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第15話・交錯

1966年3月23日・モナコ沖、ヴィナ



『敵艦近付く!大きい!』

ヴィナの目の前に現れた艦は、そこに居た誰もが想像していた以上の艦を目にしていた。ヴェニト・ムッソリーニだ

『我が艦、いや、皇国最大の艦と較べても、二倍はあろう巨体だろうか』

そんな中でも、リヴァルは平然。いや、面白おかしいといった体を崩さなかった



チカチカッ、チカチカチカッ!



『攻撃か!?』

相手側の巨艦から光が瞬く

『うろたえるではない!ただの発光信号ぞ!』

ざわついた艦橋内にリヴァルは一喝した

『しかし皇女、特にあれは意味を持つ明滅をしておりませんが』

『ふむ・・・』

そういわれると根拠はあまりなかったが、なにやら関連性があるように思えた



チカチカ、チカチカチカッ



『二回、三回、五回、七回・・・』

その繰り返しで明滅を繰り返している。そうか!そういう事か!

『くっくっくっ・・・これは素数だよ、探照燈!十一回だ、十一回明滅させろ!』

どういうつもりかはしらないが、相手は素数を送って来ている。七の次は十一だ



チカッチカカッ



明滅のリズムが変わった、今度は明らかに意味を持っている

『貴艦隊に、思考能力が存在することを感謝する』

リヴァルは片眉をあげた。たいした事を言ってくれる。瞬きは続いた

『我が艦隊はイタリア王国海軍第二艦隊、貴艦隊は我が国の保護下であるモナコ公国を侵害し、自沈した我が海軍の駆逐艦三隻の乗員を不当に拘束している』

相手の艦が、砲塔を旋回させた

『その解放なくば、攻撃もいとわない。これは脅しでは無い』

保護・・・我々と同じような事をしている国家か?全く聞かない、いや、かつてあった国家群でもそのような名は聞いたことが無いが

『皇女閣下、あれはやりますよ』

艦長がリヴァルに囁いた

『わかっている、だが、妾達が押されている訳では無いぞ』

彼の方は言った、あくまで攻撃と。他国の軍にずけずけと侵入されて言う言葉が撃沈でないという事は、何らかの恐れをあちらは抱いている事にほかならない。少なくとも我が国との戦火拡大を求めてはいない。ならば付け入る隙は十分ある

『返信!当方は自沈艦の乗員救助と、モナコ公国の帰順を受けたのみである。その上で乗員は自らの意志のもと、我が国に移住を行いたいと申告したものである。自国民保護の観点からも、攻撃を受ける言われは無い、加えて攻撃を受けたとするならば、我がアウドゥーラ皇国への宣戦布告と見なす!とな』

リヴァルとて、これは無茶苦茶な事を言っているというのは自覚している。だが、完全に間違っている話という訳でも無い。最初は何は無くとも強行案で押し通す、それが外交の基本である。再びあちらの光が瞬いた

『彼の国の外交権は我が国に譲渡されているものであり、その行使は我が国に依って行われるものであり、その実行力は存在しない。また、乗員の亡命については、そこに自由意志があったのかを確認するまでは容認できない。現状のままならば、拉致と見なして攻撃、奪還する』

ふむ、という事なれば

『了解した、当方には確認要員の乗艦受け入れの用意あり。要員の移送を願う』

と、伝えてみる。ほいほい寄越すようなら、あんな艦を持っていても扱いきれまい。再び返信

『すぐにも短艇を向かわせる。我が海軍の人員が自由意志によって行動したならば、その確認には時間がかかると認識する。是非とも本艦にて歓談を行いたい』

うむ、やはり交換の人質を用意するか。そうでなくては

『皇女閣下?まさか!?』

『短艇を用意せい、妾が直接行く、相応の見世物を見せてもらおう?まがりなりにも妾は皇女、あちらが戦をするつもりが無いなら、手荒な真似はすまい』

心底楽しそうに彼女は笑った



V・ムッソリーニ




『将旗らしきもの、下ろされていきます!』

ヴィナを注視している見張りが報告した

『おいおい、将自ら来るつもりか?』

ペンネは苦笑した。こっちに攻撃意志が無いのは丸わかりか。それにしたって本人自らお出ましとは、随分豪胆な奴が司令をやってるようだ

『運用面で英国に勝るとは思えんが、30隻を越える戦艦を保持する国が相手では、慎重をきさねばな』

ペンネは直純の隣にいるフィリネの方を向いた。フィリネは頷く




『無理やな、皇国のどの艦でもこの艦には勝てへんやろう。そやけど、うちが知ってる戦力だけでも御座船は30を越えとる皇国の事、複数相手でどれだけやれるか・・・』

昨日ペンネがフィリネにした質問の答えがそれだ。弩級艦でも一隻あたり七隻の相手をしろ、全面的にぶつかるならば、こちらは攻めるでなく守る方となる(前例と予算や政治的に)確かに厳しかった

『30隻で済むでしょうか?』

続けて直純少尉が、冷や汗をかきながら発言した。とりあえず回りの勢力を吸収しながらそれだけの勢力を蓄え、その上で動き始めたからには、更なる増艦があったからでは?と

『ユトランドでは、イギリスに33隻、ドイツには18隻の戦艦がありました』

こちらの世界でも、他にイタリア、フランス、アメリカ、日本、オーストリア、ロシア、トルコ、南米ABC各国。どれだけ艦が居たか、正直わからない。あちらが人類最後の希望と自惚れるだけあるなら、その全部、は行き過ぎとしても、最低50は考えねばなるまい

『人をかき集めているように見えるのも気になります』

人員さえ居れば、動かせるとも考えられる。ペンネは嘆息した

『それでは出会い頭に沈めるのはやめておくのが賢明か』

まぁ、制限を設けずに戦うならば、勝つ事は勝てるだろう。しかし、我がイタリアにとってそれで良いのか?と言われると、それは違うと断言出来る。昨日の結論はそうだった



『フィリネ女史、こちらの作法や言い回しでわからぬ物があるやもしれぬ。歓談に参加していただけるか?』

『うちがおると逆にこじれるかもしれへんで?』

ヘルシア、いや、CPUは皇国と敵対状態、出ていくのは

『こちらがあちらを知っている、というプレッシャーを与えたい。それから、こじれても構わないという余裕のブラフが欲しい』

ここではやらないが、やるならやるという意志表示はしないとな。我が国が下に見られてはたまらん

『ええよ、そういう事なら』

フィリネの返答に、直純の頬がひくりと一瞬引き攣った。一瞬だけなので誰にも気付かれる事はなかったが

『直純少尉、君もだ』

『は、私もですか?』

直純は聞き返してしまった、少尉風情が居るべき場所じゃないのでは?と思ったからだ

『歓談と言ったろう。話のネタは多い方が良い。何が好みかわからんからな』

今回は階級よりも、そちらの方が大事だ

『うちも、少尉は居た方がええと思います』

それになんとフィリネが同意する

『以前聞いた時、うちが聞いてもおもろい話をしとりよりました』

モール族の子らに話を聞かせてあげた時の話だ。興味なさそうだったのに聞いてたのかよ!

『そうか!お墨付きがあるのならありがたい、少尉、命令だ』

こうなると反抗は出来ない

『はっ!参加させていただきます』

『あー・・・』

ペンネが意地の悪い笑みを浮かべて言った

『一応聞くが、その内容は寝物語ではないだろうな?』

それはつまり

『『ち、違います!』』

あぁいかん、お約束でハモってしまった

『なら良い、問題は無い』

ペンネは笑いながら視線をヴィナの方へと向けた。あちらの内火艇がこちらへとやってくる

『・・・立ったままのあれかな?』

銀髪がさらさらと揺れている



ムッソリーニに乗艦したリヴァルは、しきりに首を動かして感嘆しながら、会議室まで足を進めた

『アウドゥーラ皇国第三皇女、リヴァルである』

『イタリア第二艦隊を預かるペンネです』

敬礼のやり取りをする。リヴァルのお付きはたった四人の女性兵だった

『歓談とは、面白い表現を使う。考えたのは貴官かな?』

リヴァルは誰に断るでもなく椅子に座った。四人の付き人は座らずにその席の後に立つ、いや、布陣というのが正しかろう

『いかにも。どうしても貴女方と、実りある時間を過ごすべきと思いまして』

ペンネが肩をすくめる

『兵を返す返さないは良いのか?』

リヴァルは笑った

『貴女は返しますよ、でなければここには来ない。貴女はここを見るだけで、恩着せがましく退艦なさるでしょう?』

ペンネも笑う、目は笑ってないが

『まぁそんな所だ』

心底愉快そうにリヴァルは笑う。こいつ・・・恐怖心のかけらもないのか?

『所で話は変わるが、この艦隊に兵はどれだけ居るのか?』

『おおよそ三万』

ペンネは即答した、しかしそれは嘘だ。今この場には、アクィラを始めとした空母部隊は居ない

『三万か、それは安いな』

『は?』

リヴァルの言った言葉に、誰もが首を傾げる

『貴官、歳はそれほどいっておるまい?皇族の序、十分な領土、極上の生娘の身体、要るだけの側室も、どうだ?』

『・・・』

いきなりどうだと言われても、それは困る

『ふむ、妾の身体を極上と形容するのは、流石に行き過ぎだったか』

そしてリヴァルは一人勝手に照れた

『・・・っ!艦隊ごと亡命しろと言うのか』

最初に呻いたのは直純だった

『実りある歓談であろう?貴官、名は?』

リヴァルは身を乗り出して直純の方を向いた

『し、志摩直純』

『兵では無いな、ならばすぐにも分隊長として十から二十の部下を得れよう。殆どが女だ、任務に励むなら好きにして良い。我らは増えねばならぬからな』



バン!



テーブルが不意に叩かれた

『土の匂いのしない女の言い分に、どれだけ信憑性のあるもんやろな』

『フィリネ!』

たんかを切ったのは、フィリネだ。まさか、こんな激発するような奴じゃ・・・

『どこの狐族か?軍服でもないが』

『ヘルシアのフィリネ・ミィジーカ、CPUの護民官や』

リヴァルは鼻で笑った

『ふむ、先にたらしこんでおったか。センスだけは褒め置こう』

『彼女はアドバイザーとして我々に協力してもらっただけです!』

直純がまずい空気を見取り、間に入る

『護民官、護王官、護国官、階級名からして自国しか守ろうとしかしない烏合の衆より、我が国と関係を結んではどうか?』

『お止めください。今の我らにとっては、貴女も彼女も同格の客人なのです!本来の格の上で違いはあるとはいえ、慎み願いたい』

直純はフィリネを抑えつつ、リヴァルに懇願した

『貴官らはヘルシアをどう考えておられるのか?もし妾達がヘルシアを攻撃したならば、敵となるのか、それとも・・・』

蔑むような目線をフィリネに向けてから、リヴァルはその矛先をペンネに向けた

『その判断は我々の元にありません』

『では、ヘルシアを討つ判断自体はありえるのか?』

・・・場が沈黙した

『はい、有り得るかと』

あまり間をおかずにペンネは返答した。リヴァルは満足したように頷く

『ではどうだろうか?この艦隊を妾が元に』

『魅力的な提案ではありますが、あまりに性急が過ぎます。もう少しデートなりなんなりの付き合いをしてから決めたいかと。もう少し時間をいただけませんかな?』

ペンネはお茶を濁した。ただし否定はしない

『妾はすごいぞ、だから選べ・・・最終的に、でもな。次は一ヶ月後にでも来るとしよう』

話は終わりとばかりに、リヴァルは席を立った

『ああ、そのあたりの信用を含めて、そこの二人を』

リヴァルは直純とフィリネを指名した

『三日間借り受けたい。その後ボートで降ろしておくので回収してやってくれ』

ペンネは二人を見る。人質だ、反古にされないための

『私だけで十分でs』

『ええやろ、かまわんで。別に』

直純の言葉を遮って、フィリネは言い放った

『では、ついてくるがいい』

ツカツカと出ていくリヴァルに、許可もとらずにフィリネは付いていく

『中将!』

どうしたらいい?と直純はうろたえた。軍人が命令も無しに行くわけには

『行きたまえ、回収はする。守ってやれ』

『はっ!』

直純は敬礼して駆け出して行った




『何故、きっぱりお断りにならなかったのです』

事態を静観していた参謀の一人が聞いた。あのような物言い

『最悪、本土に於いてもしもの事あらば、教皇貎下に国王陛下、そして一人でも多くの国民を移送出来る場所を、確保しておくのは当然だろう』

最悪の最悪を考えるのが将の役目だ

『それに、そんな事は彼女も解っている。だから、最終的に、という文言をつけたのだ』

一ヶ月後、再び彼女達はまたやってくる。どれだけの戦力を連れてくるか・・・ヘルシアとの関係もどうしたものか

『難題だよ、我が国にとってね』

どちら側につくのが我が国の為か。両国の溝の深さは、二人のやり取りからして解る。両手に花と出来れば幸いだが、現実はそう上手く出来はしないだろう。それに挑戦するのがイタリア人だが

『交錯、か』

全く違うベクトルの国家に挟まれての決断を迫られる

『植物相手より厄介かもしれんな』

ペンネは苦笑した。そこに伝令が息せき切って駆け込んで来る

『どうした!?』

『ヘ、ヘルシアに駐留の空軍航空隊!及び、アクィラの航空隊に、大損害が!』

神が居るのならば、先程の言葉を聞いていたに違いない

『なにぃっ!?』

『植物の新種です!新種が現れたとの事!』



前門のリヴァル、後門の新種。イタリアが転移後に迎える最大の危機が、ふりかからんとしていた




次回、享楽と絶望のカプリッチョ第十六話【~神は供え養い給うか~】

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