チモキラの脳内
急に騒がしくなったチモキラ達に、村の人達が分かりやすく苛立ち始める。
「うわ、うるさいな。なんだこいつら急に」
「食いもんができたから反応してるんじゃねぇか?」
「ああ、じゃあやっぱり村の畑にこいつらが悪さしてたって事だろ。うるせぇけどほっとけよ」
「いや、ただ腹が減っているんだと思う。悪さなんてしないから出してやってくれないか?」
村民達がテントを向きながら冷めたセリフを吐いている中、急にシーダが姿を現し、私まで固まってしまった。
せっかく隠れていたのに出てくるのが早すぎる。このタイミングで登場しても、村民の苛立ちがシーダに向かってしまうだけだろうに。
「は? 出したらまたこの村の作物を片っ端からダメにするだろ」
案の定、急に現れたシーダを怖い顔で睨みながら村の人が言い返す。
そんな村民達に対して何を言ってるんだとでも言いたげな顔で、シーダはさらに言葉を続けた。
「……? チモキラは魔力を摂取すれば十分で、今もそいつの魔力に反応しているだけだ。俺たちが食べるようなものに反応しているわけじゃない」
「だったら今までこの村の畑が全滅してたのはどういう……」
「あ、あの! 魔力を食べる性質は本当ですし、万が一チモキラ達が作物を食べてしまっても私がまだまだ育てるので、とりあえず静かにさせるためにも檻から出しておきませんか?」
シーダを庇うつもりで私からも口を挟むと、聖女さんがそう言うならと意外にもあっさり従ってくれた。聖女って名乗るだけでこんなに信じてくれるなら、最初からチモキラを解放してあげてと言ってもよかったかもしれない。
いや、どうだろう。魔法を使ったあとだから信じてもらえているだけかもしれないな。
とりあえず一旦檻からチモキラ達を出すと言うのでついていくと、自由になったチモキラ達は一斉に同じ方向に向かって飛んでいく。
行き先が気になって着いていくと、着いたのは誰かのお宅のお庭だった。
その庭の一箇所、古い井戸らしきものの周りに集まって何やらムームー言っている。
「えっと、ここはどなたの……」
「俺が今の住処に移る前に使ってた家だな」
「え? シーダの前のお家なの?」
確かに広い庭付きのお家だ。綺麗に手入れされているけれど結構古そうな建物で、お婆さんの跡を継いだという話とも一致する。
「もしかしてチモキラは、そんなにこの家に思い入れが……?」
一人でそんな事を溢している間にもチモキラ達はどんどん井戸に集まっていき、少しずつ丸い体を膨らませていく。膨らんでいるということは、ここで魔力を吸っているのだろうか。
「……あれ? 近くの畑、なんか土の色が変わってる?」
「魔力を溜め込みやすいらしいです」
「へ?」
「大陸の端っこにある国ですからね。行き場がなくて魔力が溜まりやすい土地なんだと思いますよ」
横からひょっこり顔を出したクリスが、チモキラ達を見つめながら淡々と話し始めた。
どうやら村民達も井戸の方に視線を向けていて、クリスの声は私にしか届いていないらしい。
「あの井戸を通して魔力が村の中に分散されるので、あそこでチモキラ達が吸い出せば余計な魔力が土地に行き渡らなくて済むみたいですね。どんな属性の魔力なのかは分からないですけど、この庭から出たせいで余計な魔力が畑にまで行き渡ってしまい作物が育たなくなったんじゃないのかな……って、あの子が教えてくれました」
そう言いながら、クリスが一匹のチモキラを指差す。私にはムームー鳴いてるようにしか見えないけれど。
「……もしかしてクリスって、人間じゃない生物でも頭の中読めたりするの?」
周囲の人に聞こえないようにコソコソ耳打ちすると、その問いかけにクリスは小さく首を振る。
「いえ、分からないことの方が多いです。でもごく稀に、知能の高い生物とかで人間の言語を理解していると、頭の中を読めることがありますね」
「ごく稀に?」
「人の読み書きを覚えるくらいに、毎日近くで生活する飼い主がいたりすると理解する動物もいるみたいです。あのチモキラ達の中にも一匹だけ幼い子供くらいの言語を使えている子がいて、そういう人の使い魔だったりしたんじゃないですかね」
「……クリスってどういう感じで人の頭の中を読んでるの?」
「うまく伝わらないかもしれないんですけど、頭の中で考えている文章がそのまま可視化できるって感じですかね? だから僕の知らない言語を普段使っている人の頭の中とかになると、正直解読できなかったりします。基本的には皆さん共通の言語ですけど、ごく稀に特殊な言語を使っている方もいるので」
「へぇ、なるほど。じゃあチモキラみんなの脳内が分かるわけじゃないのね……」
いやそれにしても、クリスの能力でほぼ全部解決したようなものなんじゃないだろうか。
あとは私が当面必要な分の作物を育てて、その後に今のクリスの説明を村の皆に伝えたらもう大丈夫な感じがする。
この井戸の周りにチモキラが自由に寄れるようにしておけば、今までのように作物が育ちにくくなる事もないのだろうし。
改めてクリスが一緒に来てくれたことに感謝しつつ、せめて自分にできることはやっておこうと再度畑に向かった。
先ほどよりも格段に育ちやすくなった作物に魔力を込めながら、頭の中で村の皆に説明する台詞のシュミレーションをする。
クリスの能力は伏せて説明するつもりだけど、信じてもらえるだろうか。いや、信じてもらわないと根本的な解決にはならない。
聖女らしい振る舞いをすれば多少は説得力も増すだろうし頑張ろう。
そう思いながら村中の畑に顔を出し、案内されるがままに力を使っているうちにどんどん時間は進んでいき、十分過ぎる量の作物を育てた時にはすっかり夜になっていた。




