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1章8話 燃える街

 部屋で眠っていたカズキは、窓から差し込む光に目を覚ます。

 だが、まだ寝足りない。

 もう一眠りしようと、寝ぼけながらもカーテンを閉めに窓に近づくカズキ。

 だが彼の目に目も覚める衝撃的な光景が突き付けられる。

 

 “街が燃えていた”

 

 窓から見下ろせる道には、人型の黒い物体も散見された。

 大規模な火事か?フォルタ団長を起こさなければとフォルタ団長の部屋に向かう。

 部屋から出た瞬間、煙の影響か息苦しさを感じる。だがそんなことを気にしてはいられない。

 フォルタ団長の部屋に辿り着きドアノブを回す。

 鍵がかかおらず扉は普通に開き、部屋に入ることができた。

 しかしフォルタ団長の姿は見えない。

 ーーいったいどこに?

 客室のある2階から1階へ向かい外に出る。

 燃える大通りに出ると、金属音や爆音が聞こえる。

 誰かが戦っている音だろうか、様子を見に向かう。

 

 そして五分程度駆けたカズキの前に、フォルタ団長と、20代後半くらいの見た目の黒く長い髪がよく映える美女がいた。

 美男美女だが2人は決して相引きをしていた訳ではない。

 彼らは戦っていた。

 「フォルタ団長!?」

 思わず声をかける。

 声をかけられた彼は驚き、声を荒げる。

 「召喚者サマ!?何故ここに!?置き手紙を見てくれなかったのか!?」

 置き手紙!?そんなもの見てない!そう声を上げようとするカズキだが…

 「アナタが勇者ね?」

 突如真横からかけられる声に声をあげることが阻まれる。

 横に目を向けると先ほどまでフォルタ団長と戦ってた美女が真横にいた。

 顔をよく見るとその額には1本の黒い角が生えていた。

 魔人族…それとも獣人か?だがヴェルト連邦とは協力関係のはず…そう思考を巡らせるカズキに、フォルタ団長が叫ぶ。

 「そいつは魔人族じゃねェ!!そいつは…」

 言葉を紡ごうとしたフォルタ団長だが、美女から炎の渦が放たれ吹き飛ばされる。

 俺に意識を向けた瞬間を狙われたのは明白だった。

 「自己紹介は自分でやるわぁ。私は“色欲の使徒”ラストよ。」

 使徒?昨日今日受けた説明にはなかった存在ーー

 そんな思考をしているとフォルタ団長が俺を抱え、ラストとの距離を取る。

 そしれフォルタ団長は俺に話しかける。

 「あいつは“あの方”ってやつに仕えているらしい。目的は“あの方”の封印を解くと先ほど言っていた。」

 「ええ、そうよ。」

 「おそらく“あの方”ってのは魔王のことだと俺は思う。」

 「ふふっ、それに関してはノーコメントにさせてもらうわぁ。」

 そこから声を顰め、俺だけに聞こえるようにフォルタは囁く。

 「お前だけは絶対に逃す。まずは宿屋の部屋に戻ってくれ。あの部屋は俺の魔法で結界を張っている。そしてあの部屋に騎士団が迎えにくるよう緊急連絡魔法で連絡してある。」

 「フォルタ団長は!?」

 「言ったろ?お前だけは絶対に逃すと。正直戦えないお前は足手纏いだ。早く逃げてくれ。」

 冷たい言葉をかけられるがそれが優しさであることは明白だった。

 俺は自分の無力を噛み締めながら頷き、宿屋に向け駆ける。

 「逃すわけないわよねぇ!!」

 ラストから炎の渦が放たれる。先ほど見たものよりも大きく、早いーーだが

 「走れェェェェェ!!!!!」

 射線上にフォルタ団長が割り込む。

 そのおかげで炎の渦がカズキに到達することはなく、時間を稼ぐ。

 その好きにカズキは部屋へ駆ける。

 そして曲がり角を曲がり、炎の渦の射線上からカズキが逃れた時大きな火柱と共に爆音が鳴り響いたのだった。


ーーーーーー

 カズキは駆ける。

 部屋まで五分程度しかないはずだが、その五分は感じたことのないほど長く感じた。

 そしてようやく宿屋が見える。

 だが、

 

 「待っていたわよぉ、勇者。」

 待ち受けていたのは絶望。

 そこにいたのは座り込み、紅き魔獣を撫でながら待っていたラストだった。

 「あなたの宿は昨夜のうちに特定済みよぉ。ただ、結界が邪魔で入れなかったから、近隣の家を燃やしてあなた達を誘い出したのよ。」

 ラストが立ち上がると同時に魔獣はどこかへ散る。

 「…フォルタ団長はどうした。」

 ラストを引き止めているはずのフォルタ団長がいない理由。

 考えたくはない。逃げられたと言ってほしい。そう思いながら問う。

 「あぁ…彼ね…。あの火柱に巻き込まれたんだもの。生きているとは思えないわね。」

 「!!!!!!」

 あの強いフォルタ団長が?信じられない。

 この使徒とかいう存在はSSランク級でないと相手にならないというのか!?

 俺なんかに…勝てるわけが…


 ーー勇気を抱いて進み続けろ

 

 彼の言葉を思い出す。

 目が霞んで前が見えない。

 だがここで折れてしまうと、信じてくれた団長に合わせる顔がない。

 涙を拭い、思い切り睨みつけ、相手だけを注視し、隙を探す。

 「この技で葬ってあげるわぁ。」

 ラストが魔法を放とうとしている。

 彼女の手に集まる火球のサイズは、先程と比べ物にならない。

 フォルタ団長の様に"攻撃の起こり"を読んで躱すなんてことはできない。

 「死になさい。勇者。」

 炎の渦が彼女から放たれる。

 自分へと迫る炎の渦を目にし、目を瞑り念じる。

 ーー何か出ろ!何か起こせ!何かをなさねばここで終わるッ!

 ただの神頼み、ただの賭けだと笑われるだろう。

 召喚されてからこの瞬間に至るまで、何かヒントになる出来事は無かったか思い起こす。


 ーー大技っては相手を葬れると確信した時に打つ技だ。反撃を喰らうなんて想定をしていないことが多い。だからこそカウンターを決めてやれ。


 死を前にしたカズキの頭はこれまで無いほどに冴え渡る。

 一つ思い当たる技が"陽炎の騎士"ガヴェインにはある。

 勿論王城で試した際には発動しなかった技だ。

 だがその時のようにただ漠然と唱えるのではなく、明確に一挙一動その技をイメージする。

 動きでだけではない。

 その技を使うとどうなるか、細部まで思考を巡らせる。

 

 ーー最も大事なのは自分ができるって信じてやることだ。


 この世界で生きるために。勇者としての責務を果たすために。己を信じる。


 「フレアサークル!!!」


その全身全霊をかけた叫びと共に、カズキは炎の渦に飲まれた。

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