表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/50

第10話・試練の閃光

1966年2月24日・ヘルシア




『あ、班長〜』

『なんや、どないした?』

整備班の一人に呼び止められて、フィリネは振り返った

『班長の彼氏さんが、一人屋上に登ってますよ?いいんですか?行かなくて』

『ええ加減にせんとしばくで、ホンマに』

アイアンクローを叩き込みたくなるのを堪える

『なんかいいよったか?』

『え?許可したんじゃないんですか?』

一応は別国の軍事基地の格納庫、勝手に入るのははばかれる

『変やな』

少なくともそんな事をするような奴やない

『ちょっと行ってくぅわ』

『やっぱり気になるんですよnごめんなさいごめんなさい!イタタタタ!』

アホな部下にアイアンクローをかまして、プラーンとなったのをほっといて屋上に上がる

『・・・直純少尉、おるんか?』

一瞬何と呼び掛けていいかわからなかったが、当たり障りのない呼び方で呼ぶ

『・・・』

返事が無い。ただ、匂いはする

『あがるで?』

許可は必要ないんだが、一応言って上がる

『なんや、寝とるんかい』

直純が寝転んでいる。ただ

『うぅっ』

うなされているのと、傍らに置かれた睡眠薬・・・適量ではあるようだが

『なにかあったんやろか?』

先日艦隊が帰って来た、話は数日前に遡る



2月14日、V・ムッソリーニ



『まずは今回の攻撃を含めて整理しよう』作戦室で幕僚達の前にペンネは立ち上がった

『攻撃は有効だった。航空機に依る爆弾でも、本艦の砲弾でも、だ。狙いやすさにいささか問題が出ているが、どうにもならないというレベルでもない』

それぞれ頷く幕僚

『だが、いちいちあれを破壊していては埒が開かない。故に、攻撃方法の研究の一貫として、敵コアの奪取を行う』

それが第二段作戦である

『それにあたって障害になるのは、植物の根による串刺し、だ』

鬱蒼と繁る森に、陸軍部隊がえっちらおっちら入っていくのはどだい無理である以上、ヘリによる降下、早急なるコアの除去を行うのが筋である

『先日行った艦砲射撃での結果を鑑みるに、コア近辺の植物の回復力はさほど大きくないのが見られましたな』

自身の繁殖する範囲を広めるためか、活動が活発な外縁部に力が集中しているようだ。それに、コア近辺はろくに動かす事もないのであれば、柔軟性が失われていてもおかしくない

『艦砲射撃で外縁部を叩き、力を弱めておくべきではないでしょうか?』

幕僚の一人が意見を出した

『一理あるな、投射量からも修復にかかりきりになることは間違いなかろう』

なにより、と、ペンネは笑った

『精密性でいえば、航空機よりいくらか劣るのは仕方ないしな』

下手をするとコアに命中させてしまう。撃破してしまっては意味が無い

『今回は撃破を目的としない爆撃なので、航空屋もやりやすいでしょうしな』

うんうん、と、別な幕僚が頷く

『ヘリに積載したコアは、ライモンド・モンテクッコリに輸送。彼女と共にマルタ島へと護送する。それで第二段作戦は終了となる。その後対抗手段が発見、あるいは調査終了出来次第、第三段作戦、敵植物の覆滅を実施することになろう』

すんなり進めばな、と、最後にペンネは付け加えた

『騎士団の方々にはまた文句を言われますな、毎度毎度危険物を持ち込むなっとね』

『それは我慢してもらうしかあるまい。本土でなにかあったら、教皇様にも被害が出かねん』

隔離にあそこほど適当な場所はないのだから。参謀長が手を挙げた

『前回の砲撃では三万メートル地点からの砲撃でしたが、今回はどうします』

ペンネが少し考える

『二万まで近付こう、これなら巡洋艦の砲も届く』

『駆逐艦連中に怨まれますな』

海軍で一番血気盛んな連中だ、突き上げをその幕僚は食らっているらしい

『少しぐらい働かせろといってやりたまえ』

しばらくして、談笑と共に作戦室からペンネと幕僚達が出て来るのを直純は出迎えた。ちなみに彼は、核を使えないんだったら会議室に居るは必要ないだろう?と追い出されていた。しごく真っ当な話ではあるが

『よぅ、おまっとさん』

わざわざ声をかけてくれるペンネに一礼する

『ヘルシアにヘリと空挺が到着したとの事です。アクィラのウ゛ィエステ艦長からも、いつでも攻撃部隊を発艦できると来ています。ただ・・・』

『ただ・・・?』

直純が報告を躊躇っている。言っていいものか、と。しかしすぐに気を取り直して言った

『艦内で食あたりにより第八中隊が壊滅、爆撃に使用可能な稼働機数は63機』

何やってんだよ、初の奴らは

『食あたり?まぁいい、他の隊が動くなら問題無い。第八中隊は先の空撃で活躍したと聞くしな』

幸いにもペンネはそんな事もあるさ、と気にしなかったので息をつく。失態もいいところだぞ!?

『まぁ、以前ほど人数がいるわけでは無い、あまり気負わずともよいさ。安心したまえ』

見透かされたように言われて背筋がのびる

『君の父上との直接の面識は私には無いが、アンサルド幕僚副長から何度か話を伺っている。その限りでは、君は彼に考え方が似ているようだ』

『申し訳ありません。父の話は、あまり・・・父は父ですから』

直純は口ごもった。目には憎しみに似た光がともる

『ふぅむ。まぁいい、君もまだ22なんだ、その歳で責任を負いきれるんなら、私のようなナイスミドルの居場所が無くなってしまうではないか。どこかで気を緩める事を覚えるといい。張りつめたゴムをそのままにしておくと、劣化してちぎれるのは人も同じだからな』

若輩の軍人がそれではどうなのか?とも思えるが

『ありがたく思います』

頭を下げて、話を終わらせる

『で、やはり心配かね?コアを持ち込むのは』

ペンネも察してくれてか話題が変わる

『・・・はい、少なくともヘルシア周辺の森を全て焼き払うぐらいまでは待ったほうがよいのでは?と』

『その根拠は?いや、口だしするなと私が言いはしたがな』

考えを纏めるために直純は一拍間を置いた

『こちらの世界の方々の話を聞く限り、初期の抵抗以外は順調に植物達はその生存圏を広めてきました。それで世界は手中に収められると思っていたでしょう。しかし今回は、我々に跳ね退けられた』

ははん、とペンネ

『アレが次の手を打つタイミングを見計らう、という訳だな?今コアを手に入れても対処されてしまう可能性があると』

直純は頷いた

『切り札は最後まで取っておくべきかと』

『しかし対応が遅れて被害が増える可能性も少なくない。いや、小規模ながらも十数年に渡り抵抗を受け続けて複葉機すら撃滅出来ていない事からも不確かだ』

ペンネはその穴を指摘する

『時間概念が我々と大いに違う可能性も無きにしもあらずかと』

アレにとってはその十数年は猫とじゃれあって爪が刺さって痛いと思うだけの時間でしかないとすら考えられる

『それもあるだろうな、しかしアレは人間でない以上、我々には計り知れない。結局堂々巡りさ』

そこに答えなどないのかもしれない。それに答えを求める事自体がナンセンスではなかろうか

『そう・・・ですか』

考えることを放棄しては、いつか足元を救われるのではないか。そう考えてしまうあたり、直純はやはり、何を言っても志摩の子であった

『おいおい、批難しているわけじゃない。いざというときは君に意見を求めるよ。その時頼れるのは君だ、頼めるかな?』

ペンネは苦笑した。まぁいいか、客員将校である彼に、仕事としてそれを与えるのは悪い話じゃない

『はっ』

『まぁ、出たとこ勝負だ。イタリアはこれまで、結構運に恵まれていると思うよ、それを信じてみるさ』



そして三時間後、空爆と艦砲射撃が行われるなか、ヘリが数機飛んでいく

『いい感じに進んでおるな』

艦橋で幕僚と共に直純も観戦する

『ま、これほど砲撃精度が上がったのは幕僚副長閣下がかなり手を加えていただいたからもありますからな』

空母の件は不可抗力として、元のイタリアン・ヤマト計画は三隻の建造が進められていた。それに大きく関わったのも、当時のアンサルド幕僚副長の意見が大きい

『しかし、今回の出撃で結構撃ちましたから、砲身の交換がいりますなぁ』

『その点ではイギリス側が羨ましくもなるな』

性能はカタログでもイマイチな数字がイギリス海軍の砲の特徴なのだが、あれの最大の利点は砲の寿命が我々の砲より二倍近く長い事だ。アジア周辺の日本や、地中海一円のみの我々と違って、遠くインド洋やニュージーランドまで出ていかなければならない上での必須条件なのだろう

『予備砲身はたんまりある(大和級から36本、紀伊級の交換用砲身から64本がイタリアに引き渡された)、贅沢いうもんじゃないぞ』

実際無茶をすれば寿命が尽きても撃てる事は撃てるんだし

『航空隊、投弾しまぁす』



ドン!ドン!ドパパパパ!



爆発が遠目にも連続で起きているのが見える

『そういえば先程、森の方の回復力がかなり落ちて来ていると言っておりましたが、出血多量・・・と表現して良いのでしょうかな?』

幕僚はあれこれと話しているが、実の所することが無いので、直純と同じく観客と同じようなものだ

『ヘリ、降下しまぁす!』

『いよいよですな』

映画のクライマックスを見るように、彼等は身を前に乗り出す。それで何かが変わる訳ではないのだが

『串刺しにされないよう出来るだけの手は打った』

無事に任を果たしてくれ・・・ペンネも祈るような思いでヘリの方向を見ている



しばらく緊迫した間があいた

『樹が!』

白色化が一気に始まり、葉が嵐のように舞い落ちる

『こちら突入部隊、コアの奪取に成功!ライモンド・モンテクッコリに運搬するとの事です!』

伝令が叫ぶ

『ああ、見えている』

ヘリが何かを吊り下げてこちらに向かってくる

『温めたアスファルトを全体にぶっかけて、水で冷やすやり方でシールするのはうまくいったようだな』

何かが黒っぽいそれに見えてくる。あれはアスファルトだ

『それ程大きい物ではないですね』

全高は二、三メートル、奥行きも同様という所か。あんなに大きな森を操るというのに

『興味が出て来たかね、少尉』

『え?ええ、まぁ』

ペンネに言われて直純は顔を赤らめる。が、すぐに直立不動になって答えた

『いえ、あらゆる事態を想定するのが私の役目ですから、コアの実態を見ておくのm』

『アスファルトでコアは見えんのじゃないのかな?』

ピシッと突っ込まれて直純が石化した

『・・・』

滝のような汗をかく直純に、ペンネは笑いを隠しきれない

『少尉、だから気を抜きたまえ。持ち帰ったわけでは無いが、我々の手で出来る事は終わったんだ。君が調査報告でいざを考えるのも、それからだろう?』

少しぐらい見とれてたって、咎める人間はいやしないさ

『そ、そうです・・・よね、ははは』

直純は引き攣った笑みを浮かべるしか出来なかった。うむ、そうだな

『一度自室に下がりたまえ、客員で肩身が狭いかもしれないが、休まないのも問題だぞ』

『それは!』

交代が居ない任務である以上、オールウェイズオンデッキであるのが最低限の責任で・・・

『核使用の許可任務外は、君は我々の指揮下にあるはずだが?これは命令だ。それとも、命令不服従で営倉の床に休むかな?』

これでは拒否できない

『・・・志摩少尉、下がります』

『許可する』

しぶしぶながらも、直純は部屋へと戻っていった



ライモンド・モンテクッコリ



『オーライ!オーライ!』

かつてカタパルトが置かれていた第一煙突の後部にヘリが吊り下げたコアを受け渡そうとしている

『結構ひび割れてんな』

『一気に冷やしたんだ、仕方ねぇさ』

全体に万遍なく張り付けるのはきちんとやってくれている

『乱暴におろすなよ、剥離して露出してしまっては元も子も無い』

『わかってますって』

甲板長が指示してまわるのに従って、スムーズに作業を進めていく

『も一回アスファルトをかけておくべきじゃないかな?』

艦内に収納しながら水兵の一人が呟いた。結構脆そうに思える

『そうだな・・・一度アクィラに問合せておこう』

すぐに回して貰えるだろう


ピキッ



『ん?』

水兵が振り向く

『どした?』

『いや、なんかアレが動いたような』

他の者もコアを見つめる

『別に動いてねぇよ、脅かすんじゃ無ぇ!』

『気のせい、か・・・』

そうだよな、あれだけ割れてれば、そう感じてしまっても無理は無いか

『わりぃわりぃ、ちょっとソラミミストになってたわ』

『勘弁してくれよ、得体のしれないもの積むんだからな』

作業が再開され、コアが搬入される。しかし、彼等はもっと注意を払うべきだった



同日夕刻



ヴィーッ!ヴィーッ!



警報がライモンド・モンテクッコリに鳴り響いた時は、もはや手遅れだった。コアから芽が吹きいでて、まず監視についていた兵を串刺しにし、その身体を養分とし、衣服の生地を媒介にまた他の兵を串刺しにしていく。そしてたどり着いた甲板で、チーク材の取り込みにかかった

『艦長!コアが!』

『まさか!甲板の木を侵食しただと!』

こうなると、艦上の人間に打つ手は無い

『艦内に兵を下がらせろ!ハッチ封鎖!なんとしても食い止め・・・!』

艦長ら艦橋要員が見た最期の光景は、甲板から伸びた植物が、両舷から伸び上がって槍の如くガラスを突き破って己を貫く様子だった



駆逐艦カリスタ

『何が起きている!』

『モンテクッコリが!』

モンテクッコリを見て、艦長は何が起きているか悟った

『接近して海水を放水!』

なにか甲板から生え出しているが、火器は使えない。それなら海水でこそぎ落とすぐらいしかしてやれないだろう

『接近して大丈夫でしょうか?』

不安を口にした水兵の胸倉を、カリスタ艦長が掴みあげる

『助けないでどうするんだ!見殺しか!』

内側からあんな風な物に打ち勝つのは難しいはずだ。俺達がやるしかねぇ!



V・ムッソリーニ



『何事です!?』

戦闘配置のブザーによって直純が艦橋に駆け込んで入って来た

『最悪な事に、君の不安が的中したよ』

ペンネは努めて冷静な声音で答えた

『モンテクッコリでコアがどうやらシールを破ったようだ』

見たまえ、と頭をふってライモンド・モンテクッコリを指し示す

『っ!?』

なんだあれは?何やら触手のような物がライモンド・モンテクッコリの周辺海面をバシバシ叩いている

『今、近くにいる駆逐艦が放水を始めている』

『放水?そ、そうですね』

火器を使うわけにはいかないよな

『ですが・・・』

放水出来る距離なんて、よくそこまで接近を

『あれこそが駆逐艦乗りの矜持だよ』

それだけは少し嬉しそうにペンネが答える

『危険は、覚悟の上さ』

『それで、モンテクッコリからはなんと?』

艦の中の方は無事なのだろうか?

『わからん。何も言ってこん』

全滅したか、あるいは防ぐのに精一杯か、どちらでもろくな状況じゃない



ズビュル!



そんな効果音がつきそうな程、突然に触手が成長した

『いかん!』

ペンネが叫ぶが、そんな事をしてもどうにかなるものでは無い



ビチィッ!



カリスタの甲板に触手が叩き付けられる



ゾワァッ



まるで菌が広がるように触手はカリスタの甲板を侵食し始める

『離脱だ!離脱しろカリスタ!』

しかしカリスタは甲板についた触手を、これまでモンテクッコリにしていた放水で吹き飛ばそうと考えた。だがそれは誤判断だった

『駄目だ、倒れていく・・・』

見張り員が双眼鏡から後ずさりつつ呟いた。水兵達がバタバタと倒れて動かなくなっていくのだ

『おい!モンテクッコリの方が!』

幕僚の一人が指差した

『食って・・・やがるのか?』

成長したとでもいうのだろうか、モンテクッコリの方の触手があきらかに大きくなっている。どうすればいいのか、また他の艦を近付けるか?いや、それは被害を増やすだけだ。それに、海水を放水で浴びたからってすぐには効果はなさそうである。それはそうだ、海水かけたからってすぐに植物が枯れるような事はありえないんだから

『・・・核砲弾の使用を進言します』

すんなり口から出た言葉に自分自身で驚く

『少尉!君は二艦を撃沈しろと言うのかね!』

参謀長が驚いたように聞き返した

『二次被害が増えるだけです。艦内に入り込まれては打つ手がないのはご覧になったばかりでしょう?』

『通常弾で駄目なのかね、説明してくれるか?』

『ただの砲弾では満遍なく焼き尽くす事が出来ません。それに、下手に破片をばらまく事は避けなければ』

それから、主砲弾でコアを破壊するのはたやすいだろうが、こうなってしまった以上、その破壊に最大火力を行使するのが当然だ。ためらうべきではない

『まだ、カリスタ。いや、モンテクッコリにも生存者が居る可能性は高いぞ?』

ペンネは責める口調でもなく、確認するように問うた

『今、死んでないだけです』

助ける術が無いのは言った通りだ

『よかろう。砲術長、核砲弾用意。一撃で仕留める。各艦にも退避を命ずる。すぐにこの場を離れよ』

『く・・・こんな事で僚艦を失わねばならんとは!』

参謀長が悔しそうに床を蹴った

『第二砲塔から撃ちます・・・!照準あわせ!』

『艦外に居る者は艦内に退避、目標の直視を避けよ、必要のあるものはゴーグルを着けよ!』



ゴロン、ゴロン、ゴロン



石臼を挽くような音と共に砲塔が旋回する。真ん中の砲身が角度を取った

『少尉、覚えておきたまえ』

ペンネはモンテクッコリを見ながら言った

『これが二艦、900人に訪れる死だ』

直純には、何も言葉がなかった

『てぇっ!』



ドンッ!



たった一度の砲声が海面を叩いた



この時打ち出された18in20kt核砲弾の弾頭重量は、一トンきっかりである。しかし、大和級戦艦の主砲弾は本来の重量でおおよそ一トン半。一体、本来あるはずの500キロはなんなのか?それは、固体燃料である



ベースブリード(BB)弾



砲弾の推進力の妨げになる空気の渦を、固体燃料を燃やして吹き飛ばしてやるのを目的とした砲弾である。これのおかげで、対空砲弾と核砲弾には最良で60キロ近い射程が備えられる事が出来た。余談ではあるが、新式砲に換装した大和級の場合、キロトンは変えずに、更に距離を稼ぐロケットアシスト弾(RAP)を使用し、射程80キロ近くをたたき出している。ド変態も極まれりである



結果、モンテクッコリ上空300メートル



爆縮によって生じた核反応は、連鎖的にその規模を広げていき、やがて臨界を越える



ピカッ!



強烈な光がそれを眺めていた者達の眼窩を焼く。艦隊でゴーグルを付けずに見物していた不届き者を悲痛にのたうち回らせる罰を与え。艦隊は安全な距離を保ってはいるが、有害な放射線が生命の螺旋を貫き破壊する。そして強烈な熱が二艦を襲う、マストがぐにゃりと溶け、侵食された甲板を焼き、艦橋や砲塔の影を写真のように焼き付けた



最終的にカリスタとモンテクッコリにとどめを刺した物、それは、瞬間的に熱せられ膨張した空気、その強烈な突風である。これが熱線で熔けて脆くなったマスト、煙突を倒壊させ、機銃座と艦橋天蓋を吹き飛ばし、砲塔の台座を歪ませ、モンテクッコリではミサイル発射基を根本からめくりあげさせた



キラキラッ!



ミサイル発射基の直下はミサイル弾庫である、そこに高温高圧な空気の塊がなだれ込む。結果は種類の異なる光と、艦内の空気の更なる膨脹と破断



ゴオッ!



そして、瞬間的に連続してそれが行われた後の仕上げとして、気圧の変化により爆心地上空に向けて吹く強風が軽い残骸を巻き上げる




全てが終わった時、海面に残っていたのは、モンテクッコリの艦首へさき部分と、艦上の構造物をごっそり削られたカリスタだったものだった



この全てが終わるまでにかかった時間は、一分に満たない。たった一分にもだ。核は全てを焼き尽くし、破壊し尽くした。それも一発の砲弾で



『これが・・・』

『核砲弾の力・・・』

地中海で核実験の出来ぬイタリア海軍にとって、実際に核の起爆を見た者はわずかだから、潮騒のようなざわめきが艦隊に広がっていった

『うええっ!』

カリスタの方を見直していた見張り員が吐き戻した

『おい!どうした!』

幕僚の一人が怒鳴り込んで見張りの水兵に言った

『か、カリスタの艦橋の窓に、窓に・・・人がぁあああっ!う゛え゛ぇぇっ!』

他の見張りや、双眼鏡を持つ幕僚らがそういわれてカリスタの艦橋を注視して顔を真っ青にした

『わ、私にも!』

持ち場についたまま凍りついている見張りを押しのけて、直純は望遠レンズを覗き込み、絶句した



核砲弾はムッソリーニから見て、カリスタらの向こう側。遠弾となるように撃たれていた、だから発生した強風はこちらに向けて吹いた。真っ黒焦げの死体が、足や手を突き出して艦橋の窓からみっしり突き出て、いや、張り付いていた



ボトリ



突き出ていた部分が崩れ落ちた。そして生焼けの中身が垂れ下がる



ガチッ、ガチッ!



直純はしばらく、自分の歯が震えて鳴っている事に気付かなかった

『あ・・・ああ・・・っ』




イタリアの兄弟よ、イタリアは今目覚めた

シビオの兜を頭に戴き

勝利は何処にあらん

創造主は勝利の女神を、ローマの僕と創りたまえば

凱歌は常にイタリアに掲げらん

海軍に参加せよ

我らに死の覚悟あり

イタリアは呼び招く、しかり!



叫びだす寸前だった直純を制して、高らかに国歌(歩兵隊の部分を海軍に変えているが)を歌いだしたのはペンネ本人だった

『っ!何をしている、味方艦が沈んで行くのだ、他の者も歌わんか!』

参謀長が察して叱咤する。その向こうでカリスタが傾いていく、どうやら船体にもダメージがいっていたらしい

『モンテクッコリ、ならび、カリスタの乗員に、敬礼』

カリスタの船体が消えるまで、国歌の斉唱は続いた

『では、帰還しよう。艦隊を再集結させる。アクィラにはラジオゾンデの放流を命じる』

『ち、中将』

兵らの士気は落ち、自分は危うく叫びだす所であったのを、あれほど見事に纏めるなんて

『下がれ、少尉。君の任は十分果たされた』

そうか、もう俺には用なんて無い物な

『・・・はい』

直純は、ふらりとした足どりで自室へと戻っていった

『・・・中将』

参謀長は直純が出ていくのを見計らって言った

『潰れるか潰れないかまでは、私にはどうしようもない。そうだろ?』

少しの間、休ませてやる。それぐらいしかやりようがない。あとはあいつ次第だ



そして、放射能洗浄と、ラジオゾンデによる風向きの調査による航路迂回の後、ヘルシアに第二艦隊が戻ったのが2月23日だった



その時、直純は囲まれていた。カリスタの、モンテクッコリの乗員に

『何故俺達を撃った!』

『どうして核を使った!コアは通常の主砲弾でも倒せたはずなのに!』

『まだ死んでなかったんだぞ!俺達は!』

『やめろ、やめてくれ・・・俺だって撃ちたくなんか!』

本当にそういえるのか?俺は?

『撃ちたくなんか・・・』



『命を返せ!』

『人生を返せ!』



ボッ!ボッ!ボッ!



返せ、返せ、との連呼の中、次々に乗員達が燃え上がって炭になりながら直純に押し寄せる

『くっ!来るなぁっ!』

だが、振り払えない、おしくらまんじゅうとでも表現するべき状況まで追い込まれる。そして目の前で



ドロォッ!



身体が崩れて、中身が露出した人々が絶叫しながら直純にのしかかって来る

『うわぁああああああっ!!!』




『はぁっ・・・はぁっ・・・』

起きた。また、この夢か・・・もう何日も睡眠が満足に取れていない

『ん?』

そこで直純は、自分が誰かに抱きついているのに気付いた・・・血の気が引いた

『ええかげん離れてもらえんやろか?ああもぅ耳元で叫びよってからに』

フィリネは耳をピコピコさせつつ押さえている

『う、うわわわっ!す、すいません!』

慌ててフィリネから身体を離す。すごいやわらかい感触と、思った以上の双丘の盛り上がりが・・・

『なんや、うなされとったみたいやけど、大丈夫かいな。えらい汗やで?』

怒られるかと覚悟していたら、心配されて拍子抜けする

『・・・大丈夫です。すいません。一人になりたかったもので』

『ふぅん。まぁええやろ、いろいろ今回だけは許したるわ』

どうや、心広いお狐様やろ?と、フィリネが胸をはる

『ありがとうございます。でも、やはり場所を変えます。ご迷惑をおかけした』

『あ、いや、いいやん。寝とき!ほ、ほれ!ひざ枕したるさかい!』



コロン



フィリネの着ているつなぎの合間からペンが転げ落ちる。や、やばい、やばいでぇ・・・唸ってる間に顔面におもいっきし落書きだらけにしたなんて言えんわ、ホンマ(汗)

しかも相当精神的に追い込まれてるとは思っとらんかったし、うかつやったってぇか、何でそないな時にこんなとこくんねん!いやそれでも(ry

『いえ、ひざ枕はともかく・・・その、少し、そばに居ていただけないでしょうか』

狼狽するフィリネとペンを気付かないまま、そんな事を言うあたり、直純はやはり、精神的に少し参っているのであろう

『えーよ、えーよ、寝とき寝とき、にゃはは』

『ありがとうございます』

直純は横になった。しかし、カタカタ震えている

『・・・寝るのが怖いねんか?』

少し戸惑ってから頷いた

『お恥ずかしながら。寝なければ次の任務に支障がでかねないというのに』

ここしばらくろくに寝れていない。寝ても、あの悪夢で叫びながら起きてしまうので、艦の方にも、他の兵員に迷惑がかかるだろうと出て来た。それで一人になれるところを探していた訳だ

『・・・寝や、そして起きたら付いてきぃ、連れていったる』

『どこ、へ・・・?』

疲れと薬から、また急速に直純は眠りに落ちていく。だが、確かに聞いた

『モール族のとこや』

『モール、ぞ・・・く?』



享楽と絶望のカプリッチョ第十一話【~アンダーサバイバー~】



感想・ご意見等お待ちしております

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ