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茶畑の里 花房さんちはみんな居候。  作者: ミラ
第六章 花房さんちの澄江さん

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誕生日会

 茶の木が肉厚の葉で茂り、茶畑が眠りにつく十一月の初め。澄江さんのお誕生日がやってきた。夕飯には居候全員で鉄板を囲んで、澄江さんの好物の焼肉パーティをした。

 みんなでわいわい焼きながら食べて満腹になったころ。焼肉の香りが残る茶の間で陽和くんと凌が、せーので声を合わせた。

「澄江さん、お誕生日おめでとうー!」

 二人は木の額にリボンをかけたものを澄江さんに渡す。

「ありがとうな、二人とも」

 澄江さんにプレゼントしたのは、近頃こそこそと二人で描いていた絵だ。以前、中学生女子へのプレゼントに絵は却下した。

 だが、熟年女性の澄江さんであれば、絵に秘められた情を鑑賞する余裕と懐がある。だから今回は止めなかった。

 澄江さんはわざわざ老眼鏡をつけて、額に入った絵をじっくりと眺めた。

 絵の中では、みんなお気に入りの炬燵布団の周りに、澄江さんと居候たち全員が集まりお茶を飲んで笑っていた。

 陽和くんが描いたシンプルな笑顔が五つ輝き、茶の間を満たす和やかな空気を薄く金緑色に塗ったのが凌くんだ。

 その絵には子どもたちの目から見た、花房さんちが描かれていた。

 眼鏡の奥で澄江さんの目が、皺の一本になりそうなほど細くなり、弧を描く。

「夢みたいな絵やわ」

「いつものお茶の時間だよ?」

 澄江さんは凌くんの背をぽんぽんと叩いて微笑む。

「せやな。それがうちには夢なんやで、凌」

 凌くんが飲み込めないうちに、横から陽和くんが話を被せてしまう。

「あのな、これが澄江さんで、花奈ちゃんで旬くんやで!」

「ああ、ようわかるで。ありがとうな、陽和。茶の間に飾ろか」

 陽和くんが絵の説明をする横で、私は考えていた。お茶の時間は私が花房さんちに来る前からの、お約束だと聞いている。花房さんちの暮らしの象徴が「夢」とはどういうことだろうか。

 後ろから旬くんが私を呼ぶ。

「次は俺らだね、花奈ちゃん」

「そうですね、お披露目です!」

 陽和くんの絵の解説がひと段落ついたので、旬くんと一緒に選んだプレゼントを澄江さんに渡した。澄江さんは大きめのノートサイズの額を両手で受け取り、目をぱっと広げて笑った。

「この前の旅行の写真やな」

「写真って撮るだけ撮ってそのままになることが多いので」

「もういっそ大きく引き伸ばして飾ろう!って花奈ちゃんと相談したんだ」

「ええわぁ、これだけ大きかったらうちの目にもよう見える」

 澄江さんの両側に子どもたちが集まって、ホテルのロビーで撮った集合写真を眺めて思い出話が始まる。全員で、ホテルの何が楽しかったかと、誰かの失敗を笑って時間が溶けていった。

 お茶の時間もその話で盛り上がり、お茶が終わると男衆三人は炬燵で将棋崩しをして遊び始めた。私が湯呑を台所に運ぶと、澄江さんがダイニングテーブルに座った。

「花奈、ちょっと一杯しよか」

「いいですね。緑茶ハイでいいですか」

「頼むわ」

 澄江さんは席に座って、はしゃぐ声が絶えない茶の間を見つめていた。

「はい、旬くん負けー!」

「俺、指太いから損じゃない?これ」

「わーい!オレの勝ち!」

 私は川添茶を濃く煮出して冷まし、焼酎で割って氷をたっぷり入れた。川添茶ハイの黄金比は澄江さん直伝だ。

 澄江さんの前にグラスを置いて、私も隣に座った。茶の間では罰ゲームで馬になった旬くんの上に、子どもたちが二人とも乗っている。陽和くんの声が響く。

「いけー!トナカイナンジャー!」

 陽和くんのオリジナル戦隊、サンタクロース戦隊クリスマスナンジャーはもはや花房さんちでは常識だ。凌くんの分析が光る。

「旬くんのトナカイナンジャーは新キャラだね?」

「仲間なのに乗り物にするの酷くない?!」

 つい笑うと、澄江さんの穏やかな瞳が私に向いた。

「旬によう似合った役やわ」

「働き者なところとかですか?」

 二人してひとしきり笑ってから、澄江さんが緑茶ハイに口をつける。私もこくりと緑茶ハイを喉に運ぶ。川添茶の甘みと焼酎独特の苦みが混ざり合う大人の味だ。

「花奈がうちに来てくれて……旬は仕事も気持ちも、落ち着いたように見えるわ。ありがとうな」

「え……何もしてませんが」

「それが花奈の一番ええところや。きちんとダメやと言いながら誰より真面目に、人に優しい」

 私は照れくさくなって肩を竦めた。澄江さんはいつも、みんなを見てくれている。

 茶の間では旬くんにくすぐられた子どもたちが高い声で笑う。澄江さんは眩しいものを見るように目を細めた。

「旬に初めて会ったのが、うちの誕生日やったんや」

「旬くんと澄江さんが、出会った日、ですか。すごく興味ありますね」

「せやろ?」

 澄江さんの横顔は子どもたちとじゃれ合う旬くんの向こうに、かつての彼を見るかのようだった。私もつられて、旬くんを見つめる。


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