episode 1 私の過去と母
なぜ人は自殺しようとするのだろう。
なぜ人は死後の世界を想像するのだろう。
なぜ、母は家族で無理心中をしようとしたのだろう。
10年前、私は8歳だった。3個下に弟が1人いた。両親は共働きでいつも帰りが遅かったし、弟は保育園にギリギリまでいたのでいつも小学校から帰ったら1人だった。宿題をして、部屋を掃除して。8歳にしては真面目だったと思う。小学校では友達と話すけど放課後は一度も遊んだことがない。友達とわざわざ遊ぶのなんて退屈だ、そんな感じで捻くれた性格をしていた。
19時。そろそろ母と弟が帰ってくる。いつものように荷物を片付けて静かに2人の帰りを待った。ふとカレンダーを見たら今日の所に弟の誕生日と書いてあった。生まれた日を祝う習慣はいつからあるのだろう。なんで生まれて来てくれてありがとうなどと思わないといけないのか、それくらいなら産んでくれてありがとうの方がよっぽどいいのに。そんなことを考えていた。19時7分。玄関の扉がギィと音をたてた。母と弟が帰ってきた。だけど、いつもと雰囲気が違った。玄関から泣き叫ぶ弟が私の元に走ってきた。その後に続いてのそのそと母が入ってきた。右手には仕事で使っているカバンを、左手には季節ハズレの七輪を持っていた。
「お母さん、その七輪はなんなの?」
そう私は聞いたが母からは何の返事もなかった。母はただ、黙々と七輪に火をつけ、私と弟にラムネだよと言って睡眠薬を飲ませた。母は余った睡眠薬を全て飲んだ。そして、私は眠りにつく前に、最後の母の言葉を聞いた。その言葉はきっと母の本心だったと思う。
「誕生日おめでとう。でも、私は子供なんていらなかった。あの人と、夫と最後まで一緒に入れればそれで十分だったのよ。あなた達、邪魔なの。でも、私ももう疲れた。これからみんなでパパのところに行くのよ…」