間話・紡がれる言葉
病室に残された二人の男女、フィリネと直純には、沈黙が横たわっていた
『・・・あんたが、最低の男や、っていうのは取り消したる』
堰を切ったのはフィリネからだった
『でもな、あんたは大馬鹿もんや』
初が座っていた椅子に座って真っすぐ直純を睨みつける
『うちには自分の事を教えてくれんかった。それだけやない、嘘までついて自分の不利益な事を並べ立てた。うちの為やなんて勝手に抜かしてや』
『・・・』
言葉もない。全くもってその通りである
『身勝手で、独善で、それでいてそんな事をしときながら、うちの事は諦め切れないでウジウジ・・・大っ嫌いや!』
胸倉を掴まれる
『・・・済まなかった』
謝るしか、思い浮かばなかった
『それにも増して怒りが収まらんのはな!そんな事聞かされたって言うんに・・・!』
『フィリ、ネ?』
胸倉から手が放され、彼女は顔を覆う
『なんで、なんで嬉しくて涙がでてくるんや。なんで、ホッとしてしまう自分がいるんや!』
ポタポタと、涙が落ちている。彼女も彼女で張り詰めていたのだ。そんな事にも自分は気付いてなかったのか
『・・・フィリネ、少し卑怯な事をしていいですか?』
『へ・・・?』
彼女の体を引き寄せて唇を奪う。強張った体から、少しずつ力が抜けていく。見開いた瞳は、安心したように閉じられる
『・・・卑怯もん』
唇をゆっくり離すと、そんな言葉をかけられた
『私の進退は窮まりましたけどね』
『当然やろ』
楽しそうにフィリネは直純を小突いた
『なぁ・・・』
『はい?』
フィリネは少し逡巡したあと、切り出した
『これは推測なんやけど、うちは直純はんの母親さんに似とるんか』
写真をちらっと一度だけ見た事がある
『・・・似てます。髪の毛はフィリネより少し長かったですが。雰囲気は、かなり』
直純は素直に答えた
『そか・・・』
うちはかさなってしもたんやな
『子供の初や俺を出し抜いておやつ独り占めとか、随分とアクティブ(控え目な表現)だったけど、俺を見る時の目は、どこか自分じゃない遠くを見てた』
その先にあるものがわかってたから、俺は親父を憎んだ
『それに嬉しかったんだよ。俺を俺として見てくれるフィリネが』
どうしても親父の影がイタリアでも付き纏う。それが嫌だった
『考えてみれば、フィリネをフィリネとも見ないで・・・母さんと同じ事してるよな。俺は結局、何もわかっちゃいなかった』
『ええよ、もう。言わんでええ』
唇に人差し指を置かれた
『・・・うちもな、喧嘩別れした後エミリアはんから言われたんよ』
イタリアが転移してこなければ、うちらはもうとっくに滅んで死んでもうてるやん、て
『裏切られたでなくて、チャンスを与えてくれた。もし殺されたかて、それは本望やないかってな』
『単純で明快・・・なるほど、いかにも初が好きそうだ』
お互い、そんな単純に割り切れられないよな、と、笑いあった
『『・・・』』
言葉が途絶えた。ゆったりとした時間が流れる。二人だけの静かな時間
『フィリネ』
『ん?』
小首を傾げた彼女と目を合わせる
『フィリネにとって、俺はどんな存在なんだ?俺は、その・・・好き、なん、だが』
どもりながらもはっきり言った彼に、フィリネはニヤニヤする
『それで?直純はんはどうしたいんや?』
『そ、それは・・・傍に居てほしい』
『それで?』
『で、デートとかも』
『約束やで?んー、それで?』
くそぅ、楽しんでやがるな?だったらもう自棄だ
『・・・抱きたい。フィリネの中にぶちまけたい。とことん俺を身体に覚え込ませたい。フィリネを俺しか考えられないようにしたい。これで十分か!?』
『・・・エッチ』
そういえば、こんなやり取りを隔離されてた時にもしたな・・・
『ん・・・』
手を胸に当てても、フィリネは少し顔を赤くして頷くだけで何も言わなかった。柔らかな膨らみが、手の平に感じられる
『フィリネ』
『フィー、でええよ』
胸を触っていた手をとり、フィリネは頬へとあてる
『なら俺の事も、ナオと言ってくれ・・・人前では勘弁してくれるとありがたいが』
『わかっとる。うちを呼ぶのもやで・・・ナオ』
『フィー』
フィリネが覆いかぶさって、また唇を重ねる
ズクッ
『ぐっ』
傷に痛みが走る。ひきつったような痛み
『ご、ごめん!うち、怪我の事』
フィリネがバッと離れる。うっかり忘れてしもてた
『良いよ、俺も抱きたかったけど、流石に自重しろって事かな?いてて』
俺が動くのはこれじゃ無理だ
『うん?なんや、これ?』
フィリネが袋に気付いた。初が持ってきたやつだ。なんだろう。果物か?
『・・・』
『・・・あの馬鹿』
頭を抱える。題名はIl seno!Il seno!訳すとおっぱい!おっぱい!まぁなんだ、エロ本だ
『うっわ。こないな事するんやな』
フィリネは中を覗いて見ている
『うぉい!』
読むなよ!
『あ・・・』
『もう良いから寄越してくれ!』
直純はそれに手を延ばして奪う。
『ええやん、あんさん好みの奴なんやろ?』
『断じて違う!』
ニヤニヤしながらほれほれと胸を寄せてみせるフィリネ・・・ぬぅ。けしからん
『さっきの行動からして説得力あらへんでー?』
だーっ!もぅ初の奴め!
『あとで憶えておけー!』
・・・フィリネ整備長はその日、帰ってきませんでした(笑)
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おっぱい!おっぱい!えーりん!えーりん!