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茶畑の里 花房さんちはみんな居候。  作者: ミラ
第五章 花房さんちの旬くん

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お茶の時間

 部屋に戻ってお茶にしようと思ったのだが、すでに澄江さんはベッドで眠っていた。昼間にプールに入ったのだから、疲れていて当然だ。旬くんが子どもたちに言った。

「男子部屋に帰ろっか」

「嫌や、みんな一緒がええ」

 陽和くんは私のベッドに潜り込んでしまった。彼はお茶の時間も澄江さんが起きてからにすると言い張った。心細い想いをした後だからか、みんな一緒の空間から離れがたいのかもしれない。

 凌くんもそれでいいと言うので、陽和くんの想いを優先した。ベッドが二つしかない女子部屋でテレビを見始めた。ちょうど子ども向けの映画がやっていて、ぼんやり眺めているうちに子どもたちは私のベッドで寝始めてしまった。

 途中、風呂に入ったりしたが、最後まで映画を見たのは旬くんと私だけだった。

 映画が終わり、寝息だけになった部屋で私たちは顔を見合わせた。女子部屋にベッドは二つ。澄江さんと子どもたちで埋まってしまった。ぽつりと課題を述べる。

「私は……どこで寝ましょうか」

 しばら黙ってしまった旬くんだが、どう考えても行きつくアイデアは一つだ。

「……俺たちの部屋に、来る?」

 子どもたちを起こすのも忍びなく、男子部屋には空のベッドが三つ。私はそこへ行くしかなかった。

「お邪魔します。旬くんなら、同じ部屋でも大丈夫です」

 旬くんは静かに固く言った。

「絶対何もしません」

「疑ってませんよ?」

 ホテルの浴衣姿で立ち上がった私は、旬くんの上ずった声にくすくす笑った。旬くんは頭をかきながら立ち上がり、カードキーを持って部屋を出た。

 ゆるい浴衣を纏う旬くんがカードキーを持つ姿に、少しだけ、胃が浮いた。


 男子部屋にお邪魔すると、子どもたちの服が散らかっていてまず片づけに手が伸びた。服を拾い集めていく。

「凌くんはしっかり見えて、整理整頓が雑いですからね。自室もぐちゃぐちゃ」

「陽和もまだまだこれからだからね」

 二人で子どもたちの荷物を整理した。やることがなくなると、ぽつんと沈黙が落ちた。眠ればいいだけだが、私はホテルに備え付けのポットに目が行った。

「旬くん、寝る前にお茶しませんか」

 今日はお茶の時間がなかったからか、なんだか落ち着かない。旬くんは頷いた。

「……そうだね。まだ眠れそうにないし」

「そうなんですか?私はプールで遊んだのでくたくたで今にも寝落ちそうです」

 私がけろっと言うと、旬くんがやわらかく笑う。

「俺が一緒でも安心してもらえてるみたいで良かった」

「旬くんがいると安心ですよ。みんなが笑っていられるのは、旬くんありきですから」

 二人でティーパックの封を開けて、こぽぽとお湯を注ぐ。夜のホテルの部屋に湯気が立ち、お茶の音を聞くと気が緩む。二人用の丸テーブルにお茶を置き、旬くんと向かい合って座った。ポットの横にあった柚子餡最中をお茶請けに添えた。

 淡い間接照明の灯りに、湯気と柚子餡の甘さを溶かしながら、何を話すでもなくお茶を飲む。

 旬くんの妹、柚子さんの話が気にかかる。だが、聞いていいのか。

 そんな迷いをお茶の空白に委ねていると、旬くんが手に持った柚子最中を見つめて手を止めた。旬くんは話したいだろうか。

「妹さん、柚子さんって名前なんですね。前に旬くんが熱で寝込んだ時、寝言で柚子と呼んでいましたよ」

 旬くんは柚子最中を落としそうになって、慌てて持ち直した。

「俺、恥ずかしいこと言ってるね……」

「いえ、勝手に聞いてしまってすみません。それであの……柚子さんの話なのですが、複雑な事情がありそうだなと察してます」

 誰にでも好かれる旬くんが妹とだけ折り合いが悪いなんて、相当な事情があるはずだ。私は淡い橙の光の中で、彼を見つめた。

「私は旬くんのことを知りたいなと思っていて……」

 ゆっくり正直に、言葉を並べた。

「旬くんが話したいなら聞きたくて、言いたくないなら聞きたくないんです。旬くんはどう思っていますか」

 旬くんは柚子最中に視線を落として、食べずに皿の上へ戻してしまった。旬くんは眉尻を下げた。

「……酷い話だから、それを話して花奈ちゃんに嫌われたくないって思ってる。隠せるなら誰にも隠しておきたい」

 私は大きく頷いて受け入れた。

「わかりました。踏み込んでごめんなさい」

 私は空になった二人分の湯呑を持って、すっと立ち上がった。

「お茶、もう一杯淹れますね」

 旬くんの横をすり抜けてまたポットへ向かう。私はポットの前に立って、ティーパックに二杯目の湯を注ぐ。

「旬くんは嫌われたくないと言いますけど……私は花房さんちの旬くんを知っているんです」

 旬くんの湯呑に湯をこぽぽと注いで、あったかいもので満たしていく。

「旬くんは茶畑で全力で働いて、澄江さんを支えて。家では子どもたちと笑って。ホテルでは私みたいなダメ出し女に、バスタオルを掛けてくれたりします」

 私は温め直した茶で満ちた湯呑を、ことんと旬くんの前に置いて微笑んだ。

「花房さんちの旬くんがどんなに誠実で優しいか知っているので、私はどうやっても旬くんを嫌ったりできません。それだけは知っていてくださいね」

 どうぞとお茶を勧めると、旬くんの顔が歪む。旬くんは温かい湯呑を両手のひらで握って呟いた。

「……花房さんちの花奈ちゃんは、優しいね」

「旬くんには負けますよ」

 しばらく考え込んだあと、聞いてくれる?と問う旬くんに、私は頷いた。彼はお茶を一口飲んでから言葉を整えた。


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