1章2話 職業柄馴染みのある異世界モノ
異世界転生・召喚モノ。
「声優」という職業柄触れる経験が多いジャンルは今や一大ムーブメントを起こしている。
その中にも成り上がり系、無双系、貴族令嬢系、復讐系など様々なカテゴリーがあり、正直「異世界転生・召喚モノ」と一括りにするには勿体無いと感じざるを得ない。
特徴としてはタイトルが長い傾向があって、流行初期は書店に在庫確認の電話する時ちょっと恥ずかしかったりもしたが…まあそれは置いといて。
俺、穂村 知輝 (ホムラ・カズキ)はそんな異世界転生に巻き込まれた。
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きっかけはトラック転生…ではない。
とある収録帰り、タクシー待ちをしていた時だった。
「キャアァァーッ」という大きな叫び声が聞こえスマホを弄る手を止め顔をあげると、十字のブレスレットを首にかけた中学生くらいの女の子がこちらに走って来ていた。
何事かと思ったの束の間、俺の視界は女の子後ろから走ってくる男を捉えた。
その手には包丁が握られ…包丁!?
気がつくと俺は女の子と男の間に入り込んでいた。
ドンッという鈍い音と共に俺の体と男が絡れ合い倒れる。
「誰かッ!一緒にコイツを抑えてくれ!」
倒れた衝撃と痛みに耐えながら力一杯叫ぶ。すると周りの通行人の何人かが一緒に取り押さえてくれた。参加しなかった人も警察に連絡してくれていたようで「ピーポーピーポー」とサイレンの音が近付いてくる。皆の協力のおかげで無事男の無力化に成功したようだ。
そうだ女の子は?と目を向けると、尻餅をついていたが怪我一つなく無事そうだ。
何故か泣きそうになりながら目を見開きこちらを見ているが…泣きそうなのは分かるけど目を見開くって何だ?
疑問に思いながら立ち上がろうとすると力が入らず視界も眩む。
何だ何だ!?と焦る俺は、自分の胸元が赤く染まっていることに気付く。
「は…?」
気付いた瞬間、焼けるような痛み。
「カッ……ヒュー」
叫び声を上げようとするが声が出ない。というかうまく息ができない。
どうやら俺は死ぬらしい。
親の反対を押し切り、大学にいかずら進んだ声優の道。それなりに様々な作品に携わらせて頂いたとはいえ、まだまだ道半ばで散るには後悔しかないが…他人を守れたのなら多少は救われるだろうか。
ああ、こんなことなら親にもっと感謝の言葉を告げておくべきだった。
そんな後悔と共に俺の意識は闇に落ちた。
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光。
俺の意識は引き上げられる。
目を開けた俺の前に映るのは、巨大な広間。
白く美しい光沢を持つ柱が何本も立ち並び天井を支えている。
そしてあることに気付きギョッとする。
自分の周りに数十人の人々が祈るように跪いていたのだ。
その一人一人は煌びやかな衣装を纏っており、唯ならぬ身分であることがわかる。
どうしたら良いのか分からず、とりあえず周囲に目を向ける。
するとその最奥に更に煌びやかな衣装に身を包む、40代程の男性と20代前後の美女の存在に気づく。
どう考えても日本じゃない、この辺りで俺は異世界転生だと確信した。
実際言えば走馬灯ってのも考えたが…死ぬ運命から逃れられた可能性を信じたいって気持ちが勝った。
「勇者様、混乱されてるとは思いますがどうかお聞き下さい。」
そんな俺に40代程の男性(推定:王)が声をかける。
奴隷のような扱いを受けたらどうしようか?仲間やお金は手配してくれるのだろうか?
そんな先のことを考えながら俺は思考を切り替え王の言葉を待つ。
そして王の言葉が紡がれる。
「どうか…どうか世界をお救い下され!勇者ガヴェイン殿!!!!」
は…?
ホムラ・カズキでもアサヒ・イツキでもなく…?
混乱する俺に20代前後の美女(推定:王女)が畳み掛ける。
「陽炎の騎士と呼ばれた貴方様のお力をお借りお借りしたいのです!!」
"陽炎の騎士"ガヴェイン…それは…それはぁっ…
俺の代表作であり初のメイン級キャラクターだっっ!!
どうやら英雄召喚しようとしたら中の人(俺)が異世界召喚されたらしい。
頼むからクーリングオフしてくれ…