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村人達の事情


「チモキラ達を育てているあの大きなテント、半年くらい前に建てたんですよね? そこから村の作物の育ちがどんどん悪くなっていったみたいで、シーダさんとチモキラが隠れて何かしているんじゃないかって、村の人は疑っていたみたいです」

「なっ……? 違う。俺が住む場所を変えたのはそんな理由じゃない」

「そうだとしても事情を説明したわけじゃないですし、悪い噂って広まるのが早いですからね。村民は食べる物もなくて困っているのに、シーダさんはチモキラという珍しい生き物を育てていて、しかもそれらを高値で売れる。ずるいって思う人も多かったみたいですよ」

「俺は売るためにこいつらの世話をしているわけじゃない」

「でも買いに来た人がいたんですよね? すごい高値で取引されているのを聞いたって話が村民の間で広がってます」


 クリスの発言に、シーダの眉間にぐっと皺が寄った。


「……あんな事が誤解されるのか」


 小さくなった声でシーダがそう零したけれど、私はまだ事情が分からない。

 そんな私の方を向いて「じゃあ次はシーダさん側の事情ですけど」とクリスが話を再開させた。本人を前にしてそんな話なんかしていいのか。


「どこかのお金持ちの商人がチモキラを気に入って、言い値で買うから譲ってくれってシーダさんにしつこく言い寄っていたそうです。シーダさんは頑なに売らなかったそうですけど、その現場を見た村人は、チモキラが希少で高値で取引できるって思い込んだみたいですよ」


 どうしてそんな事を知っているんだとでも言いたげにシーダがクリスに目をやるが、クリスは「口下手そうなので僕から話した方がよくないですか?」と軽く流そうとする。よくないでしょう。


「え……ああ。確かに俺はあまり自分の事を話すのは得意じゃないが……」

「ね? 何か僕が間違った説明してしまったら訂正してください」

「あ、ああ。えっと、じゃあ頼む……」


 本当にそれでいいのかという感じでクリスに押し切られ、シーダはそのまま聞く側に回る。どうして。

 なんだか、最初に私たちにナイフを向けていたのと同一人物なのだろうかと疑問に思ってしまった。こんなに押しに弱いところを見せられると襲われる気が全くしない。

 いや、今はそんな事を考えている場合ではないのだけど、将来的な可能性として。


「とりあえず双方の意見は聞けたので、僕が勝手にまとめて説明しますね」


 頭の中を読んだだけであって、意見を聞いたわけではない。だけどツッコミを入れるところでもないので黙って頷く。シーダも私と同じように、黙ったままクリスに視線を向けていた。


「金持ちの商人にしつこくされたのをきっかけに、シーダさんはチモキラ達を外部の人間から隠すために大きなテントを建設して中で飼育を始めました。でもそんなことを知らない村民は誤解を重ね、食糧を買う金銭を確保するためにこれからチモキラを売りにいくつもりですね。村が困窮してる原因がチモキラとシーダさんだと思い込んでるみたいなので、あんまり罪悪感なく」

「う、売るって……正気か?」

「チモキラをまとめて檻に入れて、どこの町に行って売るのが一番効率的か話し合っていたみたいですよ。シンジュ様がテントに招き入れられたのはその最中です」

「そういえば金額の相談とか言ってたけど……。でも、そうね……」


 お金が欲しいだけと言われたら困るけれど、食べる物に困っていたのが原因なら私でもどうにかできそうだ。

 争いはお腹が空くから起きるとも言うし、まずはみんなをお腹いっぱいにすることができたら対話も試みやすい。


「……それならとりあえず、一度村に戻りましょうか。食べ物の確保くらいなら私でも力を貸せると思うの」


 聖女が使える回復の魔法と言うのは、細胞の修復や入れ替わりを早めたり、元々人が持っている自然治癒力を高めたり、弱っている細胞を活性化させたりするという力である。

 魔力のコントロールの仕方をちゃんと学べば応用も効くし、もちろん植物にも使える力だ。二年間真面目に聖女としての力をつけてきた私なら、一瞬で種から実をつけるまで植物を成長させることなんて簡単にできる。


 そういう力を使って聖女だと周りにアピールすることで、人助けをする清らかな私を穢したいと思う人が出てくるかもしれない。

 この村の人はまだ誰も私が聖女だということを知らないのだ。旅の中で出逢った人に襲われようと考えるなら、今後も分かりやすく正体を明かす行動をしなくてはいけない。


「村の人達全員が満足するまで私が作物を育てるから、まずはチモキラを売らなくても大丈夫だと思ってもらえる状況を作りましょう。そのあと話をする場を設ければ、ちゃんと誤解も解けると思うの」


 シーダに向かってそう提案すると、少し疑った様子でじっと見詰められる。

 まあ、よく知りもしない相手から急にこんな提案をされても、簡単に信じるなんて難しいだろう。

 それでも私が手を貸せるのは作物を育てる事くらいで、そのあと誤解を解くにはシーダに来てもらわないと困るのだ。


「人助けは聖女の本分だから。シーダもチモキラも、村の人達も今まで通りに暮らせるように協力したいの」

「……無事に戻ってきても、俺は金で売ったりしないが……いいのか?」


 シーダがじっと私を見つめてそう言った、その後ろ。カンペらしきものを抱えて立っているクリスに、私はチラリと視線を向けてしまった。

 シーダに見えない位置から私に向けて出されたカンペには「チモキラが主人として気に入った魔法使いには譲ってます」と書かれている。なるほど。

 今のシーダの発言が、絶対に誰にもチモキラを譲らないという意味ではないのなら問題ない。頑張ってチモキラに好かれよう。


「ええ、もちろん。チモキラだって生きているし、無理に売ってもらいたくてきたわけじゃないもの」


 私のその発言に、シーダは「そうか」と答えてくれただけだけど、この言い方は正解だったのだろう。

 またもやシーダに見えない角度から、今度は腕で大きな丸を作ってクリスが私に見せてくる。

 シーダからの好感度、ちょっとだけ上がったみたいだ。


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