間話・ピアーヴェの後先
1966年4月23日、ローマ
『海軍はまた艦艇を喪失したのですよ!アメー首相!』
財務省長官は声を荒げる
『プリニーは800億リラもしたのですぞ!それをこうもやすやすと!』
『海軍予算5兆リラ(日本円換算で4兆円ほど)からすれば、許容範囲ではないかな?』
アメーは年間予算を思い出しながら答えた
『とんでもありませんぞ首相!海軍には空母二隻の維持費で1.5兆リラが吹き飛んでおりますし、戦艦と巡洋艦でも1兆リラ程かかっております!残りの2.5兆リラから人件費の1.5兆リラを除き、偵察艦以下の51隻の艦艇と補助艦艇を賄う費用と、兵器開発予算や訓練その他の予算に0.7兆リラを使ってる現状で!』何をこの財務大臣は青筋立てて怒っているのだろう?
『3000億リラもまだ残ってるじゃないか』
『既に巡洋艦二隻と駆逐艦一隻を喪失しており、戦艦も損傷して修理にかかった費用を考えると鐚一文残ってません!』
そして、これからも戦いはずっと続くのだ、残念ながら
『代替艦を考えないなら、今後の戦闘での修理まではなんとか行えるでしょう。ですが、これ以上損失艦が出た場合、純減してもらうしかありません!』
アメーは唸った。そこまで海軍は追い込まれているのか・・・
この段階で予算の追加は難しいと言える。まだこの世界で何も得ていないのだから、裏付けの無い通貨の増刷は、さらなる経済の混乱を呼び込むだけだ
『そこで首相には、海軍の追加予算請求に否を突き付けていただきたく』
ううん・・・統領は静岡の会社に積極投資してる戦艦経済の人だしなぁ・・・
『難しいよ?』
『陸空軍の追加予算を微増させますので、そのあたりで手を』
長官が資料を手渡した。サバイバリティの件で改修に優先順位をつける、か。これならなんとかなるかな?
『やるだけやってみるさ』
かくして海軍は代替艦の建造を諦めざる得なくなった上に、追加予算の獲得ならず、陸軍はケンタウロ戦車の改修を、空軍はRー9装備の航空隊の一つが烈風に置き換わる事になったのである
それで、ケンタウロ戦車に行われた改修はというと・・・
イタリア某所、技術研究所
『レーザーとなるとさぁ、装甲目標の場合、貫通よりも熱量の問題になってくるわけよ』
ケンタウロ戦車の内数台がレーザーを受けてエンジンの火災(塗装の炎上から波及)や、車体の一部が融解して不具合を出したりした。戦闘後に温度差でクラックを生じて廃棄した車輌もある
リットリオの砲塔の場合は装甲が厚いので割れはしなかったが、一種の付け焼き刃になってしまったので、強度に不安が生じたのもあり、交換という判断が取られた
『だから、熔けるとかはあんまり問題じゃないんだな』
『セラミックスでは意味がない、と?』
研究者は頷く
『熱は伝えちゃうからね。そして、割れに弱い。戦闘後に割れる可能性は、むしろ高くなっちまう。んだから、ただ取り付けただけじゃ意味が無い。そいでこれよ』
ひらべったい煉瓦のような焼き物の容器を研究者は取り出した
『こいつに水の入った袋を入れてからはっつけるんだ』
反応装甲のような物であるが、史実の開発年が1970年で、中東戦争時に大量損失を受けての話なので、彼にそこまでの閃きは無い
『湿らせたり、散水で空中に存在してる分よりは多い水量を保持できるかな』
『直接水袋では駄目なんですか?』
研究者は笑った
『袋だけだと通常の移動で破れかねないし、カッコワルイだろ?まず、外のセラミックがレーザーから熱を受ける、水はセラミックから熱を受け取る。最終的に沸騰して袋は破裂してしまうが、それまで熱を受け渡していたセラミックがまず熱くなるだけだし、開いた間隙は多少なりとも空間装甲にたりえる』
『一回はなんとかなりそうですね』
あいつらの光線を一回でも耐えられるのは朗報だ
『しかしな、こいつの生産は手間だし?予算はあるんかな?』
いくらアイディアがあっても、金がなきゃ作れない
『そこはなんとか、これ以上の損害を防げるなら万々歳ですよ』
『そうか、なら私は研究を続けよう。封入するのがたやすいから水を冷却剤として使用しているが、他に最適解があるはずだからなー』
『是非ともお願いします!』
こうして陸軍の装甲車輌の大多数に、追加装甲が張られていくのであった・・・勿論、海軍は予算が無いのと、艦艇の正面にはっつけるのには大量のそれが要るので付けられようがなく、泣き寝入りするしかなかった。そうした上で、噴出してくる事柄があった
対植物戦での、核砲弾積極使用論である
海軍省
『プリニー爆沈については、もう済んだことです。いいでしょう。ですが!』
『核砲弾で敵にいち早く大ダメージを与えていれば、損失は抑えられた筈であろうな』
核砲弾使用派の連中は、アルに訴える
『核の場合どんな影響を与えるかわかったものでは無いじゃないか。ヘルシアじゃ、ダメージを受けた敵が変態した報告が入っている』
もし、なにかとんでもないものになったならば、リットリオとて危なかったかもしれん
『しかしその変態は退化に近いとも聞くが?さっさと核で焼いて、元の形に戻してやった方が損害は収まるのではないかね?』
『プリニーで800億リラ損失しましたが、核砲弾1発は31億リラ、通常の搭載量、9発を使っても280億リラいかない損失で済みます!』
彼等の舌鋒はここぞと鋭い
『わかったよ。このイタリア本土に向かってる個体であれば、即座の使用を認めよう。日本大使館にも掛け合う』
『大変結構ですな』
『いずれ全面解禁をしていただきますよ』
『はぁ』
核使用派はアルの部屋から出ていった
『なりふり構ってられなくなってきたか・・・』
海軍指導部の憂慮は、いよいよ深刻さの度合いを増していた
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アメー首相初登場であります。