食いしん坊さん
「ーーというわけで、チモキラが魔力を主食にしている事はお分かりいただけたと思いますし、これまでの作物が育たない問題も解決できると思います。次の収穫時期までの食べ物は私が育てた分で補えると思うので、チモキラはブリーダーに返すべきだと思いますよ」
嘘を言っているわけじゃないとはいえ、なんの裏付けもない私の説明がいっさい疑われることがないのは、正直いかがなものかと思う。
「さすが聖女さんだ」「言う通りにしよう」「チモキラは私達では育てられないんだな」と口々に言う村民と、まあ無事に返ってきたしいいかなという顔をしているシーダ。
食料の備蓄ができて皆の心に余裕が生まれたし、シーダがあの家に再び戻ればこれからも問題なく作物は育つ。チモキラ達が悪さをしているという誤解もなくなった。
確かに問題の解決はしていると思うけれど、こんなので本当に大丈夫なんだろうか。
私の説明で根拠があることなんて、せいぜいチモキラの生態くらいだ。それ以外はクリスの能力を使って知ったことだから何の証拠もないのに、一体私の何をそこまで信頼してくれているんだろう。
いや、ありがたいことなのだけど。
結構酷い目に遭ったはずのシーダは蒸かしたイモをもくもくと頬張っているし、本当にこんな終わり方で大丈夫なのだろうか。村の人を恨めしく思ったりしないのかと、些か不安になってしまう。
こそっとシーダに耳打ちして聞いてみると「まあ俺は確かにあまり家から出ないで生活していたし、そのせいで誤解させたところも大きいだろう。こいつらが無事に帰ってきたなら気にしない」と返ってきて気が抜けた。
そう答えるシーダを見て「これは本心ですね。あんまり深く物事を考えない人みたいですから、シンジュ様もそんなに気にしなくていいと思います」とクリスが言う。
今回の解決も、不安を残さずにこの村を旅立とうと思えるのも全てクリスのおかげだ。本当に頭が上がらない。
「そういえば、あんたチモキラを譲って欲しくてきたんだったな。見るからに懐いてるし、そいつを連れていってくれて構わない」
「は……?」
そう言ったシーダの視線の先は、私の様子を窺うようにして近くをぐるぐる浮遊していたチモキラに向いている。
いや、なんかずっと近くにいて可愛いなとは思っていたけど、これ懐いてるって事だったの?
「え……っと、この子の事……よね? そんな簡単に譲ってもらっていいの?」
「あんたの魔力が欲しいなって顔でずっと周り彷徨いてるだろ。気付いてなかったのか?」
「ずっと近くを飛んでるのはもちろん気付いていたけど……。えっと、私の魔力を……?」
「うちで世話してる中で一番食い意地の張ったヤツで、とりあえず凄く魔力を欲しがる。今もあんたの魔力が欲しくて堪らないみたいだ。大事にしてやってくれ」
食い意地が張っているとしたら、それはシーダに似たんじゃないだろうか。この一件が解決してから、シーダはずっと何かを食べながら話している気がする。
改めてチモキラの方に視線を戻し、ゆっくりと手を差し出す。ずっと警戒されているのかと思っていたけど、これが懐いている行動だったのかと思うと一気に嬉しくなってしまった。
「……えっと、おいで?」
「チモ!!!!!」
声を掛けると同時に物凄いスピードで手のひらに乗ってきたその存在が可愛くて、ブワッと心臓が震えるのを感じる。
アニマルセラピーってこういう事なんだろうか。撫でるように触ると短い体毛が生えていて、思っていたよりふわふわしていて柔らかい。
私の手のひらに顔を押し付けるようにしてくる姿が本当に可愛くて堪らない。出会ったばかりなのにこんなに懐かれていいんだろうか。
「あんたが手を出すから魔力食わせてくれると思って飛びついたんだろう。出し渋ってないで早く与えてやったらどうなんだ?」
「あ、これそういうことなの?」
シーダに言われ、チモキラのこれが食欲からくる行動であると知る。妖精に近いといってもやはり動物だ。本能に正直。可愛いからなんの問題もないけど。
「魔力与えると膨張するのよね? 今あげても大丈夫なの?」
「魔力の量を調整すればそこまで大きくならないと思いますけど、せっかくならそのまま旅立ちませんか? 僕も早くチモキラ乗りたいです」
現在時刻は夜。危険な道を歩く旅なら明るい時間に旅立った方がいいけれど、空の旅なら確かに時間はそこまで関係ない。
どのくらいの魔力を与えると大きくならない範囲なのか分からないし、最初は思い切り魔力を与えてみた方がチモキラの許容量も把握しやすい。
それに私も、早くチモキラに乗って空を飛んでみたいのは同じだ。
「……そうね。このままアサファンに向かいましょうか」
シーダ達に挨拶をして、クリスとチモキラを連れて外に出る。
凄い食べる子だと言っていたし、気合を入れて大量に魔力を込めた方がいいのだろうか。
「あ! そういえば、この子は名前ついているの?」
「俺が使っていた呼び名はあるが、あんたが主人なんだから新しく名前をつけるべきだろう」
「分かった。一晩じっくり考えて名前つけるわ」
次の目的地に着くまでにじっくり考えよう。まだ出会ったばかりだし、時間はたっぷりあるのだから。
「とりあえず最初のお食事にしましょうか。これからよろしくね、私のチモキラ」
この子のお腹を満たすためにと、手のひらに魔力を込める。嬉しそうに私の手から食事をする様が可愛くて、ずっと見ていたいと思ってしまった。
足りないならもっと。これから一緒に飛んでもらうのだから、この子が満足するまであげればいいのだろうか。まだ全然大きくなる気配がないし、これだけでは足りないのかもしれない。
チモキラが膨張を始めるまで時間差があるということに気付いたのは、そこから数分後のこと。
「さすがにやりすぎじゃないか?」というシーダの声が聞こえた時には、もう色々と手遅れだった。




