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第12話・変わるモノ、変わらない物

1966年2月25日・ローマ




『デ・ラ・ペンネ、出頭しました』

ペンネ中将は、ヘルシアへの投錨が終わってからすぐにお呼びがかかり、クィリナーレ宮殿に出向いていた

『ご苦労さん、大変だったな』

そんな彼を、列席にいたアルが立ち上がって出迎える

『役者が、揃ったようだな・・・』

一番奥の席で、しわがれた声が発せられた

『ムッソリーニ閣下』

列席の全員が頭を垂れる。齢80を越えたのもあってか、威厳が随分増している。まるでお伽話の老賢者そのものだ

『こちらの世界に来てからおよそ二ヶ月。各省庁の運営も落ち着いて来ておろう。報告をしらせよ』

『では、農林産業省から申し上げます。食料がなければ、始まりませんからな』

男が立ち上がって話始める

『気候変動については、長期的なデータを取らなければならないため、農作物にどれほど影響を与えるか未知数ですが、現在の自給率が我が国は70%程あります。逆をいうなら、残りの30%をどうするならばよいかになりますが』

農林省の男がこちらを見る

『こちらの世界で農作物を輸入したり、栽培したりするべきでは無いとの提言が海軍から為されております。ですから、作品物の種類を変えることが必要とされるでしょう・・・まぁ、正確に言うならこれです』

彼は稲穂を取り出した

『麦主体の食生活から、米を利用した食生活に転換する必要があるでしょう。幸いにも、米の品種改良についてパイオニアである日本と合同でやっていた寒冷地でもたわわに取れる米の実験が進んでおりましたので、ゴーサインさえいただければ、やれます』

ムッソリーニは、うむ、と頷いた

『やはり、パンやケーキ、ピザが高くなってしまうか・・・南部にはきつい話だな』

イタリアでの米の産地は北部である。食生活を変えるのはかなりのストレスを与えてしまうだろう

『だが、やりようがあるだけマシ、か・・・次を頼む』

時たま下向して、私財から放出するのがよかろう

『では、財務省から』

オールバックに眼鏡の男が立ち上がる

『国家財政につきましては、対外輸出が無く、内需のみとなりますので、非常に厳しいといわざるを得ません。大規模な軍事活動は控えていただきたいものなのですが』

特に製造コストのかかる核なんて使いやがって、とばかりにこちらを見る

『かつて日本が転移した時はどうだったんだ?我々と同じような目にあってるはずだが』

別の省の人間が聞く、当然の質問だ

『あの国は異常過ぎて参考には不適切かと』

『内需で相当分賄えましたし、まだ本土に開発ののびしろがあったたのと、我々の転移にない邦人の帰還や、退役陸軍軍人への雇用も含めて大規模開発を行っています』

大神海軍工廠や、長崎の大型ドック他もろもろに関しての事である。こういう事に関しては、ローマの時代から開発が進んでいる我が国は不利な点である

『財務としましては、再転移まで対外活動は最低限にしていただきたい所です。最低限の支出で凌ぐのです』

『日本の例をとるなら、八年もか?馬鹿げた話だな』

これを言ったのはアルだった

『それに、周りの資源に何があるかだってろくにわかってねぇんだ。さっさと木の化け物を金かけて倒しちまった方が、よっぽど金かかんねぇぜ?』

想像の出来ない相手に待ちの戦力保持は、下手に攻めるよりもよっぽど金がかかるんだ

『最初の一戦で軽巡と駆逐艦を失い、あまつさえ貴重な核砲弾を使用した海軍さんがおっしゃる言葉ではありませんな』

その化け物退治に、どれだけ金を注ぎ込む事になるか、わかったもんじゃない。補充にどれだけ予算取るつもりなんだか

『我々はよりコストを抑えた撃破方法を得るべく、あんたらの顔を立てるために捕獲を計画したんだぞ!その態度はなんだ!』

そう、イタリア海軍が第二段作戦として行った捕獲作戦の背景には、そんな裏があったのである

『もっとコストを抑えろとは言いましたが、作戦を立案し、失敗したのは貴方がたではありませんか。責任転嫁はよして貰いたいですな』

『貴様・・・っ!』

アルが喧嘩腰になるのを、ペンネが止める

『その件については、私から報告させていただいてよろしいでしょうか?』

ムッソリーニに直接お伺いを立てる。話の勢いを削がれた二人が座る

『うむ、頼もうか』

『では』

許可が出たのでペンネは語りだした

『まず、艦艇損失と核弾頭使用の責は私にあると考えていただいて結構。油断していたと言われても反論のしようもありませんな』

財務省の男が毒気を抜かれている

『ただ、今回の戦いでわかったことがあります。例の木の化け物は、我々の世界の物品に、思ったより早く対応してきているという事です』

モンテクッコリやカリスタの木甲板を侵食していた様子を、ペンネは思い出す

『篭っていたら、ますます事態は悪化するでしょう。まずは届く範囲全ての木を排除するべきと考えます』

『ふぅむ、それほど簡単に適応出来てしまうのかね?いや、事態を楽観したい訳ではないが・・・どうなのかね』

ムッソリーニの質問に、状況判断からですが、と前置きを置いてペンネは答える

『敵がモンテクッコリを侵食した際、接近して放水したカリスタが巻き込まれた訳ですが、航空機への対応から、艦船の速度には十分追随出来ていた筈の化け物が、その触手を何度か海面に打ち付けていたという報告が上がっております』

つまりそれが指し示す事は

『知能度数が一時的か、あるいは恒常的になったのかは不明ですが、下がった、あるいは攻撃性が増したと考えられます』

『合わせるのに無理をしていると?』

ムッソリーニの理解が早くて助かる。ペンネは頷く

『だったら、大丈夫じゃないか』

財務省の人間が言い放つ

『最初はなんだって痛いもんだろ、多少こなれて来たら食い放題、そうなんだな?』

アルが少々下品な表現で結論を言う

『えぇ、それにこれは客員士官の言ですが、化け物の方は久しぶりに撃破を体験したはずだから、何らかの対応が行われるか様子を見るべきではないか、と』

直純の顔を思い浮かべる。復活しているとよいが

『もしくは対応が行われる前に出来る限りの攻勢を行うべき・・・そういう訳か』

再度ペンネは頷いた。自分の進退自体より、今はやるべきという事を通さねばならない

『攻め続ける事で戦線を構築し、敵を誘引、拘束するのが一番の策である。そういう訳だな?』

『はい、そう考えます閣下』

戦力の蓄積がなかなか難しく、消耗戦に陥る可能性も低くないけれども、抵抗点を奴らが放っておくとは思えない

『勿論、財務省の言い分もあるでしょうが、まず最初に納税者に対する安全のリターンが先決と考えますが、いかがか?無論、我々もなるべく核弾頭を使わないよう努力する諸存です』

経費を節約しようなんて事は元から承知の上なのである。今、海軍の頭をはっている連中は前の大戦の時に、日本人達が来るまで石油がなくて動けなかった主力部隊の代わりに苦労させられた奴らばっかりなのだから

『・・・』

財務省の男は眉を寄せながら、腕組みをして考えている

『せめて備蓄や財源のうち、どれだけなら使っていいと決めてくれりゃあやりようがあるんだが?あまりに酷いとなんだがな』

アルが、それぐらいは頼むぜ、とぶっきらぼうに言い放つ

『・・・核弾頭の増産は簡単には行えません。弾頭数は40を切らないよう心掛けていただきたい。他の弾薬の類いは、何とか努力しましょう。ただし石油は・・・360万トン、その用意分で行動してください、同意できますか?』

ちなみに先の大戦でイタリア海軍に用意された石油は八ヶ月分、180万トン。しかし、空軍に30万トンを回されたので、実際は150万トンしか備蓄のなかった頃の二倍はある。史実日本海軍の戦時年間消費量が300万トンと予測され、実際は485万トンを第一年(第二年は428万トン)に使われている。そういった情報は彼等になかったけれども、360万トン・・・納得するべきか迷うトン数だ

『つまりその数字は、残り一年二ヶ月で事態をなんとかしろ、という事でいいんだな?』

アルがトン数よりは、期間で攻めた方がよかろうと換算して言う

『一年以上の時間があれば、事の可不可ははっきりとしてくると思われますが?勿論、貴金属等の資源や、石油が見つかり採算がとれるならば話は別です』

ちっ、石頭め。まけてはくれないか

『わかった。海軍はその分の石油で何とかしてみせよう』

ムッソリーニに向けて、アルが頷く

『よかろう。善処してくれ』

それからも閣僚ごとにムッソリーニは懸念を聞いてまわり、それぞれ達するべき目標をつくり上げていった

『我が国は今、未曾有の危機の内にある。手を過たば、取り返しのつかぬ事になろう。だが、ここに居る貴官らが、最良の導き手たることを私は信じている』

ムッソリーニは締めの言葉を口にし始めた

『私も、これが最期の仕事と心得ている。恐れるな、事の責は私が墓まで持って行こう。大胆、常に大胆であれ』

アジテーターとしての能力は、年老いてますます長けて来ているムッソリーニの行動の端々が、まるで闇夜の松明のように閣僚を引き付ける

『未知という波濤を、我々は踏み越えて行かねばならない。モレッティ、ミルコ・・・』

出席者全員の名前を呼ぶ、驚いたことに、その閣僚に資料を配ったりしていた秘書官達の名前もだ

『イタリアという国の為に、死んでくれ』

そして彼は、頭を垂れた

『ドゥーチェ・・・』

その様は、場に居た全員の胸を打った

『我らはドゥーチェと共に!』

そう胸に拳を当てて言ったのはアルだった。そして敬礼に形を直す

『必ずや、海軍はその任を果たしてみせましょう』

そしてまたもう一人がアルに続く

『我らはドゥーチェと共に!』

ドゥーチェの声が続くなか、ペンネはアルの顔に、いたずらをしてやったりとでも言うような顔をしているのに気付いて、苦笑した。やれやれ、人をその気に乗らせるのが上手いお方だ

『ありがとう、諸君。では、それぞれ仕事にかかろうではないか。仕事は、山積みだ』




同日、アクィラ




『あーあ、俺一人になっちまった』

初はがらんどうになったなったアクィラの格納庫で呟いた。アクィラ航空隊、特に日本人部隊である第八中隊は、世界樹攻撃に有効とされる低空水平爆撃のスキルがあることから、イタリア海空軍問わず各パイロットにそのスキルを得させるべく、教官役として陸に飛んでいったのだ

『予備機が来るまで待機とかマジでありえん、あ゛ー・・・』

そして初はと言うと、先の出撃で乗機の翼はもげ、無理をさせて戻って来た結果、機体は除籍、ばらして部品取りと相成り、予備の機体が来るまで待機が命じられてしまったのだ。つか、あれだぞ!?俺はあの隊の中じゃ一番の下手くそなんだぞ!?(悔しいが)まだまだ訓練すべき時に

『当て付けだ、絶対当て付けだ』

俺が撃墜スコア一樹あげたからに違いない。周りの奴らも、取り残される俺を見て笑ってたから間違いない畜生め

『あぁ、初、ここに居たのか』

不意に声をかけられた、エミリアだ・・・って、何故にフライトスーツを

『どうしたんだ?そんな恰好で。ヘルシアに戻るのか?』

ヘリにでも乗って、あれ?最終便は出たはずだけれども

『いや、出来れば私にそれの操縦を教えてほしいんだ』

はぁ?何を言ってんだこの人は

『前私が作った料理で、かなり迷惑をかけてしまったろう?その罪滅ぼしにも、いざというときには私が機体に乗れたらな、と、思ったのだが』

前の時の料理・・・あぁ、あれは思い出したくもない。敵樹撃破の祝いに、と、エミリアが料理長に頼み込んで鍋を一つ借りたのが過ちの始まりだった



『なんだ?この、混沌としたスープは』

『つーか、紫の鍋ってみたことねーぞ!?』

エミリア、いや、ヘルシアでは具の取り分等で揉めないように、溶ける材料は全て溶けるまで煮込むのがセオリーらしく、全く具材の原型が留めていなかった。それでもスープだけでは腹が膨れないし、噛む物が無いと精神上よろしくないので、必要とされる具は、等分出来る物で、煮溶けない半生。最期にきってただ入れただけのもの、が、俺達の前に出された

『ちょっと頑張ってみたんだが、食べてくれないか?』

他のイタリア人航空隊の奴らは、俺達は撃破してないから!と辞退し、第八中隊だけが、鍋と皿、そしてエミリアのはにかんだ笑顔の前に残された

『『『いっただっきまーすっ!!!』』』

俺達は、満面の笑みを浮かべながら心の中で泣いた、号泣した。つーか、こうなるまえに止めてくれよ料理長・・・



がくがく、ぶるぶる



『鍋怖い、お代わりに鳴るおたまの金切り音がこわいぃぃぃっ!!!』

当然、撃破した本人である初は一番多く食わされた訳で、もはやトラウマ持ちになっていた。ある意味戦闘恐怖症である・・・兄弟そろって

『お、落ち着け!鍋なんてこの場に無いぞ!?』

耳を抑えて悶える初をエミリアが取り押さえる

『おお・・・悪夢が、悪夢がフラッシュバックした・・・今後一切その話は無しで頼む』

どっぷりと脂汗をかいた初が正気を取り戻す

『わかった、気をつける。で、さっきの話だが』

エミリアが聞いて来た

『私だってパイロットだ。大低の事は出来ると思うのだが、どうだろう?』

一息ついて、初は笑った

『エミリア、確かに戦闘行動や飛行時間のキャリアは俺よりずっと上だけれども・・・』

ハッと初はよこしまな思案を頭の中で巡らせた、不可能だと告げるのは中隊長や飛行長、艦長に任せれば良い、それまで手取り足取り俺が調きょ・・・もとい、教育するのは

『何とかしてみるさ!任しといてくれ』

鼻息も荒く、初はエミリアの手をがっしりと握る

『そうか、やってくれるか!』

エミリアも笑顔で返す



ゴチンッ



そんな初の頭に、ネジがぶつけられる



エミリアたんに手を出したら、どうなるか・・・わぁ、整備班の全員がバールのような物で武装してこっちをみてらぁ

『?』

エミリアが首を傾げる

『いや、そのなんだ・・・エミリアはこっちの文字読めるのか?』

慌てて話題を振る、こうなったら適当に理由見繕って断った方が身の為だ

『いや、言ってる言葉はわかるし、話せるんだが、文字はわからない』

よしよし、上手い事かわせそうだ

『うぅん・・・マニュアルや、計器が読めないと、なぁ』

『作業に必要な計器類と、数字はわかるから、おさえるべき数字を教えてもらえばやりようはあると思う。大変だろうとは思うが、手取り足取りでは・・・だめか?』

手取り足取り・・・手取り足取り・・・

『それを大変だなんてとんでもない!』

なぜかゲームのような平板な口調で答えてしまっていた。何してんだ俺は

『そうか、してくれるのか!』

嬉しそうなエミリアを見ていると、どうももう断れそうに無い・・・ええぃ、それじゃ手厳しくやって根をあげてもらうしかないか

『それじゃあ、まず最初にそのパイロットスーツは使えないって事を理解してくれ』

『うん?なんでだ?パイロットスーツなんて、どこも大低同じような物ではないのか?』

うーん、時々根本的に抜けてるんだよなぁ・・・

『エミリアの乗ってた機体はプロペラだったよな?それがどんなに機動したって重力の三倍ぐらいしかかからない。まぁ、だからその分小回りが効いて戦いで長い事回り続ける事が出来るんだろうけれども』

それに耐えてきているんだから、もし、エミリアがモノになればスタミナでは負けるだろうな

『この旋風は、最大で音の1.55倍の速さで飛ぶ事ができるし、それだけの運動エネルギーを機動に使えるんだな、これがな。だから空中機動を行うと、エミリアの機体での、更に倍の重力がかかる』

まぁ、最低6Gには耐えてもらわないと話にならないわけで

『こっちのパイロットスーツには、それに耐えるための装置が入ってんだ。機動をするとき、血液が下半身に下がりすぎないように、圧縮空気を送り込んで腹や足を締め付けてやる。そんな機能はそれにないだろう?』

『あ、あぁ・・・』

初が聞くので、エミリアが頷く

『ちゃんとパイロットだったんだな、お前』

もっとざーっとした操縦感覚で動かしてるもんだと

『ひ、ひでっ!そんな風にいうんだったら止めるぞ』

『あー・・・悪い、悪かった。続きを頼む、ほら』



ちゅ



おでこにキスされた


『よ、よし!任せとけ!テンション上がってきた!』

まったく、単純な男である

『んで、スーツは機体の高圧空気システムに繋いでおくから、パラシュート無しになる。最初は不安だろうがな』

『パラシュートなし・・・脱出出来ないのか?』

流石にエミリアが青ざめた

『んにゃ、座席が飛ぶ』

『は?』

『いや、だから、座席が飛ぶから安心しろって事』

座席が飛ぶってどういう事かわからず、聞き返してしまった。さもあらん、と、初はエミリアを手招く

『イジェクトシートっつーんだな、これが』

解体廃棄予定の愛機に、梯子で登ったあと、エミリアには梯子から見せてみる

『引っ張ると、キャノピーが内側から吹っ飛ばされて、座席が上に射ち出される寸法だ。なんでかわかるか?』

『機体速があがって、脱出した瞬間、尾翼に激突するからか?いやその前に、そんな速さで空圧に負けずにキャノピーを開けることが出来るかどうか』

うんうんと初は頷く

『ま、そんなとこだと思う。正確なところは飛ぶのに問題ないから、マニュアルでもよんで・・・って、読めないんだったか』

『読んでくれるなら、夜にでも部屋に訪ねたいが』

おおう・・・そうしたいのは山々だが、周りの殺気が漲ってきた

『そいつは勘弁してくれ、俺も命が惜しい。空母からイジェークトさせられて、天国にエンゲージしてウェーイになってしまう』

エミリアが肩を竦めた

『そうか、仕方が無いな。というより、天国に行けると思ってるんだな、初は』

『なにいってんの、俺ほど女の子に優しく(?)出来る男なんていないぜ?天国行き決定に決まってるじゃないか』

何故断定できるのか良くわからんが、エミリアはスルーしておく

『まぁいいや、一応今日の所は、コクピットの各所チェックや、エンジン始動についてまで、一通りやってみせるから、見てな』

『あぁ、頼む』

初は手慣れた作業で、計器をチェックしていく。普段はしないのだが、エミリアが居るので復唱もしつつ

『意外と手順が少ないんだな』

これならやれるかもしれないと、彼女は喜色を浮かべた。まあ、プロペラの場合、ミクスチャー(混合比)プロップ(回転数)スロットルの、三系統の操作が、ジェットであるスラスト(推力)だけで済むんだから当然だ

『こうやって聞くだけの講義だから、それでも大変だぞ』

逆に初は心配になったらしい

『この手順を踏んだら、あれだ』

初が格納庫の一角を指差す

『外部電源車が必要になる、あれから電気を送って貰うんだ』

ピトー管のヒーティングシステム、風防ガラスの予熱、酸素の供給システムをオンにしていく説明をする

『酸素?』

『あぁ、そうか、エミリアの機体じゃ全然高く上がらないんだったな』

いかんせんWW1の時のような複葉機に乗ってたんだから、仕方ないか

『旋風は、最高で高度17700メートルまで駆け登れる。そんな高度じゃ、酸素が希薄で人間の方が参っちまうし、さっきも言ったような高重力下じゃあ、マスクから無理矢理にでも送ってもらわないと死ぬぜ?素の意味で』

訓練生がそれで死ぬのはままある事だ

『そうか、とても大変なんだな・・・すごいな、初は』

『いやいやいや、そんなこと、あるかなー?あははははは』

面と向かってそんな事言われると恥ずかしい

『それじゃ、俺が見てるから、今さっきの手順を覚えるまで繰り返すんだ』

身体をどかしてスペースを空ける

『わかった、やってみよう。よろしく頼むな、教官』

きょーかん、と笑みを浮かべて言ったエミリアに、初は一瞬ぼーっとなった、いかんいかん、俺が撃墜されてどうすんだ




変わり行く者と、変わらない政治モノ、その先になにがあるのか




享楽と絶望のカプリッチョ第十三話【~コリージョン・コース~】



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