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お迎え


 翌日迎えに来てくれたのは整った顔の男の人で、この人を相手に色々することになるのかもしれないと思うと、つい表情が緩みそうになる。

 ニヤけ顔にならないギリギリのレベルで微笑みながら「よろしくお願いします」と挨拶すると、迎えに来てくれた男性は無表情のまま「ああ」と一言だけ返してくれた。


 黒い髪はきっちりと固められていて、ニコリともしない表情からは生真面目そうな印象を受ける。

 自己紹介をしてくれないので名前すら分からないが、服装から騎士だろうかと推測する。

 いや、かっちりした長めのコートを着て剣を携えているからそう思っただけで、確証は全くないけれど。

 この世界に来てからまだ数人としか会ってないから、服装から職業や身分を推測するのが難しすぎる。


「聖堂までは馬車で丸一日掛かる。荷物が纏めてあるならすぐにでも出るが、もう準備は済んでいるか?」

「え、あ、はい。もちろんです」


 急に振られた話題に慌てて返事をすると、やはり無表情のままの騎士さんが、私の荷物を持ってそのまま外へと歩き出した。

 荷物を持ってくれるのは紳士的で素敵かもしれないけれど、さっさと出て行ってしまうので両親への挨拶が駆け足になってしまう。確かに永遠の別れではないけれど、もう少し時間をくれてもいいんじゃないだろうか。


 丁寧な挨拶なんていいから早く騎士さんを追いかけなさいと両親に言われ、別れを惜しむ間もないまま「それじゃあ行ってきます!」と大きく声を上げて家を出る。

 確かに昨日目覚めたばかりの私には別れを惜しむほどの思い出なんてないけれど、両親にとっては可愛い娘だったんじゃないだろうか。その割には別れ方が呆気ない。

 いやまあ、別れに時間を使って置いていかれたら元も子もないですからね。早く追いかけろというのは分かるけど、それはそれとして少し悔しい気もする。


 両親に言われたまま走って騎士さんを追いかけ、道の端に停まっている馬車の前で足を止めた。

 どうやら私を迎えに来てくれたのは騎士さんと御者さんの二人だけらしく、初めて見る馬車に感動しながらも御者台に乗ったままの人物にチラリと視線を向ける。恰幅のいいおじさんだったので、成人向け展開になる相手ならやはりこちらの騎士さんだろう。

 御者さんに「よろしくお願いします」と頭を下げると、にっこり笑って「任せな」と言ってくれた。良い人そうだし、急に私を襲ってくるようには思えない。

 やはりこの騎士さんに馬車の中で手を出されてしまうのかもしれないな。

 御者に不審に思われたくないなら静かにしろって脅されたりするんだろうか。悪くない。


「おい」

「ひっ! あ……はい」

「声を掛けただけでそこまで脅える必要はないだろう。挨拶が済んだなら早く乗ったらどうだ」

「あ、はい。そうですね……。乗ります」


 妄想中に声を掛けられたのだからびっくりするのは当然でしょうなんて事は言えず、大人しく馬車に乗り込む。


「こんなに荷物が少ないなら馬車を出す必要もなかったな」と言いながら、私の隣に騎士さんも腰を下ろした。距離が近い。

 早速密室で二人きりになるなんて展開が早くて最高だ。やはりエロの導入はこのくらい簡潔であるべきだと思う。


「乗った。出してくれ」


 騎士さんが御者さんに向かって声を掛け、それと同時に馬車が動き出す。

 この時ばかりは二人きりであるという現状よりも、初めての馬車での移動という事に興奮が勝った。


「わぁぁ、すごい。私、馬車に乗るの初めてなんです」

「本来なら徒歩で移動できない距離ではないが、荷物が多いと大変だろうという司祭様の心遣いだ。楽しんでおけ」

「え……っと、」


 それは、楽しめるのは今の内だけだグヘヘという忠告だろうか。

 騎士の格好をしているのに、まるで悪役みたいな台詞を吐く人だ。

 不器用で生真面目なだけかもしれないけど、もう少し言葉遣いに気を使った方が絶対に生きやすいと思う。

 まあ、私はソウイウ展開になってもバッチリ楽しめるし、この馬車の中でコトに及ぶつもりなら言葉遣いを気にする必要もないけれど。


「あの、騎士さんはどうして私のお迎えに来てくださったんですか?」

「なんだ? 俺が護衛だと不満か?」

「いえ、そうじゃなくて……。立ち居振る舞いからも強い騎士の方なのかなと思いましたし、急に聖女になったとはいえ平民の娘の迎えに来てくださるには、なんだか勿体無い気がして……」


 立候補だったのか指名だったのかは知らないけれど、小娘の迎えに騎士様が出てくるのには何か理由があるはずだ。

 例えば敵国のスパイで聖女を攫いにきたとか! 若い娘と二人きりになるチャンスだからいかがわしい事がしたいとか!! ここで私を辱めて脅す材料を作っておき、聖堂に移ってからも定期的に関係を持つためとか!!! なんかそういう理由!!!!


 そういう雰囲気になるように話を持っていこうと画策していると、騎士さんは眉間に一つ皺を刻み淡々と声を出す。


「平民の娘だからといって、勿体無いなど思わなくてもいいだろう。道中危険な目に遭う可能性があるんだ。平和な国とはいえ馬車での移動は狙われやすい」

「き、危険な目に遭う可能性……!」

「ああ、例えばこんな風に……なぁ!」


 含みを持たせた言い方をしながらこちらに手を伸ばすので、早速エッチな事が始まったと思ったがどうやら違うらしい。

 私の後頭部に手を回して乱暴に抱き寄せた騎士さんは、そのまま私の後ろ目掛けて強烈な蹴りを繰り出した。

 なぁ! という騎士さんの叫びと共に、馬車の扉が音を立てて開く。無理な開け方をしたせいで、多分何かの金具が飛んでいったけど大丈夫なんだろうか。

 金属の金具が壊れた音と一緒に、「ぐぁっ」という野太い声も聞こえた。


「へ……?」

「なんだ、一人だけか」


 騎士さんの方に視線を向けていたから全く気付かなかったが、どうやら扉に不審者が張り付いていたらしい。

 出発してまだそこまで時間が経っていないのに物騒すぎる。平和な国だと言っていたのは、一体なんだったのだろうか。


「悪い、雑に片付けすぎた。怪我はないか?」

「このくらい私は大丈夫ですけど、ば、馬車の扉が……」


 金具が外れたせいで扉が開きっぱなしになっている。

 これじゃ密室にならない。手を出してもらえない。流石に人目に晒されながらの行為はレベルが高すぎる。


「ああ、金具が外れただけで簡単に直る範囲だ。そんな事より自分の心配をしろ」


 この「自分の心配をしろ」っていうのは、今から俺に色々されるぞって意味ではないんだろうなぁ。

 私を襲うつもりだったら扉を壊してまで賊を倒す意味もないし、本当にただの護衛な気がしてきた。

 本気で護衛するつもりで来た人なら、きっと聖女を襲ったりしないだろう。


 ちょっとSっぽい雰囲気だったし、かっこいい人だからと期待しすぎていたかもしれない。勝手に妄想のネタに使ってごめんなさいと心の中で謝りながら、助けてくれたお礼を言うために騎士さんに視線を向ける。


「あの、ありがとうございます。聖女という立場になった以上、色々な危険に巻き込まれる可能性は考えていましたが、まだ少し認識が甘かったみたいです。もっと気を付けて周りを見ないといけませんね」


 騎士さんばかり気にしてしまって、賊に襲われる可能性なんて頭から抜けていた。

 しっかりと窓の外にも目を向けていれば、賊がどんな顔をしているのか確認できたかもしれないのに。顔がいい人なら聖女を襲ってくれる候補になり得る。


「……馬車に乗るのが初めてで知らないのかもしれないが、貴族が乗っていると間違われて馬車が狙われるのはよくある事だ。今回のは別にお前を狙った訳ではない」

「え、そうなんですか」

「ああ。だから今回の件は偶然で、危険な目に遭うのが当然な訳ではない。聖女だからといってそんな覚悟をしなくてもいいだろう。自己犠牲の精神を持ちすぎると碌な目にあわんぞ」

「自己犠牲なんて、そんな高尚な思いじゃないですよ。どうせ役割を全うしないといけないなら、私も楽しもうと思ってるだけで……」


 そこまで言って、流石に素直に話しすぎただろうかと慌てて口を噤む。

 陵辱される役割を楽しもうと思ってるなんて言う女、とんだ痴女だ。

 慌てて「せ、聖女の役割はこれから聖堂で勉強するんですけどね!」と言い訳すると、フッと息を漏らす音と同時に、僅かに口角だけを上げた騎士さんがこちらを向いた。

 

「まあ、十分高尚な考え方だと思うがな」


 笑い慣れていないせいで笑顔が硬いのか、嫌味ったらしくそう言われたのか受け取り方が難しい。

 上手く表現できないけれど、まるで勝ち誇ったような顔だった。どういう表情なのそれ。


 騎士さんに私の思考がバレてない事を願いつつ、変わらず道を進む馬車に揺られる。

 聖女が陵辱された歴史が大々的に表に出ていなければ、今のは普通に「お勤め頑張ります」くらいに受け取ってもらえたんじゃないだろうか。


 とりあえず聖堂で勉強する際は、これまでの聖女がいやらしい目に遭った歴史がどのくらい残っているのかを調べてみようと思う。

 


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