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茶畑の里 花房さんちはみんな居候。  作者: ミラ
第五章 花房さんちの旬くん

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迷子

 プールでくたくたになるまで遊んでから、夕食のビュッフェを楽しんだ。夕食の席で、旬くんと澄江さんの目がきらりと光って、顔を合わせて頷き合っていた。

 二人そろって「これは川添茶」と言い切るので大笑いしてしまった。

 子どもたちは食べ終わると、先に部屋に戻ると言って帰ってしまった。大人たちの長い晩酌に付き合っていられないのだ。晩酌を終えてほろ酔いで部屋に戻った。

 ホテルでは男子組と女性組で別れて、二部屋隣同士で部屋を取っている。

 女性部屋に入り澄江さんがベッドに寝転ぶと、旬くんと凌くんが部屋にやって来た。凌くんが上ずった声で聞いた。

「陽和、来てない?」

「え、来てないけど、いないの?」

「僕ちょっとウトウトしてたら、いなくなってて……」

 肩を落とす凌くんの背中に、旬くんが手を添える。陽和くんが迷子になってしまったかもしれない。迷子で済めばいいが、もしかしたら誘拐の可能性もと脳裏に浮かぶ。私はすぐ立ち上がった。凌くんは悪くない。目を離した大人の責任だ。旬くんが言った。

「俺が探してくるから、凌を預かってくれる?」

 澄江さんが起き上がって、凌くんを手招く。凌くんは澄江さんの隣にゆっくり座った。

「うちが凌とおるから、花奈も探したってや」

「はい、行ってきます」

「じゃあ二人で手分けして」

 旬くんと広いホテルをどう探すか話し合おうとすると、部屋の固定電話が鳴った。ベッドの側にいた澄江さんがぱっと受話器を取る。

「あ、ほんまにすいません。お手数かけまして。すぐ迎えに行くんで」

 澄江さんが指で丸マークを作って合図してくれた。おそらくフロントからの電話で、陽和くんが保護された連絡だろう。安堵の息を吐く。


 部屋に澄江さんだけを残して、三人で一階のフロントまで陽和くんのお迎えに出向いた。

 フロント前のソファで、ホテルの制服を着たお姉さんが、陽和くんの隣に座ってくれていた。涙目の陽和くんが私たちの顔を見て、口をへにょりと曲げた。凌くんが走って陽和くんの元へ駆けつける。

「陽和!ダメだろ!勝手に出て行ったら!」

 本当に凌くんの声かと疑うような怒声だった。ご両親のケンカを見ても怒鳴らなかった凌くんが示したのは、最上級の心配だ。びくりと肩を震わせた陽和くんが俯いた。

「ごめんなさい……探検してたら部屋わからんくなって……!」

 凌くんはきっぱり叱ってから、ぐじぐじ涙を拭く陽和くんを抱きしめた。お互いに、とても怖い想いをさせてしまった。旬くんが抱きしめ合う子どもたち二人をさらに外側からぎゅうと抱きしめる。

「みんな元気で良かったー」

 三人が団子になっていると安心して、笑みがこぼれた。部屋に帰ったら、お茶の時間にしよう。そう思っていると、私の隣に陽和くんに付き添ってくた従業員の女性が立った。

「素敵なご家族ですね」

 モカブラウンのさらさらショートヘアの似合う彼女が、やさしく微笑む。私は本当のご家族ではないがと思いつつも、そのまま受け入れた。外の人に話す必要もない。

「ありがとうございます。お手間かけて申し訳ありませんでした」

「いえ、きちんと名前が言えたので、すぐに連絡がついて良かったです」

 陽和くんが今度は気をつけると、右手に旬くん、左手に凌くんの手を握る。抱きしめたいくらいに可愛い姿だ。旬くんは従業員の彼女に頭を下げた。

「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。ありがとうござい……」

 顔を上げてお礼を言いかけた旬くんは、女性と顔を合わせて、ふと不自然に止まってしまう。

「え……」

 旬くんの顔を見た女性も同時に、言葉を失ったように見えた。

 二人の繋がった視線が沈黙を招く。

 どう見ても顔見知りと出会った反応だ。凌くんが問いかける。

「旬くん、知り合い?」

「あ……その」

 旬くんが言い辛そうに言葉を選んだ。すると彼女は旬くんを避けるように切り上げた。

「それでは、失礼します」

「お姉さん、ありがとう!」

 陽和くんがすかさず礼を言うと、彼女は頷いた。

「もう迷子にならないように気をつけてね」

「はーい!」

 彼女は丁寧に一礼して、去っていこうとする。彼女の背中に旬くんが小さく声をかける。

「柚子、ごめん。わざとじゃない。会いに来たわけじゃないんだ。本当に……偶然だから」

 旬くんの声が聞こえただろう彼女は、一瞬だけ足を止めてから返事もなく行ってしまった。

『ゆず、ごめん』

 旬くんのその言葉をそのまま聞いたことがある。過労で熱を出した旬くんがうわ言で呼んでいた名前だ。陽和くんが首を傾げて、旬くんを見上げた。

「旬くんの友だち?」

「ううん……妹。嫌われてるんだ」

 旬くんの寂しそうな顔を見て、陽和くんが旬くんの手をきゅっと握った。

「旬くん、帰ろう?」

 陽和くんの無垢な幼い声に導かれ、私も前を向いた。聞きたいことが色々と頭に浮かぶが、陽和くんの意見が今は正しい気がした。凌くんも旬くんの丸くなる背中から感じるところがあるのか、黙ったまま歩き出した。



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