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第20話・荒野の死闘

1966年4月14日・アクィラⅡ、士官食堂




『良くお集まり頂きました。陸空の指揮官方』

ウ゛ィエステは集まった歴々に頭を下げた

『いよいよ、ですか』

『・・・』

陸軍からはレオネッサ戦車師団の師団長に、空軍のヘルシア航空基地司令の少将が二人。くるものが来たかという師団長と、困ったなといった感じの基地司令は、それぞれの立場を表していた

『申し訳ありません、艦隊司令のペンネ中将は間に合いそうにあらず。次席のリットリオ艦長は前線に出る為、説明役を私に譲られまして。若輩ながら、私が説明させていただきます』

ウ゛ィエステは大佐、少々肩身が狭いのは仕方なかった

『現在敵は時速8キロでここヘルシアに向かいつつあります。13時間後には到着する事になるでしょう。これを我が軍は阻止します』

ヘルシア周辺を描いた地図を机に広げる。戦車師団の配置、モール族の居住範囲と警戒坑道、新設の低い壁があって拡大された飛行場、そして中世以来の高い壁に守られたヘルシア居住区、そして展開した海軍艦艇群

『先に空爆で何とかしてしまわないのかね?』

地図を見て陸軍少将は聞いた

『夜間の方が敵の光線も視認しやすく、連続照射を避けやすいと思われるが、どうか?』

ウ゛ィエステは頷く。基地司令も渋々

『コアが一つだけなら、我々もそうしたでしょう』

全力をかけて空爆し、破壊したらそれで終わりだ。しかし事態はそう上手くいかない

『夜間爆撃は精度が落ちます。ただでさえ光線で運動しながらの接近が要求される現状ですと』

一つコアを潰すだけで航空隊は消耗し尽くしてしまうに違いない。何個コアが有るかわからない現状では、それは賢い選択とは言えなかった

『だから戦力集中の為、ヘルシアへと敵を引き付け、全兵力と火力を投射する、だな。空軍としては海軍と陸軍さんに頑張ってもらいたいのが、正直な所だがね。うちはもう結構な対価を払っとる事だしな』

被害の大きかった空軍としては、これ以上の損害は御免こうむる

『現に、私は首が飛びかかっとる』

基地航空隊の損耗大、拡大したばかりの基地の放棄が有り得る作戦への参加、上の覚えがよろしいはずがない

『リットリオと随伴艦艇の一部、そして戦車の砲撃でレーザーの発射機構を潰しにかかります。注意がこちらに向いた所で爆撃を敢行してもらいますので、今回の作戦での損耗は、比較的に小さく済むかと』

そのあたりはやはり、上でも色々あったようである

『・・・耐えられるのかね?』

基地司令は、それでも心配そうに聞いた

『その点はおおよそ』

艦艇はレーザーで抜かれるだけじゃなかなか沈まないだろう。空間ごとに熱は分散するし、貫通までの熱量は同一箇所にたいした量がいる。薄っぺらな外板を抜けば機材がぎっちりの航空機とは耐久性において、天と地程の違いがある。戦車も同一だ、空間防御にかんしてだけは、艦艇に全く及ばないが、戦車と較べるだけ間違ってるので無視していい

『一部艦艇とあったが、残りの艦艇は何をするのかね』

師団長が再び質問した

『ヘルシアから一時的に市民を避難させます。その護衛、というよりは弾よけですが、配置しております』

師団長は鼻をならす。被弾上等で多少人間が死んでも構わないのが海軍の悪いところだ

『では人員をいくらか割きましょうか?』

ありがたい申し出だが、ウ゛ィエステはそれを断った

『最悪の場合、戦車師団の脱出に必要な人員を損なう訳には』

『・・・我々が機材の一部を撤去するのに輸送機を使うが、これはどうか?』

基地司令がそれならと切り出す

『では、そちらはお願いします』

ウ゛ィエステは頭を下げる

『なに、新聞写りを良くして、経歴の傷を和らげようとしているだけだ』

基地司令は照れた

『今回は、転移して初の海空陸共同作戦となります』

同意が得られたので、ウ゛ィエステは最後の締めにかかる

『しかも都市の防衛作戦。勝つにしても負けるにしても、本土防衛に多くの戦訓を得る事が出来るでしょう。いや、得なければならない』

陸空の二人も頷く

『そして証明しようではありませんか、人は敗北から学ぶだけではない。勝利からも学ぶことが出来るという事を。作戦名はピアーウ゛ェ』

WW1で、イタリアが勝利した防御戦の名だ

『良い名だ』

『カポレットの大敗からの復活の狼煙ですな』

立ち上がる二人

『残り十二時間、出来る限りの兵に休息を』

ウ゛ィエステはヘリの用意を、と電話で甲板士官に伝えてから言った

『わかっているともさ』

『本土で無い事が、兵達には残念だろうがね』

どうやらそれぞれ、考えることは一緒だったようだ




ウ゛ィエステは艦橋に戻って、その事を思い出しながらヘリを見送っていた

『20:00、か』

睡眠時間他ブリーフィングの時間を除くと、パイロット達にやれる時間は5時間弱か

『飛行長を呼べ、これより最終ブリーフィングを行ってもらうとな、それから・・・』

ウ゛ィエステは視線を泳がせる。その先には、補給艦のディアナが居た



アクィラⅡ、搭乗員待機所20:30




『よぅし、全員聞け』

ダンテは集められたパイロット達の前に立った。彼等はいよいよ出撃かと、意気も満々で話を待った

『出撃は明朝、空軍の航空隊と共に行う。なお、第八中隊は攻撃隊第二派と為す』

ざわざわと待機室がざわつく

『あー、夜間爆撃の意見があるのはわかっている。だが、現状では確実性が小さいのも理解できるな』

ざわつきがピタリと止む。それぐらいの認識は彼等にも出来ている

『波状攻撃を行ってはどうなのですか?』

確実性を問題とするならば、数を増やせばいい、単純な話だ

『夜間の発着艦を繰り返すリスク、攻撃の数をかけた場合に累積するであろう損害と、明朝に艦隊、戦車師団の両火力から支援を受けての攻撃、私は後者の方がリスクが少ないと判断した』

エミリアが手を挙げた

『発言を許可していただけますか?』

『ああ、構わんよ』

ダンテは頷く

『ありがとうございます。えー、こほん。皆さん、私はヘルシアの人間だから。本音から言えば、化け物を街に近づけるなんて考えたくない』

ヒューヒューとエミリアの発言に拍手と口笛を送って居た連中も黙る

『だけど自分の腕が夜間の発着に耐えられないのも理解してる』

『安心してくれ、俺達がやってやるぜ!』

『そうだそうだ!エミリアたんの為なら一肌だって二肌だって脱いでやるよ!いいや!寧ろ全裸d』

ダンテがチョークを投げて黙らせる

『ありがとう。たぶん皆なら夜間爆撃でもやってのけてくれると思う。私はあなたたちを見る事が出来たから、わかる・・・だから、皆のリスクが1番低い方法をとってほしい。アレに勝つには皆が必要だし、私は誰にも欠けてほしく無い。私からは以上です』

ダンテは頷く

『聞いたな、彼女の思いを無駄には出来ん』

皆の気力が漲って来るのがわかる。単純な連中だ、まったく

『少しいいですか?』

初が手を挙げる。彼女の言に異を唱える事はあるまいが

『どうした?』

『我々第八中隊が第二波という話ですが、敵の反撃能力を削ぐ上では、自分らを先に使った方が有効なのでは?』

こくこくと第八中隊の面々が頷く、誘導爆弾運用の為の我々だ、ここが使い所ではないのか

『使える数が24発なのも、それが所詮250キロ爆弾の弾体でしかないのも理解してるな』

『それは、まぁ、はい』

攻撃力としては最小単位と言っていい

『今回は敵のコアの位置が全て解っている訳では無い。通常攻撃ですら、どこまでいけるかわからん。出来得るならば敵の中枢がわかって後の、最後の一刺しとなってほしいのだ』

もちろん止め役には大火力の戦艦もあるだろう。だが、あれも確率兵器だ、最後のそれに手間をかけたくない

『了解です』

そちらにきちんとした意図がちゃんとあるなら、初に異存は無い

『他に質問は?』

座った初に、ダンテは頷いて他の者に目を向けた

『はい』

手を挙げたのは、空中管制を司る偵察飛行中隊の中隊長だ

『空軍機も上がると聞きましたが、その管制は基地が行うのですか?』

敵が向かってくる地にそれを置くのは良策ではない

『いや、それは手間だが君達にもやってもらう事になっている。通信割はあちらからすぐにも寄越してもらえるよう手配した』

空母が持つAEW6機の存在はかなり大きい。多少オーバーワークになるが、基地空の管制も可能だった

『わかりました』

中隊長は座る

『他に無いか?』

『・・・』

誰も手を挙げない

『よし、ブリーフィングは以上。なお、諸君らには01:00時までの半舷待機を命ずる。入ってくれ』

主計兵らが、大量の夜食とデザートを運び込む。そして、悪酔いしない程度の量のワインが

『艦長からの差し入れだ、大いに飲み、食べて、英気を養っておくように!』



21:00




『レシィさんとエミリアさんの美貌に完敗!もとい!乾杯!』

エミリア機の後席であるブロディの音頭で乾杯が行われ、皆がワインをあおる

『すっげぇ!こりゃ上等過ぎるぞ!?』

『ちょ、一気に飲み過ぎた!勿体ねぇ!』

パイロット達から感嘆が漏れる

『おいおい、何処の何だよ・・・エスト・エスト・エストじゃねぇか!』

イタリア語の元の意味で、これだ!これだ!これだ!という意味のワインだ

『艦長奮発しすぎだぜ・・・』

『ああ、確かにうまいな』

冷や汗をかきながらグラスを握る初を余所に、エミリアはそのワインを飲み干し、山盛りに盛られたパスタを頬張る

『おいおい、大事に飲めよ。あんまりぞんざいに扱うと死んじしまうぞ』

『ケホッケホッ!まさか毒なのか!?』

エミリアは噎せた

『まさか。んじゃあ教えてしんぜようかな。1110年頃、あー、今から850年以上前にグルメな司祭様が居てな、王様の戴冠式に出る前、立ち寄る全部の街に部下を一日前に行かせて、その部下に美味い店を探させていたんだ。美味い店には[これだ!]という貼り紙をはっつけろってな。それで部下はこのワインを見つけ、あまりの美味さに[これだ!]の貼り紙を三枚はっつけた』

それがこのワインの名の由来。初はワインを口に運んだ

『それで戴冠式当日、いくら待っても司祭が来ないので部下が探しに行くと、司祭はあまりの美味さに飲み過ぎて死んでいたってわけだ。まさに死ぬ程美味いワインってな』

『へぇ〜、んぐんぐ』

エミリアは感心しながらパスタを頬張る。食い気が先ですか、そうですか

『あら、ワインの由来を日本人の貴方が知ってるなんて意外ね』

レシィが寄ってくる

『意外性に惚れたか?』

『どうせ聞きかじりでしょ?』

正解である。イタリアに来て当初から、アルから初は手ほどきを受けた

『バレバレか』

初は舌を出す

『どこかの田舎娘とは違うもの』

エミリアがむっとする。うぅむ、この二人、妙に仲悪いんだよなぁ。二人とも俺のちょっとマテなのに

『あくまでお酒は食べ物の添え物、メインじゃない。そういった意味では、エミリアの食いっぷりが正しいと言えるさ』

闊達な女性はお嫌いですか?いいえ、大好物です

『はいはいカルチョですよー、じきに彼女達に刺されると思うのは2.0、俺達が我慢できずに殺っちゃうのが1.0、男に走るが5.0、上手く行くのが12.0がレートだよー』

ブロディが胴元になって金を集めている。おい、ちょっとまて、俺をやっちゃうの が1.0かよっ!

『まぁまぁ、このワインは艦長の飲み過ぎるなって忠告の意味も入ってるんだろうさ』

そこらへん凝る人だし

『でしょうね』

『そうだな』

二人も同意した。さて、話題反らしだ

『ところで二人だけど、ハンカチか何か持ってない?』

『私はタオルを借りて使ってるから、私物が少なくてな』

『私はあるわよ』

レシィが懐からハンカチを取り出した

『それじゃあ、ちょっと息を吹き掛けてくれるかな?』

首を傾げながら、レシィは息を吹き掛ける。それを初は手に取り掲げて叫んだ

『レシィ様の吐息と香りを手に入れたっ!欲しい奴は、とりあえずブロディを殴れー』

『ええっ!?』

様付けとかツッコミ所満載だが、パイロット達の目があやしく光った

『『『ウオオオオオーッ!!!ブロディ覚悟ォーッ!!!』』』

『ギャアアアアアアーッ!』

ブロディ、南無である。この後、レシィとエミリアがはりあって、野球拳で下着姿になるなど、最低限の節度は保ちつつ、大いに英気をやしなって彼等の夜は更けていった



7月15日、ヘルシア郊外05:41




『避難民は、逃げおおせたかな?』

ケンタウロ戦車の砲塔キューポラから上半身を出し、戦車長は煙草を投げ捨てた

『結構かかってるみたいですね』

隣のキューポラから、ローダーが頭を覗かせる。港の方では、煌々と明かりが点り、作業が続けられているのがわかる

『こうなると、レオパルトの砲が欲しくもなるな』

『ライミーの砲はその分撃てませんから、どっこいでしょう』

史実で西側ベストセラーのL7105ミリ戦車砲は、願っても入ってこない。ちなみにかの砲が分12発なのに対し、こちらは分15発かませる。防御は圧倒的にこちらが上(防盾前面254ミリ、防盾側面152ミリ、後面50ミリ、車体前面127ミリ、上面25ミリ)である

『それにレオパルトの装甲は、いくら傾斜されているとはいえ、80ミリですから、守ってる限り絶対負けません』

ローダーであるからには、砲には自信があった。事実、演習で完敗したドイツでは、レオパルトに早速追加装甲と新式砲を!と、現生産分を抑えてまで必死に改良を進めていた

『わかったわかった』

こいつは自分の軍馬に惚れ込んでるからな。下手な事は言えたもんじゃない

『しかし相手は得体の知れん物だからなぁ』

一発の威力の大きな物が欲しいのが人情じゃないか、なぁ?

『我々には支援の38センチ砲があるじゃないですか。高々1センチ違うかどうかの砲なんて目じゃありませんよ、目じゃありません!良いですか~、大事な事ですから二回言いましたよ~』

『何処のテレビ司会者だ』

ちなみにテレビ放映であるが、去年の東京オリンピックで国際中継放送が大々的に行われたのもあり、NHKならばイタリアでも普通に見れるようになっていた・・・後にアリス探○局、飛べイ○ミ、恐○惑星、ジーン○イバー、YAT安心○宙旅行、コレクター(以下略)で、イタリア国内の放送局を食う程異常な盛り上がりを見せ、その影響力はマスコミ占有後に選挙を行うつもりだったベルルスコーニ陣営を、放送内容を統制するようなそぶりを出した途端、歴史的大敗をきっしさせるという遠因となった・・・ティル可愛いよティル

『単純に重さで我が砲弾の80倍あるんですから、それぐらい言ってもいいでしょう?』

ローダーは力説する

『俺達の上に降ってこなきゃいいがな、その80倍が』

戦車長は苦笑した。どれだけやれるか・・・やってみなきゃわからんか

『ま、期待しとくよ』

敵が来るまで残り二時間、もう賽は投げられたのだ



ヘルシア航空基地、06:11




増設されたこの飛行場では、管制機器の撤去作業と共に、航空隊の発進作業が平行して行われていた

『6番機剥がし終わりましたー』

『よーし!12番機に回れー』

Rー9の塗装が剥がされて、金属の地金が出ている。対光線仕様だ

『九割方は終わったな』

整備長は汗を拭う。後は発進を見送って、状況が許す限り、帰って来た機に爆弾を補充するのが役割だ

『すいませーん』

黄色い声が聞こえてくる

『おおう?お隣りの嬢ちゃん達じゃねぇか?避難しなかったのか?』

羽布張りの機体に光線受けたら、燃え上がってしまうのが目に見えてるはず

『今班長が居ないんですけど、ここを守るのに誰も居なかったら、怒られちゃいますから。手伝わせて下さい!なんでもしますよー!』

『うーっす!』

代表が言うと、同意だ、と他のメンバーも声を出した。良い心掛けだ、守るのにも力が入るってもんよ

『それじゃあモップもってこーい!機体を少しでも磨くんじゃー!』

『了解!』

人数が一気に増えたので作業がはかどる。女性らしく、気がつかなかった磨き残しも、残さず磨かれていく

『私達の飛行隊は、皆さんが光線を潰した後に出るんです。それなら使えますからね』

バンダナを付けた彼女は、そう言って笑った

『あ、大丈夫ですよ。艦載のヘリ部隊の方々も一緒ですから』

全火力を投射する。切り札は初達だけではなかったのだ。なりふり構わずともいうが

『帰って来たら班長に褒めて貰うんです。ひどいんですよー、男に色目使ってて私達が弛んでるとか』

『そりゃ、頑張るしかないな』

苦笑する。デート相手はうちの国の連中だ。むしろ怒られるのはこっちの方だろう

『はい!目指せ自由恋愛です!なんて♪さ!次はなんですか?どんどんやりますよ~』

てへっと彼女は舌を出し、仕事を催促する

『よし!それじゃあな・・・』

基地航空隊の準備は、可及的速やかに行われつつあった



キィイイイイイン!



『帽ふれ~!』

『頑張ってくれよ~!』

銀色のRー9が上昇していく。ランウェイは海の方向へ、海軍機と合流する為だ

『今のが最後だな?』

『はい、どうしても動きそうに無いのはバラして運びましたから』

整備員達は座り込む。夜通しの整備だった。出来るのはここまでである



ドォ・・・ン



沖合から遠雷のような砲声が響いた

『始まった、な』

整備長にはそれが、これから始まる長い一日を告げる鐘の音のように聞こえた



ヘルシア沖合・リットリオ、08:02




『艦長!山の稜線から・・・何やらうねうねしたものが!』

見張りがそれの呼称に困りつつ叫ぶ。山の稜線からゆっくりと姿を表した

『かの名称をMM(ダブルエム、マイティモンスターを省略した)と呼称する。見張り、中に入れ!指揮所!見えるか!?』

リットリオ艦橋の防弾ガラスには煤が塗り付けられていた。簡単な対光線防御である。多少操艦はしにくいが、問題ない

『見えまぁす!』

対核防御も兼ねた光学機器を備える主砲指揮所には、何の問題もなかった

『手筈通り、弾種は基本的に榴弾、取り敢えず全部ぶち込むぞ!』

『了解です』

リットリオの主砲塔が旋回する

『・・・おかしい』

艦長は呟いた

『は?』

『稜線から頭を出した時点で、MMは我々に光線を発射する事も出来た筈だ』

その問いに誰も答えない。答えようが無いというのが実際の所だ

『今は、考えるだけ無駄、か・・・撃ち方始め!』

『撃ち方始め!』

主砲塔が止まり、一点に指向する。MMが居る方向へ




ドドドドド!!!




リットリオに炎が吹き上がり、38センチ砲弾がマッハ2.5で飛び出していく。重量800キロの砲弾は、その軌跡を空に描いて消えていった



08:06



MMはその《耳》で捉えた。空気の波紋を、そして微かに空気を切り裂く何かが、向かってくる事を



<脅威優先度、レベル指定>



何が己にとって危険か判断する。それは音の続く方を脅威と認識した。これは彼等の殆どが、航空機を相手としていた為だ



<発射!発射!発射!>



しかし、レーザーの発射機構が形成される前に、リットリオの砲弾が着弾した




ドドドドドド!!!




<・・・!!!・・・!!!>




それは驚いた、無理も無い。自らが知覚して殆ど間もないうちにダメージを与えられたのだ



<危険!危険!危険!>




形成されたレーザーの発射機構が、連続して音の波紋を生み出している方向へ向けられる




<消去!消去!>




ウ゛ウ゛ォッ!!!




発射と同時にレーザーの発射機構が。その高温にあぶられて燃え上がるが、すぐに消火される。林野火災から燃え上がりやすいイメージがあるが、植物は乾かさないとそうそう燃える事は無い。腐った玉葱の汁気を考えれば納得が行くだろう。燃えた灰も、ある程度リサイクルが効く。植物にとって火は必ずしも天敵ではなかったという事だ



レーザーは、狙い過たず命中した



同刻、リットリオ




バシュウウッ!!!




艦に乗っている人間からすれば、それは突然だった。ただ随伴駆逐艦の見張りが、空気中に存在する水分によるチンダル現象で現れた光が、リットリオに突き刺さるのを目撃している

『うおっ!』

そしてレーザーがリットリオに果たした効果は、主砲塔前盾が熱っせられて表面が泡立った。場所によっては防水布が燃えた、それだけだった。もし、防水布の向こう、砲身の根元部分だったらどうだろうか?恐らく効果は少なかったであろう。何故ならそこは、下手をすると防弾板がある上に、砲眼球というもので防護されている。少なくとも簡単には抜けそうに無いのだけは確かである

『被害報告!』

『第一砲塔、被害無し!』

『こちら第二砲塔、なにかあったんですか?』

砲弾のように質量がぶつけられたわけではないので、攻撃を受けたから、と、砲塔側では感じようが無い

『第三砲塔、防水布延焼中なるも問題無し!』

『・・・380ミリ、380ミリ!奴らの底が見えたぞ!』

敵の攻撃は自艦に対し、用を成さなかった。MMは、人の造った380ミリの装甲を貫けなかった。これほどめでたい事はない

『撃て!敵の攻撃は我々には通用しない!思い知らせてやれ!』

『艦長、プリニー艦長から具申です』

プリニー、エトナ級対空軽巡の改良型、フロン級とも称される艦だ。対空砲を対空ミサイルに換装し、連装の発射基(各弾庫16発)を五基装備した基準排水量7500トン余の最新鋭艦である

『なんだ?』

『敵の熱源に変化あり、ミサイルによる攻撃の許可求む』

レーザーの発射機構が燃え上がった事で発せられた熱を捉えたのだ。ビーム・ライディング方式の誘導であるおかげで、そういう用途に使えるのだ(だからこそ、魚雷や対艦ミサイルを一切積んでいないのだが)

『レーザーの発射位置を潰すか・・・良し!盛大にやってやれ!』

反撃手段を奪えば後は好きなように火力を投射する事が可能になる。具申は願ってもなかった

『は!』

『航空隊の侵入を許可しろ、一気に畳み掛ける!』

レーザーを沈黙させられる見込みがついた、今がチャンスだ




シュゴオオオッ!!!




プリニーが白煙に包まれ、その中から五本の筋が延びていく、そして同じように五本。ここからは見えないが、縦に戻された発射基にミサイルが再装填されている事だろう

『エトナよりプリニーの方が使えるかもしれんな』

艦長は、射程内に無いので沈黙したままのエトナを見て呟いた



ヘルシア郊外、08:15




『おーおー、やってんな』

戦車長は双眼鏡でMMを眺める。落ちた砲弾によって、幾多の破片が空中に巻き上がっている。そしてレーザーで発生した煙も合わさって、濛々とした煙に包まれつつあった

『車長、リットリオから、敵のレーザーは装甲目標に用を成さずとの事です!』

ローダーが嬉しそうに頭を出す

『少しは安心して戦えるか。しかしちょっと加減してくれんと、我々が戦う時には盲撃ちになってしまうぞ』

出番無しなら、出番無しが一番良いのだろうが




ウ゛ォオッ!!!




その時、MMの方向が激しく光った・・・脅威は取り除く、生物として当たり前にして、最大限の反応をそれは示したのだ




荒野の死闘はまだ始まったばかり、その行方は絶望か、享楽か、カプリッチョは運命を弄ぶ





次回、享楽と絶望のカプリッチョ第二十一話【~ほろび~】

オペラツィオン・ピアーヴェ発動であります。


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