9話
8話の続きに当たるものになっています。なのでおなじみの読者様に今一度8話を見直すことをお勧めします。
「アンタウザいんだけど、ホント消えてくれません?半径5キロに入らないでもらえます?邪魔なんで」
冷たい眼差しで彼女は目の前の男を睨んだ。
「さ、紗希ちゃんが目の前に……!」
しかし、男はその警告が耳に入っていない様子。それどころか両手を紗希に伸ばしつつ歩み寄ってくる。
「き、聞いてんの?アンタ……」
紗希はそう言いながら思わず後ずさりをした、背筋が凍り、全身が震えた。
キツく言って近寄せないようにしようと思っただけなのに、それだけなのに何これ……。
な、何あたし怯えてるのよ……このままじゃホントに取り返しのつかないことになっちゃう。
「へへ、自分から近づくなんて、コレってオッケーって事だよね……?」
男は徐々に距離を縮めてくる、逃げたい。おかしい、足が動かない、怖い……怖い、助けてよ慧太……助けてよ、怖いよ……逃げたいよ。こんな事するんじゃなかった……。
「来ないで……嫌、来ないで……」
ふふふ、へへへ……と気味の悪い笑いをこぼしつつ男が紗希に近寄ってくる。
こんな事に……なるはずじゃなかった……。
◆
「よし、話を整理しよう」
俺は現在綾太いや、綾子について会議を行っている。そう、ここは例の喫茶店。
明日香的にはやはり彼女という事もあって彼氏を他の女子にチヤホヤされたくないんだろう。
デリカシーのないらしい俺だが結構いい考えにたどり着いていると思う。
「でさ、あたし、提案があるんだけど……」
小さな声で明日香が俺にそう言ってきた。
「ん?それは何?」
小さな声で聞いてみた。
「猫耳付けたいんだ……ダメか?」
…………あぁーえと、えっと?何??猫耳?にゃんにゃん?綾子に?
そもそも何の話だっけ?綾太を助ける話じゃなかったの??他の女に自由にさせたくないって事じゃないの?それはただ単に俺の思い違いだった?デリカシーって何?コレに関係ある?誰か教えて、マジで。
うん、俺の思っていることとは180度違ったという事が分かった。
俺はジュースの氷を口に放り込みバリバリと音を鳴らす。結構ストレス解消になる。
個人差はあるんでそこんとこ注意、最悪の場合口内氷河期突入だ。ぁ、間違えても乾いた氷を含むんじゃないぞ、血が出るからな。
◆
「………………(バリバリバリ)」
頭で整理してみる。明日香は綾太に猫耳を付けさせたいのだがそれを言えずにいた、と。
で?……俺が女子に提案しろってか。ふふ、俺がそんなこと言ったら紗希が何言うか分からんぞ。
まだ死にたくないからな、そんな事言わないぞ、ゼッタイに。
「……………(バリバリバリ)」
明日香もバリバリ始めやがった。はたから見てどうなんだこの二人。
バリバリバリバリ、バリバリバリバリバリバリ、ラジオならギリギリ許される放送事故、とまぁ、そんなことどうでもいい。あー氷河期キタコレ。
口の中の氷を全て噛み砕き、コップに残ったそれらを飲み干しストローを咥えながら明日香に言った。
「綾太に猫耳付けることは賛成するから勇気出して言ってみろよ?」
「あたしにそんなこと……言えるわけ無いじゃん」
バツが悪そうに明日香はそう答えた。
「何で言えないんだ?同じ女子だろ?男の俺はともかく、明日香なら気軽に言えるんじゃ……」
そう言うと明日香は首を横に振った。どういうこと?あぁーもう考えるのは止めだ~。どうせ外れる。
「そもそも、彼女としてそんな事を提案するのはどうなんだ?って問題なんだよ、もしそれで綾太に嫌われたらあたし紗希襲うからね……?」
オイオイマテマテ、おかしいおかしい、お前の矛先はぐにゃりと行ってるんじゃないか?
何で紗希を襲うんだよ。もしそんなことしたら俺は綾太、いや、あえて綾子を襲ってやる。
…………やっぱ止めた、男襲うとか思っている時点で正気じゃないな俺。
それからしばらく明日香は俺を説得し始めた。どうしても自分で手を下さずに綾太に猫耳を付けたいようだ。勇気出して言っちゃえばいいのにー。
明日香の説得に対して俺はいやいや、と首を振るばっかり。綾太と友達として亀裂入りそうだよ。
そして俺がおかわりに氷を取りに行こうと席を立ったとき、明日香が呟いた。
「はぁ、無理かぁ。紗希なら負けじとメイド+猫耳やると思うんだけどなー」
「いっ、今なんて……!?紗希が……何だって?」
「んー?べっつにー?なんでもありませーん」
くそ、明日香め、わざとらしく言いやがって……。ははっ、でも俺ちゃんと聞いちゃったもんね、そうかそうか。綾太が猫耳付ければ負けじと紗希も猫耳装着と。そして?メイド服を綾太が着ると紗希もメイドさんに変わっちゃうって?いいじゃん、すっごく良い!乗ったぜ!なんとしても綾太にメイド服を着させて猫耳も付けてやる……!覚悟しろよ綾太……!
こうして、名づけて【綾太よ、吹っ切れたらどうなんだ?】作戦が開始された。
面白かったら何よりです。
感想、評価、募集しています。
特に感想を送っていただけると嬉しいです。
では来週をお楽しみにしててください。