1章1話 燃える街
燃える城下町。
似た色の建物が立ち並ぶ石畳の街並みは、平時であれば道の両側にある出店や街ゆく人々で活気溢れている。
しかし、この夜に限っては、瓦礫や人の死体で飾られた地獄の道へと変貌していた。
そんな地獄に、運悪く瓦礫の山に道を塞がれてしまい逃げ場を失ってしまった男がただ一人。
いや、ただ一人ではない。
男の眼前には男の視線を釘付けにしている一人の女性がいた。
その女性は20代後半くらいの見た目の、黒く長い髪がよく映える美女であった。
普段ならば男の視線が釘付けになるのは違和感はない。
ただ、こんな非常事態にその美貌だけが理由で、魅了されることがあるだろうか。
否、命の危機にそんなことはあり得ない。
では何故男はその美女から目を離せないのだろうか。
その理由は明確であった。
彼女の額には1本の角がーーいや、そんなことは些細なことである。
彼女が明確な敵意を持って男に炎を放たんとしていること。それが男が目を離せない理由だった。
そう、男は運悪く逃げ遅れたわけではない。
この街を燃やし尽くした張本人である彼女に命を狙われ追い詰められていたのだ。
強いて挙げるならば彼女に狙われたこと。それは不運だと言えるであろう。
そんな男の前で、女は笑う。
口元を三日月のように歪ませ、女は死の宣告を告げる。
その顔は人によっては魅了されてしまうほど美しく、そして恐怖を植え付けられるほど恐ろしい笑顔だった。
そして遂に、魔法が放たれる。
「死になさい。勇者。」
それと同時に女の手からは炎の渦が生み出され、男を飲み込まんと一直線に男に迫る。
そして勇者と呼ばれたその男、
本名:穂村 知輝 (ホムラ・カズキ)
職業:声優(歴15年)
芸名:朝火 一樹 (アサヒ・イツキ)
は目を瞑る。
ーーあぁ、どうしてこうなったんだっけ…?