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第23話・Terme(テルメ)

1966年5月5日、ナポリ沖・プロチダ島




『で、体よく隔離やと?』

じと目でフィリネに睨まれる

『いや、その・・・すまん』

エミリア達とイタリアに戻って来た直純らだが、件の追加予算獲得の失敗で、訪伊と共に彼女達が乗って大々的に宣伝するはずだった(勿論、訓練にも使う)烈風Ⅱが揃えられなかった。それで、現在持ち回りで使われてる初達の乗っていた機体が回ってくるまで、彼女達の存在は隠す事になり、ナポリ沖の島に隔離して一時待機を命じられた訳だ。それを知ってる直純も島送りである

『まぁ、マニュアル読んでもろてるからええけど』

以前の日本転移の際もそうだったのだが、字は変換されてないのでフィリネにはちんぷんかんぷんであるのもあり、直純にずっと音読して貰っていた

エミリアは初に実物を前にして手取り足取り教えていたし、何を動かせば何が起きるかを知ってれば済む単語が多かったので、割とすんなりいったのだが、整備は流石にそうはいかない

『あっひゃっひゃっ!』

初は女性陣に囲まれてご満悦である。G耐性の事や、コクピットでやらかした事など、一応任務の事を話しているが、下ネタ満載で盛り上がっている。エミリア達がいるから、手は出してないようだが

『練習機によるG訓練、コントロールパネル操作、これからずっと大変なんだがな』

初のだらし無い笑い声が聞こえて来た方向を見てため息をつく

『あんな感じやから、パイロットやれるんよ、切り替えの上手い連中が、やっぱ多いやね』

フィリネは苦笑する。空中じゃ悩んでられない。ズパッと即決出来る奴が生き残る、そんなもんや

『しかしあんたも、随分詳しゅうなったな』

『読めばそれなりに覚えるよ、航空科士官は目指してないんだがな』

ちなみに帝國海軍はウィングマークだけが空母の艦長をやれるなんてことはしていないし、下士官が上官を差し置いて指揮を取る事も《形式上は》ない。下士官じゃ戦争はわからない。腕より知識がスタンスだった。管制が綿密に行われている現在、さらにその傾向が増していた

完全に余談になるが、改善された悪弊には、整備兵への待遇改善がある。樋端GF長官が山本義正大佐を航空参謀に就けて、徹底的に優遇したのが大きい

先の士官には勝てないとされる制度や整備兵の地位向上は、やれベテランだ、腕っこきでございとしていたパイロット達は、かなり灸を据えられている・・・実行力はともかく、横紙やぶりでサーカス好きの源田閥をピンポイントで狙ったワケデハアリマセンヨ?

『しかしフィリネ、良かったのか?』

『ん?』

フィリネは、マニュアルに目を落としている

『昨日、女性陣に普段着る為の衣服を選ぶよう持ってこられてたが』

この隔離施設という名のリラクゼーション施設(本来は高級会談用らしい)だが、流石に女ものの衣服は置いてないので差し入れが来たのだ

『別にええよ、つなぎと適当に上羽織っとれば風邪はひかへん。あんま着ぃへんけど、ちょっと出る時に着る私服ぐらいはあるしな』

しかしだな、そのつなぎにタンクトップだけだと

『あんまり近くに寄ると、見えるぞ』

その・・・大きいぶん、隙間が広くて

『近づかなきゃええやん・・・えっち』

『人が読んでる時に脇から覗き込まれたら嫌でも目に入るだろうが』

目のやり場に困るっつの

『挿絵ぐらい見ぃへんかったらイメージできひんやろ?』

一冊しかないから困る。勝手に複写したら情報漏洩もいいところだ

『いや、しかし』

『意外と見るとこ見るんやなぁ、直純はん?』

くっ・・・言いやがって

『あはは、怒らんでええよ。今更減るもんやなし、いくら見たかてうちは文句ないで』

『・・・少しは気にしてくれ』

嘆息する。いい加減俺も男だということを認識してもらわんと・・・身が持たん

『あ、兄じゃーっ!!!』

そこで奇声をあげながらこっちに来るでない、初よ

『どうした?』

多少不満そうな声色になっていたらしい

『ああ、おたのしみでしたね、申し訳ありません』

『初、撃つぞ、本気で』

拳銃を懐から出して初に向ける

『マジで?』

『わりかしな』

初は頭を掻きながら態度を改める

『おばさんと同じで、兄貴はやる時は本気でやる事やっちまうからなぁ』

『で、どうしたんだ』

女の子をほっぽりだして来るとは

『明日、俺達の機体が戻ってくる』

そうか、初達やフィリネの休暇は終わりって事か

『それで、風呂入れってさ』

『風呂?』

頭を傾げる。風呂なら入ってるぞ

『直純はんには言うてへんかったっけ?うちらはああいう閉鎖都市ん中おったやん』

『ああ、言ってたな。軍艦と同じく、水量は少ない生活をしてた』

だから風呂よりも身体を拭くのが主とか。隊の結成には式典他やるようだから、それで風呂か

『しかも温泉なんだぜ、それで、兄貴も入ろうと誘いに来たんだ』

『温泉か・・・』

イタリアではテルメというらしいが、入った事は無い

『わかった。初が覗きをやらんよう見張らんとな』

弟が確実にやるであろう不始末をやらせるわけにはいかない



で、温泉に向かうことになったのだが

『初・・・お前な』

男二人荷物を両手に抱えている。初なんぞ、器用に頭の上にまで荷物を乗せている

『すまないな』

エミリアは苦笑して自分の分の荷物を持っている

『だってほら、みんな普通の植物の森や林なんて初めてじゃん?その辺の話してたら遊び道具もってこうとか当然だろ?』

『で、荷物持ちを買って出たのか』

手玉に取られてるじゃねぇか

『まぁ、私達にはありがたい話なんだがな』

『そういうエミリアさんはいいんですか?』

フィリネも女性陣に混じって葉っぱや木をを触ってみたりしているが

『そりゃあ、エミリアは俺にぞっこんだからな』

『一応この馬鹿が、いろいろ仕込みをしないよう見張っておかなきゃならないと思ってな』

例えば袋の中に蛙とかしこんで、驚いた仲間に大丈夫か?今取ってやるから動くなよ?で、身体をベタベタ触るぐらいはやりかねない奴だ

『それは、全くもって同意するよエミリアさん』

『ぷぇー♪』

初はあらぬ方向を見て、冷や汗をかきながら口笛を吹いている。図星か

『初、お前ここまで読まれてたら、戦闘機動でもエミリアさんに負けんじゃないか?』

『いやー、既に負けかけてたりするんだな、これが』

駄目だこの義弟、はやくなんとか(ry

『いや、まだまだだな。私じゃ勝てない』

エミリアは真剣に言う

『突拍子も無い事を、真っ当にやってのけるんだ。空戦じゃそれが強い』

『戦闘機の振り回し方は、流石に負ける訳にはいかないからな』

初も真面目な顔で普通に笑う

『・・・?それじゃ初は何で負けかけたんだ?』

『編隊空戦と遠距離ミサイル戦だな。エミリアは空間認識が上手い。相対的に位置を把握し、そこに機体を忍び込ませる。ミサイルを雲ごしにぶっ放すなんてトリッキーな事もしてくれてな』

この分なら歳が来て戦闘機に乗れなくなっても、管制機経由で飛行長までは進めるだろう

『植物の蔦相手に飛んでれば誰でも身につくスキルさ。ミサイルは烈風あってこそだし、正直、あれは外れても良いと思ってブロディに撃たせたからな』

エミリアは少し照れながら言い返した

『いいんだよ、まずはぶっ放す。それが出来ないで落ちる奴だってかなりいるんだ』

抱え落ちはシューター失格なのだ

『戦争は消費してなんぼだ。生き残ってりゃなんかくくりつけてまた出れる』

・・・真面目にやれば、それなりのパイロットなんだよな、初は

『落とし甲斐があった方が好きだぜ?勿論女としてもな』

キリッとしてみせる初

『ふふっ、私は簡単には落ちないどころか、逆に落として見せるさ』

エミリアは自信ありげに笑いかえした

『女遊びも出来なくさせてやろうかな?直純少尉もそのほうがよかろう?』

『げぇっ!そんなぁ!あ、兄貴ぃ・・・』

そんな顔は5分も持たない上に、情けない声を出すな初、というよりむしろ

『ふつつかな弟ですが、よろしくお願いします』

『即決かよ!』

ふかぶかと頭を下げる直純に初はツッコム。そしてそれぞれ顔を見合わせ

『『『ははははははっ』』』

朗らかに笑いあった

『なんや、なんかおもろい事でもあったんか』

フィリネが戻って来た

『いやいや、こっちの話さ、どうしたフィリネ』

『目的地らしき場所を見つけたんやけど、あんたら遅れてるから呼びに戻ったんや』

おお、到着か

『よっしゃ!テンションあがってきた!』

だから初よ、訳のわからん残像を残す動きをするでない

『いそいで荷物届けなきゃな!』

『ん?風呂入るなら、別にタオルは後から持って行っても構わんだろ?あと、覗きはさせんからな』

釘をさしとかんと

『いや、水着が必要だからな』

エミリアが言った

『いや、水着って風呂入るんに必要ないやろ?』

フィリネも疑問を提する

『こちらの風呂は水着が要ると初に聞いたぞ、混浴だし』

『『な、なにーっ!?』』

そう、イタリアの温泉、テルメには水着で入るのがマナーだし、男女も当然ない

『うち何も持って来てへんで!?』

『初ーっ!どういう事だこれはーっ!』

初の首ねっこ掴んで振り回す

『あ、安心めされい兄者、ちゃんと二人のも用意してるから』






『で、遺言は?』

初の頭に拳銃を突き付けて安全弁を入れたり切ったりする。温泉に到着した一行は、水着に着替えた。着替えた訳なんだが

『な、なんやこれぇっ!?』

エミリアら他の女性陣がビキニやワンピース等の、普通な水着なのに対し、フィリネのそれは

『スクール水着は白だろJK、あと、尻尾がでるように、インナーの後ろ切っといた。兄貴がヤリヤスイヨウn』

『ごめん、エミリアさん。あなたが落とす前に殺っときます』

安全弁を完全に切った

『殺しても死にそうにないから勘弁してやってくれ。それより、フィリネが向こうに走り去ってしまったからフォロー頼む』

気付いたらフィリネが居ない。そりゃあ仲間内とは言え、あんな姿さらしたらな

『わかりました。後は頼みます』

『あにじゃー!ゼッケンは白紙だから上から直接書き込』




ターン!



『あ、あぶねっ!本気で!本気で撃ちましたよあの人!』

『初が悪い』

エミリアはたしなめる

『仕方ねぇだろ?毎夜毎夜、二人で部屋篭っていちゃいちゃ(マニュアル読み)してるのに、何もしねぇんだから。聞き耳立ててるこっちの身にもなれっての!』

それは相当悪趣味だぞ、初よ

『部隊が設立となれば、なかなか会うのも難しくなるかもしれないから、フィリネ達をけしかけるというのには、私も賛成したがな』

そう、全員それなりに一枚噛んでいた。知らぬは二人ばかりなりなのである

『どっちにしろ、後は兄貴に任せるしかねぇだろ。戻ってくるまで、ゆっくり浸かってようぜ』

『まぁ、そうだな。それから考えるか』

部隊編成前最後の休日、羽根を伸ばす最後の機会、ここで身体をほぐした彼等は、今後ずっと飛び続けなければならない。その運命はニケかイカロスか





次回、享楽と絶望のカプリッチョ第二十四話【~依頼~】





ちなみにイタリアの泉質は日本よりかなり強く、休み休み入るのが正しい入り方である

当然日本式に浸かったフィリネと直純を除く初らは湯あたりし、翌日の結成式には壊滅状態となっており、温泉に航空部隊が全滅という新たなイタリア軍伝説を増やしてしまったのは言うまでもない

感想・ご意見等お待ちしております



今日これから始まるイタリアの伝説♪である。

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