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第21話・滅(ほろび)

08:15




MMの方向から、巨大な光の柱が延びた

『うおっ!』

今までの攻撃で威力が足りないとなると、誰もが考える。もっと威力が欲しい、と。ならばどうすべきか?人間ならば殴る拳に力をこめる。そうなれば当然の事であるが、手もさらに痛い目をみる

同じ事をMMが行ったとすると、なんとするか。ヨウ素化レーザーの発射機構を、ただ単に大型化したのである。勿論、威力が数倍になるなどの単純な話では無いが、ある程度の範囲で威力は増す。そのかわりに発射の熱量で炎上してしまう範囲も広くなってしまっているが

『被害報告!』

リットリオ艦長が叫ぶ。喰らった感じ、前部主砲塔だと思うが

『・・・!!!』

目を向けて絶句した。一番主砲塔周辺から白い煙が出ている。そして、その下に見えて来た砲塔は、塗装が完全に焼けてしまい、見るも無惨な有様を晒している

『第一砲塔!被害報告!』

艦長は悲痛に叫んだが、砲長から返って来たのは、怪訝そうな返事であった

『は、何かありましたか?』

後の調査でわかった事だが、表面こそ塗装があっという間に蒸発するような高温で焼かれたが、内部への実害はなかったのだ。それでも装甲の質が落ちたので、砲塔交換を余儀なくされたが・・・だが、それは分厚い装甲を持つ戦艦だからこそのタフネスさだった。MMを攻撃していたのはリットリオだけではない。同様の攻撃を受けたプリニーは、というと




ズドォ・・・ン




『プリニー、レーダーより消失!』

最初にその事を報告したのは、目でそれを見ていた人々でなく、リットリオCICのレーダー員であった。誰が・・・誰が7000トンを越える巨体が掻き消えた事を瞬時に知覚できようか

『ば、爆沈!プリニー爆沈!!!』

義務感に駆られた者が叫ぶ




一体彼女に何が起きたのか。彼女はミサイルを連続発射していた。まず、砲弾と違ってミサイルは噴進剤を燃焼させて飛翔する。音源を探索手段とするMMにとって、その位置がはっきりと掴めた(比較論としてであるが)そして放たれたレーザーが命中して高温を生じさせた訳だが、この頃のミサイル発射基は弾体が剥き出しであり、その下の弾庫も、熱を遮るほどの装甲厚があるわけも無かった

それでも、アルミ合金装甲だった当時の英仏中小艦艇よりはマシだったろう。かの艦艇群であれば、融解して熔け落ちる部分も発生したに違いない(これは英仏でも問題視されており、仏の会社が開発したケブラー装甲をいち早く採用している)

ともかく、想定以上に熱量を加えられたミサイルは誘爆、火炎防止の扉も、先に熱せられた事で耐性を失っていた為に、爆圧に耐えられなかった

本来防止される筈の爆風が弾庫に吹き付け、更なる誘爆が起きる。そして、フロン級は前部から山なりに発射基を三つ配置している。それが連鎖的に爆発、艦橋のすぐ前の部分で船体が断裂したと同時に海水が流入、ジャックナイフ状態から数分もかからずに横倒しに陥る

弾庫自体が横倒しになったことから、さらに後部発射基の弾庫が誘爆。艦長以下、乗員557名の生命が天上へと召されるまで、被弾から10分もかからずの轟沈

これが彼女に起きた出来事だった。リットリオの乗員が目撃したのは、そのうちの二回目の爆発である




戦後の調査委員会に於いてイタリア海軍では外置き発射基の危険性が取り沙汰され、ミサイルの性能劣化も厭わずVLSの開発を始めている。それはさらに船体内から船体外への設置へと改良が為されていくのであるが、それはまた別の話である。ただ、ヘルシア防衛戦でプリニーが爆沈したという悲劇がVLSという新技術開発のきっかけとなったのは事実である




『っ!我が艦以外は近付くな!下がれ!』

艦長は叫ぶように命令する

『艦長!航空隊に退避を言いませんと!』

飛行隊があんな光線を喰らったら・・・!

『いや!逆だ!確かに効いているからこそ!MMはこのような攻撃を為して来ているのだ!』

論理的根拠があったわけではない。ただ、ここで退いてしまったら海軍の名折れ、というより単なる意地でしかなかった

『放射能洗浄装置起動!』

『艦長?』

甲板散水は一時的に艦を濡らす事は出来るが、あれほどの熱量を防ぐのには、あって無き物のようだから、と、してなかったのだが

『構わん!無いよりマシだ!』

気分出しでだってかまわんだろう。なにかをしなければならない。立ち止まる事など出来はしないのだ




ゴォッ・・・!




そんな彼等の上空を旋風が通過していった。艦長は音のした上空を見上げる。一時的な火力の投入が増える今、大きなダメージを与えなければ押し戻されてしまうかもしれない

『砲撃何をしている!支援を続けろ!陸軍にも連絡!戦車を押し出してあれを撃つんだ!』

手をさらに増やして敵の注意を分散させる。今しか・・・ない!すかさず、舵を切る

『本艦もさらに近付く!副砲!高角砲も射程に入り次第撃ち方始め!』

艦長も、航空隊や戦車隊だけを危険に曝す気はなかった



08:23




ヘルシア郊外からも、洋上の変異に気付く事が出来ていた。空高く爆煙が立ち上ったからだ

『おいおい、大丈夫かよ・・・』

もし、リットリオがやられたなら、戦車ぐらいではどうにもならないぞ

『車長!司令部から通信!リットリオは健在、ダッグオンから出て、前進砲撃を行えとの事!』

ローダーが伝える

『折角の陣地から出ろってか!?突撃しても蹂躙出来る代物じゃねぇぞ!?』

冗談じゃねぇ、そんな馬鹿な命令があるか!

『あ、待ってください。適宜射撃を行い次第、現陣地に復帰しろとの事!』

車長は理解した。上、あるいは海軍からの要請で、司令部はやる気はねぇ。適宜の時点で無茶苦茶だ

『・・・やるぞ、最大射程で一発撃ったらケツをマクる!』

『了解!』

車体の中に潜る。待機状態にしていたエンジンからの排気煙で、軽く吐き気を覚える。良い目覚ましだ。ローダーから無線機を受け取る。無線機自体は前部銃座手が受け持ちだ

『司令部からの命令は聞いてたな!?一発撃って下がる。前車、押し出せぇ!』

下の操縦手のヘルメットをけったぐる




グォバッ!!!




馬力をあげたエンジンから力を得た軍馬ケンタウロは、土砂を吹き飛ばして躍り出た



ギュララララ!




履帯が唸りをあげて地面を噛み締める

『地図は頭に入ってるな!警戒坑道に落ちんよう気をつけろ!弾種!』

『HE!装填終了!』

ローダーが見えるように親指を突き上げる

『上等!仰角最大!』

俯角が売りのこいつだが、勿論、ある程度の仰角もとれる。イタリア人のモノが勃た無いわけないがな。実際戦車の砲戦距離となると、おおよそ4000あたりが最大距離と言えるだろうか

『まぁ、あのでかさなら照準は要らんし・・・』

山にぶち込むような物だ、撃てば当たる

『距離、5200で撃つ!』




ゴォッ!




疾走するケンタウロをジェットの衝撃が襲う。低空侵入の海軍さんと空軍さんだ。たぶん、爆弾をあまり搭載しなかった先陣の機だろう



ドドドドド!!!




目の前でMMは爆煙に包みこまれていく

『停止!』

今度は操縦手の肩を踵で叩いた。がくんと車体が止まる。目標は全く見えない

『撃てっ!』

そういいながら自分が銃把を押し込む



ドン!



『リロード!』

ローダーが装填器を開けると、砲身に残っていた硝煙が吹き込んでくる。こいつの欠点の一つはこれだ。重装甲にしたため、換気性能が最悪なのだ。下手すると中毒死してしまう。気圧を人間に影響がないぐらいでいじくって、吹き込みにくくしようという改良が計画されているが、まだそれは出来上がってもいない。元々はABC防御のためだから、効果もどれだけあるか疑問なのが泣けてくる




ガコン!




ローダーが拳で砲弾を押し入れる

『装填、良し!』

こうしている間にも、後続の航空支援や、海上からの砲撃が続いている。こんな贅沢な支援を受けれた戦車乗りは、俺達ぐらいではなかろうか

『全速後退!元の陣地へ戻るぞ!』

操縦手の首に足を乗せる。もう一発ぐらいかましてもよかったが、敵は未知数の相手、慎重にいくべきという意志が戦意を上回った

『どうだ?奴は』

そしてさっきから気付いたのだが、あっちは砲撃の後まともにレーザーを撃って来ていない。これはもしかするともしかするかもしれない

『やったか?』

前方では違う隊のセモベンテ改が、元気に無反動砲をぶっ放している。アルミ合金の軽装甲のくせして、肝が座ってやがらぁ。あ、ティアンムの野郎、下がらないで射撃を続けてやがる




キラッ・・・!




これまでとは比較にならない閃光が、場に満ちた。まるで、言ってはならないお約束の言葉に、きっちりと返事をするかのように



08:42




MMはいささか混乱していた。自分の攻撃は効かないばかりか、いくつもの痛みがいろんな方向から急に浴びせられたからだ




<危険!危険!>




自分の身を切る形で大出力のレーザーを放った関係で、自分自身も大いに炎上しているのに、これでは



<優先順位、選択、選択>

<否!否!否!>




MMの奥底から、また別な声があがったのを否定する



<選択権拒否、生存を最優先、生存を最優先>

<否!否!否!否!否!>



自分の意思とは関係なくレーザーの発射機構が全方位に形成されていく。自分のコアすら破壊を避けられない




<形成中止!形成中止!>

<審議拒否、審議拒否、審議拒否>




熱量が増していく、コアの周辺の保護材からも蒸気があがる。中の水分が蒸発しているのだ




<発射、発射、発射>

<・・・!!!>




パキィッ!




声にならない絶叫と共にコアの一つが割れて果てる。そしてそれも水蒸気の中に消え、臨界点




<消去>




ウ゛ウ゛ォッ!!!




満ちる光が水蒸気を切り裂いた。そしてそれまでMMの統制をしていた部分が燃え上がるか枯死していく



<根を張るべし、根を張るべし>




08:43




乱射されたヨウ素化レーザーは、地上を業火に変え、空にいくつかの爆煙を生じさせ、リットリオの表面を焼いた

『ああっ!』

ヘルシアの航空基地にランディングしようとしていたRー9にも、運悪くレーザーが掠って尾翼が吹き飛ぶ

『退避!退避ーっ!』

すでに降りて来ていた機のパイロットや、整備員が一目散に逃げる。下手に落ちたら全部吹っ飛ぶぞ!



ズザーッ!!!



パイロットは何とか態勢を持ち直そうとするが、機体はがくりと落ち、足は折れて胴体着陸の形へ

『ち、くしょ・・・!』

ほぼ無意識に、彼は仲間のいる新造の格納庫に向かわないようにしたが、避けた先には、フィリネ達の格納庫があり、激突する

『消火!急いで!私は救出に向かいます!』

手伝いに来ていた整備班の彼女達がいち早く駆け出す

『待て!消火剤が要る!』

こちら側の整備長が叫ぶ。あちらの消火技術と、こっちの技術は大きく違うのだ

『畜生!どけ!』

止めなければならないのに、大挙して退避した為に人込みに押し止められてしまう。くそっ!がたいの良い野郎ばかりだから、全然抜けられねぇ!

『引き返せぇっ!』

滑走路の向こう側までいってしまった彼女達に、その声は届かない



バンダナをつけた彼女は、後部を燃やしながら格納庫に機首を突っ込んだRー9に取り付き、整備の手伝いの時に教えてもらった方法でキャノピーを吹き飛ばす

『大丈夫ですか!?』

パイロットに呼び掛ける。気絶しているのか、うなだれている。息はあるようだ

『えっと』

マスクを外して、シートから身体を外しにかかる。ナイフで切った方が早いかな?

『くっ・・・!』

『あ、気がつきましたか!?』

パイロットが意識を取り戻して、目を見開く。何で彼女がここに居るんだ?

『何してる!さっさと退避しろ!』

『そんな、ほっとけませんよ!待っててください、今ハーネスを』

そんな二人に水がかけられる。バンダナをつけた彼女は笑いかける

『散水車が来たわ、これd』




キュボッ!!!




散水が機体の温度を安全域に下げる前に、火が燃料タンクに回り爆発する。二人は炎の中に消滅した。痛みを知覚する事も出来なかったろう。さらに爆風は散水車をひっくり返し、乗っていた整備班の何人かを投げ出させ、押し潰してしまう。誰もピクリとも動かない

『ちっ・・・くしょっ!!!海軍と陸軍の奴らは何してんだよっ!!!』

それを見ているしか出来なかった整備長は、空へと吠えた




08:46




陸海軍とて、サボっているわけではなかった

『畜生、目が・・・』

フラッシュを焚かれたみたいにチカチカする




ドォン




遠くで爆発音、よし、見えてきた

『っ!』

セモベンテ改が炎上している。ティアンムは・・・無事か

『七号車下がれ!』

『りょ、了解!』

全くとんでもないカウンターをしてくれやがるぜ



ギュララララ、ガッコーン!



ティアンム車が後退を始める。しかしそれを、いきなり現れた何かが押し飛ばす

『七号車!』

『い、今のはなんだ!?履帯が外れた、畜生!今のはなんなんだ!』

生きてるようだがパニックに陥っている

『落ち着け!脱出してさがれ!』

それぐらいしか言いようがない

『っ!』

今度は自車の脇を、白い何かが通りすぎた

『な、なんだってんだ!?』

司令部からの無線が入る。上空からの報告?くそったれめ!

『あれが根だと!?奴ら先祖帰りを始めやがったとでもいうのか!』

爆煙がいくらか治まると、MMの方向から白い蛇のような根が迫ってくる

『各車!あの蛇みたいなクソッタレを撃ちながら陣地変更!警戒坑道の爆破まで、何とか耐えろ!』

車長は砲の銃把を押し込む

『あんなのとどう戦えってんだ!』



同刻




MMの光線はリットリオにも襲い掛かっていた。ただ、コアの断末魔とあって狙いがいくらか逸れたものであった。音の発生源である主砲ではなく、その後ろ、艦橋部分に

『ギャアアアッ!!!』

『ガラスがっ!ガラスがぁっ』

散水で表面を濡らしてはいたが、それはあっという間に蒸発してしまい、さらには光を遮るために防弾ガラスに塗った煤が温度を溜め込み、あまりの熱に熔けたガラスが、窓側にいた乗員達を殺傷する。さらに軽度から重度までの火傷をおった人間は数倍に達していた

『医務班急げ!』

『艦長!』

人的被害は致命的な段階へ達してしまいかねない

『まだだ!』

まだ敵は倒れてはいないのだ

『伝令!空軍からです!』

CICから伝令が走って来て紙を手渡した。艦長は奪い取って目を通す

『勝った!見ろ、敵は世界樹形態へと変化しつつある!もうレーザーは降って来ない!』

粘り勝ちだ、この形態時に遠距離攻撃能力は存在しない。一方的に砲弾を撃ちこめる

『陸軍から支援要請!』

再び伝令が駆け込んでくる

『了解した!ありったけぶち込んでやる!』

そうだ、アクィラに誘導弾を運用していた連中が居た筈

『アクィラを呼び出せ!コアを攻撃させるんだ!』



08:50




ちゅるちゅるちゅる




『はふぅ』

初はお茶の入ったストロー付きの水筒を口から放す

『中々来ないわね』

後席のレシィも退屈そうに伸びをする。第八中隊の各位は、甲板に並べられた烈風Ⅱに乗って待機していた。位置は前部カタパルト周辺、後部のアングルドデッキ周辺部では、既に投弾が終わった機体から着艦と収容作業が行われている

『攻撃がうまくいってるんじゃないか?撤退する気はないみたいだしな』

アクィラは通常運航、舵をとったりもしていない

『いまんとこ欠けも無いみたいだし、問題ねぇよ』

『意外に淡泊ね、飛ぶのは好きじゃなかったの?』

後ろから手が伸びてきて、水筒が奪われる

『一応俺も小隊長様々だからなぁ。久々にシリアスモード?』

それに、前の隊長達が死んだのもある。それなりに考えるさ

『あら、お優しい事で』

『俺はベッドでもどこでも優しいぞ?知らなかったのか?いかんなー』

初は笑う

『といっても、正月以来アクィラに乗ったまんまだから、正直、性欲を持て余す』

一部大塚ヴォイスで答える

『それは大変ね』

レシィもクスクスと笑う

『人事みたいに、レシィ達のせいだろう?』

野球拳では悶絶させていただきました、はい

『だって焦らすのが面白いんじゃない』

うわっ、この人SですよS

《第八中隊、発艦を許可する。序列に従い発艦しろ》

無線機からダンテ飛行長の声が聞こえてくる

『出番か』

さっと二人とも表情を変える

『機器を完全なホットに、再チェック頼む』

『コピー』

レシィが作業をしているのを確認しながら、無線を隊内のチャンネルに合わせる

《エミリア、行けるか?》

《大丈夫、ブロディ君もよくやってくれてる》

うん、無理な時は無理と言うのがエミリアだ(そのあたりがファイターパイロットの素質という奴だろう)やれるだろう

《今回は最悪落ちなきゃいい、気楽にいけ》

《それは心配してくれてるのかな?》

笑い声が聞こえる。うん、固まってなくてなにより

《追いかけまわす尻が無いと落ち着かなくてなぁ》

《それは残念。早々に追われる立場になるだろうし》

言いやがる、まだ腕前では俺が上だっての!

《言ったな?》

《言ったさ》

オーウ゛ァーと笑いながら交線を切る

《三番機、お前らモブだし、野郎だし、空気だから声かけとか要らないな、オヴァ》

《え゛ーっ!!!》

耳に麗しくない野郎の声は切る




そしてカタパルトの順番が来て、俺達は空へと駆け上がった



あがってすぐ、管制機から現状の報告を受ける。なるほど、樹なら被害を出さずに狙えるかもしれない

《しかし、コアの位置は確定情報なのか?》

前のアレなら幹の根本部分だが

《ネガティブ、MMが根を張りつつあることからの推定だ》

ううん、まいったな。下手をするととどめの一刺しが出来ない

《少なくとも、奴らの火力は消滅した。根の進捗を遅らせるだけでもいい。戦車隊を援護してやってくれ》

《ま、そういう事ならお任せだ》

援護なら十全にやってやる。適当に落とせば良いのだから




ゴォッ!




海面近くを雁行陣で第八中隊は飛ぶ。しばらくすると、燻っているリットリオと、炎上中(流れ弾のレーザーによる火災)のヘルシアが見えてくる

《上昇!》

陸地に進入すると同時にフルスロットルで緩やかに、だが鋭く上昇を始める。MMは・・・あいつか!

《目標!気持ち悪い球根部分中央!》

うねうねと黒い球根のようになっているMMからは、白くて細長い物が周囲に伸びている。その周辺には砲火、あれが戦車隊か

『レシィ!』

『イケるわ、投下!投下!』

ガクンと機体が軽くなる。爆弾が離れたのだ。レシィは爆弾後尾のフレアを目印に誘導を続け、爆弾はMMに突き刺さる




09:14




インパクト!




18発の誘導爆弾は、ほぼ同一箇所に連続して着弾した

『っ!?』

加えて、ヘルシア郊外の数箇所から大爆発が発生した。爆発は多数の根を吹き飛ばしてちぎれさせる

『陸軍さんか、びっくりさせやがる』

しかし、なかなか枯死しない。しくじったか!?




ドドドドド!!!




痺れを切らしたかのように、リットリオの砲弾が着弾する。それは偶然にも初達が投弾した位置であった

《おお!》

唐突に、それまで何も効いてないかのようだったMMが震えはじめ、外苑部から一気に枯死していく

調査の結果、今回のコアは世界樹を立てるべく根を張るのに力を入れていた為、比較的深い位置、つまりは第八中隊とリットリオあって初めて到達できる位置にコアが存在していたと断定された。本当に幸運であったと言うしか無い

《ミッションコンプリート、RTCリターントゥキャリア

中隊長からその命令が発せられたその瞬間、ヘルシア防衛戦は終結を迎えたのである

《初》

《ん?》

エミリアから通信が入る

《勝ったのかな?私達は》

下で燃え続ける故郷、エミリアは心境的に複雑な物があるのだろう

《すまん》

謝る初に、エミリアは慌てる。そんなつもりじゃなかったのに

《いや、つまらないことを言ってしまった。忘れてくれると助かる、すまん》

そうだ、イタリアの人々がいなければ、ろくに防衛も出来はしなかったのだから。責められるのは彼等じゃ無い

《もっと、頑張らなきゃな》

《ああ、そうだ、な》

第八中隊は翼を翻して帰途につく。そう、まだたった一体を倒したに過ぎないのだから・・・戦いはまだまだ続く、滅びの足音は遠ざかった訳ではない






次回、享楽と絶望のカプリッチョ第二十ニ話【~見知らぬ都市~】




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