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イモ


 好感度が多少上がったところで、なんでもかんでも話してくれるわけではないらしい。洞穴の中にいる時からなんとなく感じてはいたが、シーダはかなり口数の少ない青年だった。

 自分の事を話すのが得意じゃないと言っていたが、警戒や牽制で言ったわけではなく本当にその通りの意味なのだろう。

 一緒に村に向かう道中で聞けた事は、テントに移るまでは大きな庭付きの家に住んでいたという事だけだった。

 どうやら彼は高齢になったお婆さんの跡を継ぎ、その広い庭でチモキラ達の世話をしていたらしい。


 いやしかし、村に戻るまで十五分も掛からなかったとはいえ、教えてくれたのがこれだけというのは流石に少なすぎるのではないだろうか。

「そこ段差だから気を付けて」とか「洞穴から出るとき足場が少し崩れやすいから注意した方がいい」とかシーダは時折声を掛けてくれたし、モグがシーダをとても慕っている様子からも彼が優しくて良い人なのは分かる。

 それでも会話らしい会話をほとんどしてもらえなくて、少しだけ不安になってしまった。

 ムームー鳴いてるモグの方がずっと喋っている気がする。何を言ってるのかは分からないけど。



*****



 山道を抜けて再びピトに戻ってきたが、やはり外を歩いている人は見当たらない。

 恐らくまだテントに集まっているのだろうが、このまま普通に顔を出していいものだろうか。

 トイレありがとうございましたと言いながら戻るには、ちょっと時間が経ちすぎている気がする。クリスがトイレを使ってないことなんてバレてるだろうし、シーダを連れて行ったりしたら敵だと認識されてしまうかもしれない。


「……無理矢理チモキラ達を取り戻しにきたと思われたら話もしづらいし、とりあえずシーダは一旦どこかに隠れておく?」

「その方がいいならそうするが、あんたら二人で行くのか?」

「そうした方が悪い空気にならないと思うのだけど……クリスはどう思う?」

「そうですね。まずは僕達二人で行って、シンジュ様の力で植物育てて見せて、ちょっと信用されてから本題の話をするのがいいと思いますよ。チモキラ売らないと生活できないと思い込んでる人達なので、シーダさんが顔出したらまともに話はできないと思います」

「それじゃあまずは私とクリスだけで。話が出来そうな状況になったらシーダを呼ぶから、それまでは人の目に付きにくいところで待っていてもらえる?」

「……ああ、任せた」


 一度シーダと距離を置いてからテントに向かい、「たのもー!」と言いたいのを堪えながらにっこり笑顔を貼り付けて中に入る。

 変わらず檻に詰められたままのチモキラが視界に入り、シーダの気持ちを考えると悲しくなった。チモキラたちは呑気な顔をして浮いているけれど。


「あ、先ほどの……」

「ええ、先ほどは失礼いたしました。それでですね、席を外している間に村の現状を小耳に挟んだのですが、お力になってもいいですか?」

「……はい?」

「チモキラを譲っていただく話をする前に、ぜひ村の皆さんに協力したいと思っているんです。種でも苗でもなんでもいいので持ってきてください。育てます。そういう魔法が使えるので」


 意味が分からないという顔でじっと見つめられて、なんとも言えない居心地の悪さを感じる。

 確かに急な話の振り方だったかもしれないけれど、早急に話を進めたかったのだから仕方ない。自然な会話の流れで村民が食うに困っているという話になるとは思えなかったんだもの。


「私は聖女として、困っている方を救うために各地を回っているんです。どうぞ力を使わせてください」

「っ聖女……?」


 聖女という言葉を出した瞬間、分かりやすく空気が変わった。

 この村でも聖女という肩書は有難く思われるものなのだろうか。唐突に警戒心を解かれると私の方がびっくりしてしまう。あまりにも簡単に警戒を解きすぎじゃないだろうか。


「聖女様が救ってくださるんですか……?」

「その、私が出来る範囲でという形にはなりますが、とりあえず食べる物に困っている現状を解決することは出来るかと……」


 実際に力があるので嘘をついているわけではないけれど、ただ名乗っただけの私をどうしてここまで信じきってくれるのか。

 再度「種でも苗でもなんでもいいので集めてくれますか?」と言うと、今度は嬉しそうな顔で皆が顔を見合わせ、大きな畑の前まで私を案内してくれた。


「主食としているイモが埋まっているんですが全く芽が出なくて……。とりあえずここからお願いできますか?」

「……ええ、任せてください」


 聖女を謳う人間が来た時はもう少しくらい疑う気持ちを持った方がいいと思うけれど、とりあえず信じてくれた人達の期待に応えるために一度力を示そう。

 こんなに沢山の人に見られていると少し緊張してしまうけど、そのくらいの事で力が使えなくなるわけではない。このくらいの広さなら一気に成長させられるだろうと、畑に向かって両手を広げ魔力を込める。


 数秒も経たないうちに芽が出て葉が伸び、その様子を見守っていた人達の口から感嘆の声が上がった。

 こういう風に喜んでもらえるのは嬉しいし、修行を頑張ってよかったなと素直に思える。

 軽々やっているように見えるかもしれないけれど、ここまでコントロール出来るようになるまで結構頑張ったのだ。早く聖女らしい力を身に付けたくて、この世界に来てすぐの頃は結構な時間を練習に充てた。


 司祭様の紹介で家庭教師として私に魔法の指導をしてくれたウィルさんに、「上達するの早いですね」って褒めてもらえたことは鮮明に覚えている。あの時は早く聖女になりたいという一心で頑張ったけれど、駄目な生徒をお仕置きするルートも考えておけばよかったな。惜しい事をした。

 今ではこんな邪な事を考えながらでも魔法が使えるくらいに上達してしまったけれど、落ちこぼれの聖女には性教育を施してあげましょうとか、性行為で私の魔力を供給してあげましょうという展開もあったかもしれないのに。

 私の上達速度が凄まじかったせいでそんな展開には微塵もならなかった。思い返すとやっぱり少し勿体ない気がする。


 そんな事を考えている間にも土の中でイモは大きくなっていき、収穫するのに十分な大きさになったところで手を下ろす。


「もう収穫できますよ。どうぞすぐにでも皆さんでお召し上がりください」


 そう伝えてから次の畑に案内してもらい、今度は枯れかけた苗の前で力を注ぐ。

 このくらいの魔力の消費でいけるなら、余裕で他の作物も収穫できる状態まで成長させられるはずだ。

 収穫後の食材ですぐに料理を作ってもらい、村の皆がお腹いっぱいになったところでシーダを連れて話し合いの場を設けよう。

 そんな計画を頭の中で組み立てながら、二つ目、三つ目と畑の作物を育てていった……瞬間だった。

 三つ目に訪れた畑の前。目の前でトウモロコシが身を付けたのと同じタイミングで響き出した、ムームームーという大合唱。

 何に反応したのか理由はよく分からないけれど、檻の中にいたチモキラ達が一斉に鳴き出したようだった。


 


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