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聖女の運命

 何も分からない私に、司祭様と呼ばれる男性は懇切丁寧に経緯を説明してくれた。

 私の事は「どうやら記憶を失っているようですが、神からのご加護という大きな衝撃を受けたのですから仕方のないことです」と解釈してくれているらしく、何を聞いても丁寧に教えてくれるので大変助かる。


 とりあえず聞いた話をまとめると、私はシンジュ=プラートという名の、現在18歳の少女らしい。

 牧場を経営する普通の家で育った庶民であり、村人Aの格好をしている男性はやはりシンジュの父親だった。

 何かの花の蜜らしいジュースを飲んで今は喉が回復したけれど、喉がガラガラで急に声を出すことが出来なかった理由にも納得する。

 どうやらシンジュは五日前に崖から落ちて気を失い、そこからずっと意識がなかったらしい。ついでにいうと息もしてなかったそうなので、どう考えても完全に死んでいる。

 大きな外傷はないが打ち所が悪かったのではないかというのが医者の見解だ。


 しかし愛する娘が若くして死んでしまった事実を受け入れられなかった両親は、藁にも縋る思いで教会に向かい、そこでこの司祭様に出会ったそうだ。

 この司祭様、どうやらこの国で一番力のある聖職者らしい。普段は国の管理する大聖堂にいるのだが、その日は偶然にも町の教会まで視察に来ていたらしく、そこでシンジュの両親に泣きつかれた。

 そのままの流れで家に連れてこられた司祭様は、眠っているシンジュを見た瞬間に神からのお告げを聞き、その内容が「一度心臓は止まったが、神のご加護によって再び目覚める。その奇跡が起きた時、神の力の一部が与えられてこの娘は聖女となるだろう」というものだった。


 そのお告げを聞いた両親はそれを信じ、医者も「それならば目覚めるのを待ちましょう」との事でベッドに寝かせたままにし、その五日後に私はシンジュとして目覚めた。

 信じる者は救われるとはよく言ったものだ。

 登場人物全員正気とは思えないけれど、この国での常識がそういう認識であるのなら受け入れていかなくてはならない。


「説明してくださってありがとうございます。それで、その……私はこれからどうなるのでしょうか……?」


 今の話は本当にこれまでの説明という感じで、これから何をするべきなのかは示されていなかった。

 そもそも、司祭様は本当にシンジュが聖女だと信じているのだろうか。一度死ぬまでは普通の少女だったわけだし、目覚めて直ぐに聖女と断定するのはいかがなものかと思う。


「貴女はこの国で唯一の聖女となります。これまでの記憶を失っているので、一から勉強も必要でしょう。どうか私と一緒に大聖堂で生活していただきたい」

「おぁ……」


 私が聖女だと信じて疑わない口振りに、思わず間の抜けた声が漏れた。

 あの世からの生還という奇跡を目の当たりにするとそうなってしまうのだろうか。横にいる両親もそうするべきだと言いたげに頷いているし、娘を手元においておきたいという気持ちがないのかと疑問になってしまう。


 大聖堂がどういう場所になるのか、正直ぼんやりとしか想像できない。

 だけど一からの勉強が必要なのは私も感じていたし、それができる環境を整えてくれるのは有難い事だ。

 シンジュが目覚める事を泣きながら祈っていた両親が反対していないのなら尚の事、この申し出を断る理由が見つからない。


「えっと……それならその通りお願いします……」


 ベッドに座ったまま小さく頭を下げると、ほっとしたように司祭様の表情が綻ぶ。


「では明日、また迎えの者を寄越します。衣食住すべてこちらで用意しますが、必要な荷物があればまとめておいてください」

「え? あ、あの……! もしかして大聖堂に行ったら滅多に家に帰ったり、自由に外出できなくなるのでしょうか……」

「いいえまさか。拘束する訳ではありませんし、空き時間は自由に過ごしてくださって構いませんよ。ただご実家までは少し距離があるので、頻繁に帰るのは難しいかもしれませんね」


 自由時間があるという情報をもらえたら、それだけで十分だ。

 頻繁に帰るのが難しいから必要な物は持ってきた方がいいという意味なのだろう。それだけなら何の問題もない。

 

「はい、分かりました」


 衣食住の面倒を見てくれるのならば私の意思で持っていきたいものは特にないのだけど、とりあえず返事をしておく。

 私の返事を聞いた司祭様は両親とも軽く言葉を交わした後、そのまま家から去っていった。


「さて、いそいで準備をしないとあまり時間がないわね。今夜はシンジュが無事に目覚めて聖女になったお祝いもしなきゃいけないし、シンジュも今のうちに荷物の整理をしておきなさい」


 シンジュの母が興奮気味にそう声を上げ、嬉しそうに部屋から出ていく。

 ずっと寝巻のままではいけないしまずは着替えなきゃねと兄に背中を押され、そこで初めて今の自分がどんな姿なのかを知る事になった。


 小さな鏡に映る、生前の自分とは全く違う人物。

 ふわりと広がる水色の髪に、くすみの無い白い肌。瑠璃色の瞳は宝石のように綺麗で、ぱっちりとした二重が可愛らしい顔立ちをしている。

 この世界での美醜の価値観が変わらないのであれば、これは相当可愛い容姿なのではないだろうか。


「……こんな可愛い子が聖女って」


 そんなの絶対、エッチな展開になるのでは?

 聖女の役割についてはこれから学んでいくつもりだったけど、よく考えたら私が知っている創作物の中の聖女は大方辱めを受けていた。

 巫女然りシスター然り、清らかな役職の女の子は同人誌の中で犯される運命なのだ。

 聖女だってそう。後方支援で危ない目に遭わない代わりに前線で戦う剣士達の慰み者にされたり、敵国に捕まって凌辱されてしまったりする。絶対。

 そういう展開のエッチな漫画をたくさん読んできたから私は知っている。


 ふと、死ぬ間際に男性経験がなかったと悔やんでいた事を思い出す。

 多少強引過ぎるやり方ではあるけれど、もしかしたらこれは神様がくれたご褒美なのではないだろうか。

 なんといっても私の死因は猫を助けたからだし、自分を犠牲にして一つの命を救ったからこういう機会をもらえたのでは? そうでなければ聖女という肩書が無駄になってしまう。

 シンジュの兄は二人共とてもイケメンだったし、これから出会う人達も同じくらい高レベルである可能性が高い。


 勇者か王子か盗賊か。誰の相手をすることになるのかなんて今は分からないけれど、絶対に三次元のモブ男よりこっちの方が良い。

 自分に与えられた役割を理解すると同時に、神様に深く感謝する。


「着替えどうしよう……。一番聖女っぽい服にすればいいかな」


 露出の少ない紺色のドレスに着替えながら、髪を整えてもう一度鏡を見る。


 明日来るという迎えの人が敵国のスパイだったらどうしよう。

 そんな事を考えている内に一日が過ぎて行った。



ここまでで伝わっていると嬉しいのですが、ヒロインは一度思い込むとかなり頭が悪くなります

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