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第32話・稜火広がる

ヘルシア沖合、ヴェニト・ムッソリーニ




直純達が拘束されていた頃、ムッソリーニは半舷での待機を行っていた

『しかし、よろしいのですか?』

『なにがかね?』

参謀長が声をかけたとき、ペンネは作戦室の机をひっくり返してビリヤードをしていた(珍しくは無い、御召艦時代の霧島でも航海中に陛下がプレイしている)

『第二艦隊としてはアクィラを随伴艦と共に出している。我が艦が出来ることは取り敢えず無い、たまには良かろう』

現在ムッソリーニはリットリオが損害を受けて砲塔の交換をしている関係上、常時の張り付きを強いられている。本土に戻れぬ以上、休みをどれだけ作ってやれるかが上司の役目というものだ

『おっと、フォールか』

艦上でのビリヤードは、船の動揺に合わせたキュー捌きが必要になるので、なかなか難しい。必然的に上手くなるのと、なにより士官の服で白手袋をピリッと決め、キューを構える様は中々女の子に受けがよろしい

『別に私に付き合う必要はないのだぞ、参謀長』

兵達にはコンサートを開いている。この艦にはレーウ゛ァテイルが居るので、その歌声を使わせてもらっている訳だ。衣装もギリギリのから豪華なゴシックドレスまで何故か幅広く用意してある

『今日はオペラではありませんからな』

参謀長はそういって肩を竦めた

『ふむ、やせ我慢は良くないと思うがな・・・こちらの御座船が動くと聞いたが?』

仕事の話だ

『先般久方ぶりに動かしたせいで、ガタがきたそうです』

『そこなんだよ』

ペンネは台によりかかり、キューを削りながら言った

『あまり言いたくはないが、彼等は国民なんてどうでもよさそうな行動をしていた』

先のMM襲来でも王族他だけで脱出しようとした。船舶が足りないからというもっともらしい理由もあったが

『監視体制も整って来た今、ここが突然襲われる事もなかろう。取り急いで整備する必要もあるまい』

『求心力の低下ではないですか?ここらで自分らの存在価値を示さなければ、と』

ペンネは首をひねった

『そのためには、自国民にもっと告知しなければならないだろう』

そういった兆候があれば、こちらの耳にも入る

『こちらより50年技術の遅れている都市です、そんなものでは?』

観艦式をするような数もなし、やるならパレードだろうが、陸戦能力についても疑問符がつく。恥の上塗りに成りかねない

『動けるオプションが無さ過ぎます、彼等自身が言っているように、彼等は既に終わっている存在です』

参謀長の言葉に頷くペンネだが、どうにもひっかかる

『少尉なら何と言うかな?』

正誤は別として、良く考える男だ

『閣下は良く彼の意見を聞きますが、我々ではご不満ですかな?』

笑いながら参謀長がいう

『そういうな、前にもいったが、こういう荒唐無稽な状況だ、流石にSF向きな思考は彼にしか出来ぬ』

というよりかは、していて許される司令部要員は彼しかいない

『些か現実的過ぎるからな、我々は』

苦笑する。正直染まりたくないというのもあるが

『現実的と言えば、彼が何か相談しておられましたが、何だったのです?』

半舷になって上陸する前だったか

『ああ、結婚指輪には何がいいか聞かれたよ』

『なんと!?』

驚く参謀長、相手は彼女しかあるまい。これまでからしたら、なんと早い決断だ

『それで、なんと?』

『宝石の価値で決めるのでは無い。彼女に何が似合うのか、何が好まれるのかを考えるのが先だと言ったさ』

誕生石にあわせたり、彼女の瞳の色にしたり、逆に彼女に無い色を選んだり、性格に合わせたり

『多様な戦術を駆使しなければ勝てぬのは、恋も戦争も違わぬ』

我が国がローマの頃より衰退したのは、使う頭をそちらにふりむけたからだ、とペンネはうそぶいた

しかり、と参謀長も笑う

『しかし既に戦略目標は達して』



ジリリリリリリン



艦内電話が鳴る。ペンネが自ら取ると、艦橋に詰めたままの艦長だ

『司令、ヘルシアの艦の挙動について聞きt』



ヒュオッ



何かが風を引き裂くような音が、微かに聞こえたような気がした



ズスンッ!



艦が震える

『艦長!』

受話器からは何も聞こえなくなっていた

『司令!これは!』

この振動は、間違いなく着弾の・・・しかしまさか!

『参謀長、戦闘配置急げ!私はCICにあがる!』

『はっ!』



ズスンッ!



参謀長が各部署に電話をかけ始めるのを見てから部屋を出、ペンネは鼻で笑って言った

『残っていれば、な』

駆け出す。おそらく距離は五千を切っている。零距離からの砲撃、上構は手酷くやられる。いくら一次大戦頃の砲だとて、この距離では艦内部のCICも無事でいられるか



ズスンッ!




三度目の衝撃、間違いなく近い。艦体へ衝撃があまり響いて来ないということは、落角が殆どないのだ

『何が目的だ』

こんな時にこんな事をして何になる

『・・・今は火の粉を振り払う時、か』

詮索は後だ。始まってしまったものにケチを付けてもどうにもならない




ヘルシア上空




何故!?どうして!?それはエミリアを含めた第八中隊も同じだった

《エミリア!エミリア!指示を頂戴!》

僚機がコールサインも忘れて聞いてくる

《ソーマ4、落ち着いて。なんとかするわ》

《でも・・・!》

通信を切る。泣きたいのはこっちもなのに

『プロディ君、アクィラに連絡して。ヘルシアで起きてるこの異常を』

『我々はどうするんです?』

プロディが聞き返して来た。空母への着艦はエミリア以外技量が足りなくて殆ど不可能だし、下のような鉄火場では誰がが敵味方なのか

『・・・もし私が、プロディ君の国を撃つ事になったらどうする?』

聞いてみる

『私のスティックは既にエミリアさんに預けてます、どう乗りこなすかは貴女次第・・・個人的にも乗ってくださるならいずこへも参りますよ』

プロディはいつもの調子で返してくれた。うん、そうね

『ふふっ、覚えておくわね』

バックミラーで見ると、通信しながらガッツポーズをしている。まったく、こいつらは

『来ました、アクィラからの指示です!』

プロディが顔を上げる。よし!

《各機、アクィラからだ、よぅく聞け!》

切っていた列機への通信を再開する。指示があれば彼女達も落ち着くだろう




アクィラⅡ・航空管制室




エミリアから通信が入った時、ウ゛ィエステはエスプリを手にボードを見ていた

『艦長、どうなされます』

飛行長のダンテが聞く。話を聞く間に温くなり、飲み時を逸したエスプリをウ゛ィエステは喉に流し込んだ

『情報が足りん、予備の崔雲を出す。上がれるな』

アクィラにはAEWを4機搭載しているのが常であるが、今回の地上支援に2機の崔雲を投入して残りを予備としていた

『5分、いや、3分で上げます』

『2分でしたまえ』

頷いてダンテは指示を出し始める

『第八中隊が指示を求めています』

コンソールについていた情報士官が振り返る

『第八中隊は』

そういって口ごもる。件のヘルシア人の部隊だが・・・

『今上がる崔雲の護衛につける、燃料は』

『一時間は持ちます。爆弾を投棄しての話ですが・・・近海まで呼びますか?』

不安は拭えないのではないだろうか

『我が軍内に手が回っているとしたら、既に動いている。それは安心していい』

ウ゛ィエステは断言した。そういわれては士官も黙るしかない

『それよりも、だ』

そう。敵はヘルシアに居て、どの程度か知らないが、我々を知っている。その彼等が立ち上がった。ただで済むはずがないのだ




ローマ・首相官邸




『100隻を越える艦艇ですと!?』

アメーは執務席から立ち上がって驚く

『第二艦隊の偵察機による報告ですとそうなります。第一報ですからもっと増える可能性もありますけど』

秘書のえび眼鏡(失礼)が言う

『何故気付かなかったんです!』

『今回の作戦の参加機数が多かったのもあって、管制機は普段であれば作動させていた陸上・水上探査機能を切って管制をしていたんです』

秘書の彼女は肩を竦める

『まぁ、第一艦隊を回せばどうにかなるでしょ』

アメーは青い顔をして椅子に座り込んだ

『第一艦隊は、いない』

『はぁ?』

衝撃の事実をアメーは口に出した

『アウドゥーラ皇国が講和と貿易を言い出して来て、な。財務省の言い分を聞いて、交渉だけはしようと』

財務省の彼等は焦っていた、一国では資源も食料も食いつぶしていく現実を知っていたから

『艦隊をまるごと出したんですか!?』

『事が事だから寄港させる訳にもいかんし、相手が艦隊で来るとなれば、そうするのが礼儀ではないか!』

それじゃあ・・・!

『第二艦隊しか阻止戦力がないって事ですか!?』

しかもその第二艦隊、主力であるリットリオは砲塔交換中、ムッソリーニは未だ音信不通

アクィラからはヘルシア飛行場が現在障害物で阻まれ、着陸不能な事から着艦を一手に引き受ける必要があると進言が来ている(彼等は第一艦隊の動向を知らない、知っていたペンネは現段階では周囲の状況を把握出来ていなかった)

『なんてことだ』

アメーは顔を両手で覆った。空軍が居はするが、現在本土にあるのは防空の為の閃光を主力とする部隊で、地上攻撃には全く向かない。マルチに使えるRシリーズの部隊で残っている部隊もいなくは無いが、北イタリアかつ、活動させる南イタリアに爆弾備蓄が残っていない(前線であるヘルシアに持ってってた)

『本土で戦えと言うのか・・・!我が国民は、我らがドゥーチェがマフィアを絶滅させたが故に、武器なんて料理包丁か麺打ち棒ぐらいしか持っていないというのに!』

『首相、国民に非常事態宣言を。それと陸軍に防衛計画の立案を』

あくまで冷静に秘書は言った

『・・・警察とカラビニエリにも頼みます。それに厚生省は病院と病人の数を上げさせてください、移送計画が必要です。運輸省にも国民の避難に使える車輌の数を、至急です』

アメーも気を取り直して手を打ち始める

『とりあえずは以上でしょうか』

秘書はメモに纏めて出ていこうとした

『待ってください。最後に一つ付け加えを』

アメー秘書をは呼び止めて言った

『今回に限り、核の使用権を私が握ります。日本大使館に連絡と、海軍に担当士官を一人喚ぶように命じます』

『首相・・・!』

あまりの事に秘書は凍り付く。政権担当者が、自ら核の使用を決定するなんて

『それが責任でしょう、私にとっての』

『自国本土で核を使ったマッカーサー元帥の轍を踏む気ですか!』

彼は害獣阻止の為、躊躇わず新兵器の核を10基使用した。そしてそこに部隊を送り込んで残敵を掃討した。これが米国の反撃の狼煙となったのであるが、国土を汚染し、二次被曝で大量の死人を出した彼は、それをした翌年暗殺されてしまう

『あくまで海上阻止を行うのが本意です。だが、私は最悪の事態を考えなければならない』

『・・・わかりました。失礼します』

秘書は一礼して執務室を後にした。アメーの震える手を見なかった事にして

『・・・神よ、我がイタリアを救いたまえ』

震える手を握りしめ、ウ゛ァチカンの方へ十字を切って祈る。祈りが届くとは、到底思えなかったけれども





次回、享楽と絶望のカプリッチョ第33話【~虚構の行方~】

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リッチャアアアアアン(大統領のアレ風味に)

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