第33話・虚構の行方
ヘルシア御座船・ウィンネル
『あっはっはっは!見ろ!まるで松明ではないか!』
クーデターに参加したこの艦長は、プライドが異常に高い事で有名だった。自分が王族守護の第一であること、自艦、ウィンネルの力こそがヘルシアでの最大の力である事、それがある日、いきなり現れた目の前の巨艦に全て奪われた
『撃て!艦の上構全てをさら地にしてやるのだ!ヒハハハハ!』
自分の力を必要としない王族なぞ、こっちから棄ててやる。クーデターに加担すると決めた時、彼はそういったという。彼は、イタリアという国家が現れた時点で壊れていたのかもしれない
ドゴァッ!!!
ムッソリーニの艦橋は裂け、並んでいた四基の高角砲の内三基は叩き潰され、今また副砲が砲身を失って力を失う
『勝利!敵は近距離攻撃の手段をほぼ失った!勝利!正に勝利だ!』
私のウィンネルは最強なのだ!お前が!図体がでかいだけのお前ごときが!
『目標!敵第二砲塔!』
砲塔が旋回し、狙いをつける。対抗しようというのか向こうの砲塔も旋回をし始める。だが、遅い!
『撃てぇ!!!』
ドンッ!!!
ウィンネルの主砲が吠えた時、彼は己の勝利を確信した。だが、現実はそれを否定した
ガキィンッ
ウィンネルから放たれた二発の30センチ砲弾は、ものの見事にムッソリーニの主砲前盾に弾け飛んでいた。ムッソリーニの主砲前盾の装甲厚は495ミリ、ちなみに英海軍での12in砲弾が文字通り零距離の貫通力で406ミリ。しかも艦長は認識していなかったが、ウィンネルには生産して10年を越える弾しかなかった。故に腐っていた弾は遅動のまま、爆発せず砕け散ってしまったのである
『馬鹿な!』
この距離だぞ!?ありえない!
ドドドドッ!!!
『うおおおおおっ!!!』
ムッソリーニがお返しとばかりに主砲を放つ。しかしこれもウィンネルには大きな損害を与えられなかった。理由の一つは、ウィンネルは第一次世界大戦前後相当の戦艦であるため、上部構造物が少なかった
もう一つは、ムッソリーニの九四式18in主砲は新式砲ほどではないが、零距離で864ミリの貫通力を持つ。発射された砲弾は全てを抜き去って艦の向こう側で爆発した。結果的に被害は極少で済んだのである。爆風をもろに喰らった人間以外は
『なんなんだお前は!お前は一体なんなんだ!お前は・・・!お前は!』
唯一残っていた単装高角砲が俯角をとって、半狂乱の艦長の居るウィンネルの艦橋へと狙いを定める
『ば、化け物かぁああああっ!!!』
ドッドッドッドッ!
OTOメララの往復ビンタのような破壊が、ウィンネルの艦橋を削り取っていく
ガコンッ!
最後に外へ排出された薬莢が、甲板に落ちて音を立てた時、ウィンネルの艦橋は崩れ去り、大火災を引き起こしたばかりでなく傾斜をも発生させていた。甲板装甲が薄いのと、距離のせいで艦底部近くで砲弾が連続、正確に記せば人力装填の必要無いドラム式マガジンがカラになる44発全てが艦内部で爆発したためだ
5in砲弾で沈んだやわらか戦艦
ウィンネルにはこのような不名誉なタイトルホルダーになるのだが、凶行に走った艦長は既にこの世に亡く、永年親衛の誉れたる御座船を勤めて来た艦に、裏切りの代償としては、あまりにも哀れであった
一方、ムッソリーニの方も被害は甚大であった。艦橋上部は大破して電装関係はかなりが失われ、副砲・高角砲を半分損失、第二砲塔も実際の所は内側装甲が衝撃によって剥離、兵員を殺傷していた
幸いなのは、比較的乗組員の被害が少なかった事だが、煙突の被弾で排煙に支障をきたして、速力低下により追撃へは参加不能になってしまった事が後に大きく響くことになるのである
モナコより西方50キロ海域・ローマ
時はクーデター報告の少し前まで遡る。アウドゥーラ艦隊とイタリア第一艦隊の接触は、前回と違って穏やかに行われていた
『いやはや、大変結構』
オールバックの財務相が満足そうに椅子に座り込む
『資源、食料生産、確かな見積もりと交換レート。どこぞのひきこもり都市群とは比較にもなりませんな』
『当然だろう、我々は人類の最後の砦だからな。まぁ、私がやったわけではないが』
対面席のリヴァルが胸をはる
『最初に貴女がたに出会わなかった不幸を呪わざるをえませんな』
書類を外務省の大使に渡す。本来は彼が交渉の主役なのだが、この会談自体が財務の強く望んでいたものであったし、第二次世界大戦の終戦後に、チアノ外相が失脚(彼には能力があったが、収賄の悪癖があった為、マフィアを潰す過程でムッソリーニは泣いて馬禝を切ったのである)の煽りを受けて、国策への影響力が低下していたのである
『私としては不服だがな。我々の艦隊がやられっぱなしのままとは、不快きわまる』
・・・今、ここでそれをいいますかリヴァルさん
『ま、とはいえ姉上の指示だからな。内容はいまいち理解しておらんが、そちらが納得出来たなら問題無い』
猪武者か、と大臣は心の中で嘲って呟く。実の所、リヴァルに言ったとしても実は問題なかったりするのだ。彼女は以前そう言われたとき素直に受け取って喜んでいる
『再戦に関してであれば、机上演習でも出来ましょう』
第一艦隊の士官の眉間が不快そうにピクピク動いた。机上演習はルールに則って行う、ルールそのものは現在の我が軍の能力から弾き出されたものだ、それを彼女がやると言うのは手の内を全部曝すのも同然だ、簡単に口約束されても困る
『それは楽しみだ。実際にやりあってこそ面白いものだが、姉上に逆らう訳にもいかんしな』
駄目だこれは、と嘆息した。まったく海軍の連中ときたらどいつもこいつも・・・
『失礼しますっ!』
そんな会議の席に、伝令が走り込んで来た
『協議中だぞ!』
すぐに士官から叱責が飛ぶが、その彼の耳元で伝令がなにか囁くと、彼の顔は真っ青になった後真っ赤に変わった
『何事か』
こんな大事な席に
『長官』
今まで穏やかな顔で発言もしていなかったボルケーゼ大将が、士官の耳打ちを受けて頷く
『リヴァル皇女と申しましたな?これから聞く質問の返答によっては、お望み通り刃を交えねばなりませんでしょう』
なっ!
『何を勝手に・・・!』
いきり立つ大臣を無視してボルケーゼ大将は言った
『CPUにてクーデターが発生、その艦艇が我々を攻撃し、なおかつ我が本土に向かいつつあります』
『なっ!』
大臣も蒼白になる
『知らんな、何の話だ?』
リヴァルは首を傾げる
『我々は貴女に呼び出された大たわけという事ですよ』
ボルケーゼは自国の置かれた状況を正しく理解していた。引っ掛けられたのだ、うちの財務省は
『ふうん、で、やるのか?』
楽しそうにリヴァルはボルケーゼを眺めた
『それは、貴女がたが今回のクーデターを主導したと考えてよろしいのですな?』
ボルケーゼの言葉に、リヴァルはあからさまに不快な顔をした
『言ったろう、知らんよ。やるならやる、やらないならやらない、はっきりしてくれると助かる。私はどっちでもいいぞ。どっちでも戦えそうだからな』
『貴様ぁっ!我々を騙したのか!』
その態度にブチ切れたのは、財務大臣だった
『貴様らなぞ、この艦隊の力で一ひねりにしてくれる!』
『ふむ、ならばそれもよかろう。だが、それで消耗する弾薬は、本来倒すべきだろう相手に振り向けるべきではないのか?それに、問題は時間だ』
ボルケーゼが微かに眉をあげる。そのあたりの頭は働くのか
『こ、この小娘が!』
『大臣』
見苦しい事をするな、とボルケーゼは大臣を睨む。些かの殺気をはらんで
『今は悠長に話している時間は無い、リヴァル皇女もよろしいですな』
『いいや、よくない』
流石にこれは、ボルケーゼも呆気にとられた。何をいってるんだこいつは
『私は、貴公らと和を結び、有利な約を結ぶように言われている。このチャンスを逃す私では無い』
・・・(全員が固まった)
『もしこのクーデターが貴女の国の策だったらどうするんです』
ボルケーゼが気を取り直して聞く
『知らん、そんな指示は受けていない。ならば問題無い』
問題無いわけあるか!
『いや、途中で別の指示があったら』
リヴァルはニヤリと笑った
『そうなれば貴公と戦えるな、うむ、楽しそうだ』
・・・(再び全員固まる)
『・・・時間が無かったのではないのか?』
リヴァルが固まったイタリア側に首を傾げる
『ああ、いや、ええ、はい。ですから・・・』
ボルケーゼは珍しく混乱していた。一体どうするよこいつ、どこまでが本気なんだ?いや、全部本気なのか?それともこうなることを見越して彼女が交渉役に出て来たのか?
どこまでが虚構なんだ、これは・・・!
同刻・バーリ
アメーの命により特に避難命令が出されたプーリア州では、防衛に進出して来た陸軍部隊と、避難する市民とで混乱の坩堝の中にあった
『どうした!何をしている!』
唯一間に合ったアリエテ戦車師団だが、州都であるバーリ郊外に陣地を定め、敵を待ち受ける形を選択していた
『それが・・・』
土地の供出命令に出ていった兵があまりにも遅いので、待ち切れなかった士官の彼が見に来たのだが、兵は困った顔をして前方を指さした
『何をしている。市民には退避命令が出ているのだぞ!?』
割と歳をくった農夫連中が、鉈を持って木の幹に座り込んで気炎をあげている。兵ではらちがあかないので、彼が交渉にでた
『おお、先程の方の上官殿ですな。ですが、何を言われようとわしらはこの場からはなれませんぞ』
農夫達の代表が言う
『無茶を言うな、気持ちはありがたいが、鉈では近代軍相手にはどうにもならんぞ』
農夫は首を横に振った
『ここの森は、先祖代々のコルクの森での。わしらにとっては命そのものなんじゃ』
コルク栓はそれを造る際に、コルクの木の皮を剥いで造られる。皮が再び再生するまでおおよそ40年、森の木をそれぞれ管理しながら利用しているのである。だから、一生に関われるコルクの木は、この農夫達にとって1、2本なんてことはザラである。下手をすると子供以上に貴重なのだ
『お国の為だ、おら達の森が伐られるのも、焼かれんのも仕方ねぇだ。だけんども、最後の最後まで、その姿を見て居てぇだ』
『家族は皆避難させました。ここには老い先短い爺しかおらなんだ。最後の奉公ぐらい、させてくだせぇ』
なるほど、兵が困惑するのも頷ける
『・・・敵が上陸してきたら逃げる事。良いですね?』
強制的な廃除は出来る。だが、だがそれではあまりにも・・・!
『陣地構築始め!木を伐採しろ!』
ありがとうと言われながら戦車に戻った彼は、苦汁の命令を下した
ダン!
キューポラに身を乗り出して、戦車の天蓋を拳で叩く
『俺達じゃ・・・俺達じゃ守れない・・・何処で戦っても壊しちまう・・・!』
このイタリアに、この国土に、戦火を浴びて良い土地なぞ一カケラも存在しないのだ
首相官邸
『閣下、敵艦隊が限界点に近付きます』
アメーに海老眼鏡の秘書が沈痛な表情で告げた。限界点・・・核爆発の影響が、イタリア本土に及ぼさないであろう距離の事だ
『・・・』
祈るような姿勢でそれを聞いていたアメーは、なにも答えない。ただ、玉のような汗が額に光っていた
ギュッ
秘書は、先程渡された航空偵察写真を、にぎりしめた。職責としては報告が義務である。でも、今のアメーにこの情報を伝える事が、果たして正しいといえるのか
『言えるわけ、ないじゃない・・・!』
敵艦船の甲板上に、女子供が鈴なりになっているだなんて。勿論、カモフラージュかもしれないけれども、女子供が艦外に晒されているのに違いは無い。アメーはそこに核を使おうとしているのだ。果たして冷静でいられるか・・・
『無理、ね』
そもそも私自身が動揺を抑えきれてない。私達を陥れた狡猾な敵という虚構のまま、首相は戦うべきなのよ!
『リットリオへの回線を開いてください』
アメーは小さく、だが、決意を込めた声を発した。リットリオはタラントのドックから修理途中(三番砲塔はターレットのみ)で引っ張って来たものだけれども、一番迅速に核を投射出来る存在だった
『リットリオの搭載核砲弾は9発でしたな』
確認するように呟く。約20キロトンクラスが9発。180キロトンの暴力装置、地上だったら間違いなく地形が変わってしまうだろう
『・・・首相の権限をもって、コーデ・ハンニバルを発令、全面核攻撃を許可します。神の御加護があらんことを。イタリア万歳』
あくまで静かにアメーは告げ、秘書を見つめると、彼女は見つめ返して頷いた
虚構の行方はそれぞれの破滅か、それとも・・・
次回、享楽と絶望のカプリッチョ第34話【〜鏖殺の是非〜】
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てめえが
異世界にくれば何でも思い通りに
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/く そのふざけた
幻想をぶち殺す