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その2



     2



 カーテンを閉め切った部屋の中で壁に沿って灯された燭台の群れ。その炎のオレンジがかった光が、テーブルをはさんでこちらと対面している二人の人物の姿を浮かび上がらせている。


「咲夜……パチェはまだ戻ってこないのかしら?」


 薄ピンクの可愛らしいドレスを着けた少女が、古風な作りのチェアの上にちょんと腰掛けたまま脚をしきりに揺らして、傍らに控えているエプロンドレスの女性に問いかける。


「まだ地下にいらっしゃってからさほど経っておりませんので、もうしばらくは」


 女性は薄く苦笑を浮かべた。


「お茶のおかわりはいかがですか?」


「……いただくわ」


 女性がテーブルに近づき、優雅な手つきでポットからお茶を注ぐ。


「ごめんなさいね、レミリア。朝っぱらから騒がせてしまって。あなたまで起こしてしまうことになるとは思わなかったわ」


「別にいいのよ、霊夢。ちょっと今朝はなんとなく胸騒ぎがして寝付けなかったし……それに、こんなときにわたしだけ蚊帳の外ってことになったらかえって癪だもの」


 ……いかにも少女らしいもの言いだ。


「人を見かけで判断しちゃダメよ」


「えっ?」「?」


 少女と女性、ふたりが同時に顔を上げる。


「ああ、またやっちゃった……ごめんなさいね」


 霊夢が手を左右に振る。


「さっき話した例の中のヤツが妙なこと言うものだから叱ったのよ。何しろ、此処のことは何も知らないから」


「ふうん……そいつ、なんて言ったの?」


 少女が赤い瞳をこちらに向ける。


「ああ、いや……まあ」


「べつに大丈夫よ、霊夢が言ったわけじゃないんでしょう? それに周りのことも何も知らない魂が言うことにいちいち怒ったりしないわ」


 霊夢がかすかに息を吐いてから言う。


「少女らしいもの言いだ……って」


「な……!」


 エプロンドレスの女性がかすかに失笑を洩らしたが、少女がきっとした視線を向けるとあわてて眼をそらす。


 ふたたび少女はこちらに顔を向け、いささか憤然とした表情で言う。


「なんだってのよ、いったいどこが少女らしいもの言いだっての?」


 ……説明した方がいいのか?


「…………」


 霊夢は額に手を当てる。


「お嬢様」


 女性が少女の前におかわりの紅茶を載せた皿を差し出しながら言う。


「霊夢様がお困りですよ」


「あ……」


 少女ははっとしたような顔をする。


 どうやら、自分のいまの所作そのものがすでに子どもっぽい振る舞いだということを自覚したようだ。


 少女は軽く咳払いをし、表情をそれらしく整えてから、口調をあらためて言う。


「悪かったわね、霊夢」


「ああ……いや、こっちこそ」


 少女らしい、というのは可愛らしいという意味も含んでいるんだがな……。


 と、ノックの音がして、ドア越しに声が聞こえた。


『パチュリー様がお戻りになられました』


 少女がエプロンドレスの女性にうなずきかけると、彼女もうなずき返し、入り口に歩み寄ってドアを開ける。


 すると、さきほどここに同席して霊夢の説明を聞いていた女の子が、両手に本を何冊も抱えてよろよろとした足取りで部屋の中に入って来た。頭に三日月型の飾りが入った特徴のあるデザインの帽子をかぶっている。


「ちょっと、大丈夫? 咲夜、持ってあげて」


「あ……はい」


 少女に言われて女性が歩み寄るが、帽子の女の子は首を軽く横に振り、そのままテーブルまでたどりついて本の山を慎重な手つきで置いた。


 それから、彼女は当主に向かって言葉少なに告げた。


「……だいたいの見当はついた」


「そう。さすがね」


 少女はどうだ、というようにちらりとこちらを見る。どうやら、霊夢にではなく、「私」に向けた表情のようだ。


「それで? どうすればいいの、パチェ」


「魂を移すための依代を作ればいいと思う」


「ヨリシロ?」


「魂の器となるもののこと。霊夢の中に入り込んだ魂は、明らかに霊夢という固有の存在に惹かれてきたのだけれど、霊夢のもつ強力な魂と同居することは、この魂自身にとっても不安定なの。だから、安定しやすい魂の器を用意してやればそちらに移ると思う。ただ……」


 帽子の女の子がこちらに視線を向ける。


「この場合、できるだけ霊夢に姿形が近いものを使ったほうがより成功の確率を高める」


「そう……」


 少女は自分の下あごを軽く指先で叩き、すこし考え込んだ。

 と、そばに控えていたエプロンドレスの女性が遠慮がちに言った。


「お嬢様、もし何でしたら例のあれを……」


「ええ。いまわたしも同じことを考えていたわ。部屋からもってきて頂戴」


「かしこまりました」


 女性は一礼して部屋を出て行く。


「……どういうこと?」


 霊夢が訊くと、赤い瞳をもつ少女は薄く笑みを浮かべて答えた。


「なんの巡り合わせかは分からないけれどね、ちょうどうってつけの物が手元にあるのよ。たぶん、これ以上そのヨリシロとやらに向いた物はこの幻想郷にはないと思うわ」



その3につづく

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