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茶畑の里 花房さんちはみんな居候。  作者: ミラ
第二章 花房さんちの花奈ちゃん

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9/35

お茶の時間

 私は陽和くんに懇願して家に帰り、またもや茶の間に倒れ込んでぐったりした。子どもの安全を守るのは神経が磨り減る。陽和くんは寝転ぶ私の上を何度も飛び越えながら、戦いごっこをしていた。

 私はたぶん川の役だ。陽和くんがポーズを決める。

「サンタクロース戦隊!クリスマスナンジャー!参上!」

「あっはは!何それ!」

 陽和くんの決め台詞に、思わず大笑いしてしまう。陽和くんが考案したオリジナル戦隊ヒーローだそうだ。クリスマスが大好きなのだなとすぐわかる。

 陽和くんの戦いごっこを眺めていると、中学校から帰宅した凌くんが居間に現れた。彼は同級生の親の車に乗せてもらって帰ると、朝言っていた。

「あ、凌くん、おかえり……」

 彼の眼鏡が私をじっと見下ろしている。

 おかえり、の先に何を言えばいいのかわからず、気まずかった。クールな印象の彼に何を言われるのかと思っていたら、凌くんが大きな手ぶりで陽和くんを指さした。

「クリスマスナンジャー!今日こそ許さない!」

 目を輝かせた陽和くんがまたポーズを決める。

「出たな!超悪ブラックサンタ凌!」

「凌くんが超悪ブラックサンタだったの?!」

 私が思わず聞くと、凌くんが今度は私をじろりと睨んで言った。

「みんなのプレゼント奪ってやるからな!」

「え、ブラックサンタ、超悪い!」

 滑らかに凌くんがクリスマスナンジャーごっこに飛び入りしてきて、私はお腹を抱えて笑った。もっと大人っぽいのかと思ったが、凌くんはノリが良かった。

 全身筋肉痛なのに、顔面も筋肉痛になってしまった。


 しばらくレンジャーごっこで遊んだあと、壁時計が夕方の五時を告げた。時計を確認した凌くんが、すっと立ち上がって台所へ足を向ける。

「陽和、晩ご飯の用意するよ」

「はーい!」

 陽和くんも元気に続いて、大人の私が置いて行かれる。

「二人でご飯作るの?」

「僕が味噌汁を作って、陽和がご飯を炊く。旬くんがメインのおかずを作って、夕飯完成」

 凌くんが台所に立つと窓から西日が差し始める。橙色に染まる台所で、凌くんが的確に答えながら冷蔵庫を開ける。陽和くんはシンクでせっせと米を洗い始めた。

「私も手伝わせて!」

 私の声に凌くんがちらりと顔を向けた。

「別にすることないよ。茶畑手伝ったんでしょ?寝てれば?」

「オレはお米洗い戦隊オコメンジャーもやってるから、これはオレの仕事やで花奈ちゃん」

「でもダメダメ!二人が働いてるのに、私が寝てるなんてありえないから!」

 私の倫理に、二人にきょとんとする。私は凌くんに詰め寄った。

「凌くんは花房さんちの居候として、私の先輩だよ。私に何をしちゃダメか教えて」

「先輩……!?」

「先輩」の響きを気に入ったらしい凌くんはふふんと笑いながら眼鏡を押し上げた。凌くんは割と融通が利きそうだ。

「例えば、私が晩ご飯のメイン料理を作ったら、旬くんに怒られる?」

「旬くんが怒ることとか絶対ない。冷蔵庫の食材を全部焦がしても怒らない」

「旬くんすごいね……」

 凌くんの言い切りに迷いがなくて、旬くんがどういう人物なのか一発でわかる。

「じゃあメインは私が作る」

「できるの?」

「できるよ?!」

 疑う凌くんに堂々と言い返す。彼は手慣れた様子で味噌汁を作り始めた。居候と言っても、それぞれがしっかり家のために働いている姿は頼もしかった。

 私は凌くんに了承を取り、冷蔵庫の中身から、豚肉と筍の中華風旬野菜炒めを作った。

 お昼寝を終えてダイニングにやって来た澄江さんが、私の料理を見て目をぱちくりさせた。

「まだうちに来たばっかりやのに、気使ってくれてありがとうな」

 澄江さんは子どもにするみたいに、私の頭をぽんぽんと撫でてくれた。私は飲食店で働いてお金のために人にご飯を作ってきた。けれど、このぽんぽんより嬉しい報酬はもらったことがなかった。

 日が暮れて、三人で作ったご飯をダイニングテーブルに並べていると、やっと旬くんが茶畑から帰って来た。旬くんは台所にバタバタ走り込んでくる。

「遅くなってごめん!今からご飯作るから!って、え?!ご飯できてる何で!」

「花奈ちゃんが作ってくれたー!早く食べよ、旬くん!」

 陽和くんが旬くんの腕に飛び込んで、抱っこをせがみながら言った。陽和くんを軽々と抱き上げた旬くんが、私に頭を下げる。

「ごめん、花奈ちゃん。俺の役目なのに」

「いえ、一日中茶畑で仕事して、帰ってからご飯作りとか重労働ですよ。良ければこれからは私がメインを担当しますよ」

「い、いいの?」

「あ、味に問題がなければですけど」

 旬くんの顔がぱぁっと明るくなる。

「花奈ちゃん本当にありがとう!今、繁農期だからめちゃくちゃ嬉しい!」

「いただきまーす」

 旬くんが私に何度も頭を下げる横で、凌くんと澄江さんはさっさと箸を進めてしまった。独自のペースが共同生活のコツなのかもしれない。

 私が作った野菜炒めは美味しいと評価をもらって、旬くんはご飯を三杯もおかわりしていた。作ったものをおいしいと食べてもらえること、人と食卓を囲む温かさ、誰かに作ってもらった味噌汁とご飯。どれも絶品の味だ。

 夕飯が終わり、風呂の順番が回ったあと、旬くんがみんなを呼び集める。

「みんなーお茶の時間だよー」

 昨晩教えてもらった、花房さんちのお約束の時間だ。

 各々部屋に散っていたみんなが出てきて、茶の間に集まる。ちゃぶ台に湯呑を並べると、こぽぽぽと水音と湯気を立てて旬くんが一杯ずつお茶を淹れていく。旬くんがにっこり笑って私に湯呑を渡す。

「これは去年の川添茶だけど、もうすぐ一番茶が飲めるよ」

「一番茶って何ですか?」

「一番茶は今年最初に摘んだお茶って意味。今月末には今年最初の収穫をするつもり。いっちばん美味しいから楽しみにしてて」

 にっかり自慢げに笑う旬くんの作った一番茶は、どんな味だろうか。茶の間の円ちゃぶ台の側で、座椅子に座った澄江さんが茶を飲んで一つ頷く。

「今年は特にええ出来になりそうやからな」

「だよね!」

 旬くんは無邪気に笑うが、お茶を飲んだ凌くんがきっぱり言った。

「まあぶっちゃけ一番茶も二番茶も何が違うのか、僕にはわかんないけど」

「え、凌わかんないの?!わかんなくてもいいけどさ、俺が一生懸命作ったんだからさ、こう気持ちで美味しいとかあるでしょ?!」

「ないけど」

「あってよー!」

 凌くんは眼鏡を曇らせながらずずずとお茶を飲む。彼の肩にしだれかかって旬くんが泣き真似をするので、可笑しかった。

「私もお茶の違いがわかるほど繊細な舌はしていないと思います。けど、実際に茶畑で旬くんが働いているのを見たので」

 私は湯呑のお茶を一口飲んでから、旬くんに言った。

「旬くんが汗をかいて育てた一番茶はきっと、一番真面目で一生懸命な味がするんでしょうね」

 私がそう言って笑うと、旬くんは目を瞠ってから後頭部に手を当てた。

「あ、ありがとう花奈ちゃん」

 凌くんが旬くんの反応を見て眉を歪めた。

「うッわ、照れないでよ旬くん。いい歳の大人が照れるなんて見てる方が恥ずかしい」

「ちょっと凌!そういうこと言わないで?!」

 旬くんが凌くんの両肩を揺さぶるのを見ながらみんなで笑っているうちに、あっというまに一時間は過ぎてしまった。

 お茶の時間は、義務的に今日の報告をするわけでもなく、誰かが反省する会議でもない。

 ただお茶を飲んで、一緒にいる時間が貴重で居心地が良い。陽和くんが小太郎さんに会いに行った話をし始めると、みんなが頷いて聞いた。

 そういえば今日一日、職場で働いていたときの同じ通り、散々ダメダメと言ってしまった。

 けれど、花房さんちでは、誰も私にチクチクしなかった。澄江さんが言っていたように、私のダメをどう受け取るかは、本当に周りの人次第なのかもしれない。

 このお茶の時間の中にいると、そう思い直せた。

 私が私のままいても、責められない場所もある。ダメダメが意外と役に立つ場面もある。その実感を川添茶の旨味とともに丁寧に飲み込んだ。


 筋肉痛は辛いが、明日もまた、このお茶の時間を楽しめるように。


 花房さんちのハードな田舎居候暮らしに、慣れていこう。

 


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