》

エミリアはともかく、他の奴らは着艦なんてもっての他だ

《空軍よりはマシだな。戦闘機動もしていないし、巡航速度で飛ばしていたから》

《退屈で死にそうでしたよ》

エミリアとブロディが答える

《そうか、上等だ。しばらく待機だ。退屈続きだろうが、俺に続いて巡航速度を維持。いいな》

《《了解》》

無線を切ると、初は大きく息をついた。それを聞きとめたのか、レシィがクスクス笑っている

『わ、笑うなよ』

『はいはい』

彼等もまた、ヘルシアの上空を通って来たのだ。ムッソリーニから上がる黒煙に、クーデター発生の情報、空軍機の悲痛な悲鳴。心配で仕方なかったのだ

『あとは、兄貴とフィリネさんが無事だといいんだがな』

『そうね』

レシィも楽観は言わない。あらゆる可能性があるのだから

『でも、どうなるのかしら』

『なにがだ?』

レシィは少し呆れた

『立場的に難しい事になるんじゃないかしらうちの飛行隊はヘルシア人の飛行隊なのよ?』

『なんだ、そんなことか』

あっけらかんに、かつ、当然とも言わんばかりに初は言った

『こうなったら仕方ないからな。全員俺の女にするしかないよな!な!』

『同意を私に求めないでちょうだい!』

この男は



ピピッピピッ!



受信コールが鳴る

《どうした!》

《初から2時方向下!》

エミリアからだ。指示された方向を見る

『やべぇっ!』

燃料が切れた機が錐揉みしながら落ちていく。落ちていく先は、先に脱出したパイロット達のいる海面へだ

《行きます!》

エミリア機が急機動で追いかける

《待てエミリア!》

しかしエミリア機は止まらない。初も追いかける

《待てといってるだろうが!》

《もう一刻の猶予もない!》

初から出る雰囲気が一変する

《・・・お前から殺すぞ》

《っ!》

後席のレシィすら震えた。本物の殺気だ

《退け、俺がやる》

エミリア機は翼を翻して道を譲った

『ガンでやる、手出しするな』

『・・・初あなた、今のは女の子にかける言葉じゃないわよ』

多少震える声で言う

『・・・まだ、乗っている』

レシィははっとなった。エミリアに言った、お前から殺すの意味は・・・!

《撃墜処分を行う》


ヴォッ!!!



25ミリガトリングが火を噴く。きりもみして落ちつつある機体に吸い込まれたそれが、機体に与えていた推力と空力をあっという間に奪っていく



バシャッ!



その中の一発がキャノピーを直撃したのか、操縦席が一瞬真っ赤になったのを初は目撃した

『運がなかったな』



ドンッ!



小爆発を起こして空中分解する空軍機・・・ありゃRー9Ⅱだったな

《こちらソーマ1、アルジェント1、空軍機の撃墜処分完了》

《こちらでも確認した。よくやった》






結局この日、CPUの消滅と共にイタリアの経戦能力は劇的に低下した。公式文書には悪夢(incubo)とだけかかれるそれは、具体的に言うと

レオネッサ戦車師団稼動車両20%以下(鉱山の即時開発は不可能に)

ムッソリーニ中破

リットリオ、駆逐艦2隻、第一艦隊所属水上砲戦艦艇群、放射能洗浄作業の必要あり、一ヶ月行動不能

空軍機53機喪失、要修理26機

となっている




『どうなっていくのかしら、これから』

レシィの呟きは自分達に対してだったのか、それともイタリアに対してだったのか・・・鏖殺の是非は、果たして





次回、享楽と絶望のカプリッチョ第35話【~新しき政府~】


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熱かい悩む神の火であります

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