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茶畑の里 花房さんちはみんな居候。  作者: ミラ
第四章 花房さんちの來山君

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過労

 怒涛の一番茶の茶摘みがひと段落した初夏の日、ついに旬くんが過労で寝込んだ。澄江さんと凌くんは「茶摘みの後はこうなる」と言って平然としており、異常が常態化している農家の闇を知った。

 さすがに夜のお茶の時間も旬くんは欠席となり、澄江さんが代わりにお茶を淹れた。

 お茶の時間に茶の間に集まると、陽和くんが旬くんがおらんと寂しいわと言って、みんな深く頷いた。

 お茶の時間を終えて片づけを終えた深夜、私は旬くんの様子を見るために彼の部屋に入った。点けっぱなしの電気は寝落ちの証拠だ。

 旬くんの部屋はがらんどうだ。部屋の真ん中に敷かれた布団と、部屋の端にローテーブル。机の上に教科書のようなものが数冊置かれているだけだ。鞄一つでここに来た私の部屋より物がない。

 旬くんは身体が限界を告げるまで、疲れたも休みたいも、一言も言わなかった。もしかして平気なのかと、勘違いしそうになったくらいだ。

 そんな彼には、健康的な欲が見えないような、欲しがるのを自分にだけは許さないような頑なさがある。私は彼が静かに寝息を立てる布団の横に座って、起こさないよう彼の額に触れた。

「熱いな……」

 まだ熱が引かない。ぬるくなった氷枕を替えてあげたいが、起こすのも憚られる。どうしようか考えていると、旬くんの眉間にぎゅうと力が入った。急に苦し気になった旬くんがぼそりと何か言う。

「……ゆず、ごめん」

 旬くんはそのまま寝返りを打って、寝息を立てる。寝言を聞いてしまった。

 ゆず、とは女性の名前だろうか。

 旬くんの多忙を極める生活を知っている身としては、彼女がいるとは考えにくい。旬くんが妹と関係を拗らせるとも思えない。寝言で謝るような懺悔があるとすれば、元彼女と考えるのが自然か。なんて考えを巡らせてしまった。

 旬くんが寝返りで枕から頭が外れた隙に、氷枕を交換した。旬くんがまた寝返りを打って、冷たい枕に無意識にすり寄るのを見て任務完了だと満足した。

 ゆずさんについては引っかかるが、私にできることはなさそうだ。だが、元マネージャーが側にいた矜持として、居候の仲間として、過労者が出たことは大変遺憾である。

 私はある提案をしようと決めた。


 数日後、旬くんは快方に向かい、普通の昼食を食べられるようになった。彼が部屋に戻ったのを見計らい、私は澄江さんと向き合った。ダイニングテーブルでお茶を手に話を切り出す。

「澄江さん、込み入ったことをお聞きしたいのですが」

「どうしたんや?」

「うちの茶農家は、人を雇うのが難しい経営状況でしょうか?」

 湯呑を手に、澄江さんが瞬きを増やした。懐具合を訊ねるのは不躾かもしれない。しかし私は今や、家や農業の備品に携わる買い物も担当している。茶農家の帳簿付けや、事務仕事も手伝うようになっていた。

 なんとなくだが、お金の流れは見えているのだ。

 帳簿を見て知ったが、私が白浜に来て最初に訪れた「茶房ひきがわ」は、花房さんちの収入の要だ。

 高額で川添茶を取引してくれるのはあの店だけだ。茶房ひきがわが太客として存在してくれているおかげで、意外と経営難というわけではない。あの店は本当に茶農家を救っている。澄江さんが答えた。

「うちは経営が苦しいわけやない。花奈を一人食べさせても、まだまだ余裕あるわ」

「ならもう一人、力仕事ができる人を雇うのはどうでしょう?このままでは、ダメです……私は力仕事で役に立たないので、旬くんが潰れてしまいます」

 澄江さんが茶を一口飲んで何度もこくこくと頷く。

「花奈の言う通りや。もちろん、今までも人を雇ったことはある。しかしなぁ……旬は人を使うのが絶望的に下手やねん」

 わかる。と直感的に思った。

「旬は人にお願いはしても、指図とか注意とか言われへん」

 それだ。現場を仕切るものはダメを言う場面が必ずある。

「好かれはするけど、舐められるんや……無断で休んだり、適当に仕事されてな。結局、旬がやり直す。最後にはうちが怒って追い出すの繰り返しや」

 指揮系統が脆い組織はすぐに瓦解する。私は厳し過ぎて嫌煙される方だが、旬くんは逆だ。

「人を雇いましょう、澄江さん。今は私がいます。きっちり働いてもらうようにしますから」

 澄江さんはことんとテーブルに湯呑を置いて、賛成してくれた。

「うちからみんなに話すわ」

 澄江さんの許可をもらい、子どもたちにも承認をもらった。体調が戻った旬くんは遠慮したが、私の「ダメです」からの、「倒れて心配しました」の二枚看板でお茶の時間の間、懇々と彼と話して折れてもらった。

 凌くんのプレゼント論争のときのように、私の猛烈な説得に、最後はみんな笑っていた。



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