一話
ああ、才能がない。
そう何度嘆いただろうか。
ここ一番という勝負で負けた時もそうだし、背中を真っ二つに切られかけた時もそうだった。
だが、まぁこの世界は才能がなくても生き残ることくらいは許してくれるらしい。
今回の戦も生き残れたしな。
もっとも無傷ってわけじゃない、背中に一撃いいのを貰っちまったし、隣で戦ってた仲間は死んじまった。
だが、まぁそれが俺たち戦士の生きざまであり死にざまであるともいえるか。
だがな一つ言いたいことがある、誰にかって?
そりゃ決まってるだろうこの俺が務めてるレイガン王国の王様にさ。
何を言いたいのかって?
それも決まっているだろ。
それはな?
『一体いつになったら退職させてくれんだ!』
ってことさ
自慢じゃないが俺はこのレイガン王国のためにかなり尽くしてきた、はず。
いつだって最前線で剣を振ったし、逃げるときはいつだって最後尾だった。
この戦いだってそうさ、いま俺が戦ってるのはこの戦場の地獄。
敗戦中の最後尾さ。
ああ、それでも俺は逃げれねぇよ。
そりゃそうだ、今この場に残った千人は逃げれねぇ。
後ろに五万人の命を背負ってるからな。
この場で俺らが逃げりゃ待ってるのは軍全体の崩壊さ。そんなことになったら俺らの国は滅んじまう。
そうなるんなら、ここで戦ったのがマシだ。
それにそれが仕事ってわけさ。
愚痴ばっかになって、気持ちが落ちていく俺を現実にひき戻すように部下が話しかけてくる。
「隊長」
「なんだ?」
「本隊無事撤退完了したとのことです!」
そのニュースを聞いて自然に頬が緩んだ。そのまま大声で怒鳴る。
「よし、ラッパならせ!撤退だ!撤退!わき目も振らずまっすぐ後ろだけ見て走り抜けろよぉ!」
この地獄に天使の福音が鳴り響く。
共に戦っていた兵士達が雪崩のように逃げ出していく。
さて、ここから最後の一仕事をすることにしようか。
逃げる戦友達に背を向け迫りくる人の津波に向かい合う
ここからだ
さぁ
俺の最後の魔術を見せて差し上げようじゃないか。
「勇猛果敢な偉大なる神々よ、自分より強きものに挑みし戦神よ。これより我が起こす最後の一幕ご覧あれ、そして願わくばその一助を願う!」
天上まで届かせるつもりで声を張り上げる
自分の信じる神に助力を願い、その権能の一部を魔術としては放つ。
その威力は魔法と呼ぶのが正しいはず、、さ
それでも俺のこの技が魔術止まりなのには理由がある
一つにこの魔術はあくまで神という上位存在の力を借りてくるだけ、ということ。貸してくれる神の機嫌や状況次第で放てる魔術の威力は左右される。
簡単に言うと威力が安定しないってこと。
二つ目の理由。これが一番の問題になってる。
例えば銀行から金を借りるとき信用かあるいは担保が必要だろ?
この技だってそうさ、神の力を借りるんだから当然それなりの代償が必要になってくる。
今回の規模で魔法を放つなら恐らく根源魔力をかなり持ってかれることになるだろう。
根源魔力ってのは自分の持ってる魔力の源みたいなもんでこれが無くなっちまうと一切魔術が打てなくなる。
根源魔力の量によって魔術師強さは決まるといっても過言ではない。
これが減っちまうってんだから魔術師としては致命的に決まってる。
まったく困ったもんだ、魔術師としてのすべてを捨てろって言ってるようなもんだから。
だが、それでもなお戦わなくてはいけない時が戦士には、男にはある。
握った魔力に覚悟を込めて放つは最強にして最後の一撃。
前に進むための技ではなく、後ろに進ませぬための一撃
「ファランクス!」
戦場を隔てるように巨大な魔力の壁が出来上がる。
与えられた魔術、物理問わずの攻撃を倍にして返すこの魔術は逃げる戦友を守る最強の盾となってくれるだろう。
神さんよ、ありがとな
どうやら今回はかなり機嫌がいいらしい。
おかげで最後の一仕事は無事終了。
あとは必死でこの地獄から逃げ出すだけ。
魔力をガッツリ持ってかれたことによる倦怠感と失った根源魔力の喪失感を気合で押さえつけながらこの戦場を後にする。
満身創痍で本隊に合流した俺が最初に目にしたのは解雇を告げる契約書だった。