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第9話・焔

イタリア第二艦隊上空




《各小隊、集合をすませたな》

管制機に乗ったダンテ飛行長が無線で問い掛けている。アクィラから最初の旋風が飛び立ってから20分程が、空中集合を成し遂げるまでにかかっていた

《後5分は縮めたいなぁ》

隊の一番前を進むAq-801・Ⅰ機の柿崎少佐がぼやいた

《爆装の機が殆どだから、少しは甘めに評価してくれると助かる。先導は頼んだぞ》

《任せときな。現地まで迷わず届けてやんよ》

渡り鳥。帝國海軍のパイロットがもつ航法の正確さは、そう呼称されることもある

《その先はうちの中隊が頂く寸法だな》

Aq-501・Ⅰ、第五中隊が横についた

《知ってるか?そんな風に言ってる奴ほど失敗するんだぜ》

《シーカーさえ動けば、勝ちは貰ったようなもんだがな》

他の隊も並ぶように、って、陣形維持しろよバカ、あ、あぶねっ

《貴様ら連れてって貰いたけりゃ後ろにさがってろ、迷子になってもしらんぞ!》

うちの中隊長が怒鳴った

《そこまでだ。一機でも未帰還が出たらエミリア女史に嫌われちまうぞ。戦う前に余計なへまをしたら洒落にならん》

飛行長が宥める

《へーい》

それぞれの中隊が所定の位置に戻っていく。いいぞ、先頭の位置を早々譲ってたまるか

爆装した旋風の編隊は、時速800キロ程の速さで進撃する。この爆装時の速度の早さから、戦闘機の現役から退いた後にも旋風が攻撃機として整備が続けられたのも頷ける話である。しかしそれは未来の話

『さすがにとれぇな』

1トン爆弾を二発を翼下に抱えて、動きが多少鈍く感じるのは、初の戦闘機乗りが漏らす感想として真っ当な物だった

『だが、頼んだぜ』

こいつの爆弾が効いてもらわないと、さらに大きな爆弾となれば、戦艦の砲弾を改造した奴か新開発するしかねぇ。エミリアたんは俺の嫁とするのに、時間がかかりすぎちまう

《中隊、聞け》

唐突に中隊長の通信が聞こえた

《トスボミングじゃあ命中率は期待できないわな》

上昇しながら適当に爆弾を投げるんだから、当然命中率は低い

《実はな、試したいやり方がある。おそらくは攻撃力も上がるだろう》

それは興味深い話だ

《対艦の攻撃方法としては、高い練度が必要な割に効果が薄いとされた戦法なんだが、スキップボミングといってな・・・》

柿崎少佐は、対ダムの攻撃方法として細々と伝わっていたこの方法を履修した一人だった

《やれるか?》

皆が沈黙した。無謀ではなかろうか?ただでさえ樹木との接触が注意されているというのに

《おそらく皆、危険過ぎるのではないかと考えているだろう。だが、ちょっと待ってほしい。先手を他の奴らに譲って考えてみないか?》

命中弾で敵がやられてしまう可能性は無きにしもあらずだが・・・

《その他多数の外れ弾が周りの樹木を吹き飛ばす、ですかい?》

《しかし、爆弾の煙で幻惑される可能性もあります》

反跳爆撃並の低空侵入を主とした攻撃方法を取るとなると、低空飛行時の視認性の悪さは即衝突に繋がる

《その辺りがあるから、提案という形にしたんだが、やはり》

咄嗟に初は通信に割り込んでいた

《上等です!やらいでか!》

《初、お前なぁ》

全員ため息をついた、一番の下手くそはお前だろうが

《先導、確かに役に立ちます。ですが航路やら地形目標の精査が終れば、おおよそお払いばこです!さっすが日本人、俺達には出来ねぇって事をやらにゃ、働いた事にはなりません!》

《・・・》

しばらく沈黙があった。ミッションを確実にこなすだけであるならば、危険な攻撃方法を採る必要は無い。初攻撃のいの一番に、そういった行動を見せておいた方が、今後の為にはより良いのでなかろうか?

《いいだろう。やろうじゃないか》

《言ったからには、しっかり付いてこいよ!》

《各中隊、そろそろ海岸線を越える頃合いだ。音速を突破して侵入せよ》

ダンテ飛行長からの通信が途中で割って入った

《では、第八中隊の腹は決まったな?》

《応!》

柿崎少佐の問いに、全員が一言で応えた



ゴォオウッ!



旋風のエンジンが轟音をあげて、その出力を跳ね上げる

『ぐっ!』

音速を越えた所で発生したサウンドバリヤーに伴うGが初を襲う。その下で緑の絨毯のような陸地の上に、情景が変わる

『何もありやしない』

まがりなりにも、都市があった地域であれば、周辺にも家屋等があってしかるべきはずなのに、それが一切無い。鬱蒼とした森が広がるだけである

《各機、前方を注視しろ。なんてこった・・・》

エミリアに聞かされたコアの位置。彼女達が爆弾の投下目標として見ていたもの。聞かされていたとはいえ、眉唾だったそれが、大きく見えてくる

《300メートル級の樹木・・・世界樹とでも言えば良いのか!》

コアは確かその根元、そこに爆弾を叩き込まなければならない

《下手にトスボミングできねぇぞこれじゃ!離脱した拍子に枝に絡めとられちまう》

踏み込んだ爆撃をすればするほど、その枝葉にかかる可能性は高くなる

《ちぃっ・・・ロックは無理か!》

対空ミサイルを搭載した中隊長が舌打ち交じりに感嘆する

《エスターテ1(ダンテ飛行長のコード)、攻撃方法の変更を具申する。これでは命中させるのが難しい》

しばらく間があって、飛行長が答える

《いや、それならばその木に爆弾を投じてみろ。焦ることは無い》

勘弁してくれ!と、声が上がる。それじゃ俺達じゃなくて二次攻撃に出る奴らが撃破してしまうじゃないか!

《見ろ!俺達が通った所から!》

ふわふわと、いや、ぶわぁああっとたんぽぽの綿毛のような物が浮かび上がって来る。そして大地を割り、突き刺すように木の幹が飛び上がっては倒れていく

《あっちは熱源があるぞ?》

いや、それよりも

《ち、あまり滞空するのは得策ではないようだな》

木の上空で回って居ては、いくら音速で敵さんの反応が追い付かず遅くなっているとしても、このままでは追い付かれてしまう。そうなれば低空侵入もままならない

《くそったれめ。各機、適当にばらまけ!今しか攻撃チャンスはないぞ!》

一つの中隊が、木に出来るだけ近づいてのトスボミングを行う。爆炎が世界樹の枝を燃やし、外れ弾が森を焼く

《くそっ、ならば緩降下で!》

《馬鹿!勢いで目標をトスボミング以上に外しちまう!》

緩降下爆撃とはいえ、ただの爆弾では高速化の進んだ現在の航空機だと、外れる可能性が高すぎる(誘導爆弾が無いわけでは無い、だからその分72発という数を用意したのだ)

《どうも、お誂え向きな状況が作られたようだ》

そんな中で低空高速飛行に置ける、非誘導爆弾での攻撃ミッションをやった人間がいるのは

《第八中隊、しっかりケツについてこい!イタリア人どもの目を、ひんむかせてやるぞ!》

《おうさ!》

全機が全速状態で操縦桿を倒し、降下に入る

《日本人ども、とち狂ったのか!?》

どこに爆弾を落とそうとしてやがる!

《いや!違うぞ!?》

奴ら森のスレスレを飛んでいくつもりだ

『くそったれ!くそったれ!くそったれぇええ!』

初が恐怖に叫ぶ。なんて低高度を飛びやがるんだ。少しチビッタ

《各機、15メートル以上に高度を上げるな》

ふ、ふざけんじゃねぇよ!殺す気か!やべぇ、枝がわかる枝がわかるよ、葉っぱ吸い込んじまうんじゃないか!?

《初ぅ、頭一つ高いぞぉ!》

《う、うおおっ!》

怖えぇ、操縦桿を動かすのが怖えぇ!

《こら、あまりいじめてやるな、投下用意!》

柿崎少佐から通信が入る。そうだ、セーフティーを外さなければ、爆弾が落とされない

装置をいじる。く、手袋の上だというのに滑るぜ

《あの山の間を通るぞ!越えた所で投弾だ!》

機体を滑らせて進路を変える。他の飛行隊が投じた爆弾の煙にまかれない為もあった

『勘弁してくれ』

機体を動かすたびに冷や汗が止まらない

『ん?』



俺達が通ろうとしている山が震えたような・・・



『山の間・・・まさか、音速越えてんだぞ俺達・・・』

認知されてるわけが・・・いや!

『衝撃波か!』

正確な所を言うと、グランドエフェクトにそれらは反応していた。彼等が地上から10メートル以下のところを飛んでいたためだ

《まずい!各機上昇!上昇!》

《三番機、何言ってる!》

小隊長が止めに入るが聞いてられない

《山の間に入ったらやられちまう!いそげ!》

もう目の前に!

《・・・わかった。各機上昇!爆弾も棄てろ!》

《中隊長!?ええぃ!》

命令となれば仕方ない



ズシャシャシャシャ!!!



中隊長機が山の間の一歩手前で上昇するその下で、山の間を完全に塞ぐように巨大な幹、いや、根か?茶色いそれが勢いよく閉じさせる

《なにぃっ!》

《下手をすれば全機やられていたな》



ドーン!ドドーン!!



狙いを外してしまったが、その大きさから何発か命中したようだ



《全機、無事か?》

柿崎機が少し上昇して数を数える6、7、8・・・一機足りない!

《初!初はどこだ!?》

どこにもその姿が見えない

《あの馬鹿!他人に注意してて、自分の操作を忘れやがったな!?》

だが、あの山間の壁に衝突した気配は無い

《中隊長!木が!》

あの大きく広がった枝葉の葉が、まるで緑の嵐のように舞い落ちている。それが攻撃隊の爆撃で燻っていた火に引火して、大きく燃え広がる

《やりやがったな!日本人!》

《すげぇ!》

回りにイタリア人達の編隊がよってくる

《誰か!初の機体がどうなったか見てないか!?》

《あの野郎にも九分の一の撃破判定がって、なんだ?あいつがどうし・・・!》

他の中隊もざわつき始める。確かに一機旋風の姿が見えない

《エスターテ1!確認してくれ!》

《少し待て、IFFも反応が消えている。電探にも反応が無い・・・巨木の影になって探知できていない可能性も無きにしもあらずだが・・・》

損傷して・・・

《みんなを助けて自爆なんて、格好つけな事しやがって!大馬鹿野郎が!大馬鹿野郎!!》

《・・・あばよ初。撃破記録はお前にやるよ、あとはちゃんとイタリア海軍航空隊の誰かが初音ちんを貰っといてやる。安心しろ》



《ザッザザッ・・・ちょっと待てやゴラァッ!》



雑音交じりに、初の声が

《初!どこだ!?》

柿崎が叫ぶ

《すいませんザザッ・・・あちこちアラートばっかりで聞こえにくくて》

《柿崎少佐、こちらでも捕まえた、低空域、ゆっくり旋回してこちらに向かって来ている》

大きなため息があちこちから流れ聞こえてくる。とりあえずはよかった

《損傷知らせ!飛べそうか!?》

《ザッザザッ・・・翼の両端が無くなってまザザッ・・・んとか》

翼の両端が・・・いや、旋風の翼端には動翼は無い。ラッキーな奴だ

《無茶苦茶しやがって!こいつめ!》

《一応、撃・・・アは俺持ちでいいっすかね?》

それに身体も、それだけの言葉が吐ければ大丈夫だろう

《馬鹿、始末書100枚が待ってると思え!》

《それからアクィラの皆からデコピンな、上手い事しやがって・・・2000人ぐらい、安いもんだよなぁ?》

うへぇ、と初。自然と笑みが柿崎に浮かぶ

《エスターテ1、ミッションコンプリート。これより全機、アクィラに帰還する》

《了解した。で、たった今アクィラから連絡が入った。帰ったらエミリアたんの手料理が待っているそうだ。冷めないうちに、帰ってこい》

《了解、帰るぞ野郎ども!》



ヴェニト・ムッソリーニ




『第二斉射、テーッ!』



ドドドッ!!!



世界樹に向けて砲弾が飛んでいく

『こんなに巨大なものだとは想像しとらんかったな』

ペンネ中将が嘆息する。あれを最悪の場合ブチ折るには、結構な時間がかかるやもしれん

『抜けるのは当たり前として、枝の傘で時限信管がズレるかと冷や冷やしましたがね』

傍らの参謀が全くですと頷きながら言った

『インペロの砲弾は比較的軽い方だからな。あちらも大丈夫のようだから、問題あるまい』

最近大重量化が進む砲弾に対応仕切れてない部分が我が海軍にはままある。この艦に積んである18in砲に満足しないで、うちのOTOと提携して新型砲・・・これまでの重量弾より重い2トン(正確には1.95トン)弾でさらに遠距離に投射しようとする日本人は変態だが。まぁ、20in砲をもつイギリスのセント・アンドリュース級に絶対勝利を!とか言ってるから仕方ないんだろうが

『報告!アクィラからの攻撃隊が、攻撃を成功させたとの事です』

伝令が伝えにくる

『やりおったか!』

『であるなら、今後攻撃の主体は航空機になるな』

航空爆弾によって破壊できるなら、戦艦主砲で破壊できない事は有り得ない。楽が出来そうだな

『・・・』

志摩少尉は主砲を眺めていた目を離し、伝令を一瞥した。そうか、アクィラ飛行隊には少尉の弟がいたな

『伝令、被害については何か言っていたか?』

『損傷機あるも損失無しとの事です!』

そうか、と伝令を帰す

『よかったな志摩少尉』

『え!?あ、はい。ありがとうございます』

で、するべき事は集約されて来たわけだ。物理的に木を倒す事は出来る。しかし根絶や撃退にはそれでは程遠い

『観測機、敵情報告。特に砲弾孔に関して詳しくしらせ』

第二段作戦に移るのには、その情報が必要だ。ペンネの命令によって、海上から観測していたヘリが高度をあげて木に近付いていく

『第二段作戦・・・コア捕獲作戦、か・・・』

直純もヘリを目で追って空を見上げた




享楽と絶望のカプリッチョ第十話【~試練の閃光~】




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コルセア相当ならこれをやらざるをえなかった、今は反省していない(マテ)

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