001 最後の数字のシンフォニー
このシリーズはそれぞれ独立しているので、好きなところから読んでください。
「君が見ているその影は、君自身の影ではない。それは、君が別人になることを決めた時に、後に残していった空虚そのものだ。」
佐藤優太は数字の世界に生きていた。それらは単なる画面上の記号や紙の上のインクではなく、彼の命令に従って行進する、規律正しい軍隊の兵士のような生きた存在だった。新宿の超高層ビルの47階にある彼のオフィスは彼の神殿であり、コンピューターの画面は完璧で秩序ある宇宙への窓だった。すべてが然るべき場所にあった。ペンは直角に並べられ、書類の束は縁が寸分の狂いもなく揃えられ、コーヒーカップでさえ、定位置のコースターの上から決して動くことはなかった。この秩序こそが、外部世界の混沌に対する彼の盾だった。
今日、彼は四半期財務報告書を完成させた。何百ページ、何千ものセル、何百万もの数字が、丸二週間にわたって彼の目の前で踊り続けた。そして「送信」ボタンを押した時、彼は骨の折れる仕事を完璧にやり遂げた者だけが知る、あの神聖な安堵のため息をついた。それは、すべての音符が正しい位置にある、完璧な交響曲だった。
彼はコンピューターを閉じ、コートを羽織り、エレベーターへと流れる社員の川に合流した。満員の地下鉄の中で、優太はいつものように、幽霊たちの中の幽霊だった。疲れた顔、スマートフォンか虚空を見つめる空っぽの瞳。彼は気にしなかった。彼の心は、自らが創り出した調和の余韻にまだ浸っていた。
しかし、新宿と彼の質素なアパートの中間地点で、不協和音が鳴り始めた。
怠惰な悪魔の囁きのような、か細い声が彼の心に忍び込んだ。
「表7-Bの最後の数字、確認したか?」
優太は凍りついた。もちろん確認した。彼はすべての数字を三度確認する。それが彼のルールだ。一度目は論理性のために、二度目は正確性のために、そして三度目は悪魔のために。
「だが、本当に確かか? あの時、お前は疲れていたのを覚えているぞ。もしかしたら…もしかしたら、小数点の位置がずれていたかもしれない。」
電車の冷房が効いているにもかかわらず、冷や汗が一筋、背中を伝うのを感じた。彼はその考えを振り払おうとした。「馬鹿馬鹿しい。報告書は完璧だ」と自分に言い聞かせたが、声はもっと大きく、もっと嘲るように戻ってきた。
「完璧? 大胆な言葉だな、優太。墜落を恐れない者の言葉だ。たった一つの間違い。小数点一つが、会社に数百万の損害を与えかねない。お前の職を、評判を、お前が慎重に築き上げてきたすべてを失わせるかもしれない。」
心臓が、檻の中の鳥のように肋骨を打ち始めた。周りの乗客の顔が、今や彼をじっと見つめているように見えた。まるで彼の汚い秘密を知っているかのように。窓ガラスの反射に映った自分の顔は青白く、目は泳いでいた。そこにいたのは、几帳面な会計士の優太ではなく、化けの皮が剥がれそうな詐欺師の姿だった。
アパートに着いたが、彼は普段のように玄関で靴を脱がなかった。鍵を所定の皿に置かなかった。彼は自らの掟を破ったのだ。彼が恐れていた外部の混沌が、今や内側に、彼の心に、そして彼の家に忍び込んできた。
彼は鞄を床に放り投げた。空腹でねじれる胃を無視した。彼に見えるのは、あの数字だけだった。今となってははっきりと思い出せない数字。それはぼやけ、歪み、他の数字の森に隠れる怪物と化していた。
78,945.05だったか、それとも78,945.50だったか?
その差は些細だ。しかし、佐藤優太の世界に「些細」という言葉は存在しなかった。「正しい」か「破滅的」か、その二つしかなかった。
何時間も過ぎた。彼は暗闇の中に座り、明かりをつける気力もなかった。明かりは、彼が作り出し始めた混沌を暴き出すだろう。頭の中の声はもはや囁きではなく、絶叫していた。それは部屋の中で彼の唯一の同伴者であり、彼の不安を糧とする冷たい同伴者だった。明日の朝の会議、上司が間違いを発見する場面、同僚たちの哀れみの視線、解雇通知、家族に及ぶであろう恥辱といった、奈落へのシナリオを彼に語り続けた。
もう耐えられなかった。午前2時、彼は決断した。
再びコートを羽織り、静まり返った東京の通りに出た。眠らない街が、まるで息を殺しているかのようだった。冷たいネオンの光と、通り過ぎるタクシーの他には何もなかった。
彼は会社のビルに戻った。夜警は訝しげな視線を向けたが、彼のIDカードで中に入ることができた。47階まで昇る静かなエレベーターは、彼を断頭台へと運ぶ箱のようだった。
オフィスのドアを開けた。暗闇と静寂が濃密だった。カーペットと電源の切れた電子機器の匂いがする、淀んだ空気。彼は早足で自分のデスクに向かい、震える指でコンピューターを眠りから覚ました。
ファイルを開いた。彼の目は狂ったように探し、表やグラフを飛び越えていく。心臓が鼓動を止めた。
表7-B。
最後の行。
最後の数字。
78,945.05。
正しかった。最初から。間違いなど、どこにもなかった。
彼は安堵感に包まれることを期待した。静寂の波が押し寄せることを。だが、彼が感じたのは全く別のものだった。もっと恐ろしい何か。
氷のような空虚感。
彼は何時間も自分を苦しめ、真夜中に街を半ば横断し、崩壊の瀬戸際に立った…無のために。恐怖は間違いそのものではなく、それを探す行為の中にあったのだ。悪魔は細部に宿るのではなく、その細部を創り出した彼自身の心の中にいた。
窓から眼下に広がる光の海を見下ろした。何百万もの人生、何百万もの物語。そして彼は突然、自分は戦いにおいて孤独なのではなく、自分の牢獄において孤独なのだと感じた。
頭の中の声は消えなかった。ただ沈黙したが、そこにいた。彼を監視し、待っている。そして優太はその瞬間、恐ろしい真実を理解した。彼はこの一戦には勝ったが、戦争は始まったばかりなのだと。そして彼の中に棲む悪魔は、彼を試していたのではなく、訓練していたのだ。そして次回は、もっと強くなるだろう。
優太は、空っぽの暗いオフィスで、完璧な数字に囲まれながら椅子に座っていた。そして彼は、自らが犯した過ちのせいではなく、もはや信じることのできなくなった完璧さのせいで、奈落が足元で口を開けるのを感じた。