誕生日会
茶の木が肉厚の葉で茂り、茶畑が眠りにつく十一月の初め。澄江さんのお誕生日がやってきた。夕飯には居候全員で鉄板を囲んで、澄江さんの好物の焼肉パーティをした。
みんなでわいわい焼きながら食べて満腹になったころ。焼肉の香りが残る茶の間で陽和くんと凌が、せーので声を合わせた。
「澄江さん、お誕生日おめでとうー!」
二人は木の額にリボンをかけたものを澄江さんに渡す。
「ありがとうな、二人とも」
澄江さんにプレゼントしたのは、近頃こそこそと二人で描いていた絵だ。以前、中学生女子へのプレゼントに絵は却下した。
だが、熟年女性の澄江さんであれば、絵に秘められた情を鑑賞する余裕と懐がある。だから今回は止めなかった。
澄江さんはわざわざ老眼鏡をつけて、額に入った絵をじっくりと眺めた。
絵の中では、みんなお気に入りの炬燵布団の周りに、澄江さんと居候たち全員が集まりお茶を飲んで笑っていた。
陽和くんが描いたシンプルな笑顔が五つ輝き、茶の間を満たす和やかな空気を薄く金緑色に塗ったのが凌くんだ。
その絵には子どもたちの目から見た、花房さんちが描かれていた。
眼鏡の奥で澄江さんの目が、皺の一本になりそうなほど細くなり、弧を描く。
「夢みたいな絵やわ」
「いつものお茶の時間だよ?」
澄江さんは凌くんの背をぽんぽんと叩いて微笑む。
「せやな。それがうちには夢なんやで、凌」
凌くんが飲み込めないうちに、横から陽和くんが話を被せてしまう。
「あのな、これが澄江さんで、花奈ちゃんで旬くんやで!」
「ああ、ようわかるで。ありがとうな、陽和。茶の間に飾ろか」
陽和くんが絵の説明をする横で、私は考えていた。お茶の時間は私が花房さんちに来る前からの、お約束だと聞いている。花房さんちの暮らしの象徴が「夢」とはどういうことだろうか。
後ろから旬くんが私を呼ぶ。
「次は俺らだね、花奈ちゃん」
「そうですね、お披露目です!」
陽和くんの絵の解説がひと段落ついたので、旬くんと一緒に選んだプレゼントを澄江さんに渡した。澄江さんは大きめのノートサイズの額を両手で受け取り、目をぱっと広げて笑った。
「この前の旅行の写真やな」
「写真って撮るだけ撮ってそのままになることが多いので」
「もういっそ大きく引き伸ばして飾ろう!って花奈ちゃんと相談したんだ」
「ええわぁ、これだけ大きかったらうちの目にもよう見える」
澄江さんの両側に子どもたちが集まって、ホテルのロビーで撮った集合写真を眺めて思い出話が始まる。全員で、ホテルの何が楽しかったかと、誰かの失敗を笑って時間が溶けていった。
お茶の時間もその話で盛り上がり、お茶が終わると男衆三人は炬燵で将棋崩しをして遊び始めた。私が湯呑を台所に運ぶと、澄江さんがダイニングテーブルに座った。
「花奈、ちょっと一杯しよか」
「いいですね。緑茶ハイでいいですか」
「頼むわ」
澄江さんは席に座って、はしゃぐ声が絶えない茶の間を見つめていた。
「はい、旬くん負けー!」
「俺、指太いから損じゃない?これ」
「わーい!オレの勝ち!」
私は川添茶を濃く煮出して冷まし、焼酎で割って氷をたっぷり入れた。川添茶ハイの黄金比は澄江さん直伝だ。
澄江さんの前にグラスを置いて、私も隣に座った。茶の間では罰ゲームで馬になった旬くんの上に、子どもたちが二人とも乗っている。陽和くんの声が響く。
「いけー!トナカイナンジャー!」
陽和くんのオリジナル戦隊、サンタクロース戦隊クリスマスナンジャーはもはや花房さんちでは常識だ。凌くんの分析が光る。
「旬くんのトナカイナンジャーは新キャラだね?」
「仲間なのに乗り物にするの酷くない?!」
つい笑うと、澄江さんの穏やかな瞳が私に向いた。
「旬によう似合った役やわ」
「働き者なところとかですか?」
二人してひとしきり笑ってから、澄江さんが緑茶ハイに口をつける。私もこくりと緑茶ハイを喉に運ぶ。川添茶の甘みと焼酎独特の苦みが混ざり合う大人の味だ。
「花奈がうちに来てくれて……旬は仕事も気持ちも、落ち着いたように見えるわ。ありがとうな」
「え……何もしてませんが」
「それが花奈の一番ええところや。きちんとダメやと言いながら誰より真面目に、人に優しい」
私は照れくさくなって肩を竦めた。澄江さんはいつも、みんなを見てくれている。
茶の間では旬くんにくすぐられた子どもたちが高い声で笑う。澄江さんは眩しいものを見るように目を細めた。
「旬に初めて会ったのが、うちの誕生日やったんや」
「旬くんと澄江さんが、出会った日、ですか。すごく興味ありますね」
「せやろ?」
澄江さんの横顔は子どもたちとじゃれ合う旬くんの向こうに、かつての彼を見るかのようだった。私もつられて、旬くんを見つめる。




