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ルビリア国

 朝起きて身支度を整えたあと、聖女は祈りを捧げるためにまず祭壇に向かう。


 私の名前はシンジュ=プラート。

 ユシエル大陸の北西にあるルビリアという国で聖女をしています。

 今しているお祈りも聖女の役割の一つ。この国に邪悪なものが寄りつかないように、聖女が祈りを捧げて結界を張るのです。

 ルビリアはそこまで大きな国ではありませんが、自然に溢れた平和な国。

 今日もいつもと同じ、何事も起こらず平和な一日になりますようにと祈りを捧げます。

 何事も起こらない平凡な毎日が、一番の幸せなのですから。


 国民の平和を願い、祈りを捧げる清らかな聖女。

 しかし、この後どんな事が己の身に降りかかるのか、この時シンジュはまだ知らなかったのである。


「……よし、今日の分おしまい」


 日課である朝のお祈りを済ませ、組んでいた両手をゆっくりと離す。

 ちなみに冒頭の自己紹介は、毎日欠かさず行っている私の朝の習慣である。


 魔力のコントロールに慣れてきた頃から、私はお祈りの最中に頭の中でモノローグを流すようになった。

 こういう事を言っておくと何か起きる気がするので、一日の始まりに不穏なフラグを立てるようにしているのだ。しかしそのフラグが回収された事は未だに一度も無い。


 やはり台詞でフラグを立てるだけでは生ぬるいのだろう。

 平和は愛するべきものだけど、欲しいものはいつだって危険を冒さなければ手に入らない。

 いくら聖女として力を使っても、衣食住を提供されてヌクヌクと守られているだけでは徳を積めないのだ。プラマイゼロである。

 しかしそんな現状を変えるために、私は今日、冒険への一歩を踏み出すのだ。


「というわけで、こちらを読んでいただけないでしょうか」


 司祭様に私の気持ちを知ってもらうことが冒険の一歩目になる。

 昨夜書いた手紙を手渡すと、司祭様は「ついにこの時が来たのですね」と封筒を見つめながら呟いた。

 一体どの時が来たというのか。ちゃんと中身を確認してから発言して欲しい。


「いつか旅立つ時が来ると、ずっと前からお告げがあったのです。貴女から言い出すまでは黙っていましたが、本当に旅立ちを望む日がくるとは……」

「え、ほ、本当ですか……?」

「万が一その時が来たらと考えて、皆には内緒で貴女が旅立つ時の準備もしていたのですよ」


 司祭様は魔法が使えるわけではない。

「ただ神の声を聞くことが出来るだけの存在ですよ」といつも謙遜するように言っているが、こういう事がある度に改めて思う。未来を知っている人間にはどう足掻いても太刀打ちできない。


 驚くを通り越して慄いている私の前に、司祭様がいそいそと地図を広げ始めた。この世界の事を学ぶために読んだ書物で、私が何度も目にしてきた世界地図と同じ地図である。

 大陸の地図ではなく、世界地図。

 初めての旅立ちに意気込んでいる者の前に出すには、些か規模が大きすぎるのではないだろうか。

 

「聖女に必要な修行をするにあたり、訪ねると良い場所に私の方で印をつけておきました。一番近い場所ですとここですね。ユシエル大陸の南にあるパルコという国です」

「えぇ……?」

「パルコには大きな湖があり、その中の祠に祈りを捧げると新たな力を授かると言われています」


 旅立ちたいと言ったのは私だけど、話が早いにも程がある。

 その次はこの国の城に、その次は洞窟の中の伝説の像に……と次々説明されて、乾いた笑いを漏らすしかなかった。

 聖女の修行ルートってこんなに細かく決まってるんだな。びっくりした。


 私が思っていた旅立ちとはかなり違う形になるけれど、これだけお膳立てしてもらって従わないわけにもいかない。

 聖女としての力をつけたいですと手紙に書いたのは私なのだ。読まれてすらいないけど。


 目的地が細かく書かれた地図を持たされ、パンパンに荷物が詰まった鞄まで渡された。携帯食や簡易的な寝具が入っているらしい。どこまでも準備が良すぎる。


「それとこれも……。あまり多くはありませんが、これまでの給金だと思って受け取ってください。必要なものを買い揃えたり、旅先で必要になることも多いでしょう」


 そう言いながらまとまったお金まで渡されてしまうと、私のことを追い出したいんじゃないかと錯覚するレベルである。

 いや、本当に親切心からきている行動なのは分かるのだけど、それにしても準備が出来過ぎている。まだ私は何一つとして自分で用意をしていない。


「あの、何から何まで本当にありがとうございます……。もっと頼れる聖女となれるよう、修行の旅頑張ってきますね」

「はい。幸多からん旅路となるよう、ここからお祈りしていますよ。どうぞお気を付けて」


 本当に、こんなにあっさりと見送られるとは思っていなかった。

 まあ司祭様が許可をくれたのだから何も問題はないだろう。とりあえず今日は諸々の準備をする日として、旅立ちは明日にしよう。


 もらった荷物を抱えながら一旦部屋に戻り、お世話になった人への挨拶をしてから買い物に行こうかと考えながら部屋を出た。

 その瞬間、聞き慣れない高い声に引き留められる。


「あの、シンジュ様……」


 部屋を出てすぐ、名前を呼ばれた方に視線を向ける。

 そこで私を待ち構えるように立っていたのは、10歳くらいのめちゃくちゃ可愛い男の子だった。


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