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最初の目的地


「この星印が付いている四箇所が、聖女が修行するのに訪れるといい場所らしいの。まずはパルコという国にある大きな湖を目指します」


 そう話しながら、ユシエル大陸の南に位置する小さな国を指で指でなぞった。地図上では、ルビリアから真っ直ぐ下に向かった場所にパルコがある。

 ルビリアがあるユシエル大陸は、かなり大きな大陸だ。その大陸の端から端に移動する事になるので、同じ大陸内とはいえそれなりに距離がある。

 それでも、道中険しい道や山がないので移動はしやすい。南に向かって真っ直ぐ歩いていればそのうち辿り着く国だ。最初の目的地としてはちょうどいいだろう。

 そこまで考えて司祭様は細かくルートを決めてくれたのだろうと、改めて地図に視線を落とす。


 この世界は大きく四つの大陸に分かれていて、今回訪れる予定の四箇所は各大陸に一つずつの計四箇所だ。

 まず最初の目的地が、同じユシエル大陸にある小さな国、パルコ。

 その次に向かうのは、コウテツ大陸にある山に囲まれた国、アダイ。

 三番目に目指すのが、小さな島が集まって出来たサンキ大陸の島国、チラフナ。

 そして最後がラキラ大陸の最北にある大国、アサファンだ。


 目的の国だけでなく、その国のどこで何をすべきかまでしっかりと地図に記してある。司祭様が用意してくれた地図があまりにも親切で、何度見ても感心してしまう。


「うーん。全部巡るとなると、結構な長距離移動ですね」

「まあ時間制限があるわけではないし、これが聖女の修行に必要なら行かなくて駄目でしょう?」

 

 修行の旅という名目上、適当に放浪の旅をするわけにはいかない。

 倒してレベルアップする魔物が湧いて出るわけではないし、ただ歩いているだけで修行になるという事もないのだ。目的があることは大切である。

 もちろん本来の目的は別のところにあるし、それはクリスも分かってくれているから割愛するけれど、聖女としての徳を積もうと思ったら闇雲に歩くだけでは駄目なのだ。

 意味なく旅して何の成果も得ないまま帰ってきたら、人々から聖女失格だと言われてしまうかもしれない。

 穢したくなるような存在でいたいのはもちろんだが、これまでの二年間の勉強を無駄にするようなことも避けたいのだ。

 だから目的地を目指しながら聖女らしく人を助け、時には人が多そうな町に寄り道したりしながら旅をする予定である。そして必要に応じて、ご宿泊やご休憩を挟もう。


「旅立ちに必要そうな物を今日これから買いに行こうと思っているの。と言っても、最初の目的地はただ真っ直ぐ南を目指すだけで道中危険な場所もないし、途中で寄れる街がいくらでもあるから、そんなに備える必要はないかもしれないけど」


 特に私は司祭様が用意してくれた鞄がある。これさえあれば暫く困ることはない気がするけれど、二人で旅立つのだからクリスにも聞いておいた方がいい。

 なにか必要なものはある? と、尋ねようとした瞬間だった。じっと地図を見つめていたクリスが顔を上げ、地図を指でなぞりながら口を開く。


「これ、パルコより先にアサファンへ行った方が近いと思いますよ。最初の目的地変更しませんか?」

「へ……?」

「どうせ四箇所全部に行くなら、先にアサファンに行った方が効率いいと思いますけど、どうしてパルコに?」

「ああそれは、少し距離はあるけど同じ大陸だし、最初の目的地としては最適だって司祭様が言っていたの。地図上の直線距離で見たら確かにアサファンの方が近いけど、この辺りの海は荒れやすくて港もないし渡る手段がね……」

「大陸の間を渡るだけなら、海じゃなくて空っていう手段もありますよ」

「空……?」


 空を移動するという最高に楽しそうな提案に、思わず反応してしまう。


「……え、クリスもしかして空飛べるの?」

「いいえ? 僕は特殊能力があるだけで魔力は皆無なので、魔法はさっぱり使えませんよ」

「へ? 私も空を飛んだり空中を移動する魔法は使えないけど?」

「大丈夫、知ってます。とりあえず北の山を超えた先にピトっていう村があるんですけど、まずはそこに行きませんか? せっかくシンジュ様がいるので、魔力は有効に活用しましょう」


 修行ルートとは全然違う目的地を提示され、意味が分からず首を傾げた。パルコより先にアサファンに向かうのはいいけれど、どういうルートを想定しているのかちゃんと説明して欲しい。

 私はクリスと違って、相手の頭の中が読めないのだ。


「あ、すみません。まずはピトで移動手段を確保したいと思って」

「移動手段……?」

「はい。魔力を持った人が旅をするなら、チモキラを連れていくべきだと思いませんか?」

「……そんな簡単に連れていけるものだとは思えないのだけど」


 チモキラは、この世界特有の不思議な生き物である。

 動物というよりは妖精に近い生態らしく、主食が魔力であるため魔法使いが使い魔として連れていることが多い。

 丸い体に短い手足が生えている愛玩動物だ。バスケットボールサイズの気の抜けた顔の動物が、ふよふよと浮いている姿はとても可愛い。

 とは言っても、私は本で詳しい生態を知っただけであって、実際に見たことは数回しかないけれど。


「一定以上の魔力を与えると膨張して、主人を乗せて空の移動にも使える可愛い使い魔……よね? ごく稀にチモキラを連れてる魔法使いはいるけど、珍しい生物だからそれも凄く少ない気が……」

「ピトにはチモキラのブリーダーがいるんです。シンジュ様がチモキラみたいな丸っこい生き物を好きなことは知っていましたから、使い魔にするならチモキラがいいかなと思って僕も色々考えていたんですよ」


 そこまで説明してもらい、クリスがピトに行きたいと言い出した理由をようやく理解する。

 パルコとは反対方向になるけどアサファンには近付くし、大きな寄り道にはならないだろう。

 なによりもチモキラを連れた旅ができるなら大賛成である。癒しは絶対にあった方がいい。


「シンジュ様が賛成してくれてよかったです」


 相変わらず私の脳内と会話するクリスに苦笑しながら頷き、最初の目的地が決まったところで地図を折り畳む。

 なんかもう、思ってることがそのまま伝わるのは便利な気さえしてきた。


「では決まりね。明日からの旅立ち、まずは北に向かって出発することにしましょうか」




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