春の帰り道、雨を舐める
『春の帰り道、雨を舐める』
低い塀のどこまでも並ぶ
人っ子一人消えた狭い道をまっすぐに
どこへ帰る
わたしは
それさえわからなかった。
何が正しくて、何が間違っているかなど
それ以前の問題で。
というような町を、彷徨っている。
計器
歩くわたし
そののろい頭に。
取り付けられた悪の匂いを感じていた時に、
ふとおばあちゃんのことを思い出したのだった。
まだ優しい顔をしているおばあちゃんだった。
絹さやの筋を取りながら
ざるの中に溜まった大事なものを抱くように、
だんだんとその顔が潰れた蛙のように無表情になっていった。
わたしはそれを阻止するように、飴をねだった。
おばあちゃん
ねえ、おばあちゃん
そのポケットの中には飴が入っているんでしょう?
春に似合う飴はない?
とても淡い色が弾けるようなやつ
雨はとっくにあがっていたけれど
わたしの袖にはたっぷりの雨がついていたのだった。
ドブ板を踏むとひっくり返り
わたしを次の世界へと誘っていった。
晴れた菫の空。
足は勝手に歩いていって
わたしの顔は今はどんなだ。
顔を写して見る水溜りさえないこの帰り道を
わたしはなにも言わず、歩いていった。