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もう一人の旅立ち


 シンジュとクリスが予定通りにルビリアを出た二日後、大聖堂で聖女を探す一人の男がいた。

 彼の名はウィリアム=ドルタ、ルビリア領に所属する騎士である。

 シンジュが大聖堂に来る際に護衛についた男でもあり、その縁がきっかけで、それからもシンジュとそれなりに親しい関係を築いていた。

 親しい関係と言っても、そう思っているのはウィリアムだけであり、シンジュには顔を合わせた際に少し世間話をする程度の仲だと認識されている。

 シンジュ的には特別に親しい相手でも、特に世話になった人というわけでもないのだ。だからこそシンジュが旅立ったことを本人の口から聞いていないのだが、そう思っていなかったウィリアムは怪訝そうに眉を寄せる事しか出来なかった。


「は? 今なんと?」

「で、ですから……聖女様は二日前に修行の旅に行ったのでもういないと……」

「はっ、そんなわけがないだろう。シンジュ嬢が国から出ていくなんて、そんなことを司祭様が許すはずが……」

「その司祭様がお許しになったんです。随分前にお告げがあったようで、聖女様が望んだら直ぐにでも旅立てるように準備をなさっていたようですよ」


 ウィリアムの問いに大聖堂の職員が丁寧に説明するが、それでもウィリアムはまだ納得がいっていないらしい。かと言って質問を繰り返しても同じ答えが返ってくるだけだろうと、ウィリアムは小さく息を吐いてから再度職員に視線を向ける。


「あー……いや、そうか。時間を取らせて悪かった。教えてくれたこと感謝する」


 軽く謝意を示し、今度はシンジュの部屋とは別の場所に向かってウィリアムは歩き出した。

 どういうことか、司祭に直接聞く方が早いし確実だ。そう思い司祭の元に向かったウィリアムだったが、そこで詳しく話を聞いたところで入ってくるのは同じ情報だけである。

 修行の旅に出たいと言い出したシンジュに、用意しておいた荷物を渡して旅立ちの背中を押した。王子の護衛で一週間留守にしていたウィリアムとすれ違いになってしまったのは残念だが、シンジュはすでに旅立ってしまったあとであると、先ほど職員が説明してくれた内容の更に詳細な情報を、司祭はウィリアムに丁寧に話して聞かせてくれる。

 司祭の口から直接聞かされた話に、ウィリアムは難しい顔をして片手を頭に当てた。


「あー……司祭様に向かって失礼な言い方をしてしまいますが、どうして旅に出させるなんておかしな事を? 聖女としての力をつけるのが目的なら、今まで通りで何も問題ないでしょう。現にこの国で学んだ二年で、彼女の魔力も知識も十分な成長をしていましたよね?」

「そうですね。しかしその成長はこの世界を巡るために必要な力をつけるためのものであって、こうなるのは予定通りなのです。彼女の旅立ちはずっと前から決められていた事なのですよ」

「お告げがあったとはいえ、シンジュ嬢をこの国から出すなんて危険だと司祭様もお分かりですよね? この平和な国にいても危ないことに自ら首を突っ込みにいく女ですよ。旅になんて行って、無事でいられるはずがないじゃないですか」

「……はい?」

「今までも、どれだけ俺が彼女に危害が及ばないように手を回していたか……!」


 今までのことを思い出し、旅に出た彼女がどうなるかを想像するだけでゾッとする。

 ウィリアムから見て、シンジュはひどく危なっかしい存在なのだ。シンジュのことを信頼していないわけではないのだが、聖女としての役割を全うしたいのだと言って後先考えずに行動するところがある女だと思っている。

 何が危なっかしいかというと細かくなりすぎるので割愛するが、一言で表すなら無防備すぎるのだ。


 仕事中に怪我を負った人がいるからという話を聞き、男しかいない現場に護衛も付けずに単身で向かう。相談したいことがあると話を持ちかけられ、一人暮らしの男の家に何の警戒もせず上がり込む。育ちが悪い植物に力を与えるからと言って一人で出掛けたあと、魔力の使い過ぎで疲れた身体を休ませるためにそのまま畑のベンチで仮眠をとる、等々。心配になった出来事を上げだしたらキリがない。

 誘拐されたり襲われる可能性がゼロではないのに、あまりにも危機感がない行動だ。平和な村で生まれ育ったせいかもしれないが、自分が年頃の娘だという認識があまりにも薄いように思えてしまう。


 何故護衛をつけないのか直接訊いたこともあるが、あまり人に見られたくないのだと恥ずかしそうにもごもご言っていたので、その気持ちは汲むことにした。

 まだまだ聖女として未熟な存在だと自分で言っていたから、力を使うところをあまり人に見られたくないという思いもあるのだろう。幼い頃に未熟な剣技を親に見せるのが恥ずかしいと思っていた時期は俺にもあったし、その気持ちが分からないわけではない。

 シンジュはまだ聖女としての力に目覚めて二年も経っていないのだ。あの頃の自分よりもその気持ちは強いだろう。


 まだまだ未熟だと言いながらも聖女の務めを全うしようとするシンジュをウィリアムは好ましく思っており、必死に勉強する彼女を応援していた。

 だからこそ、何か危害を加えられて彼女の心が折れる事態だけは絶対に阻止したかったのだ。


 そのため、シンジュが一人で出掛ける時にこっそり着いて行き、彼女に気付かれない距離で周囲を牽制したり、自分の不在時に同様の事が起こった場合は同僚に彼女の護衛を頼んだりしていた。

 過保護じゃないかとかお前は聖女様のなんなんだとか同僚に言われたりもしたが、その結果彼女の平穏が守られているならそれでいい。俺がそうしていなかったら、どこかで何かの被害に遭っていた可能性は十分に考えられる。


 ウィリアムが勝手に守っていただけなので、シンジュの危機管理能力は相変わらず低いままである。

 そんな状態であるにも関わらず、護衛もつけずにこの国から出て旅をするなんて正気だとは思えない。自分の目に入らないところで危ない目に遭っていたらどうするんだ。


 ウィリアムにとって司祭は信頼できる人物であり、こんな風に咎めるような発言をした事は今まで一度もなかった。今回が初めての事である。

 だからこそ、彼が本気でシンジュを案じていることが伝わったのだろう。

 それならば、と。ウィリアムに言い聞かせるように、司祭がゆっくりと口を動かす。


「聖女の修行、最初の目的地はここから南にあるパルコという国です。危険の少ない道とはいえ、有事の際に戦える者がいた方が何かと安心でしょう」

「は……?」

「少し距離がありますがほとんど一本道ですし、今から追えば追いつけるのではないでしょうか。どこかですれ違ってしまったとしても、パルコにあるモレク湖の側で待っていれば合流できると思いますよ」


 つまりは、今から追いかけてシンジュの旅に同行したらどうかという提案なのだろう。

 司祭がそう勧めたと言えば、それに従ったことに対して苦言を言う者は恐らくこの国にはいない。

 それなりの地位や実力があっても、平和なこの国で騎士一人が暇をもらうくらい何も問題はないのだ。むしろ貴重な聖女を守る役割の方が大切なのではないだろうか。


「司祭様がそうおっしゃるのでしたら、俺としてもその方が安心ですが……」

「彼女に渡した地図と同じものがここにあります。この順に行動していけば、近いうちに合流できると思いますよ」


 渡された地図にさっと目を通したあと、司祭に向かってウィリアムは一礼をする。

 地図の通りであるならば、パルコに着くまでの道中でシンジュと合流できる可能性は高い。二日の差があるとはいえ、シンジュよりもウィリアムの方が体力があるし、パルコという国はすぐに着くような距離にはないのだ。


 司祭から聖女の修行の詳細を聞いた後、ウィリアムはしばらく国を出るという話をするために王子の元に向かった。

「本気で過保護だな」とは言われたがあっさり許可は貰え、二日遅れてウィリアムもルビリアから出ることとなった。

 シンジュとクリスが向かった方角に背中を向け、早々に合流できるだろうと考えながらウィリアムは南へと向かう。


 こうして、色んな思惑が交錯する中、聖女達の旅は幕を開けたのであった。


ようやく最初の国から出発することができて一区切りです。

すぐには無理ですが、ウィリアムもそのうちどこかで合流できるとは思います。


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